ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい   作:ムラムリ

86 / 86
メイちゃんは災厄なんて歯牙にも掛けたくない 12

 俺の中身という液体が入ったコップに、災厄の力という液体がぽたり、ぽたりと垂らされ続けている。

 もう水面はコップの縁より高いところにある。少しでも揺らしたら、溢れてしまう。いや、もう溢れているかもしれない。

 俺の形はまだ保たれている。少なくとも、俺に注ぎ込まれている災厄の力は、俺の形を崩してしまう程にはまだ濃くはない。

 斬撃がより殺意を増して飛んでくる。逃げ道がなくなる前に足を動かす。

 体が絶好調なのは全く変わらない。いつもはどの位動けていたのか、いつもよりどの位動けているのか、もう体に災厄が馴染んでしまっている部分もあるからかもう分からない。

 ドラゴニュートはとにかく周りを見回しながら、斬撃を飛ばしている。残りの1人——ディッツェがどこに居るのか、まだ把握出来ていないその様子。

 より濃くなった斬撃の数には、足をとにかく動かして避け続けるだけで精一杯。ディッツェへの警戒があるからこそ、どうにか無茶をせずに居られる。

 けれど、もう1回でも無茶をしようものなら俺の体はどうなるのか分からない。

 

「うっ、ううっ」

 

 エロクーの死体に向く斬撃の数は少なくなったとは言え、メイさんをその場所に留め続けるくらいの斬撃は届いている。メイさんはその場から離れられないまま。

 ディッツェも俺からは僅かに見えているものの、今度矢を放ったならば流石に場所は漏れる。そしてディッツェはきっと斬撃を避けきれない。

 チャンスは、一度きり。

 俺の体がどうなろうとも、その一度きりを逃す訳にはいかない。

 

 ……。

 

 不思議と、死を通り越して昇天が近付いていても、ウトの心境は静かだった。

 自分の命の価値がメイやディッツェと比べたらそう高くないと自覚しているからか? 災厄が起きているダンジョンに入ると決めた時点でそこまで覚悟出来ていたからか?

 どちらも違う。もう、満足出来てしまっていたからだ。1年前までは、1人で初歩のダンジョンを踏破しようと頑張っていたばかりの自分が、ドラゴンが出てくる程のダンジョンに挑んでいるその事実だけでウトは既に自分の人生が上手く行き過ぎているとまで体感していた。

 ウトは今、自分が人生の絶頂に居ると実感していた。

 けれど。

 

 ……単純な計算だ。

 

 そう、気付けば思っていた。今、自分は絶頂に居て、それに加えて自分の未来は半分閉ざされたようなものだとは言え、もうこれで満足だと自分の命を捨てられる訳じゃない。

 俺が無茶が出来ずにより苦境に追い込まれるよりかは、俺が命を賭して勝利への道をこじ開けた方が良い。

 

「……単純な計算だ」

 

 ウトは覚悟を決めるように呟いた。

 

 

 

 メイはその覚悟にとっくに気付いていた。

 そして、メイには分からなかった。そうにまでなってしまう覚悟が本当にあって、災厄の影響を受けたダンジョンに入る事を選んだのか。それともメイが居るから何とかなるだろうくらいの楽観的な覚悟だったのか。

 ウト自身もその選択を悔いて自棄になってしまっているのか。それとも全てを受け入れた上で犠牲になろうとしているのか。

 メイには何も分からなかった。

 自責……している暇なんてない。ウトを生かす為にはメイから仕掛けなければいけない。逆に言えばエロクーを犠牲にしなければいけない。

 

「……うう」

 

 どっちを選んだら良い? そんな事を選んだ事なんてない。でも選ぶしかない。

 

「う、うう」

 

 ……どっちも、嫌だ。選びたくない。

 腰の袋の中には魔力を回復する薬と、そしてもう1つ、体を暴走させる薬。それに手を掛けた。

 確かにそれは、メイに更なる力を与える。覚醒した状態からでも。

 けれども、覚醒からの更なる上昇幅は劇的なものじゃないし、魔力の繊細な操作も難しくなる。属性付与なんて絶対出来なくなるし、その癖して効果が切れたらもうまともには動けなくなる。

 

 ……でも、でも。私にはもう、それしかない。

 私は……私は、どちらを捨てる選択をしなきゃいけないくらいなら、可能性が低くても、どちらも救える選択を、やっぱり、したい。

 それに……この選択を私自身が無謀だとまでは、思えていない。

 

 

 

「……?」

 

 メイがその場に留まらなければいけない程度に斬撃を振るっていた、そのドラゴニュートが異変に気付いた。

 眩い光。聖なる属性。それがメイの方から、斧槍一つではまず発せられない程に。

 ドラゴニュートが振り向いた時。

 メイは持っている全ての鉄球と散弾と、そして2本の斧槍に属性付与を終えたところだった。

 ぱりん、と薬の瓶が床へと落ちる音が小さくした。そして最後に、どろどろとしたその薬を取り出し、躊躇う事なく飲み干した。

 

「メイ、さん」

 

 ウトは、メイが覚悟を決めた事を理解した。

 自分の形が崩れてしまう事を、エロクーが蘇生出来ない程に刻まれてしまう事を、どちらも拒絶する事を。

 

「ふーっ、ふーっ、ふーっ、ふーっ」

 

 メイの荒々しいにも程がある鼻息がここまで届いてくる。

 

「何、を?」

 

 ドラゴニュートがあからさまに警戒する。

 

 ガヅゥ!

 

 手に持っていた斧槍を石畳に突き刺した。空いた手に散弾が握られた。

 投擲の姿勢に入るメイに対し、ドラゴニュートの背筋が凍った。斬撃が飛んできた時よりも、更に強い悪寒が……。

 体が思わず強張る。それ以上に、避ける事も適わないと体が察する。

 三重? 四重? 五重? どれだけ張ればあれを防げる??

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!」

 

 ケダモノさながらの咆哮と共に投げられたその散弾。

 

 ガガガガガガガガッ!!!!

 

 5つ……同時に張れる最大数の障壁の、全てが砕かれた。ギリギリ、散弾はドラゴニュートの体に届く前に力を失った、が。

 

「おい、なんだよ、これ」

 

 距離を取っていても避けられる速度じゃない。その上で全力で防御しないと防げない。

 思わず障壁を分厚く張り直す。

 

「いや、これじゃ、攻撃が出来ない……」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

 

 斧槍を手に戻し、涎を垂らしながら、叫びながら、ミノタウロスが駆けてくる。

 ドラゴニュートも察した。

 誰も喪わない為に、このミノタウロスは賭けに出たのだと。

 どれだけの時間あの状態が保つのか分からない。けれど、それを凌ぎ切れば、勝てる。

 生き残れる。

 

「僕だって死にたくないんだ……!!」

 

 剣を構えるその腕は、けれど震えていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

ミミック転生~人食い箱の食味記録~(作者:LA軍)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

目が覚めたらミミックに転生していた。▼もちろんミミック(人食い箱)なので動けません。▼そのため、その場でひたすら待ち伏せ、やってきた間抜けな冒険者を食べていた。▼何十人と食った。▼……じつに美味かった。▼だが、ミミックは知らなかった。▼たくさん食べているウチにいつのまにか強くなり過ぎていたことに。▼そして、気づかないうちに、外では厄災の箱と呼ばれるまでに有名…


総合評価:1246/評価:7.02/連載:114話/更新日時:2026年08月31日(月) 11:55 小説情報

くたばり損ない魔法少女わたしの独りゴト(作者:土縁屋)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

わたし、華亥ムラクモ♡ 自分語りが大好きな、どこにでもいる普通の女の子♡▼こわーい侵略者から地球を守るために、魔法少女としてブラック労働に勤しんでたんだケド、親玉やっつけたと思ったら「用済みです」って異世界追放!? 世知辛いよねえ。▼追放先の異世界って、なんだかとっても近代的なの。下手すりゃわたしの世界より文明的なんじゃない? テンプレこわれる。でも、どこで…


総合評価:1269/評価:8.15/連載:74話/更新日時:2026年09月09日(水) 18:00 小説情報

勇者が生まれないか街を見張っていた魔物の私、懐いてきた子をうっかり勇者に育て上げてしまう(作者:うちっち)(オリジナルファンタジー/コメディ)

 勇者監視役を任命された魔物の少女ネリネは、幼い頃から自分に懐いていたユリスを、放っておけずに世話していた。▼ あくまで少し面倒を見ていただけ。▼ そのはずだった。▼ けれど成長したユリスは、本当に勇者に選ばれてしまう。▼ もちろん、ユリスは知らない。▼ 昔からそばにいた「ネリネ姉ちゃん」が、実は勇者を見張る側の魔物だなんて。▼ ネリネは正体を隠したまま、勇…


総合評価:1121/評価:8.36/連載:24話/更新日時:2026年07月20日(月) 08:49 小説情報

「私で童貞捨てたくせに」と学園美少女四天王から言われてるんですが、まったく記憶にございません。(作者:会澤迅一)(オリジナル現代/恋愛)

高2男子の俺は、目を覚ますと一週間分の記憶が消えていることに気付いた。▼部屋には幼なじみがいる。▼中学に入ってからずっと不仲だったのに、なぜ?▼「私で童貞捨てたくせに、記憶がないなんて言わせないから!」▼教室に着くと、隣の席のギャルが笑いかけてくる。今まで一度も会話したこと無いのに、なぜ?▼「私で童貞捨てたくせに、陰キャのまんまじゃん」▼放課後、後輩の文学少…


総合評価:1402/評価:8.03/完結:142話/更新日時:2026年06月25日(木) 17:04 小説情報

添い寝してもらわないと眠れない女の子in百合猛獣だらけの女子寮 〜案の定美味しく食べられてしまうと思いきや、女たらしの才能に目覚めてしまいます!?〜(作者:鐘楼)(オリジナル現代/恋愛)

毎日姉に添い寝をしてもらっている少女、花平希沙音は高校一年の夏、ついに「一人で眠れるようになりなさい」と姉の家を追い出されてしまう。▼一人で眠れる気がしなかった希沙音は、なんとか添い寝を頼めないかと転居先の女子寮で出会った親切な少女、伊咲深白にお願いをする。▼しかし、深白は何人もの少女を手篭めにしてきた悪女だった。▼案の定、希沙音も深白に美味しく頂かれるのか…


総合評価:2808/評価:8.91/連載:31話/更新日時:2026年07月14日(火) 12:05 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>