ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい 作:ムラムリ
「ウト、エロクー、ディッツェ」
翌日になって、メイはマイマに案内されて連れられた宿の中で、3人と会った。
そして、メイは恐る恐るというように聞く。
「……ええと、体調はどう?」
「まあ……そうだな、後悔していないと言えば、流石に嘘になる」
ウトは、自分の身に起きた事に、自分の選んだ事だからと納得しようとするように、大きく呼吸を続けていた。
そのウトの体には、見た目には何の変わりもない。
「一応、俺はかなり幸いな方なんだってさ。格闘家として、覚醒が出来る事。肉体と
「ワたシは、覚醒なんテ、出来なイが、そこまデ、魔法を使わなカったまマ、死んダのが、最低限ノ幸いだっタ、らしイ」
エロクーもウトと似た、中身にはもう別のものが強く混じっている雰囲気を否めない。いや、エロクーには体にも影響が出ていそうだった。どうにも、体の右左で差異が出ているような。背に生える翼の大きさ、前足の爪の鋭さ、もしかしたら四肢のそれぞれの長さまで、微妙に異なっているような歪さが見て取れた。
「ディッツェは……」
「ちょっと体が大きくなっただけ」
「それは良かった、のかな」
「まあ……うん」
若干申し訳なさそうにしながらディッツェは答えた。
……もしかしたら、ドラゴニュートに対して最初に矢を外した事を悔いているのかもしれない。でも、あそこで当ててようとも外してようとも、結果的にはほぼほぼ変わらなかっただろうに。
そう思いつつ、メイはウトとエロクーに顔を戻す。
……異形にならずに生還出来た。けれど、ウトとエロクーは異形になる寸前まで、異なるものが混じった状態になってしまった。
「ええっと、サブマスター。異形にならないように耐性をつける鍛錬とか、中身を元に戻したりとかは、無いのかな」
隣に居たサブマスターに聞くと。
「まあ……今から色々やっても意味はきちんとあるよ。でもやっぱり、暫くは……少なくとも数年……出来れば10年くらいはどこかで身を落ち着けて、体に溜まった災厄の影響を薄くしていく方が良いね。
とりわけ……メイちゃんと一緒に旅をするのは、やめておいた方が良いと思う」
「それは……私が災厄に巻き込まれやすいから?」
「……うん」
サブマスターは、窓から高く聳える50階建てのダンジョンを見た。
「もう聞いたよ。ゴーレムに過ぎないダンジョンが明確な意志を持ったって。
過去の災厄でもあったし、推測出来ていた事の一つだったけれどね。そんな過去の災厄も、推測も、沢山あって、一つ一つ調べる事も出来ないものばっかりだったから。
その、意志を持ったダンジョンがメイちゃんに目を付けていただけかもしれない。
でも、事実として、メイちゃんはもう2度も災厄に巻き込まれた。このダンジョンで1度災厄に巻き込まれたパーティは少なからず居るけれど、2度は1つもない。中には毎日のように挑んでいるパーティも居たりするのに。
とりわけ、メイちゃん達は1度目はここ数百年起きていなかった災厄に対する初めてだった。それはもう覆せないし、軽く見ちゃいけない」
「…………」
メイは反論出来る言葉を持っていなかった。
「出来れば、10年かあ……」
こんな旅を出来るのは、私がまだ大人ではないからだ。もう働いている人も多い歳ではあるけれど、旅をして色々な経験をした方が良いという事もあって旅が出来ているところもある。
……でも。
「10年後、また旅をしても良いかなあ?」
「? 別に良いでしょ。好きに生きてる人なんてこの国にも沢山居る。
メイちゃんが生まれ育った場所では、大人になったらどうあるべきか、なんて事がどこまで規範としてあったかは知らないけどさ、もうメイちゃんは少なくとも、あの集落の誰よりもお金は稼いでいるし、これから10年働かなくても許されるくらいだし。
まあ……変な事でお金を稼ぐようになっては欲しくない、くらいは思うけどさ。
…………」
サブマスターは、何故か途中で口を噤んだ。
メイは何となく、次に言おうと思っていた事を察してしまった。
「でも……もう、私の人生は、私だけのものじゃなくなりつつある」
サブマスターは、目を泳がせた。出来れば目を逸らしたかったように。
それから、弁明するように言った。
「……別に、だからといって、メイちゃんの自由はそこまで強く拘束されないから、そこは安心して」
「まあ、私も別にそんな強く嫌だって訳じゃないよ。仕方ないなあって思うくらいで。
ただ、私は私としてやりたいようにやっていただけなのに、なんでこんな事になってるんだろう、って」
メイは自分の手の平を見た。細かい作業をするような柔らかさは全くない。何千、何万と斧槍を振るい続けてきた、ごつごつとした、生半可な刃物では傷もつかない手。ぎゅっと握れば、同じミノタウロスやドワーフの腕だって砕ける、その手。
「でも、メイさんはメイさんらしく……いや、メイさんのやりたいように生きていれば、これからの災厄への対策としても良いんじゃないんですか?」
「……結局、そういう事なんだよね。ウトの言葉が詰まったその正体を、メイちゃんは手放す事を許されなくなる」
励ますつもりで言った言葉こそがメイがこれから抱えるものの本質だった。
「それも別に……大人になればそういう事って、増えていくんでしょ?」
「まあ、そうだけどね。でも、メイちゃんってそういうの凄く嫌いそうだから」
「うん、嫌いだけど。でも……旅を終えた後、私ってどうなるんだろう? って時々考えてたけど、結局西のダンジョンに帰ってまたフロアボスをやる位しか思い浮かんでなかったんだよね。
そうやって、ただのんびり、前と変わらずに生きていくよりは良いかなって」
……のんびり、って。
ダンジョンでフロアボスをやる。しかも、保険なしで。それをのんびりと言ってしまう時点で、心配しなくても良さそうだと、ユーリは思った。
「まあ、それなら。メイちゃんは北に行く、で良いのかな? ウトとエロクーは一緒には行けないけど」
メイが思わずウトとエロクーの方を見ると。
「憐れム、ようナ、目はしないデクレよ?」
「……うん」
ウトも言わんとしている事は同じ目だった。
メイはユーリに顔を戻して。
「それで、ええと、ヤヌアールを見てないけど」
「ああ、うん。ヤヌアールね。ちょっと監視を頼んでいてね」
「……監視?」
何を、というのに思い浮かんだのは、たった1人。
「あの、もしかして、ソレが蘇生に成功してたら、ソレと一緒に北に行けば良いとか言い始めないよね?」
「……」
「え、その、本気なの??」
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