田舎村の魔導塾   作:鵲一号

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013:始祖の授業

余談だが、この世界には基本的に、神や信仰というものは存在しない。

国や地域によっては、強大な力や権威を持つ存在がおり、それらを信仰する者達も居るが、一般的ではない。

基本的には言語や通貨と同じくらいに、常識として広まっている。

では世界の人類達は何を奉じ、何を祀っているのか────。

 

「はい、じゃあ、今日は、“はじまりの五人”について勉強しよう」

「あ、それくらいならあたしも知ってる」

「童話にもなっているものね。流石のアンナでも知っていて安心したわ」

「それどーいう意味かな!?」

 

仲睦まじく揉める二人を“授業中だぞ”と宥めすかし、ミナカミは逸話を明朗に諳んじ始める。

 

 

魔導研究局──正式名称を“魔導師が寄り合い研究及び探求し魔導文明を発展させるための局調組織”。

組織の成り立ち、その始まりはたった五名の魔導師によるほんの小さな集まりだった。

魔導がこの世界に根付き始めたばかりの頃。約三千年前まで遡る。

魔導文明歴以前の話だ。

 

“彼ら”は凄腕の魔導師だった。

 

五名全員が魔導を自在に操り、詠唱も魔法陣も使わず魔導を行使できたと言われる。

当時の文献があまり残っていないため、これは多少誇張が入っているが。

ともかく、凄腕の彼らは“この技術を世界のために役立てるべきだ”という使命に駆られた。

まずは手始めに彼らの出身国に仕官した。

その時の言葉はこうだ。

 

『我々の力を、どうか魔導文明の発展にお役立てください』

 

この、世界への献身の精神は、今なお見習うべき言葉だと、各地の魔導研究局支部に飾られている。

半信半疑で彼らの仕官を受け入れ、魔導研究室を立ち上げたその国は、みるみるうちに文明が発展していった。

上下水道が完璧に整備され、街には街灯が立ち並び、冷蔵庫・魔導竈・電話機などの生活必需品も、この国で生まれたとされている。

それらを成し遂げるのに一生を費やしたと誰もが思うだろうが、この文明の発展に掛けた期間は、たったの二年。

その間に彼ら五名の中から多くの弟子が排出され、彼らもまた有能な魔導師として文明の発展に尽力した。

それらの事実に国の王は驚愕し、大喜び。

彼らに重役を与え、さらなる栄誉と報奨を約束しようと告げた。

しかし彼らはこれに否と答える。

 

『この国の文明は、我々に出来る範囲で十分に発展しました』

『急に仕官を願いだして誠に勝手で申し訳ございませんが』

『我々はお暇をいただきます』

『次は、別の国へと赴きます』

『世界の、文明の発展のために』

 

そういって彼らは辞表を王に叩きつけ、その日のうちに出国した。

どうしても彼らを失いたくなかった王は、焦りに焦って軍まで出撃させ、捕らえてくるよう命じたが、その全てが無傷で、気がついたら国元に戻されていたという。

王は彼らは自分が見た都合のいい幻覚ではなかったのかと錯覚したが、街に灯る煌々とした文明の明かりと、民の笑顔が彼らの実在を物語っていた。

そうして国々を周り、魔導文明の発展、そして弟子の育成に尽力した彼らは、天寿を全うする前に、当時存在したすべての国の文明の発展をし終えてしまった。

 

『我々の仕事はこれで終わりか』

 

「一人が呟いた」

 

『否、まだ出来ることはある』

 

「一人が否定した」

 

『我々自身による、魔導の研究と探求だ』

 

「全員の声が唱和した」

 

そうして彼らは、“魔導師が寄り合い研究及び探求し魔導文明を発展させるための局調組織”を立ち上げた。

どこの国の領地にも属さない平野に建てられた大きな屋敷。

そこで彼ら五名は毎日研究に明け暮れ、もっとよい魔導具はできないか。もっとよい魔導の質の高め方はないか。ただそれだけを探求し続けた。

次第に、彼らの弟子の弟子……つまり孫弟子が、その屋敷の噂を聞きつけ、門戸を叩く。

 

『我々も魔導の研究に尽力させてください』

 

彼ら五名は大喜びで孫弟子達を受け入れた。

数年後、終いには、魔導は使えないが魔導を使えるようになりたい、という者も訪れ、弟子入りを志願するようになる。

しかしそこまで始まりの五名に手を焼かせるわけにも行かない。

そう考えた孫弟子達は、自分たちが各国に散って、この組織の支部を立ち上げることを提案する。

孫弟子の師匠、つまり五名の弟子は宮仕えだ。

宮仕えでない自分たちが、一般人でも魔導を使えるように教授し、さらなる発展へと努めます、と。

その提案を彼らは快く受け入れる。

また、五名に戻っての研究が始まった。

彼らは、文字通り死ぬまで、たった五名で、魔導を研究・探求し続けた。

彼らが死ぬまでにかかった何十年もの時の中で、孫弟子たちが立ち上げた支部には人が集まり、魔導師は増え、魔導で仕事をする者が出始める。

既に世界は、始まりの五名が居なくても、文明の発展と研究結果を流通させることに成功し、見事に巣立っていった。

そして、彼らの死後から数年のち。

そういえばあの方々は壮健だろうか、と、すっかり老いた孫弟子の一人が、ふらりと屋敷に訪れた。

彼を迎え入れたのは五つの白骨死体だった。

そのどれもが椅子に座り、机へと向かい、ペンを握りしめていた。

孫弟子はその場で泣き崩れ、彼らへの畏怖と尊敬をひたすら口にし続けたと言われている。

そして、彼らの残した研究資料は大事に保管され、複写され、流通。

世界の魔導文明はさらなる発展へと繋がった。

そして、始まりの五名を称えるため、魔導師たちが屋敷を中心に家を建て、彼らを想いながら暮らし始めた。

やがてそれは村になり、街になり、国へと至った。

それこそが、魔導国家マナディエール。

彼らの屋敷はそのまま、魔導研究局の本部として扱われる。

魔導国家マナディエールに建つ魔導研究局の本部は、元々は始まりの五名の、終の棲家だったのだ。

屋敷は魔導で建てたと伝説に残っているが、二千年以上も修繕ひとつせず建ち続けるとは、流石、としか言いようがない。

 

以上が魔導研究局の成り立ちである。

 

 

「────とまぁ、これが“はじまりの五人”の伝説だな」

「あたしが聞いたのより長ーい!!」

「そりゃあ、童話はもっと短く纏めるでしょうよ」

「半分くらいしか頭に入ってこなかった」

「……まあ、童話の方でも知っておけばいいから」

「なんだそうか」

「貴女ねえ」

 

帝国という一つの国の、辺境に建つ、小さな魔導塾。

そこにも確かに、“はじまりの五人”の息吹が根付いている。

村に一陣の、優しい風が、吹いたような気がした。

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