Beyond the Axis   作:Hisa/Coco

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初投稿です。

本作は、宇宙世紀U.C.0114を舞台にした二次創作です。
『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』『ベルトーチカ・チルドレン』『機動戦士ガンダムUC』『閃光のハサウェイ』の流れを踏まえつつ、独自設定・独自解釈を含みます。

原作欄は、ハーメルンの分類に合わせて「ガンダム」としています。

外伝作品を含むすべての設定と完全に整合させるものではありません。
一部人物関係・時系列・組織設定には、本作独自の解釈を含みます。

MS戦や戦争そのものよりも、戦争後に残された腐敗、停滞、記録、証言、制度、対話、支援を中心に描いていく予定です。

静かな社会SF・政治劇寄りの作品になりますが、よろしくお願いします。


第0話 PROLOGUE

U.C.0105。

 

マフティー動乱は、地球連邦政府に深い傷を残した。

 

腐敗した特権階級。

地球居住権をめぐる格差。

宇宙移民への冷淡な政策。

難民問題。

そして、正義の名を掲げた暴力。

 

それらは一度、世界の表面に噴き上がった。

 

地球連邦政府は、その失態を認めざるを得なかった。

少なくとも、表向きには。

 

マフティー・ナビーユ・エリンの名は、暴力と理想の両方を背負ったまま、地球圏の記憶に刻まれた。

 

その行動は多くの命を奪った。

同時に、連邦政府が長く覆い隠してきた腐敗と不公平を、白日の下に晒した。

 

誰が正しかったのか。

何が間違っていたのか。

 

その問いに、連邦は正面から答えなかった。

 

だが、何も変えないわけにもいかなかった。

 

一年戦争から始まった長い戦乱は、形を変えながら地球圏を傷つけ続けた。

 

ジオン残党との衝突。

ティターンズの暴走。

二度のネオ・ジオン抗争。

そして、マフティー動乱。

 

戦争が終わったと言われるたびに、新しい火種が生まれた。

 

そのたびに都市は修復され、コロニーは補強され、政府は再発防止を掲げた。

けれど、戦争の後始末はいつも後回しにされた。

 

老朽化したコロニー。

行き場を失った難民。

地球居住権を持たない者たち。

形だけの復興計画。

数字の上では存在している支援。

報告書の中では解決済みになった苦しみ。

 

そうしたものは、地球圏のあちこちに沈殿していった。

 

連邦政府は、改革を掲げた。

 

行政の透明化。

腐敗防止。

予算執行の監査。

地球圏全体の再安定化。

 

【地球連邦政府監査局 設立趣意書より抜粋】

本局は、行政手続きの透明性を確保し、復興支援および難民対策に関する予算執行を監査することで、地球圏社会の安定に寄与する。

 

記録の中の言葉は、明快だった。

 

美しい言葉が並べられた。

 

その象徴として、ひとつの組織が設立された。

 

地球連邦政府監査局。

Federal Audit Bureau――通称、FAB。

 

FABは、連邦政府内部の不正を監査し、復興支援や難民対策の実態を調べるための組織とされた。

 

武器ではなく、書類で。

戦争ではなく、制度で。

粛清ではなく、監査で。

 

世界を変える。

 

そう語られた。

 

設立当初、FABには確かに理想があった。

 

二度と腐敗を放置しない。

二度と特権階級だけを守らない。

二度と見捨てられた人々の怒りを、戦争という形で噴き上がらせない。

 

それは、戦争の時代を越えるための、新しい正しさであるはずだった。

 

だが、組織は組織である。

 

理想は、予算の中で管理される。

正義は、手続きの中で薄められる。

透明性は、必要な範囲に限定される。

公正は、社会の安定を乱さない範囲で許される。

 

時間が経つにつれ、FABもまた連邦政府の一部となっていった。

 

不正を暴くための組織でありながら、暴きすぎれば社会不安を招く。

支援の実態を調べるための組織でありながら、守れなかった人々の存在を認めることは政治的な危険となる。

 

公正を掲げるほどに、FABは連邦の安定と衝突していった。

 

だから、多くの案件が整理された。

 

再分類。

保留。

凍結。

記録上の完了。

公開範囲の制限。

関係機関との調整中。

 

それらは、どれも必要な言葉だった。

業務を進めるための言葉。

混乱を避けるための言葉。

責任の所在を明確にするための言葉。

 

そして時に、責任の所在を見えなくするための言葉でもあった。

 

そうした言葉の下で、いくつもの問題が書類の奥へ沈んでいった。

 

誰かの住む場所が、区画番号になった。

誰かの飢えが、支援対象件数になった。

誰かの沈黙が、応答記録なしになった。

誰かの不在が、処理済みになった。

 

書類は整っていた。

記録は残っていた。

手続きは、正しく進んでいた。

 

ただ、その正しさの中で、少しずつ見えなくなるものがあった。

 

それでも、FABが完全に腐っていたわけではない。

 

中には、まだ信じている者もいた。

 

手続きの中に、わずかな正義を残そうとする者。

書類の向こうにいる人間を見ようとする者。

諦めたふりをしながら、それでも見捨てきれない者。

 

そして、まだ何も知らない若者たちもいた。

 

彼らは、戦争を知らないわけではない。

だが、戦争の中心にいたわけでもない。

 

英雄の物語を記録で知り、

敗者の名前を資料で知り、

犠牲者の数を統計で知った世代。

 

彼らの前にあったのは、戦場ではなかった。

 

端末に表示される案件番号。

整えられた報告書。

承認済みの印。

空白のまま残された欄。

 

そして、ときに何事もなかったように消える記録だった。

 

U.C.0114。

 

マフティー動乱から九年。

 

地球圏は、安定を取り戻したことになっていた。

 

少なくとも、朝のニュースはそう言っていた。

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

第0話は、本作の時代背景と、地球連邦政府監査局〈FAB〉が設立された経緯を描く導入回です。

次話からは、新人監査官補ハル・イルマを中心に、物語が本格的に動き始めます。
派手な戦闘ではなく、書類や記録の中に残された違和感を追っていく形になります。

引き続き読んでいただけたら嬉しいです。
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