僕のヒーローアカデミア ~The Cinder of Rubicon~ 作:柴猫
長い事ヒーローをやっていると、どこからともなく助けを求める声が聞こえてくるようになる。気のせいだと言われれば、それまでなんだけどね。
でも私はそうは思わない。私だけじゃない、次代を担うヒーローたちやヒーロー業の先輩方にだって、傍から見ても「そこ聞こえるの!?」と思うような超反応を見ることがままある。
もちろん、そこから救えるかどうかは聞こえた者の技量次第。だから私は、たとえどんなにたどり着くことが難しい場所から聞こえた声にも、いち早く駆け付けられるようあり続けた。
例え周りがどんなに遅れようとも、背中から遠い声援しか届かなくなっても。
『ヴィラン殲滅及び周辺住民の安全確保確認。ミッション終了』
六本木から岩手まで助けを求める声を救おうと飛び出し、辿り着いた先。
後から確認したところ、国内に潜伏していた過激派宗教団体が人の集まる複合施設において自爆テロを計画。現地警察やヒーローは前もって起こされた引きこもり事件に釘付けにされ、ヴィランの言う事を聞けば多数の人間が爆殺。事前に動けば自爆実行犯の爆弾が爆発し、爆音を以て引きこもり犯が人質を殺害する。
実に悪辣な計画だった。背後に
私含め、きっと誰もがそう思っていたであろう事件。
その解決者は、私ではなかった。
『……オールマイト』
当時現場に居合わせた、無名のヒーロー。
散らばって潜伏していた犯人たちの爆弾の起爆装置を無効化。引きこもり犯に混乱が生じた隙を見計らって建物内部に突入。個性を振るうヴィランたちは一分と持たず一網打尽となった。
『今日は時間が遅いです。また、会いましょう』
そう言って彼女は機械の体で飛び跳ね、私はインタビュー先を失ったマスコミの対応に追われた。[史上初!?オールマイト、救急現場に野次馬?]なんて書かれてちょっとした騒ぎになったこともあったね。
ヒーロー、レイヴン。それが彼女の名前だった。
超然とした態度で、自分をはっきり見る瞳がどうしても忘れられなかった。それが市民に威圧感を与えないためのホログラムだと分かっていても。
......塚内君には恋じゃないかなんてからかわれたけれど。もちろんそんなんじゃないよ!?私だっていい年したおじさんだし!
どうしても、あの目が忘れられないんだ。
だから次に会ったときは、会って話をしようと決めていたんだ。
でも......
まさか、こんな形で再会することになるとは。
―――
10年もの活動履歴を持っていながら、レイヴンの名を知る人間はごく少ない。その名がメディアに乗ったのは約2年前。雄英高校の技術提携先として、H RaDの代表としてだけ。
そうしたスタンスのヒーローがいないわけではない。事実彼女の名を知らしめた原因でもある雄英高校には、同じくアングラヒーローであるイレイザーヘッドが教師として勤務している。彼女もまた個性柄、有名ではない方が
―――〇〇年度 雄英高校ヒーロー科 一般入試
今年度の入試において、雄英高校はそれまで使用していた大型ロボットから、H RaDの技術協力の元更なる高性能ロボットを投入することを決定した。
「これは……去年では見られなかった光景ですね」
どこか呆れを滲ませるような、相手する受験生への憐憫も兼ねた声。同じく評定の場にいた教師陣も、同調するように頷いた。
受験生の実地試験を映す大型モニタには、何百もの受験生を追い回す、超巨大な戦車だった。
戦車といっても一般なそれとは大きく違う。余裕で歩道にはみ出るレベルのキャタピラが、唸りをあげて前進する。車体前面には巨大な鋼板が何重にも積み重なっており、いくつかが遠距離攻撃を仕掛けても表面が僅かに焦げる程度でしかなかった。
圧倒的な巨体と防御力。それが全受験会場で受験生たちを追い回す。ダメ押しと言わんばかりに背部にはそのままロケットのブースターがくっついており、加速系の個性を持つ受験生も見物させないと言わんばかりの殺意を感じる。
「ジャガーノートだっけ。恐ろしいなぁ、見てよあの受験生の子のレーザー弾いたよ。あ、吐いちゃった」
「真正面カラデハ突破ノシヨウガナイ。迂回シテ攻撃ヲシカケル者モ数名イルガ……」
「そうなると背中のブースターを使って正面に向き直り突進。うむ、これはプロでも骨が折れるな」
教師陣は受験生たちのジャガーノートへの対応を見て自分なりの評価点を出していく。以前までのプランでの超大型ロボットと違い、ジャガーノート自身がかなり動き回るおかげで受験生たちの対応を見やすく、現に何名かの教師はまだ見ぬ卵たちの働きにニヤついている。
そんな審査作業の中、モニターには一切目もくれず延々とジャガーノートの動作処理を行っている人間が一人、いやロボットが一体いた。
メカメカしく角ばった装甲を身に纏い、頭部で光るモノアイがせわしなくジャガーノートの状況をモニタリングしている。
「うわー、見てるだけでもちょっとビビるわねこれ。安全装置とか大丈夫なの?」
『問題ありませんミッドナイト。全試験場のジャガーノートは全てリアルタイムでモニタリングしています。誤作動が起きた場合は即座に停止させます』
国立高校である雄英がこれだけ殺傷力の高い戦車を使用した入試が実施できたのは、搭載されたAIプログラムの優秀さと、それらの並列管理運用が可能なレイヴンの処理能力が証明されたからだ。事実、先ほどから腰を抜かす生徒が続出するほどには大暴れしているジャガーノートだが、重量による惨事には至っていない。雄英保険教師であるリカバリーガールがいるとはいえ、動くビルサイズのジャガーノートで轢いたりぶつかったりは重傷どころではすまない。
『うおおおお!!俺の硬さは超えられねぇ!!』
『うおおおお!!この鉄塊を超えてみろぉぉ!!』
約2名ほど真正面から受け止める受験生が2人いるが。2人とも別の受験会場で全く同じ時間に全く同じ個性による同一の行動なのである。
とはいえ一度攻撃を与えただけで逃げるのも試験官(戦車)として相応しくない。ある程度追撃をするべく、一台のジャガーノートが受験生の一団へ前進。動きが見えただけで蜘蛛の子を散らすように逃げる受験生たち。
その時、足元に少女が一人取り残されているのを発見した。取り付けられたカメラから動ける状態ではある。ならばギリギリまで寄せて空砲で逃げる受験生に追撃を選択。
なおこの際取り残された少女のデータを見て、無重力の個性持ちであることを確認したレイヴンは『ここで逃げるかそれともジャガーノートの足止めに対して使えるか』と思考。モニター横にちらりと写し、己の思惑を伝える。教師陣はそれに反対こそせず、しかし慎重に当該の受験会場を写すモニターを見た。
そして、
「おいおいおいウソだろ!!?」
予測の結果は、思わぬ形で予想を裏切った。
少女がキャタピラに巻き込まれる寸前、突如ジャージ姿の受験生が、空砲とはいえ砲撃の雨の中を駆けて突撃。
足と右腕がひび割れるほどの力を込め、真正面から、ジャガーノートを殴りつけた。
ピーピーピーピー!
一つのモニターが真っ赤に染まる。殴られたジャガーノートはそのまま後転、にとどまらず更に半回転。爆炎を上げてそのまま動かなくなった。
『…四号機。機能停止』
一時、審査室は静寂となった。
理論上ミサイルの直撃にさえ何発でも耐えうるとされたジャガーノートの耐久力。「記念受験とかナメてるガキ共を潰す」とか言う開発現場の殺意を体現し、ここにいる教師陣誰もが正攻法では破壊出来なかったジャンク屋(疑惑)の秘密兵器。
それが、よりによって正面から大破。しかも、当の本人はその反動も制御できていない様子だというのに。
一つ目のカメラアイが、その少年をじっと見つめていた。
『しゅ~~うりょう~~う!!』
モニターからプレゼントマイクのアナウンスが入り、実地試験の終了が伝えられた。
こうして今年度の雄英高校入学試験及び、ジャガーノートの初投入もまた終了した。
そうして得られたデータの解析中。
「わ〜た〜し〜が〜〜仕事をねぎらいにきた〜〜!!」
「............あ、オールマイト」
「ん〜〜!時差!!」
敷地内の倉庫にオールマイトがやってきた。
が、当のレイヴンは随分遅れて気づいたようで、新鮮な反応にオールマイトのツッコミもいつもより楽しそうだ。
「事実だったのですね。オールマイトが雄英高校の教職になるという話は」
「HAHAHA!ここは私の母校だからね。今や私も随分年を取った。育ててくれた学校に少しでも恩を、とね!」
「そうですか、恩の返し先があることはいいことです」
「まぁ、私が通っていた頃とは随分見違えたよ。特にこれとか」
オールマイトの眼差しは目の前の巨大な箱、ジャガーノートに向けられていた。後頭部のセンサーから見える彼の顔は、どこか新しいおもちゃを見つけた子どもの面影が見えた。
「意外です。オールマイトが気に入るとは」
「私だって男の端くれだからね、こういうモノにはロマンを感じるだろ?」
「ロマン、ですか。その言葉、うちの作業員に伝えておきますよ。きっと喜ぶはずです」
祝い事だとまた朝から酒を飲むんだろうな。まぁ、連中が酒を入れているときは中々面白い案が浮かぶものだ。経営陣はキレるだろうが、必要経費ということで見逃して欲しい。前身のRaDだって祝い事にはコーラルキメてパチパチしてたなぁ。カーラが笑いながら賭け事をして、その間業務をチャティに全任せして、叱られてたっけ。
懐かしい思い出に浸っていると、オールマイトの視線が正面装甲の凹んだ四号機に向けられているのが見える。
「まさかジャガーノートを正面から吹き飛ばされるとは。どうやって連中を宥めるか……」
「HAHAHA!そっちの現場の人たちは厳しいんだな!君にとっては不測の事態だったかな」
「まさか」
なぜか自慢げに語るオールマイトに向き直り、こちらもホログラムをニヤつかせて笑い返した。
「「不測の事態を予測しろ」この程度は想定の範囲内ですよ。そもそも雄英の受験生は数だけは多いのです。もう2機くらいは大破すると思っていたのですが、学生相手には威圧効果が想像以上だったということでしょう。今回のデータは持ち帰って、また次に活かすだけです」
「なるほど。それが君の、いや君たちの強さなんだな」
「強さ、ですか。社会に捨てられてでも捨てられないものを持ってた連中を、私がたまたま拾っただけです。貴方のような強さではありませんよ」
「そうかな?」
真っ直ぐ、普通の人間相手のように、オールマイトは見つめて来ていた。それはとても綺麗で、輝いていて、何より強い目だった。
幾分
「3年前、君に初めて先に事件を解決された時。散々マスコミにも騒がれたけれど、君のようなヒーローがいるのなら、この国はずっと安泰だと思ったのさ」
「過分な言葉です。私は貴方のようなヒーローには」
「私になる必要はないさ。誰だって、誰かの人生を歩むことはできない。君は君のやり方を貫いていいんだよ」
「……」
「君は私より早く、正確に人々を救った。その事実だけは、忘れないでくれ。ありがとう」
幾分背の低い機械少女を見つめる二メートル越えの偉丈夫。
揺らぎないその青い眼差しに対し、少女の瞳はブレにブレていた。
処理しきれない10年分の感情を、必死に抑え込んで、目の前の最高のヒーローにバレないようにホログラムを必死に手動調節していたのは、彼女しか知らない。
「……私は、まだ仕事があるので、失礼します」
やがて少女は逃げるようにして歩き去ってしまった。
物が多くなった倉庫では、彼の眼差しから逃げるのは訳ないことではあった。
そうして、雄英高校に新たな卵たちが入った。
それから数日。
「誰か、死ぬかもな」
卵に傷をつける、悪意が忍び寄っていた。
H RaD≪フラッド≫
元ヴィランなどのお抱え物を数多く抱える小さな技術者集団であり、レイヴンのヒーロー事務所。
設立者はレイヴンと公安。
その経歴に反して恐るべき技術力を備え、レイヴンの戦力を支える重要拠点でもある。
長らく正体不明のレイヴンによって運営されてきた事もあってか未知数な会社であったが、雄英高校との技術提携によりそのイメージは回復されつつある。