ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい   作:ムラムリ

85 / 85
メイちゃんは災厄なんて歯牙にも掛けたくない 11

 そのドラゴニュートが、斬撃を飛ばすと同時に後ろへと跳んだ時点で、メイとウトは、これはユーリとは比較にならないと理解していた。

 優れた種族に生まれてきた、その傲慢さなど微塵も感じさせない柔らかい口調。

 けれどその内実は種族の性質のせいかきちんと好戦的で、体術と魔法のどちらに適性があるかと言えば魔法寄りだと言うのに、安全圏から一方的に鏖殺するのではなく、自ら前へと出て体術と魔法の両方を最大限生かして戦う事を好む。

 なのにこのドラゴニュートは、種族として以上に鍛え上げられたユーリの素質を、魂の質(レベル)を、愚直に振るうだけ。

 斬撃の軌道には嫌らしさがない。どの場所に追い詰める、避けさせる斬撃と当てにいく斬撃、意識の外から掻い潜ろうとする斬撃、そのような意図が全くなく、ただ目で見える相手に当てようとしてくるだけ。

 加えて、斬撃と共に襲って来ない。障壁で全身を守るだなんてそんな消極的な防御なんてユーリはしない。

 けれど……空中という安全圏から愚直に魔法を振るわれるだけでも、49階のドラゴンよりは強く、ユーリとは別に厄介だった。

 

 

 

 そのウトと同じ程度の体躯のどこにそれだけの魔力が詰められているのかと思う程に、幾重に斬撃が飛んでくる。メイとウトは駆けながらそれを避け続ける。

 斬撃を飛ばす為に障壁を張っていないものの、ドラゴニュートが最優先しているのは仕留める事ではなく2人から十分な距離を取る事——敗北の可能性を減らす事だった。

 それでいて、斬撃の1つ1つはどれも当たれば致命傷なのは変わらない。

 精神の削られようは、特にウトにとっては激しい。

 メイも、そう多くない魔力を削られ続けている。腰の袋には薬が幾つか残っているものの、まず、このドラゴニュートに攻撃を届ける方法が見つからなければどうしようもない。

 

 ……先にあっちの魔力が尽きるならそれで良いんだけど。

 そんな楽観的な希望に縋る訳にもいかない。

 あのサブマスターもどきの出来る事の上限を見極めて、その隙を掻い潜って、殺す。

 その為にも、防戦一方ではいけない。

 僅かな余裕で、鉄球に属性付与をする。投擲の方が速さは出る。だとしても、距離を詰めなければまず避けられる。ウトが跳んで攻撃しようものなら、その空中で切り刻まれる。

 

「ウトッ!」

 

 だから、メイはその鉄球をまずウトへと手渡した。

 

「これ、とりあえず持ってるだけで良い」

「分かったっ」

 

 その上で私は、出来るだけ近付く。

 

 ……そう思っていたメイに対して、ドラゴニュートは、ふと目線を別の方へ向けた。

 入り口の方。エロクーの死体。

 

「……っ」

 

 案の定、ドラゴニュートはそれに向けて斬撃を放った。メイは走り、障壁と斧槍で受け止める。

 

「このっ、下衆がっ!」

 

 メイが普段はまず言わないような事を叫ぶのに対し、ドラゴニュートはただ黙々と斬撃を振るう。メイの飛ぶ斬撃が来ても十分避けられる距離から。

 

「うっ、ううっ」

 

 防げている。けれど、魔力が瞬く間に尽きていく。薬を飲めたとしても、全て飲んで防いだとしてもドラゴニュートの魔力は絶対に尽きない。

 

「どうせ、その中にもう1人くらい隠しているんだろう!?」

 

 ドラゴニュートがせせら笑いながら叫んだその時。側頭から後ろへと生える一対の角の、一本がぺきりと音を立てて折れた。

 

「……は?」

 

 落ちていく矢。後僅かでもずれていたら。せせら笑っていなければ。脳天に突き刺さっていた矢。

 

 からんっ。

 

 攻撃が止まる。ドラゴニュートは思わず全身を分厚い障壁で包み、辺りを見回すも、どこにも見当たらない。

 遅れて届いてきた斬撃を防ぎ切ったメイは、その隙に薬を一気に飲む。魔力が回復する。

 

「どこ、だ? どこにいる??」

 

 隠れる場所なんて、ない、はずだ。ドラゴニュートはこの石畳を敷き詰められた、円形のシンプルな戦場を見回す。でも、見当たらない。

 その隙にウトは鉄球を投げ、それにメイが斬撃を合わせてくるのに、ドラゴニュートは慌てて避けた。

 障壁を張るなら、攻撃は出来ない。障壁を張らなければ、どこに居るかも分からない誰かから唐突に矢が飛んでくる。

 

「う、くそ……」

 

 ドラゴニュートは2人を見る。

 斬撃を防ぐ障壁を展開しながら、こちらの障壁をまるで無いように全てを両断してくるミノタウロス。

 目にも映らない程の速さで動き、全身に障壁を展開しておかないと背後から首を掻っ切ってくるであろうワータイガー。

 そして、どこに居るのかも分からない、弓使い。

 どれも簡単には殺せない。少なくとも斬撃を飛ばしているだけでは。

 言ってしまえば……ドラゴニュートはエロクーの腹の中に誰か隠れているだろう、としか思えていなかった。

 その目は死体に隠されなくとも魂の質(レベル)を見る程に鋭くなかった。

 けれど……災厄に冒されたダンジョンを親として誕生したそのドラゴニュートには、別に優れた目があった。

 再び属性付与した鉄球を渡しているメイと、それを受け取るウト。

 

「……」

 

 疾く動いている姿ばかりで、きちんと見ていられなかったが……。

 その目線に、ウトも、そしてメイも気付いた。

 メイは小声で言った。

 

「避けてるだけで良いから」

「……そうだな」

 

 この中で一番あの世が近いのは、既に事切れているエロクーではなく、ウトである。

 それを気付かれた。

 ドラゴニュートの斬撃は、再び飛び始めた。ウトと、そしてエロクーの死体へと、集中的に。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

ミミック転生~人食い箱の食味記録~(作者:LA軍)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

目が覚めたらミミックに転生していた。▼もちろんミミック(人食い箱)なので動けません。▼そのため、その場でひたすら待ち伏せ、やってきた間抜けな冒険者を食べていた。▼何十人と食った。▼……じつに美味かった。▼だが、ミミックは知らなかった。▼たくさん食べているウチにいつのまにか強くなり過ぎていたことに。▼そして、気づかないうちに、外では厄災の箱と呼ばれるまでに有名…


総合評価:1246/評価:7.02/連載:114話/更新日時:2026年08月31日(月) 11:55 小説情報

くたばり損ない魔法少女わたしの独りゴト(作者:土縁屋)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

わたし、華亥ムラクモ♡ 自分語りが大好きな、どこにでもいる普通の女の子♡▼こわーい侵略者から地球を守るために、魔法少女としてブラック労働に勤しんでたんだケド、親玉やっつけたと思ったら「用済みです」って異世界追放!? 世知辛いよねえ。▼追放先の異世界って、なんだかとっても近代的なの。下手すりゃわたしの世界より文明的なんじゃない? テンプレこわれる。でも、どこで…


総合評価:1226/評価:8.12/連載:73話/更新日時:2026年09月07日(月) 18:00 小説情報

勇者が生まれないか街を見張っていた魔物の私、懐いてきた子をうっかり勇者に育て上げてしまう(作者:うちっち)(オリジナルファンタジー/コメディ)

 勇者監視役を任命された魔物の少女ネリネは、幼い頃から自分に懐いていたユリスを、放っておけずに世話していた。▼ あくまで少し面倒を見ていただけ。▼ そのはずだった。▼ けれど成長したユリスは、本当に勇者に選ばれてしまう。▼ もちろん、ユリスは知らない。▼ 昔からそばにいた「ネリネ姉ちゃん」が、実は勇者を見張る側の魔物だなんて。▼ ネリネは正体を隠したまま、勇…


総合評価:1120/評価:8.36/連載:24話/更新日時:2026年07月20日(月) 08:49 小説情報

「私で童貞捨てたくせに」と学園美少女四天王から言われてるんですが、まったく記憶にございません。(作者:会澤迅一)(オリジナル現代/恋愛)

高2男子の俺は、目を覚ますと一週間分の記憶が消えていることに気付いた。▼部屋には幼なじみがいる。▼中学に入ってからずっと不仲だったのに、なぜ?▼「私で童貞捨てたくせに、記憶がないなんて言わせないから!」▼教室に着くと、隣の席のギャルが笑いかけてくる。今まで一度も会話したこと無いのに、なぜ?▼「私で童貞捨てたくせに、陰キャのまんまじゃん」▼放課後、後輩の文学少…


総合評価:1398/評価:8.03/完結:142話/更新日時:2026年06月25日(木) 17:04 小説情報

添い寝してもらわないと眠れない女の子in百合猛獣だらけの女子寮 〜案の定美味しく食べられてしまうと思いきや、女たらしの才能に目覚めてしまいます!?〜(作者:鐘楼)(オリジナル現代/恋愛)

毎日姉に添い寝をしてもらっている少女、花平希沙音は高校一年の夏、ついに「一人で眠れるようになりなさい」と姉の家を追い出されてしまう。▼一人で眠れる気がしなかった希沙音は、なんとか添い寝を頼めないかと転居先の女子寮で出会った親切な少女、伊咲深白にお願いをする。▼しかし、深白は何人もの少女を手篭めにしてきた悪女だった。▼案の定、希沙音も深白に美味しく頂かれるのか…


総合評価:2800/評価:8.91/連載:31話/更新日時:2026年07月14日(火) 12:05 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>