「――汝に、力を授ける」
 夢の中で胡散臭い神様らしき全裸のオッサンから能力を授かった、冴えない小太りオタク高校生の篠目肝太。
 翌朝、彼が目覚めると、周囲の人間たちの「心の声」が聞こえるようになっていた!
 だが、その内容はあまりにも彼にとって都合が良すぎた。
「肝太と二人で誰も知らない土地へ逃避行できたら……」
 ――エプロン越しでも暴力的な巨乳を主張する、若々しい義理の母。
 「早くご主人様(肝太)の足台として踏みにじられたい……!」
 ――涼しい顔の下にドMな欲望を隠す、旧華族の超絶お嬢様生徒会長。
 「ウホッ、肝太殿の成分でラブラブパワー充填完了! デュフフ」
 ――テレビの中の国民的清純派アイドルでありながら、中身は極まったキモオタ。
 身の回りの美女たちが揃いも揃って、冴えない自分に対して異常な執着と極まったフェティシズムを抱いている。
 そんな都合の良すぎるラブコメ展開を前にして、自己評価が底辺の肝太はひとつの論理的な結論を導き出した。
「――なるほど。俺の脳みそ、エロゲのやりすぎでついにイカれちまったんだな」
 はたして、これは現実か妄想か!(現実です)
 神の力を持つオタクと、ヤバすぎるヒロインたちが織りなす、勘違い&不条理コメディ開幕!
 ※この作品の執筆にはAI(gemini)を使用しています。
  また本作は、小説家になろう、カクヨムへも投稿しています。

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俺は人の心なんて分からない〜読心術を身につけたら周りの気になる美少女はみんな俺が好きらしい〜

 

 

「――(なんじ)に、力を授ける」

 

 夢の中で、発光する全裸のオッサン――多分神様とかそういう謎の存在――が言った。

 眩しい。とにかく眩しい。あと声が無駄にいい声だ。

 俺、篠目(しのめ)肝太(かんた)は、その胡散臭い光に向かって適当に頷いた。

 

「あ、ハイ。じゃあ読心術(どくしんじゅつ)とかで」

「承知した」

 

 * * *

 

 目が覚めると、カーテンの隙間から差し込む朝日が俺の顔面を直撃していた。

 万年運動不足の体は鉛のように重い。鏡を見れば、そこにはいつもの小太りでニキビ面の、冴えない高校二年生が映っていた。

 だが、俺の中には奇妙な確信があった。

 ……読心術、使えるようになってる気がする。

 根拠はない。強いて言えば、あの発光オッサンの夢が妙にリアルで、目覚めてもなお脳裏に焼き付いてることくらいだ。

 

「……バカか俺は」

 

 寝ぼけた頭を振ってリビングへ降りる。キッチンには、エプロン姿の母、香住(かすみ)がいた。37歳。俺とは似ても似つかない美人で、年齢を感じさせない若々しさと、エプロン越しでも暴力的なまでの胸の質量を主張する極上のプロポーション。近所でも評判の母親だ。

 

「……おはよう、肝太。朝ごはんはテーブルの上よ」

 

 母は俺の方を見向きもせず、フライパンを動かしながら淡々と言った。思春期の息子と母親なんてこんなもんだろう。俺も無言で椅子に座り、トーストを(かじ)ろうとした。

 

『ああ、肝太ったら……今日もなんて愛らしいのかしら』

 

 ブッ、と俺は口に含んだ牛乳を吹き出しそうになった。

 ねっとりとした、情熱と背徳感を煮詰めたような甘い声。間違いなく目の前の母のものだ。

 

『少し脂ぎった肌も、今の私には宝石よりも輝いて見えるわ。……ああダメよ香住、落ち着きなさい。アナタには夫がいるの。いくら血が繋がっていないとはいえ、息子に恋をするなんて許されないわ……!』

 

(……はい?)

 

 俺はトーストをくわえたまま硬直した。血が繋がっていない? 息子に恋?

 俺は冷静に分析を開始した。昨日の夜、俺は何をしていたか。そうだ、サブヒロインに義母エンドがあるアダルトゲームを深夜までプレイしていた。

 

「……なるほど」

 

 結論が出た。これは、妄想(もうそう)だ。俺の脳みそはついに現実と二次元の区別がつかなくなり、あろうことか実の母親に対して「血が繋がっていない」「俺に惚れている」という極上のご都合主義設定を上書きしたのだ。

 

『肝太……いっそ夫と別れて、肝太と二人で誰も知らない土地へ逃避行できたら……』

 

「……ごちそうさま!」

 

 俺は逃げるように家を出た。

 こんなの病気だ。もし本当だとしたら俺の人生ハードモードすぎるだろ。

 

 * * *

 

 学校への通学路。俺は極力目立たないように歩いていた。

 校門付近がざわついている。校門の傍らに立つ女子生徒がいた。西園寺(さいおんじ)(まどか)。生徒会長であり、旧華族の血を引く超絶お嬢様。凛とした細身の長身だが、制服の胸元ははち切れんばかりに張り詰めている。俺のようなモブとは住む世界が違う存在だ。

 

「おはよう、篠目くん」

 

「あ、どうも……」

 

『……ああ、行ってしまわれる。待って、ご主人様』

 

 すれ違いざま、俺の脳内に切羽詰まったような湿っぽい声が響いた。また俺の妄想だ。

 

『素直になるのよマドカ。ご主人様の奴隷にしてくださいって懇願するの。……でも、まだ早いかしら。今の私の個人資産じゃ、即金で動かせる額なんてたったの1億ぽっちだし……』

 

「!?」

 

 俺は思わず振り返った。

 奴隷?

 1億ぽっち?

 俺の不審な動きに、西園寺会長が不思議そうに振り返った。

 

「……どうしたのかしら?」

 

「あ、いや……呼ばれた気がして」

 

「そう。気をつけて」

 

 彼女は優雅に微笑み、再び歩き出す。だがその背中からは、ドス黒い思考が垂れ流されていた。

 

『ああ、ご主人様に見つめられた……! 早くこの豊満な肉体ごと、あの(さげす)むような目でゴミを見るように踏みにじられたい……!』

 

 間違いない。俺は疲れている。あんな高潔な生徒会長がドMで、俺をご主人様と呼ぶなんてネット小説の読みすぎだ。

 

 * * *

 

 廊下を歩いていても、誰彼かまわず道行く他人の心の声が聞こえるようなことはない。どうも俺が少しでも興味や関心を抱いた相手――要するに、知っている人間、特に可愛い女子にしかこの現象は発動しないのだ。

 だからこそ、俺はこれが「自意識過剰な脳が作り出した都合のいい妄想」だと確信している

 教室の扉を開けると、前方でひときわ賑やかな一角があった。

 クラスでも有名な幼なじみカップルの片割れで、ツンデレでおなじみの春日井(かすがい)(あおい)が、爽やかイケメンの天道(てんどう)(かける)と一緒に冷やかされている。

 

「もうっ! こいつとはそんなんじゃないから!」

 

 ツインテールを振り乱しながら彼女は言う。

 けっ、微笑ましい青春の1ページだこと。

 ……と、俺が目を逸らそうとした瞬間だった。

 

『私が好きなのは篠目くんなのに、どうして皆勘違いするのよー!』

 

 ――は?

 さらに、春日井を(なだ)めている天道からも、おぞましい声が聞こえてくる。

 

『どうして、葵は篠目ばかりを見ているんだ。僕が先に葵を好きだったのに……。ちくしょう、惨めなのに、背筋に駆け抜けるこの快感はなんなんだ……!』

 

 俺はそっと息を吐き、視線をずらした。あんなリア充の二人が、実は俺を巡って葛藤してる――しかも男の方は特殊な性癖に目覚めてる――なんてあり得るわけがない。

 

 すると今度は、教卓の近くでクラスのカースト最上位に君臨するギャル三人組――白ギャルの梨佳(りか)結愛(ゆあ)、黒ギャルの美桜(みお)が、机に広げたファッション雑誌を囲んで盛り上がっていた――名前で呼びあっているのを覚えたが、苗字がぱっと出てこない。

 全員が揃いも揃ってけしからん巨乳である。表紙には国宝級イケメン俳優が写っている。

 

「このイケメン、ヤバくない?」

「良いよね〜」

「うんうん」

 

 中身のない会話だ。そう思っていたのだが――ふと、三人組が一瞬、こちらを見た気がした。

 

『篠目くん良いよね〜。お腹出てるの気にして、必死に背中丸めて隠そうとしてるのキュートだよねー』

 

『わかる〜。自分のニキビ気にして時々ツンツンするの尊くない? うっかり潰しちゃって顔をしかめたときとか、マジで抱きしめたくなったし』

 

『汗っかきなところとか、ボサボサ頭とか、セクシー過ぎでしょ。整髪料とか一切使ってない無添加なんだよ? あの首筋に鼻先埋めて、思いっきり深呼吸したいわぁ……』

 

 ――え、この子たち……ギャルのクセして、極まったオタクみたいな圧縮言語駆使してるの?

 

 「尊い」の使い方がバグっている。というか、整髪料を使っていないことを「無添加」と表現するな。俺は恐怖のあまり逃げるように自分の席へと滑り込んだ。どんだけ自分のこと好きなんだよ俺は。

 席に着くと、隣から蚊の鳴くような声が聞こえた。

 

「……お、おはよぅ……」

 

 山田(やまだ)(めぐみ)。前髪で目元を隠した、小柄で薄い体つきの地味なクラスメイトだ。俺は愛想なく「あ、ども」と返した。

 

『……やっぱり、怖いかな』

 

 そうだ。こんなキモデブ、君のようなか弱い少女に犯罪行為を働くのではないか怖がるのは当然だ。

 うん、これが真っ当な反応ってヤツだ。いやまあ、妄想なんだが。

 俺は安堵のあまりニヤけそうになったが、直後、その表情は引きつることになった。

 

『肝太様がこんなに近くにいらっしゃるだなんて……幸せすぎて恐れ多いよ……ッ! やっぱり、肝太様の神々しさは世界に知らしめるべきだよ。「肝胆教(かんたんきょう)」の信者の輪をもっと広げないと。まだ2千人を超えたくらいじゃ、常にお守りするくらいしか出来ないし』

 

 なんだ肝胆教って。俺のツブヤッターのフォロワーなんて20人程度なのに。

 山田さんの心の声は止まらない。

 本当に俺の妄想なのかと疑うくらいに目まぐるしい思考は続く。

 

『でもやっぱり、信者の質も上げて行かないといけないよね。肝太様のツブヤッターをフォローするのは、私が許可した人だけだって言ったのに、2人も先走るし』

 

 俺は心の中で乾いた笑いを漏らした。

 2千人以上いて、規律違反がたったの2人。中々の統率力だ、山田さん。

 ……待てよ。俺のツブヤッター、こないだ急にフォロワーが5人くらい増えたな。スパムかと思って放置していたが、あれが「選ばれし精鋭」と「不届き者」だったのか?

 

『校長が先走った言い訳なんて笑っちゃったよ。家が地元の名士なんて気取ってたけど、大したコネもなかったよね。その程度の利用価値なのに肝太様への信仰を抑えられず、なんて滑稽だよ』

 

 ……校長!?

 あのハゲ散らかした、朝礼の話が長い校長先生が?

 フォロワーになった奴の中にいるのか。しかも、俺への信仰を抑えられずに?

 正直怖い。怖すぎる。

 昨日の俺の呟きなんて、「久々に見返したロボアニメの作画が神」とかいう、偏差値2くらいの感想だぞ。何を思ってるんだ?

 地獄かよ。

 

『財政界とか、芸能界のコネも欲しいよね。西園寺生徒会長とか、足がかりに使いたいけど、周りに従者が何人かいて、中々二人きりになれないんだよね。一対一なら、肝太様の信仰へ目覚めさせるのなんて容易いんだけど』

 

 クソみたいなマリアージュが成立するだけだよ。

 これはあくまで俺の妄想……なのか?

 いや、そうに決まってる。

 

『隣のクラスのアイドル、星宮(ほしみや)ルリを利用出来ないかな? あの子は細すぎて肝太様の好みじゃないけど、芸能界にツテを作って、肝太様の好きなグラビアアイドルを教団に引き込むための踏み台にはちょうどいいよね。肝太様の好みは、信者が経営してる本屋で買ってる写真集なんかで傾向が分かるから……』

 

 俺は息を呑んだ。駅前の本屋のおっさん!

 あそこは無愛想だから、水着写真集を買う恥ずかしさが最小限に抑えられていたのに!

 あの無関心は演技で、俺の性癖データを収集してただと!?

 逃げ場がない。

 ……いや、落ち着け。きっと俺は、無意識のうちに周囲をキャラ付けして楽しんでいるだけだ。そうに決まっている。

 

 * * *

 

 昼休み。

 教室の居心地が悪すぎた俺は、弁当片手に人気の少ない場所を目指して廊下を歩いていた。ふと、隣のクラスの前でひと際目立つ女子生徒とすれ違った。

 ポニーテールのよく似合う、小柄な少女。国民的アイドルグループで活躍する、星宮ルリだ。

 

 俺は三次元のアイドルは多様化しすぎて正直見分けがつかないが、星宮さんだけは違った。テレビでも度々見かけて知っているし、廊下で時々目が合うと、ふっと吸い込まれそうになる不思議な引力がある。PVでもダントツの歌唱力で、彼女が切ない恋の歌を歌えば、まるで自分へ向けられた告白のようにすら錯覚してしまう。

 俺みたいなのがジロジロ見ていたら不快な思いをさせてしまうだろう。俺は慌てて視線を落とし、足早に通り過ぎようとした。

 

『ウホッ、肝太殿は今日もキマっておりますな。素敵すぎでござるよぅ。ハァハァ……肝太殿の成分でラブラブパワー充填完了!  この一瞬の為に生きてるって感じですなー、デュフフ』

 

(……え?)

 

 俺は危うく廊下でつんのめりそうになった。ウホ? 殿? でござる?

 俺の脳内響いたのは、間違いなく清純派アイドルの星宮ルリの声だった。だがその語彙は、ネットの深淵に生息する古き良き「キモオタ」そのもの。

 ありえない。国民的アイドルが、ただのモブ高校生に対して「ウホッ」とか言うわけがない。俺の脳はついに、高嶺の花を俺と同じレベルの「キモオタキャラ」にダウングレードさせることで、無意識に精神的優位に立とうと幻聴を捏造(ねつぞう)し始めたらしい。俺の深層心理、どんだけ卑屈なんだよ。

 気まずくなり少し早足になった俺の背後から、なおも心の声が聞こえる。

 

『後ろ姿もイケメン過ぎでゴザルよぅ。同人小説――じゃなく、新曲に使う歌詞のイメージは、決まりでゴザルな。グフフフ』

 

 これが真実なんかでは無いと思いつつも、彼女の歌う新曲は、今後聴けない。なんか怖い。

 

 * * *

 

 放課後の文芸部。

 幽霊部員ばかりのこの部室は、俺の唯一の安息の地だった。本を読む月島(つきしま)詩織(しおり)の存在も理由の1つだ。三つ編みに黒縁眼鏡のダボッとしたカーディガン姿だが、隠しきれない巨乳なのは知っている。

 可愛い女子としばしば2人きりになれるという特権を楽しんでいたのは少し前までの話。

 

「月島、その本おもしれー?」

「ええ、高田(たかだ)くん。後で貴方もどう?」

 

 最近、突然入部してきた高田雄也(ゆうや)。色黒で筋肉質な陽キャだ。

 二人はよく話している。なんか時々目で通じ合ってるし、もう陰で薄い本みたいなことしてるの確定じゃないか。

 やだよ俺、部室の隅に使用済みの避妊具なんか落ちてたら。

 あーあ、僕が先に好きだったのに。

 モヤモヤするなー。

 自嘲気味に息を吐く。

 そう、だから、だから。

 

『……ああ、愛しき肝太君――いえ王太子殿下』

 

 月島の心の声が俺に届こうとも、それはマジの事では無いのだ。

 

『前世で帝国と王国の架け橋になる筈だった婚約は、両国の戦争によって破綻してしまった。高田という護衛の騎士も合流できたことだし、今度こそこの身を捧げて殿下をお守りしてみせるわ』

 

 やや痛い設定だ。

 月島は俺を前世からの運命の人だと信じ込んでいるのか?

 俺は、彼女とそんなに深い繋がりを求めているのか。

 違うと言えば、嘘になる。

 

『姫様……』

 

 今度は、高田の野太い声が響いた。

 

『姫様が愛したお方と結ばれることは、姫様の騎士として喜ばしい筈。その一助となることこそ、我が使命。……だというのに、 私の中の、女としての記憶が、殿下への思慕を諦めきれないと叫んでいるのです!  なぜ私はこんな無骨な筋肉の男体に生まれてしまったのでしょうか! これでは殿下に組み敷かれ、夜伽(よとぎ)の相手を務めることも叶わない……ッ!  殿下……肝太様ぁ……ッ!』

 

 俺は無言で本を閉じた。

 もうさっきから、内容がちっとも頭に入りません。

 終わってる。あんな屈強な男から「夜伽」という単語を向けられる恐怖。

 全部嘘であってほしい。絶対に病院に行こうと心に誓った。

 

 * * *

 

「幻覚や幻聴は、脳機能の局所的なエラーで起こることがあります。まずは物理的な異常がないか、画像診断や脳波の検査をしてみましょう」

 

 隣町のメンタルクリニック。白衣を着た、知的で穏やかな雰囲気の女医、高瀬(たかせ)美月(みつき)先生の提案に、俺はビクッと肩を揺らした。

 

「あ、あの……俺、親には内緒で来てるんで同意書とかないんですけど……それに、お金も……」

 

「安心してください。特例として本人の同意のみで検査が可能です」

 

 高瀬先生はウェーブのかかったロングヘアをふわりと揺らし、優しく微笑んだ。

 

「それに費用ですが、実は今、国が主導する『思春期特有の脳内ストレスに関する研究』が行われていて、モニター同意書にサインをいただければ、最新の検査もすべて国からの助成金でまかなえますよ」

 

 なんという幸運だろう。俺は心の中で、日本の手厚い医療制度に深く感謝し、迷うことなくサインをした。

 別室での検査は本格的だった。「ストレス値を見るため」と血を抜かれ、「造影剤(ぞうえいざい)」という点滴を流し込まれ、MRIの機械の奥へとスライドさせられた。俺がオタクの妄想全開の悩みを相談したのに、この綺麗な先生は鼻で笑うどころか、徹底的に調べてくれている。

 

 長時間の検査を終え、再び診察室に戻ってきた俺に、高瀬先生はクスリと笑って言った。

 

器質的(きしつてき)な異常はありません。思春期特有の、過度なストレスによる幻聴です」

 

 涼やかな目元と、優しげな声。だが、俺は不純な男子高校生である。俺の視線は白衣の下――タイトなセーターを下から強烈に持ち上げている、暴力的なまでの胸の膨らみに釘付けになっていた。

 

(……いかんいかん。こんな綺麗な大人の女の人が、俺の妄想設定に巻き込まれるわけがないだろ)

 

 俺は必死に邪念を振り払った。その時、決定的な事実に気がついた。

 

 ……この先生の『心の声』、聞こえないぞ。

 

 美人の女性に対して、俺の妄想が暴走しなかったのだ。

 原因がハッキリしたのが大きいだろうか。

 

「脳の過剰な働きを抑えるお薬を出しておきますね」

 

「はい……!  ありがとうございます!」

 

 俺は薬を受け取り、クリニックを出た。よかった、これで普通の生活に戻れるんだ。

 

* * *

 

 一方、クリニックの診察室。

 高瀬は、天井の隅に設置された小さな黒い装置を見上げた。装置からは不穏なノイズと焦げ臭い煙が上がっている。

 

「……危なかったわね。軍事用の超能力ジャマーが、数分の接触で強制シャットダウン寸前に追い込まれるなんて」

 

 高瀬はスマートフォンに偽装された暗号化通信機を取り出した。

 

「……ええ。最近、世界中で超能力者の発現が急増している件とも関連があるかもしれません。対象者『K』との接触に成功しました。現在、彼は能力を『ストレス性の幻聴』だと思い込んでおり、抗精神病薬と偽って超能力抑制剤を処方しました。ええ、彼の能力は間違いなく本物です。高レベルの精神能力。ともすれば、Aランクに届くかもしれない数値です」

 

 恐らく読心術は、対象が持つ能力の一端に過ぎない。

 淡々と報告を続けていた高瀬の頬が、上気していく。

 

「対象をより近距離で監視するため、私が彼の近所へ引っ越し、高校へスクールカウンセラーとして赴任する手配をお願いします。――さらに、必要とあらば肉体を使った籠絡も視野に入れた行動の許可を。……私が洗脳されているのではないか、ですか? 心外ですね。検査結果と、私の脳波はリアルタイムで共有されているはずですが」

 

 洗脳?

 馬鹿馬鹿しい。彼の超能力が他者の精神に何かしら介入するようなものではないのは、瞭然だった。だからこそ、継続的な調査が必要だ。

 国家に奉仕するエージェントとしての使命感が彼女を突き動かそうとしているに過ぎない。

 両足を組み替えるときに感じた視線。

 自らの体を利用出来るのではと思っただけだ。

 もしかすれば、任務の過程で、女としての幸せを知り、対象と幸せな家庭を築くということがあるかもしれない。

 そんなものは瑣末事だ。

 ともすれば、彼の超能力は国家の存亡を左右するかも知れないのだ。

 決して先月に26歳を迎えた人生において初めての恋に浮かれているわけではないのだ。

 

「彼を守れるのは、私だけですから」

 

 

 * * *

 

 ――だが、俺の「普通の生活」は、一週間と持たなかった。

 

「……おかしい」

 

 登校中の道すがら、俺は首を傾げていた。処方された薬は、まだ半分も飲み終わっていないというのに、なんだか効かなくなってしまった気がするのだ。

 

『ああ、肝太……その丸い背中に飛びついてしまいたい……!』

『ご主人様、今日の靴の汚れ具合も最高です……』

 

 途切れ途切れではあるが、母の激しい愛情も、西園寺会長の狂った願望も、再び俺の脳内に響き始めていた。

 まさか、俺が本当に超能力に目覚めていて、薬で鎮静化できないくらい脳の処理が活性化している……なんて、あるわけない。今度、もっと強い薬を処方してもらえないか相談しよう。

 そんなことを考えながら、教室の扉を開けた。

 

「おはよ! オラッ、催眠(さいみん)だー!」

 

 教室の中心で、オカッパ頭に黒縁メガネの以下にも真面目そうなクラス委員の山崎(やまざき)(りん)が俺を指差して叫んだ。

 普段は大人しい彼女からは想像もつかないハイテンション。そしてその声を聞いた瞬間――俺の体は、ピタリと動かなくなった。

 

 ――あれ、動けない。なんか、頭がぼーっとする……。

 

「フフフ……やはり神に与えられたこの催眠能力、本物! クラス全員を掌握してやったわ! これでようやく、私の理想を実現できる!」

 

 山崎さんが勝ち誇ったように高笑いする。周囲のクラスメイトたちは、皆一様に焦点の合わない目で直立不動になっていた。

 さ、催眠?

 そんなエロゲみたいな能力が現実にあるだなんて信じられない。だけど現に俺は身動きが取れない。

 

 ――終わった、一体コレから俺はどんな恐ろしいことをさせられるっていうんだ……!

 彼女の肉盾か、はたまた爆弾を抱えてテロの尖兵にでもさせられるのか。

 恐怖に(おのの)く俺の耳に、山崎さんの上擦った声が届いた。

 

「じゃ、じゃあ篠目くん! 貴方、好きな子とかいる? いなければ、こういう女性がタイプだとか、教えてもらえるかしら? 1人じゃなくてもいいわ。片っ端から洗脳しておくから!」

 

 ――はい?

 

「その後、篠目くんが『自分で催眠能力を会得した』って錯覚するように強力な暗示をかけておくから! 気兼ねなく、好きなシチュエーションで催眠ハーレムプレイを楽しんで! それでね……もしも、もしも良ければ、出来ればで良いんだけど……」

 

 山崎さんはもじもじと身をよじり、顔を真っ赤にして上目遣いで俺を見た。

 

「私も、そのハーレムの一人に加えてもらえたらうれしいなって……」

 

 ――どういうこっちゃねん。

 

 ぼんやりとした頭の片隅で、俺の中の冷静な自分が、虚無の表情でツッコミを入れるのだった。

 

 

 おしまい

 




 取りあえず思いついたヒロインをぶち込みました。
 以下は、各キャラクターの簡易プロフィールです。

【キャラクタープロフィール・設定資料】
■ 篠目 肝太(しのめ かんた) / 主人公
・身長/体重:166cm / 78kg
・特徴:小太りで猫背、ニキビ面の冴えない高校二年生。運動不足で柔らかい肉付き。無自覚な「読心術」の持ち主だが、自己評価が底辺すぎるため、ヒロインたちの異常な好意をすべて「エロゲ脳のキモい妄想」だと解釈し続ける。
 その超能力の本質は、全人類の記憶、人格を読み取り世界そのもののシミュレーターを脳内に生み出すこと。最終的にはシミュレーター内の時間を操作し、未来予測やバタフライエフェクトを計算した間接的な事象の操作を可能とする。

■ 篠目 香住(しのめ かすみ) / 義理の母・37歳
・身長/体重:163cm / 56kg
・スリーサイズ:B102(I) / W61 / H93
・特徴:年齢を感じさせない若々しさと、エプロン越しでも暴力的な質量を主張する規格外の爆乳義母。息子の「脂ぎった肌」すら宝石のように見え、夫を捨てて肝太と駆け落ちしたいと熱望している。

■ 西園寺 円(さいおんじ まどか) / 生徒会長
・身長/体重:168cm / 52kg
・スリーサイズ:B94(F) / W59 / H88
・特徴:旧華族の血を引く超絶お嬢様。凛とした細身の長身だが制服の胸元ははち切れんばかり。「ご主人様(肝太)の足台として踏みにじられたい」というドMな欲望を隠し持つ。総資産は数十億に達するが、多くは運用中のため、即金で動かせるのが1億円。十分バケモンである。

■ 春日井 葵(かすがい あおい) / ツンデレ幼馴染
・身長/体重:158cm / 48kg
・スリーサイズ:B82(C) / W58 / H83
・特徴:クラスのムードメーカーで標準的な体型。イケメンの天道と両思いだと周囲からは思われているが、実際は肝太のことが好きで、天道との関係を肝太に誤解されないか気が気でない。

■ 山田 慈(やまだ めぐみ) / 肝胆教教祖
・身長/体重:148cm / 41kg
・スリーサイズ:B72(A) / W54 / H76
・特徴:前髪で目元を隠した小柄な女子。肝太を神と崇めるカルト教団「肝胆教」の教祖で、2千人の信者を束ねる。

■ 山崎 凛(やまざき りん) / クラス委員
・身長/体重:158cm / 48kg
・スリーサイズ:B85(D) / W57 / H84
・特徴:切り揃えられた黒髪のボブカットで、少しツリ目の真面目な優等生。本物の超能力(催眠術)に目覚めたが、「肝太に催眠能力を譲渡したと思い込ませ、彼に好きなだけハーレムプレイを楽しんでもらう(あわよくば自分も入れてもらう)」という回りくどすぎる狂った献身を見せる。
 なお、肝太が催眠を自ら打ち破るまで1分も無い。

■ 赤城 梨佳(あかぎ りか) / 白ギャル(リーダー格)
・身長/体重:165cm / 53kg
・スリーサイズ:B92(F) / W58 / H87
・特徴:肝太の「お腹の肉」と「自信なさげに背中を丸める姿」を溺愛している。

■ 青井 美桜(あおい みお) / 黒ギャル
・身長/体重:160cm / 51kg
・スリーサイズ:B95(G) / W59 / H88
・特徴:健康的な肉体美。肝太の「汗」や「無添加(整髪料なし)の匂い」に野生的なフェティシズムを抱く。

■ 黄瀬 結愛(きせ ゆあ) / 白ギャル(ゆるふわ系)
・身長/体重:158cm / 50kg
・スリーサイズ:B98(H) / W60 / H89
・特徴:ギャル三人組の中で最大サイズの胸の持ち主。肝太の「ニキビ」に母性をくすぐられ、抱きしめたい衝動と戦っている。

■ 文月 詩織(ふづき しおり) / 文芸部(前世の姫)
・身長/体重:162cm / 54kg
・スリーサイズ:B98(H) / W60 / H89
・特徴:三つ編み眼鏡にカーディガンという地味な出で立ちの隠れ巨乳。肝太を「前世の王太子殿下」だと信じ込み、今度こそ身を捧げようとしている。

■ 高田 雄也(たかだ ゆうや) / 文芸部(前世が女騎士)
・身長/体重:182cm / 80kg
・特徴:色黒で筋肉質な陽キャ男子。前世の女騎士としての記憶があり、殿下(肝太)に夜伽で抱きしめてもらえない今の無骨な男の体に絶望している。

■ 高瀬 美月(たかせ みつき) / 国家機関エージェント女医
・身長/体重:166cm / 55kg
・スリーサイズ:B96(G) / W59 / H90
・特徴:ウェーブのロングヘアにタイトなセーターという、色気溢れる白衣のストーカー。読心術が効かない(ジャマー)ことを利用し、「優しいお姉さん」のガワを被って合法的に逆光源氏計画を目論む。

■ 星宮 ルリ(ほしみや るり) / 国民的アイドル
・身長/体重:155cm / 42kg
・スリーサイズ:B75(A) / W55 / H78
・特徴:ポニーテールの華奢でスレンダーな清純派アイドル。圧倒的な歌唱力を持つが、内面は「ウホッ」「デュフフ」などの圧縮言語を駆使する極まった肝太のキモオタ。

■ 天道 翔(てんどう かける) / 爽やかイケメン
・身長/体重:175cm / 62kg
・特徴:春日井の幼馴染で誰もが振り返るイケメン。しかし内面は、「好きな女子(葵)が、冴えない同級生(肝太)を見つめている状況」に凄まじい快感を覚えるNTR・BSSのドM性癖に目覚めてしまっている。

■神
謎のオッサン(神)の正体について
 冒頭で肝太に読心術を与えた「神」を名乗る存在は、実は元々人間。
 自らを情報の塊と化して人々の夢を渡り歩く超能力の持ち主だったが、無数の人々の夢に触れすぎた結果、記憶の混乱を引き起こし、自分自身のアイデンティティすら失ってしまった存在の成れの果て。
 彼は暇つぶしとして、超能力の素質がありそうな人間の脳へ干渉し、能力発現を促していた。肝太が「読心術」を得たのは、彼がそれを強く望んだというより、自身の絶大な素質を呼び起こされた結果「現状出来そうなこと」を無意識に指定したに過ぎない。
 超能力者としての素質は肝太が圧倒的に優れているため、今後、この存在が肝太へ危害を加えることは無い。
 肝太の無意識下で行われている「全世界規模のスキャニング」が進行すれば、夢のネットワークを渡り歩く自分自身の存在すら暴かれ、消滅させられるのではないかと恐れている。しかし同時に、底知れぬ力を持つ肝太ならば、いつか「失われた自分自身」を解析し、アイデンティティを取り戻してくれるのではないかという、一縷の期待も抱いている。

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