ようこそ実力至上主義の教室へ※   作:ラム肉

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水も滴るいい男※

 

 

 一年Dクラスに訪れたプール解禁日。

 

 池、山内、外村が垂金少年に飛びかかっていた。絶対に許さねぇと目を血走らせている。

 

 十分前までは誰の胸が一番大きいか賭けをしていた池と山内は一発でも殴ろうと躍起に。博士と呼ばれる少年、外村もただでは帰さないと目を血走らせていた。

 

 事の発端は賭け事。クラス内で誰の胸が大きいかを対象にしたトトカルチョ。

 

 朝のボランティア活動を終えて教室に戻ってきた垂金少年に声をかけたことから始まった悲しみの連鎖。

 

 垂金少年の第一声は――こうだった。

 

『仮に、仮にの話じゃ。もしもこれが平田や綾小路、三宅のような面子で誰の水着が楽しみみたいな猥談じゃったとする。すると女子は『きもーい』と言いながらも満更じゃない可能性がある』

 

 唐突に巻き込まれた平田は『なんで!?』と驚き。付き合っている軽井沢は垂金に『ちょっと、平田くん巻き込まないでくれる?』と不機嫌な声で注意する。

 

『黙りゃ! まだ人が話してる途中でしょうが!』

 

 その顔があまりにも気持ち悪かったので矛を収める。若干、怖くもあったのでそそくさと平田の後ろに隠れた。そのイチャつきムーブにクラス内の彼氏がいない女子のヘイトが集まる。

 

『そう、きもーい……程度……赦されるッ……かろうじて……ッ、それを出汁に青春するッ……イケメンならッ。綾小路がやったとしても隣の席の堀北あたりとくだらないわね、まったく……あなたには私が居るでしょうとかイチャつき『言うわけないでしょう!』黙りゃ! こほん、イチャつき始める。ワシにはわかるッ……経験則ッ……けれどワシらに残るのはなんじゃ……? あるか? そこに? 青春が? 無いッ……皆無ッ……あるのは冷たい視線、罵倒、悪評だけ、そこからのセクハラッ……実刑ッ……』

 

 山内は思った。いやそりゃお前だけだろ……と。池と外村も同じような気持ちであった。

 

『傲慢ッ……今、お主らの心の中には傲慢の風が吹いておる。俺には関係ないッ。お前だけだろッ……そんな自分は関係ない……まるで他人事ッ、傲慢ッ。違うッ、同類ッ……イケメン以外に等しく価値なしッ……ワシらには訪れないッ……もーちょっと男子ー! なんて女子の声は……ないのじゃッ……』

 

『いや、まぁ池と博士ならそうかもだけどさぁ』

 

 山内の唐突の裏切りに二人が『はぁ!?』とキレる。

 

『はぁ!? 俺、山内よりマシなんだけど……』

 

『いやいや、んなわけねーって。俺、中学時代モテモテだったし告られたこともあるし。それに最近、佐倉からも――』

 

『だまりゃ! いいか、貴様らは自分を客観視する能力がまるでないッ……養分、まるでイケメンの養分ッ……浅ましい自己認識ッ……イケメンじゃなくてもまぁまぁ普通かな? なんて、馬鹿かッ……目を覚ませッ……我らが街を出歩いたところで女の子の方から声をかけられたことが一度たりともあるかッ……ないじゃろッ……目を覚ますのなら今なんじゃッ』

 

『は、はぁ? 何を根拠に』

 

『制裁ッ……制裁ッ……まるで白痴ッ! ゴミっ、発想が恋愛弱者のソレッ……雑魚ッ雑魚ッ……浅ましいッ! 外を歩いていれば同じクラスやBクラスの辺りの女子に『あれ? 〇〇くん奇遇だね』とか声をかけられる。図書室にでも通えば『あなたも本がお好きなんですか?』と向こうから声がかかってくる……そんな妄想はカスッ……ゴミ……そんなものは無いッ。お主らには無いッ……あるじゃろ、最低ラインッ……超えてきたのならお主らはそんなことなっとらんじゃろッ。心優しき相手にも選ぶ選択肢はある。図書室に通って出会いを装うのは自由じゃ博士。けれども文学少女はお主が本が好きだろうと興味がない。仮に文学少女が好きなものがあるとしたら本が好きなイケメンくらい。本好きなイケメンにのみ「あなたも本がお好きなんですかっ!」と声がかけられる……ワシらには……ないッ』

 

 悲しきかな、ルッキズム。垂金少年は滾々と説く。博士はちょっと泣きそうだった。図書室で同学年の可愛い子が居たのを見つけ偶然を装っては本棚近くでウロチョロしていたのが垂金にバレていてとても死にたくなった。

 

『いいか、見た目で差別するのは良くない。赤子でもわかる、じゃが差別さえしなければ好き嫌いは自由にしてもよいじゃろ……お主らが櫛田櫛田と阿呆みたいにさえずるのは自由じゃ、見た目が可愛い子が好きなのもそりゃ当然じゃ。けれども相手にも選ぶ権利あるじゃろ……少なくともここでこんな巨乳ランキング作って騒いでいるやつは論外じゃろ……ただでさえイケメンじゃないのに……その上、自己認識も出来てないとくればダブルで墓穴ッ、大墓穴ッ!』

 

 その言葉に池は段々と冷静になってきた。周りを見れば女子の蔑む視線に気づく。

 

 山内は垂金が騒ぐからバレた、全部こいつのせいだ、いつか復讐してやると心に誓っていた。紛うことなき他責主義のクズ。いっそ天晴だった。

 

 博士は穴があったら潜りたかった。穴のなかで悶死したかった。図書室から始まるラブコメはイケメンのみだった。自分にはなんの関係もないんだと知って泣きそうだった。

 

『いいか? 我らDクラスの非モテ四天王……数少ない仲間じゃ。うぉっ! おいっ、やめんか! 仲間、仲間、我ら、ナカーマ! オデタチ、トモダチ、コンゴトモ、ヨロシク……あぶっ!?』

 

 今、Dクラスで尊厳を賭けた戦いが始まる。そんな光景を見ていた綾小路は巻き込まれなくて良かったと安堵した。隣の席の堀北が「いい! 勘違いしないで! 私はそんなこと言わない! ねぇ、聞いてるの!?」と騒いでいたがそれをスルーしながら喧騒を眺めていた。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 綾小路清隆はモテ期である。

 

 入学してすぐに連絡先を交換した不細工に連れ回されては色んなクラスの人間と縁を繋ぎ、事なかれ主義は超絶汚物という濃ゆい面を持つ青少年により是正され、平均=目立たないではないの図式がそうそうに砕かれた青少年はほどほどの力で日々をのんべんだらりと過ごしていた。

 

 不細工界の相対性理論によりイケメン度マシマシで一年のイケメンランキングトップに踊りではじめていた。

 

 運動能力は須藤や平田には劣るが平均よりも上で、学力に関しても文理ともにクラストップのちょっと下を位置する。この情報にDクラス女子が色めかないわけが無かった。

 

 確かに欠点はある。少しばかり箱入りの気質が見えるのだ。常識に疎いと言っても過言ではない。だが! それが女子の琴線に触れた。

 

 クール無表情系無知無知箱入り属性。

 

 そんなモテ期の綾小路と年中無休モテ期の平田洋介がバスケをするというのだからDクラス女子が応援にこない訳がない。

 

 そんなモテモテ街道まっしぐらな綾小路清隆はベンチに座りプレイするDクラスの面子にやる気なさげに「がんばれー」と声援を送りながらバスケットボールを学習していた。

 

 そして教材として優秀な二人のうちの一人が、今、跳躍する――。同じコートに立つ須藤は目を見開き、

 

「ダ、ダブルクラッチ……だとぉ!?」

 

 ダブルクラッチ。

 

 空中でシュートモーションを一度見せたり変更したりして、ブロックに飛んできたディフェンスをかわし、再びシュートを放つ高度なテクニック。

 

 レイアップを決めようとした瞬間にブロックに飛んできた巨体を空中で交わし艶やかに決める。

 

 高育に入って一週間。ケヤキモール近くのバスケットコートでその光景を見ていた須藤健は目を見開き解説席の実況ばりに目を見開いては叫ぶ。

 

「……Amazing」

 

 ブロックのために飛んではシュートコースを防いでいた山田アルベルトと呼ばれる黒人マッチョマンも目の前で消えては背後に現れてシュートを放った少年を見て感嘆の意を漏らす。ちょっとした怪異みたいなもんだった。

 

 同じくディフェンスで平田と須藤に張っていた小宮と近藤と呼ばれる少年たちも驚きに目を見開いてはスーパープレーに戦く。

 

 そして――いましがた超絶プレーを決めた青少年、垂金権造は脇で応援していた女子たちに向けてバチコーンとウインクと投げキッスを決めた。

 

「きっ、キッショォォォ、ォエッ」

 

「え? おかしない? 黄色い声援じゃなくて黄色い吐瀉物出るのおかしくない? ワシ、今、華麗な動きじゃなかった? ねぇ、おかしくなーい?」

 

 予想以上の反応に驚く垂金少年。流石に戻してまではいないが軽くえづいている。応援にきてたみーちゃんなる子は気持ち悪いのか口元を抑えている。隣に座る清隆の袖を握ってプルプルと震えている。清隆は「擦ったほうがいいか?」というとコクコクと頷き背中を擦ってもらう。幸せだった。ついでにCクラスの応援からも悲鳴が挙がっていた。

 

 軽く「きもーい」程度を予想していた身としてはガチで気持ち悪くなってる女子たちを見て申し訳なさに泣きそうになる。あまりにも哀れだ。

 

 そんな彼と3on3で同じチームである平田洋介は苦笑を零す。Cクラスの交流会、垂金発案のクラス対抗バスケは思った以上の盛り上がりになっていた。

 

 Dクラス男子は平田、須藤、垂金。替えのメンバーに綾小路と三宅。そして女子も物珍しさとイケメンの力により十人近くが応援しに。同じくCクラスからは小宮近藤山田にそして替えのメンバーに石崎と唯一の紅一点である伊吹も集まっていた。そして同じように暇だったCクラスの女子数人も物見遊山に来ていた。

 

 池と山内はバスケが出来ないから帰った。そういうところだぞ。

 

 入学初日の自己紹介を粗野な態度で拒否し、クラスの中で浮いていた須藤健を引っ張り出し、彼が得意とするバスケを餌に交流会を開いたのだ。同じクラスではなくCクラスとの交流になったのは――須藤健のプライドを擽ったが故に。

 

 体格も血筋もDNAも。格上の相手こそ須藤を動かすのに必要だった駒。そこへ「ははぁーん。もしかして怖いの? そりゃあんだけバスケ一筋とか言っておいて、遺伝子レベルで強そうなCクラスの山田相手に芋引いちゃうわけ? まぁ、それも仕方ありませんのぉ。黒人の血に勝てるわけないのです」と煽れば「馬鹿野郎! やってやろうじゃねぇか! 勝つぞ俺は!」となるのは当たり前。

 

 事前にケヤキモール近くのレンタルスペースを予約して予定通りに交流会を始めるのであった。Cクラスも昨今はギスギスしていた空気の中、そんな交流会は渡りに船であった。

 

 唯一、Cクラスで暗躍をしている男は自分の考えの正しさを証明するために今日もせこせこと別の場所で証拠を集めている。

 

 閑話休題。

 

 そんなわけでバスケに関しては本気である須藤健。

 

 初日に自己紹介の提案を蹴ったせいでクラスから浮いていた。女子からも浮き、山内と池と呼ばれる生徒たちとつるんでいたかのように見えた。

 

 はっきりと言って外聞は良くなかった。池と山内、どちらも授業には不真面目であり、やたらと声が大きい。そしてノンデリカな部分が一週間で顕になっており、そこに合流した須藤健という粗暴者を含めて三馬鹿と呼ばれ始めていた。

 

 そして平田洋介という学年のイケメンランキングトップクラスとは相性の悪い三人組。授業で騒ごうが寝ていようが注意した所で聞く耳を持たない。

 

 既に学級崩壊の兆しが見え始めた現状を憂慮していた平田洋介に声が掛かったのだ。

 

 須藤健をクラスに馴染ませる為の作戦。

 

 恋愛百戦百敗、今のところ勝ち戦一つもなし、嘘偽りない不細工恋愛遍歴を持つ少年の策に平田洋介は乗っかることにした。

 

 基本的にこの少年、垂金権造は特定のグループに所属しているわけではない。同じクラスの櫛田という少女が立ち位置に近いだろう。

 

 少女は美貌を武器に色んな人間に粉かけてるのに対して、垂金権造はその働きをもってして色々な人間に便利な奴と覚えられていた。

 

 身体を張って階段から落ちそうになる女子生徒を助けたり(助けた時に泣かれた)、授業中に勉強がわからない女子相手にそっと答えを教えたり(舌打ちで返された)、携帯端末を探して右往左往する生徒を手助けしたり(拾ったあとに目の前で除菌シートで念入りに拭かれた)オーデコロンを適量振ってるせいで臭いはいいのに汚物が見えるという脳のバグをDクラスに持ち込んで怒られたりとなにかと話題にかかない注目人物。

 

 須藤はそんな垂金権造にお世話になっている一人である。他のクラスメイトに比べて壁なくに話しかけられ、コンビニで携帯を忘れた時に代わりに支払いを持ってもらった。揉め事を起こそうとしたときも体を張って止められたことや決して馬鹿にした態度をとったことなどなく、同じ目線で同じように話してくれることから悪いやつではないと認識していた。不細工ではあるが。

 

 ただ少しだけ授業や遅刻の小言があるのは苛つくがそれも頭ごなしではなく須藤でも受け入れやすいように話してくれるが故に一方的に邪険には扱えなかった。不細工ではあるが。

 

 また垂金の非モテエピソードが須藤や池には受けた。平田洋介とは異なり、女っ気の欠片もないことから割と仲間よりの認識だった。

 

 小言にも一応の納得を覚えてしまっていた。自分が真面目にバスケをしている傍らでふざけて邪魔をする奴がいたらどう思うか、なんてあまりにも分かりやすい例えを出されれば押し黙るしかなかった。

 

 けれども一ミリのプライドが簡単に頷かせなかった。今更仲良しこよしなんて柄じゃねぇとも思った。

 

 けれどもバスケを盾に挑発されたのなら仕方ない。乗ってやるかと重い腰を動かした――が、ここに計算外が存在する。しかし、目の前のクラスメートは須藤にとって極上の敵であった。自分に匹敵する、もしくはそれを上回る可能性があるライバルだと。

 

 一スポーツマンとして燃えないわけが無かった。

 

「おい、垂金、平田。そろそろメンツ替えようぜ」

 

「そうだね、CD混合でどうだい?」

 

 コートにいる面子は休憩とばかりに一回捌ける。そして代わりに次は綾小路、小野寺、須藤という面子に対して、垂金、アルベルト、石崎。だが、その時に悲劇が起きた。

 

「なぁ、垂金……」

 

 石崎は垂金少年の肩を優しく叩く。

 

「言うなッ……」

 

 身長順で須藤、綾小路、小野寺とマークについた直後にそれは起きた。そう垂金権造が小野寺かや乃のマークについた時にそれは起きたのだ。

 

『チェンジで……』

 

 暴挙。あまりにも暴挙。

 

 主催でありメインの筈の垂金権造が腰を低くしてマークについた途端にDクラス女子はあろうことか交代を要求してきたのだ。応援だけだった筈なのに急に混ざってきた上でまるでデリヘルみたいな態度でチェンジを要求してきたのだ。

 

 流石はDクラスである(アンチ・ヘイト)。その横暴っぷりに男子は引いていた。Cクラス女子は「仕方ない……」と理解者面をかましていた。

 

 その後、泣きべそかきながらプレイして最終的に1on1を須藤と続けて最後の一戦で負けては「跳べない豚は……ただの豚……」って呟き、ヤムチャのように倒れていたら「豚さんに失礼だよ」と罵られた。

 

 この日により須藤はただの粗暴者の汚名を脱却し、スポーツマンの側面を見せつけて平田や綾小路と距離が近くなった。授業中の態度も完全では無いものの幾分かは改善されて、邪魔になることは少なくなった。

 

 平田はクラスの問題が少し減りホクホク。綾小路は学生同士で別のクラスも含めての交流会という青春イベントでホクホク。未だ評価基準は怪しいが須藤健も無しじゃないという情報をDクラス女子は手に入れてホクホク。一年Dクラスにとってはリソース1でアド3くらいの良イベントであった。

 

 その日の垂金少年の枕は湿っていたし、ちょっと臭かった。

 

 

 




次回「堀北、死す」
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