オラッ!催眠!催眠解除!催眠!(セルフ) 作:催眠お兄さん
「……──な」
「な?」
「何のことかサッパリなのだが? ふ、ふひゅ~……」
「いや誤魔化し方下手すぎだろ」
視線を右往左往と彷徨わせ、蚊の鳴くような声で爆弾発言を誤魔化そうとする銀髪少女のその余りの大根役者っぷりに、俺は思わずツッコんでしまった。口笛吹けてませんよ。
流石に自分でも苦しい言い分だと思ったのか、観念したように大きなため息を吐いた。
「ぬ、ぬぅ……まさか独り言を聞かれてしまうとは……」
ガックリと肩を落とし、今にもorzの体勢に移行して一人反省会でも開きそうな感じだ。
「まぁ安心しろって。誰にも言いふらすつもりはないから」
「ほ、本当だろうな……?」
「何なら誓約書でも書いてやろうか? ここ恩恵意思の管轄だし」
心相石ショップは恩恵意思を代表する四部門が一つ、”天空院”が担当しているだけあってか、よく恩恵の神に誓う形での約束事や契約の取り決めをする場になっているのだ。
そんな豆知識を冗談混じりに伝えたところ、少しして胡乱な目を向けるのを止めてくれた。
そうして何やら考え込んだ後、渋々ながら事情を打ち明けてもらうことに。
「……まぁ、今回ばかりは私の落ち度だ。話せることだけ話そう。くれぐれも秘密で頼むぞ?」
そんなわけで一旦この場を離れ、ほど近い場所にあったこじんまりとしたカフェに移動。
人通りの少ない裏路地に面している為に客の姿は見えず、寡黙なイケオジのマスターは詮索をしてこないタイプなので内緒話にピッタリな空間だった。ヘイ! コーヒーとチーズケーキを一丁!
「さて、何から説明するべきか──」
銀髪少女は窓の外に目を遣りつつ、一つ一つの出来事を思い返すかのように、彼女と彼女の仲間が今置かれた状況についてをぽつりぽつりと零し始めた。
かなり込み入ったことは承知の上だったのだが──ハッキリ言って胸糞悪いものだった。
所属ギルドの空白旅団とアッシュエリアを根城とするウィンドアッシュが対立するのは、アモールでも(悪い意味で)名の知れたカンパニーの”白亜商会”。
ノヴァ大陸最大の”恩恵意思”や食糧生産を担う”アグリ・ユニオン”と比べると格の落ちるカンパニーだが、それでも恩恵の印章を授けられた
前々からあそこは黒い噂が絶えず、『私利私欲に塗れたカンパニー』だの『反面教師』だのと散々な評価を受けていたのは知っていたが……まさかここまで落ちぶれているとは。
・紙切れ一枚を理由に、空白旅団の私財を強奪するばかりか莫大な債務を背負わせる。
・アッシュエリアの孤児たちを使い捨ての道具のように利用して神器を押収する。
・口約束のみで新たな規則を課し続け、罰金に次ぐ罰金で無賃労働を強いる。etc……
ざっと上げるだけでこの調子だ。
表には出ていないだけで、裏ではもっと質の悪い所業を行っていても想像に難くない。
「非道いなぁ、人の心とかないんか?」
「ぬぅ……全くもってその通りだ。私含め、みな
ははは、と一通り話し終えた彼女が力なく笑う。窓の外に目線を遣る表情を良く見れば、隠しきれない疲労が滲んでおり、相当追い詰められていただろう様子が見て取れた。
にしても、100億ドーラの借金を孤児院に吹っ掛けるなんて無理な真似をするものだな──
「──待った。アッシュエリアの孤児院だと……?」
「ぬ? 何か引っ掛かる事でもあったのか?」
不意に浮かんだ疑問を口に出すと、首を傾げられる。あざとい♡
……アッシュエリアには孤児が多く、それ相応の数の孤児院が運営されているのだが、その中の一つを女手一つで管理しているのが俺の知り合いなのだ。
当時まだ駆け出し巡遊者だった頃に世話になって以来、月イチで手紙のやり取りをしつつ、密かに匿名で寄付金を送り続けている──というのが俺と彼女の関係性だ。
ここ数年はアモールの星ノ塔に入り浸ってヒモ生活を送るか、ノヴァ大陸の各地を依頼で飛び回るかしていたため、彼女とは久しく会えていないのだが。
それでも毎月届く可愛らしい便箋によると、彼女も子供たちも元気にやっているようで一安心。
とは言え暇になったこともあり、久々に顔を見せに行くかー、なんてことを考えて返事の手紙を出し、明日にでも向かうつもりだったのだが……何だか凄く嫌な予感がした。杞憂であれ。
「一つ、いいか」
「ぬ?」
「件の孤児院の名前は? 一体どこが巻き込まれたんだ」
「あぁ、それは──」
そう彼女に尋ねる。空調が効いているはずの店内が、妙にじっとりと暑く感じられた。
「”ヒナギクの家”」
その言葉を聞いた途端、俺は思わず天を仰いだ。
アッシュエリアの孤児院でヒナギクの家だなんて一つしかない。まず間違いなく、俺の知り合いがやっている施設のことだ。どうしてこうも悪い予感だけは当たるのか。逆天気予報。
「……いや、元・ヒナギクの家だと言うべきかな」
「元、だって?」
その言葉が聞き捨てならず、身を乗り出して反射的に聞き返した。
「キミは知らなかったのか? フィキンが言うには、今から1年と10か月ほど前に院長と子供たちが一斉に姿を消したらしい。誰に行先を伝えるまでもなく、忽然と」
「は?」
「今のヒナギクの家は、もぬけの殻となった建物に孤児たちが身を寄せ合って生活している場所でな。私たちが来るまでの間はウィンドアッシュのメンバーが面倒を見ていたようだ」
「嘘だろ、んなわけが……」
絶句。もし仮にそれが真実だとしたら、俺はここ2年間住所も分からない相手と文通し、何処かに大量のドーラを振込み続けたということになるのだ。察しが悪いにもほどがある。ホラー?
しかし、だとすると色々なことに辻褄が合うような気がした。一方的な手紙の文言とか。
……
…………ふむ。
「ありがとう。そっちの事情は大体分かった。恩恵の印章を手にした理由までは分からなかったけど、カンパニーを復活させるのは白亜商会と”戦争”を起こすのが狙いなんだろう?」
「その通りさ。カンパニーが有する4つの権利のうち──戦争を起こす権利を行使して真っ向から白亜商会に宣戦布告する。そして必ず勝って、私たちの条件を呑ませるんだ」
カンパニー戦争。対立したカンパニー同士が徹底的に潰し合い、互いが互いに取り決めた条件を認めるまで続く熾烈な争い。戦争の間は誰もが法律の保護から外れ、殺人が合法化する。
その火蓋を切ろうとしている少女の瞳には、確固たる意志が宿っていた。不退転の覚悟だ。
「本気か? 敗北した瞬間、全てが奪われる。夢も、絆も、権利も、何もかも」
「……本当は迷っていたよ。だけど、キミと話をしているうちに改めて思ったんだ。小さな個人の力じゃどうしようもない不条理を跳ね除けるには、カンパニーを起こし対抗するしかないって」
「不条理、ね。ハハッ……!」
俺は再度天を仰いだ。但し、今回のそれは動揺を隠すためではなく、胸の内で燻る炎を自覚したからであった。
「良い台詞じゃんか。だったら俺も一枚嚙ませろよ、絶対に後悔はさせねぇ」
「……それは私たちの味方に付く、という意味なのか?」
「もちろん。自分で言うのもなんだが、俺は戦力として上澄み中の上澄みだぞ。さぁどうする?」
俺は未来の代表執行官に向けて手を差し出した。彼女は一呼吸置いてから、同じく手を差し出して強く握りしめた。ここに俺たちの協力関係は成立したのである。
「俺の名はヴァシリス・ヒュプノー。気軽にヴァスって呼んでくれ。そっちは?」
「私は魔王だ。ボス、と呼んでくれるとありがたい。……期待しているぞ、ヴァス」
贅沢な名前だね。お前は今日から魔王ちゃんだ!決定。あ、もしヒナギクの家の財産が差し押さえられてるなら、俺の寄付金も白亜商会から取り返さなければ。イケ!イケ!登り切れ!
★
およそ1時間後。野暮用を済ませた俺with魔王ちゃんは水道橋を通って裏口からアッシュエリアへと赴き、元・ヒナギクの家を目指していた。
あの後地理センを通して俺の寄付金を確認したのだが、一銭たりとも手が付けられることのないどころか、預かり状に『あなたのお金は受け取れません。でも、ヴァスが私たちを助けてくれようとしたその気持ちは嬉しかったわ。行き先を告げずに発つことを許してね。お姉ちゃんより』というメッセージカードが添えられていたのを発見した。
どうやら彼女には全てお見通しだったらしい。やっぱ俺節穴すぎんだろ……。
「──それより良かったのか? こんなに多くのお菓子を買っていっても」
自分の不甲斐なさに泣けてきた時、隣を歩く魔王ちゃんからそう聞かれた。
彼女の手には、菓子折りの詰まった袋が握られている。
「大丈夫大丈夫、大した出費じゃなかったし。それくらいあれば、孤児院の子どもたちの分は足りるだろ?」
「ま、まぁ……。私も正確な人数を数えたわけではないが、一人に一袋配ったとしても余るな」
「よしよし。余ったやつは後で分配すりゃいい」
俺も両手に吊り下げてる袋の中身は、ヒナギクの家に住まう子どもたちへのプレゼントだ。
子どもならお菓子の詰め合わせセットで喜ぶはず、という安直な考えの下で、突然訪ねてきた怪しいお兄さんから、お菓子をくれた優しいお兄さんにジョブチェンジするために渡す予定。
「……もしかして魔王ちゃんも欲しいのか?」
「ち、違うぞ! 違うからな!?」
何で二回言ったんだ、選挙か? 魔が差してからかってみたところ、わたわたしだす魔王ちゃんの姿にクスリと笑う。
「こほん。私が言いたいのは、協力関係を結んだからといってそこまでやる必要はないということだ。キミは戦力として当てにしているのであって、それ以上のことは求めてないぞ?」
「あー、そういう事。これは俺がやりたいからやってるだけだから、気にすんな」
事実である。子供たちからすりゃ緊迫した状況の中で、見知らぬヤツが押しかけてきたようなものであり、そこで要らぬ心配をさせたくないのだ。
そう答えると、それっきり魔王ちゃんは深堀りしてこなかった。頭脳明晰でタイプだよ。
アッシュエリアの乾いた風に吹かされ、魔王ちゃんと雑談しながら歩いていると、いつの間にかヒナギクの家の前まで辿り着いた。
建物自体はあの頃のままだが、周りには廃材のバリケードや筐体が設置されている。
「キミはここで待っていてくれ。仲間を呼んでくる」
「ん、行ってら」
扉の向こうに消えていく魔王ちゃんの後ろ姿を見送り、俺は暫しの間待つことに。暇だ。
「……んん? アイツなにモンだ、怪しくねぇか?……」
「……確かに~。ちょっと声かけてみようよ~……」
記憶よりも寂れた風景をボーっと眺めていると、荒々しい足音が聞こえた。足音の主はズカズカと大股で進み、俺の真後ろで止まった。
「おうおう兄ちゃん、ちょっとイイか? ここはワタシたちウインドアッシュの城だ。こんなところで立ってるなんて、オマエはなにモンじゃん?」
「正直に言ってくださいね~? さもないと催涙スプレーをお見舞いしますよ~?」
うわ、ガラ悪っ。俺に声を掛けてきたのは姉妹らしき二人組の不良少女だった。
背の低い方がグラサンの隙間からガンを飛ばし、背の高い方がスプレー缶をチラつかせる。
「俺は
隠しても致し方なし。正直に打ち明ければ、二人はたちまち朗らかな笑顔を浮かべた。
「……んだよ、あいつの知り合いだったのか! 一方的に疑って悪かったじゃん。ワタシはウィンドアッシュの鉄砲ダマ、フォルモント! よろしくじゃん?」
「あ、ワタシは妹のネールモントだよ~。よろしくね~」
「ヴァシリスだ。巡遊者をやっている。こちらこそ仲良くしてくれ」
快活に笑い、バシバシと俺の背中を叩いてくる赤毛のほうが姉のフォルモントで、どこか掴みどころのない性格に見える芍薬色の髪のほうが妹のネールモントらしい。
危うく間違えるところだった……姉は小さく、妹は大きい。乳の話だ。
「おーい、ヴァス! 仲間たちを呼んできたぞ!」
と、魔王ちゃんの声がした。彼女を先頭にゾロゾロと出てくる。四人全員、女の子だった。
「キミがヴァス? 私はセイナ、空白旅団の切り込み役だよ。ボスが直々にスカウトしたって聞いて気になったんだけど……とっても強そうだね♪ よろしく!」
一人目。うわっ、中々のデカさだ……。
艶やかな金髪をたなびかせ、腰に剣を携えた少女からはコミュ力お化けの気配がした。
「……コハク。よろしく……」
二人目。ムムッ……口数少な目だが、隠れ巨乳の予感。
黒猫のような雰囲気を纏う彼女の服装から見るに、遊撃役だろうか。
「ええと、私の名前はアヤメです。ボスの推薦を受けた、実力派の巡遊者だと聞き及んでます。よろしくお願いしますね」
三人目……は普通だな。几帳面そうだし、彼女が空白旅団のリーダーだろう。苦労人ポジ?
そして、最後。青髪をポニーテールにし、学ランを羽織っている。手には金属バット。
「あたしがウィンドアッシュのトップ、ミネルバだ。魔王の信任を受けてるってんで一応仲間には迎え入れてやるが……妙なことはするなよ? ドタマかち割ってやるからな」
女番長かぁ。度胸とカリスマに溢れてるんだろうな、多分。
「改めて、俺はヴァシリス。ヴァシリス・ヒュプノー。いつでも実力を発揮してやるさ」
──こうして、俺たちは顔合わせを済ませ、打倒白亜商会を掲げて一致団結することになったのだ。ま、心配はいらないだろう。カンパニーの一つや二つ、片手間に潰せる自信がある。
「……あ、この菓子袋は子どもたちにでも配ってやってくれ。お近づきの印だ」
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主人公の名前の由来→ Vasilis=王・高貴な + Hypnos=眠り・睡眠