ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい 作:ムラムリ
ドラゴニュートは横に激しく動きながら、グリフォンへと大きく弧を描いて斬撃を飛ばし。
それに対してメイは。
「あ゛あっ!!」
大きく横に一振り。
「ゔあっ!!!!」
そのまま振りかぶって縦に一振り。
十字を切って飛んできた斬撃は、幅広く、そして速く。散らばる前の斬撃を纏めて相殺した。
ドラゴニュートが防御の為に慌てて張った分厚い障壁も一気に砕け散る。
そして、縦切りをした後の反動でメイは跳ね上がる。空中で斧槍から手を離し、鉄球を手にする。
「ゔっ」
ドラゴニュートはまた障壁を張り直した。無尽蔵にありそうな魔力がその度にごっそりと削がれていく。
視界から消えたワータイガーとそしてもう1人は障壁が破壊され尽くした瞬間に首を掻きに来るに違いない。
今の隙に来なかったのは、きっと残りの2人が間に合わなかっただけ。
次に剥がされたら、確実にやられる。
「あ゛っ!!」
短い叫びと共に投擲された鉄球。
瞬く間に多重に張られた障壁が砕かれ……なかった。高い技術を必要とする、一瞬の障壁。それが最後の一枚に展開されていた。
「でき、た」
半ば呆然としているドラゴニュート。
ほぼ同時に攻め込もうとしていたウトの体も弾かれて転がる。
「ゔっ!?」
その一瞬の障壁が消えた時にはもう、普通の障壁は張り直されていた。
まずい事を、全員が察した。防御に徹したドラゴニュートの障壁を破壊出来るのはメイだけだ。そしてメイにももう後がない。
更に鉄球を投げようとしたメイの腕が止まった。ドラゴニュートが空高く飛んだ。メイの真上へと。メイが動こうにも、ドラゴニュートはきっちり頭上を陣取る。鉄球を上手く届けられない位置。斧槍による飛ぶ斬撃は、背負っている一本分しかもうない。
どうする? どうする? どうする?? どうする????
メイは覚醒してようとも、更に薬を飲んでいようとも、投擲の破壊力を最大限に活かせる角度までは確保出来ない。
斧槍を振ろうとも、一瞬の障壁まで体得してしまったドラゴニュートの障壁の全てを破壊する事は出来ない。
思考が纏まらない。栓が抜けたように体力が失われて、底が見えてきたのが感覚で分かる。
「メイさんっ」
ウトが小さくメイを呼んだ。メイがちらりと振り向くと、これ見よがしに先に渡していた、属性付与していた鉄球を懐にしまって、両手を組んで下に構えるような素振りをした。
……。
意図は察せた。
一枚でもウトが先に割ってくれれば。でも、あの頑丈な障壁を1枚でも割るには、ウトでは無茶をする必要が。
でも……それ以外に最早攻撃を届かせる方法はない。
それに、メイには悩む余裕なんてなかった。
メイは一瞬でもドラゴニュートの真下からずれる為に、急転回して駆ける。ドラゴニュートは、防御出来ていれば勝てると信じているドラゴニュートは、それに一瞬遅れて追随する。
僅かな遅れ、出来たメイはウトの方向に振り向いた。腰を落とし、手を下で組む。その意図をドラゴニュートが察したのと、ウトが駆けてきてメイのその手に足を掛けたのは同時だった。
「ああ゛っ!!」
メイの叫びと共に、ウトは跳ね出された。
自身の脚力と、メイの怪力。それらが合わさってウトが出来る事と言えば、鉄球を前に突き出すだけだった。
けれど。
バギャギャッ!!
1枚どころか、2枚も砕いた。メイは背中の斧槍——もう一本の、軽く折れているそれを手にして、すぐさま斬撃で追撃する。
「あ゛っ! あ゛あ゛っ!! あ゛あ゛あ゛っ!!!!」
切り上げ、振り下ろし、そして更に切り上げ。同じ軌道で斬撃が飛んでいく。
1つ目の斬撃は、2つの障壁を一気に破壊した。
2つ目の斬撃は、最後に張り直された一瞬の障壁にそれでも阻まれた。
3つ目の斬撃は、それを破壊し、ドラゴニュートの片足と片翼の端を切り飛ばした。
「い゛っ」
ディッツェ——19階から20階に続く階段で、石畳を削り全身に塗した上で、メイがエロクーの死体を引き摺って20階に入り、戦いを始めた暫く後にこっそりと忍び込んでいた——は、まだ矢を放たなかった。
その都合上、手に持っているのは弓と矢の数本だけ。
そして何より……メイの攻撃は、まだ続いていたから。
斧槍から光が失せて黒く戻る。体力は最早僅かばかり。全力で何か出来るのはきっと1回か2回。
結果を待たずして、メイは動いていた。
落ちてくるウトを支えるのではなく、自分に、注目を集中させ続ける為に。より確実に、終わらせる為に。
散弾を手にして、角度を担保して、続けて投げた。
「あ゛あ゛い゛っ!!」
腕が酷く軋んでいる。全力で投げられていない。
ドラゴニュートは、それに対して改めて障壁を張るだけの時間はなかった。けれど、避ける事は出来た。
避けられる程度の速さしかなかった。
それでも鉄球を手にしようとするメイは、鉄球を手にして投げようとしたところで、勝手に膝が折れて着いた。
持ち上げた腕がそれ以上動かなかった。
「あ、う……」
「は、はは、ははは……」
高いところから落ちて、体を砕かせ、立つ事も出来ないワータイガー。
体力の全てを使い尽くして、体を動かす事すらままならないミノタウロス。
足を切り飛ばされた激痛に苛まれながらも決死の猛攻を防ぎ切った安堵。ドラゴニュートがどうしても緊張を解いてしまった、そのタイミング。
ぶつっ。
「は……」
脇腹に矢が刺さっていた。
「あ……あ……あれ……?」
翼の先を切り飛ばされて不安定だった飛行が、更に不安定になっていた。
口から、鼻から、血が垂れていた。
「え……」
体が動かない。体が落ちていく風を感じていた。とても熱い体。
「げぼっ」
咳と共に血が飛び出した。
走馬灯という言葉だけが脳裏に浮かんだ。言葉だけだった。過去は何一つとしてなかった。
地面が、近付いて来ていた。