チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
バーン! とホレスの小屋に突撃してきたテオは、ホルモン焼きを十分に味わった後、水と風の魔法で匂いと汚れを落として華麗に去って行った。華麗なるフィッツジ……違う、華麗なるギャツビーか。転生前世界で私が観たアニメの元ネタタイトルがそんな感じだった。ちなみに元作品は洋画にもなってたぽい。読んでないから内容は知らんけど! 申し訳ない!
いや、とにかく。ホレス小屋に最初に来た時、テオは華麗に去ったけど、約束通りホルモン焼きのことは誰にも言わなかった。そのことに私はかなり驚いた。でもテオの言うことを聞いて納得したというか半ば呆れた。
「だって俺が言うと、もぐもぐ、取り分、もぐもぐ、なくなるっすよ!? 使用人の中、もぐもぐ、でも俺って下働きに近いし」
「え? そうなの?」
「そっ、もぐもぐ、す」
相変わらずもぐもぐと食べながらテオが言う。するとホレスがそれに続いた。
「そうじゃなあ。わしらは屋敷から遠いし、お嬢様新作料理は後から知ることが多いのう」
「やはり自分の勝ちであります!」
「……勝ちとかそういうのはないよ! あ、そこ、焦げる」
私は七輪で焼いてる肉をひっくり返した。実はハラミもホルモンだと知ってびっくりした。えっ、○角では食べ放題に入ってたよ!? と思ったら、ホレスが違うって教えてくれた。OH...。この世界に来てそんなことを知るとは思わなかったよ! 美味しいじゃん! 転生前世界日本では息子娘が競い合うように食ってたけど!? もしかして私だけじゃなく、息子娘も知らんかったのでは……。
しかもサガリとかいうのもあると聞いた。見た目はハラミと似てるんだけど、ちょっと部位が違うらしい。試しにどっちも焼いて食べてみたけど、違いが判らん! さすが私の残念舌! この世界でも引き継がれてるとは悲しい限りである! 美味しいというのは判るんだけど、細かい差が判んない。
あ゛ー。転生前もそうだったからなぁ。微妙な差が判らんのか、と馬鹿にされてたなあ。主に旦那に。てめえは毎日毎日の献立を考えないくせに、会社のイベントには参加して、しかも美味い料理を食いまくってたらしい。だから舌が肥えてたんだと思う。
ってか! だったら私にも美味いものをお土産に持って帰るとかすれば良くね!? 私じゃなくてもいい。せめて子供にはとか思わんのか、貴様! とも思ってたけど、何かもう色々と諦めてたので言わなかった。思い出したら脱力する。
はっ。話が逸れた。いかんいかん。転生前(当時の旦那)のことを思い出すと、大抵はむかつくね!
肉の味の差はホレスやジャスミン、びっくりしたけど、テオにも判るらしい。おのれ! テオの分際で! と、理不尽な憤りを感じつつ、私はハラミをまたひっくり返した。無論、トング(自作)で。牛肉だけど、こっちの世界はミディアムとかレアとか大丈夫なのか判らんので、硬くなる寸前に各自の皿に置くことにしてる。無論、私の皿にも! 牛肉を焼いてると肉肉肉の食事を思い出すけど、味付けしてあるから別物なんだよなあ。これ。
「いっただきまーす」
私は食前の挨拶をして皿に置いてあった肉を口に入れた。肉ってかホルモン? なのかな? ハラミね。ホレスがホルモンとして分けてたから、七輪で焼いて食べられる! ひゃっはー! 美味しい! 脂はあるんだけどそこまでじゃなくて柔らかくて……あああー! 私の残念語彙だと表現が難しい! ハラミと一緒に出てくるサガリというのも美味しい! 私にはホルモンじゃなく肉にしか見えんけども!
そうそう。ホルモンの部位で笑ったのがツラミという名前。ツラミってあの「つらみ」かと思ったよ! 転生前世界日本で聞いたことがあるスラング? だったかな。そいえば「わかりみ」とかもあったな。何で「み」をつけるのか謎だったけど、メッセージで飛んでくる時の状況から何となく意味は察してはいた。自分で使えるほどの理解力はなくて、読む側だったけど。
あ、また話が別のトコに行った。
とにかくハラミもサガリもツラミも、別のホルモンと一緒に焼いては食べている。前にテオに奪われたホルモンも、今度はしっかり確保して食べた。幸せの味だー。タレをつけたりして焼いてるから、飽きるということがない! ていうか、四人で食べてるから、それほどたくさんじゃないんだよね。確かにテオが黙ってるというのも判る。
でもって当然のように、みんなのもう一枚の皿にはおにぎりが置いてある。一緒に食べると美味しいから! その橫には切った漬け物! 最近はテオも野菜を持って来てくれるので、醤油漬けは足りないということはない。多すぎたら吸引して保存しておけばいいし! って、某白ポケットを保存に使い始めた私ってどうよ、と思うけど、ウマ飯のためならいい!
たったひとつ、問題があるとすれば味噌だ。出来ればモツ鍋を作りたいとこなんだけど、醤油はともかく味噌……この三人でも匂いが大丈夫なのか判らない。それに他の作り方はどうだろう。私がふわっと知ってるのは味噌がベースなものくらいなんだよなあ。
転生前世界の海外はどうだろう。あ、ブリ○ス……もとい、イギリス辺りなハギスと呼ばれてる料理は嫌である! 何かこう、苦手な気がする! 名前しか知らんけども! もしかしたら美味しいのかもだけど、転生前にプレイしてた大航海時代○nlineで知り合いに聞いたら、他の国の飯が美味すぎて帰ってこなかった説があるって。そっ、そこまで!? あ、諸説あり。
他の国はどうだろう。イタリア辺りだとトマトベースとかありそう。ピザとかあるって話だからトマトとかも……あれ? トマトって大航海時代に入ってきたんだっけ? まーいいや! ジャガイモ警察ならぬトマト警察もあるかもだけど、知らん!
フランスはワインとか干しぶどうの取引が多かったから(ゲームで)、多分、そういうのを料理に使ってるんじゃないかなあ。スペインはどーだったかな。確か鱈コロッケみたいのがあった気がする。でもあれはホルモンじゃ無理くさい。メキシコまで行くと、もうトマトじゃん? あそこでトマトを取引した気がするし。
うーんうーん、と考えてみる。
「お嬢様? どうしたんじゃ?」
「はっ」
しまった! 考えこみすぎた。
「いやあ。ホルモンの別の調理法がないかと……」
「えっ」
「はっ!?」
「マジ、もぐもぐ、っすか!?」
ホレス、ジャスミン、テオが同時に言う。テオ、何度も言うが、飲み込んでから喋れし!
「うーん。ワインとかあれば? でも野菜は何を入れればいいのかなあ。むしろトマトのがいい? でも使う部位が判んないから……」
私はまたうんうんと悩んだ。その間にも三人で会議みたいのが行われている。
「やはりリディアお嬢様は最高であります!」
「リディア様の作る料理はいつも美味いからのう」
「楽し、もぐもぐ、みっす」
三人の会議がプレッシャーになってしまう。実験を重ねて美味くする、というのが出来るだろーか。そのような評価を頂けるのは大変に嬉しいのだが、実験が出来ないのは困るんだよね。
「とっ、とにかく、すぐに出来ないんだよ。色々しないと判んないっていうか」
「なるほど。色んな料理が食べられるということですかな?」
「さすがです、リディアお嬢様! 自分はどこまでも付いていく所存であります!」
「俺も、もぐもぐ、気になる、もぐもぐ、っす!」
……テオ。まだ飲み込んでねーのか。そんな突っ込みを入れようと思った時、突然、小屋のドアが開いた。
「話は聞きました! あたしが強力……違いますね、協力しましょう!」
「どっから嗅ぎつけたー!!!」
みんなが硬直してる中、ドアのとこに立ってる米女子農婦のメアリーがにっこりと笑った。