田舎村の魔導塾   作:鵲一号

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015:生徒の誕生日

今日の授業は何じゃろな。

座学はラクなものだといいな。

実技ばっかりだといいな。

そんなことはないんだけどな。

なんてことをルチルちゃんと話しながら先生を待っていたら、ようやくやってきた先生は手ぶらだった。

あれ、なんでいつもは教本とか持ってるのに何も持ってないんだろ。

 

「はい、今日の授業はお休みです」

「あら」

「え?」

 

んん?

今日休みだっけ?

祝日でも土日でもないんだけどな……。

それにルチルちゃんも出席してるし……。

今日なんかあったっけ?

特にお祭りとかは無かった気がするけど?

あたしが知らないだけで帝国の祝日とかあったのかな?

村じゃなくて帝都に合わせたとか?

 

「なんだ、アンナ。お前もしかして、忘れてるのか」

「え、何を?」

 

なんか忘れてるらしい。

あたしが忘れてるの?

ほんとになんかあったっけ……?

授業が休みになるような事ってなんだっけ……?

 

「何をって……。誕生日だよ、今日。お前の」

「あらまぁ」

「なんと、それはおめでとう、アンナ殿」

「え?」

 

え?

…………そうだった!?

そうだったっけ!?

ちょちょ、ちょっと待って?

 

「え、今日何巡の何曜日だったっけ!!」

「第三巡の第四月曜よ」

「あたしの誕生日じゃーん!!」

 

あっれー?

なんで忘れるかなー、あたし。

普段カレンダー見ないし、完全に忘れてた。

 

「教室のカレンダーくらい見なさい」

「はい」

 

授業の日程とか、書いてくれてるのにね、先生。

なんで見ないんだろね、あたし。

いやーはは、普段のサボり癖がでていますな。

笑い事じゃないか。

 

「まさかと思うけどアンナ、一年の周期まで……」

「え? えぇー……っとぉ…………」

「マジかお前」

「アンナ殿……?」

「一般常識よ……?」

 

いや。

いやいやいやいやいやいや。

一年の周期まで忘れるわけ無いじゃないの。

そう、忘れるわけ……。

忘れる、わけ……。

………………。

…………えーっとぉ……。

 

「ちょ、違うんだよ! ちょっとど忘れしただけで、覚えてるんだよ! この辺まで出掛かってるんだよ!!」

「どの辺だ」

「ノドのこの辺り!」

「脳から口を通過してるじゃないか。お前の記憶中枢はどこにあるんだ」

「……はっ!?」

 

なんか胸の方にあると思ってた!

脳だった!

ってそんな事はどうでもいいのさ!

思い出せ思い出せあたし!

一般常識だよ!!

 

「……はい、先生」

「はい、ルチル君」

 

あぁーっ!

先に言われたぁーっ!!

 

「巡は第一巡から第十二巡まで。一巡は第一月曜・火曜・水曜・木曜・金曜・土曜・日曜を第四まで数える。よって、一年は七×四×十二=三百三十六日よ」

「はい。とても良く出来ました。わかったかな? アンナ」

「だからど忘れしていただけだったんだって~~!! あと掛け算まだやってないし~~!!」

 

未だに足し算もおぼつかないあたしに、いきなり長い掛け算とか持ってこないで欲しい。

頭がパーになったら責任取ってくれるのかな。

どうやって責任取るのか知らないけど。

 

「で。アンナの誕生日は今日。第三巡の第四月曜だと」

「そう。なんで忘れるかなぁ」

「うううう、あッ、じゃあルチルちゃんは自分の誕生日覚えてる!?」

「第十二巡第四日曜」

「覚えてるーッ!!」

「普通覚えてるだろう……」

 

ちくしょうちくしょう。

そこは忘れていてくれよう。

誰か他に忘れている人いないのかよう。

エルフリーデ……なんとかさんはきっかり覚えていそうだし……。

他にっていうと……。

あっ。

 

「あ! じゃあ先生は!? 先生誕生日いつ!?」

「アンナ殿そんな、藁にも縋るような……」

「忘れた」

「忘れてる人ここにも居た!?」

「しかも堂々としている!?」

 

なんだよ、先生も忘れてるんじゃん。

やったー。

先生も味方だとは心強いね。

ていうか、先生も人のこと言えた義理じゃないじゃん。

やーい、誕生日忘れー。

 

「アンナの場合“知っているけど忘れていた”、私の場合“もう昔すぎて覚えていない”だ。似ているようで、ちょっと違うぞ」

「……えぇ?」

「……先生、あなた、今いくつ?」

「忘れた」

 

忘れたってそういう意味?

そりゃ、ちょっとあたしとは事情が違うよ。

自分で言うのも何だけど、あたしと一緒くたにしていいもんじゃないよ。

いや本当に自分で言うのも何だけど。

 

「…………貴殿、本当に何者だ……?」

「だから一介の魔導師ですって。村赴任の」

「嘘よ、絶対」

「ですよね、殿下」

「さぁそんなことより今日はアンナの誕生日なんだ、盛大にやろうぜ」

 

あッ、話を無理矢理そらした。

先生って無理矢理話をそらすこと多いよね。

そんなに話したくないことだらけなんだろうか。

まぁいいや。

祝われるのは嬉しいので、それに乗ってしまうのだった。

乗れるもんには乗っとけって先生も言ってたしね。

言ってたっけ?

言ってた気がする。

 

「あら、誕生祝いをするの?」

「あぁ。……そういえば、ルチル君の誕生日は祝っていなかったな。聞いていなかったというのもあるけど」

「まぁ、教えていなかったものね。でもいいわ。あまり祝われると、気持ちがここに根付いてしまいそうだから。あくまでワタシの帰る場所は帝都なのよ」

「…………、ふむ……」

 

あッ、これ次ルチルちゃんの誕生日来たら祝おうとしてるな。

実に良いと思う。

サプライズで盛大にやってやろうじゃないの。

第十二巡第四日曜って言ってたから、冬祭りだ。

いいじゃない、いいじゃない。

そういうの楽しいので、それに乗ってしまうのだった。

 

 

「はい、というわけでね、私が焼いたケーキがこちらの出来上がりの品になりますよ、と」

「あら、素敵」

「ほう。見事なものだな」

「ワーイやったー!!」

 

これを待ってたんですよ、これを。

先生が作るケーキ美味しいんだよね。

収穫祭の時とかにひっそり出てくるんだけど、それがまたいいんだ。

子供の頃から好きだったんだよなぁ。

そういえば子供の頃はまだ先生って呼んでなかったっけ。

魔導師さんって呼んでたなぁ。

 

「クリームは使わないのね?」

「ここでのケーキはパウンドケーキが主流だよ」

「なるほど」

「代わりにバターはふんだんに使うけどね」

「…………美味しそうね」

「ルチル君も食べて良いんだよ」

「え? 誕生日の主賓が独り占めするんじゃないの?」

「……違うよ?」

「あら……?」

 

なにか身分の差を感じた気がする!

もしかしなくても。ルチルちゃんは誕生日ケーキを毎年独り占めしていたんだろうか!

していたのかもしれない!

 

「そこんとこ、どうなの!」

「……も、黙秘するわ」

「してたこれ!!」

 

ずるいなぁー!

実にずるい!

どうせ宮廷のとてもとても豪華なケーキを一人で……一人で……!?

そんな事って許されて良いのか。

いや、良くない。

必ずや鉄槌を下さねばならぬ。

……どうやって?

 

「おい、こらアンナ、顔が怖いぞ」

「はっ」

 

そうだった。

今は嫉妬の炎をめらめらと燃やしている場合ではないのである。

あたしの誕生日なのだった。

もっとこう、陽気な感情でいかないといけない。

誕生日ってそういうものなのだから。

 

「はい誕生日おめでとう」

「おめでとう、アンナ」

「二度目になるがおめでとう、アンナ殿」

「ありがとー! ありがとー!!」

 

本日の主役!

いい気分ですな。

声援に応えながらもケーキを切り分けて、フォークで一突き。

一口ぱくり。

ううん、美味しい。

ずっしりとした濃厚な甘み、しっとりする口触り、ほのかな苦味。

これですよ、これ。

こんな甘いもの、誕生日くらいしか食べられないからねえ。

正直言うといつだって食べたって良いと思うんだけど。

先生やお父さんお母さん曰く“こういうのは特別な日だけだからいいもの”らしいからねえ。

そういうものなのかな?

そういうものなんだろう。

それはともかく。

 

「ほら二人とも、食べて食べて」

「そう言うなら遠慮なく。……あら、美味しい」

「む、本当だ。美味い」

「でしょー?」

 

そうでしょうそうでしょう。

先生のケーキはうまいのだ。

理屈は良く分からないけど、うまいのだ。

 

「僅かにブランデーを入れてあるのね」

「おや、酒の味を知っているとは。大人だね」

「そ、そうかしら」

「この香り……。バニラ香料まで使用しているな。大した嗜好品ではないか」

「あら、正解です。帝都で見つけたものでしてね」

「……あれ?」

 

なんか理屈分かってるっぽい……?

使われてる材料とか当ててるっぽい……?

あたしよりこのケーキのうまさ知ってるっぽい……?

な、なんか猛烈に悔しいんですけど。

 

「ナッツや果実類を入れればもっと美味しくなると思うわ」

「あんまりやりすぎるとアンナのご両親に怒られてしまうからね」

「まあ、それもそうか」

 

改良案まで出してるっぽい?

く、くそう、これが育ちの差だっていうのかよう。

これが味覚の差だっていうのかよう。

ああそうじゃ、こちとら貧乏舌じゃ。

それのなにがいけないんじゃ。

くそう。

 

「うう、ちくしょう」

「ア、アンナ殿? 何故泣きながらケーキを頬張っておられる?」

「なんで誕生日なのに悔し泣きしてるのよ貴女……」

 

誕生日なのになにか明確な“差”を見せつけられたから悔し泣きしとるんじゃ。

ううう、悔しいのう、悔しいのう。

ギリギリギリ……。

あぁ、でもケーキ美味しい。

今はそのことで頭がいっぱいになってしまった。

 

「ま、おいしーからいいや」

「たまにわけわかんなくなるよなお前」

 

先生が呆れた顔でこっちを見ている。

なにさ、なんか変なことしたかよ。

変なことした覚えはないよ、あたしは。

ただ誕生日ケーキを食べてるだけじゃないか。

威嚇してやる。

 

「ぐるるるるる」

「はいはい、どうどう」

「あたしゃ馬か」

「先に威嚇してきたのはお前じゃないか」

 

何故先生に諌められなければならないのか。

ていうかなんであたしは威嚇してんだ?

自分でもわけわかんなくなってきたぞ?

 

「ぷふっ……、なにやってるのよ、貴女」

「くっ……失礼」

「あれぇー?」

 

なんか笑われてるんですけど?

笑わせるのは割と好きだけど、笑われるのは好きじゃないぞ?

いやでも……笑われる原因があったのかも?

どこに?

わかんなくなってきた。

まぁいいや。

ケーキおいしー。

 

「わーいケーキうまーい」

「あはははは、何言ってんの貴女!」

「で、殿下、あまり大口を開けてお笑いになられるのは無作法で……」

「あっははははははは!!」

「駄目だ、ツボに入ってますなこりゃ」

「殿下……」

 

笑い声の絶えない誕生日ってのもいいじゃないの。

なんだかあたしも楽しくなってきた。

笑えるときには笑っとこう。

こういう日がずっと続けば良いなぁ。

そう思いました。

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