どうして……どうしてこうなったんだろう。
そんな思いで、今、いっぱいです。
何故今あたしは、帝都の宮廷にある、謁見の間で、カチンコチンに緊張したまま棒立ちしているんでしょう。
しかも、護身用だって言われて渡された、長い杖を携えて。
あたしの隣には正装に着替え直したルチルちゃん(アウレリアちゃん……様? って呼んだほうが良いのかな……)に、鎧姿のエルフリーデ……なんとかさん。
それに不審者ルックの先生。
謁見の間の中心に、どっかく立ってるスッゲーデッケー椅子には皇帝陛下が、その脇には剣と盾を杖のように突いている……側近さん? 護衛さん? 大臣さん……? なのかな? がいらっしゃられる。
場違いすぎる……、場違いすぎるんですよ、あたしは……!
確かに皇帝陛下に、村に何が起こったのか説明するときに、あたしも少しなにか口出ししたような記憶はある(緊張で良く覚えてない)けど、そのために来たのならもう帰って良いんじゃないかな?
なんのためにここに居るのかな?
本気で分からない。
本気で分からないので、もう思い切って先生に“帰って良い?”と聞こうとした矢先のことであった。
「ダミアン公爵がお越しになられました!」
衛兵さんが無情にも話を先に進めてしまった。
駄目だ、もう逃げられない。
どうしよう、どうすればいいのかな。
お腹へった、パン食べたい。
そんな事を考えていると、太っちょのおじさんがずかずかと入ってきた。
どうなるんだろう……。
「お呼びで、陛下」
「ダミアン・アウグスティーン・フォン・バルシュミーデ。此度の招集、何用か理解しておられるか」
「はて……。私めは、皇帝陛下の元へ迎えと、命じられただけですのでなぁ」
「あくまで白を切るか」
「白を切る、とは?」
側近さん(と思うことにした)が、厳しく太っちょおじさん、ダミアンさんに鋭い言葉を投げかける。
たぶん、あのおじさん悪いことしたんだろうな。
あたしがイタズラしてお母さんに叱られるときと似たような声音だもんな。
あと、おじさんの方も、あたしが誤魔化そうとする時と似たような口調だもんな。
「得意の腹芸もそこまでだ、ダミアン・アウグスティーン・フォン・バルシュミーデ。証拠はアウレリア殿下より上がっておる」
「! これはこれは殿下……。いつ、お帰りに?」
「許可なく殿下へと声を掛けるな」
「これは申し訳ない……」
やっぱ、叱られてるよこれ。
だって完全に怒ってるもん、側近さん。
やだなぁ、人が叱られる場面に立ち会うの。
居心地が悪いったらありゃしないよ。
「誰からの許可もなく、疎開なさった殿下へと密偵を差し向けたこと、その密偵が刃を翻したこと、貴公の私兵名義の中隊が、アゼ村へ襲撃を掛けたこと。全て、証拠は上がっておる」
「証拠? 物的証拠はあるのですかな?」
「貴公、殿下のお言葉に信憑性がないと口にするか」
「まさか、滅相もない。ただ、確たる証拠もないまま疑われては、まるでこの私めが、理不尽に立場を追われるような形になるのではと、危惧したまでのこと」
「減らず口を……」
あぁ、もう、ほら。
大人しく認めないからどんどん怒られてるじゃん。
どうして素直にごめんなさいが言えないのかなぁ。
大人になるってこういう事なのかなぁ。
だとしたら、ヤだなぁ。
「よい、バルトルト大臣よ」
「陛下?」
「物的証拠が無ければ、疑われる道理はない。成る程、ダミアン公爵の言は一理ある」
「な、しかし、陛下……」
「さすが陛下、お分かりになられていらっしゃられる」
「で、あれば、だ」
皇帝陛下がこっちを向いた。
えっ、まさかあたしじゃないよね。
思わず背筋が伸びる。
「ミナカミよ」
「は」
「……? 何者か、宮廷魔導師か? 下がれ、無礼者。今は陛下とのお話し合いの最中であるぞ」
「ダミアン、その者は余が喚んだ。下がるのは貴公の方だ」
「…………これはこれは、ご無礼を」
え? 先生?
なに? 先生もなんかやらかしたの?
連帯責任でこっちまで怒られたくないよ?
「公爵は、物的証拠、と言った。ミナカミよ、あると思うか?」
「御座いますでしょう」
「ふむ、証明できるか?」
「出来ますでしょう」
「…………?」
なんだろう、まるで最初からセリフを決めてたお芝居をしてるように聞こえる。
先生は仰々しい態度で、懐から小さな鏡を取り出した。
「これは、魔導で私が赴任している、村の倉庫に繋げた“鏡”で御座います」
「ふむ、その“鏡”とはなんだ?」
「現場の状況を、逐一、ありのままに映す魔導具にて御座います」
「つまり、だ。お主は、お主の村の倉庫に、確たる物的証拠があるというのだな?」
「左様に御座います」
う、うーん、やっぱりお芝居にしか聞こえない。
それにしても、先生も皇帝陛下も演技派だなぁ。すごい。
「その“鏡”、今写せるか」
「はい、どうぞご覧ください」
そう言って先生が鏡を宙に放ると、空中でぴたりと静止して、大きく光景を映し出した。
あ、これ、村のみんなが共有で使ってる大型倉庫だ。
縄で縛られた大量の兵隊さんが、忌々しそうな顔で座っているのが見える。
それを、たまに村を巡回してるでっかい
「な、これはっ……!」
「ダミアンよ。これらの兵、見覚えがない、とは言わせぬぞ」
「は、いや、しかし…………!」
「私兵には、その家紋を鎧に入れる習わし。かの兵らの鎧には、何が刻まれておる?」
「こっ、これは……これは、その……ですな…………!」
あーあ。
もう認めちゃえばいいのに。
皇帝陛下にまで怒られて、誤魔化すのは無理だって。
早く謝ったほうがラクになるよ、ほんと。
「これは────これは魔導による
「この兵らは虚像だと申すか?」
「そうですとも!」
「では、今から早馬を飛ばし、アゼ村の倉庫を確認させてくるか? 事実確認は数日掛かろうが、物的証拠は抑えられるぞ」
「────……!」
「よもや、その間に逃げ出しは、すまいな?」
「ぐ、ぐぐっ…………!」
見てるこっちが辛くなってきた。
そこまでにしてあげて、って言おうかな。
と、あたしが思った矢先のことだった。
「し、仕方ありますまい…………、そこまで証拠が揃っていては…………」
あ、やっと諦めた。
ごめんなさいしようね。
罪を認めたので、先生は鏡を回収していそいそと仕舞っていた。
わざわざ大変だね、先生も。
「罪を認めるのだな? ダミアン」
「えぇ、えぇ、認めましょう、認めましょうとも。
「では……」
「えぇ、そうですとも。私は私兵を送りました。そこな下賤な魔導師が、殿下の命を狙っていると知りましたのでね。賊徒を討伐するために、私兵をわざわざ……」
「…………」
……はい?
何いってんの、このおじさん?
「そう、私はアウレリア殿下をお守りするための行動を起こしていたのですよ。密偵を送ったのも、護衛のため。私兵を送ったのも、誅伐のため。全てはアウレリア殿下の御為に」
「…………そうか、ダミアンよ。全てはそこな魔導師が悪だと、そういうのだな?」
「えぇえ。もちろん信じてくださいますな、陛下?」
あーあ、駄目だこりゃ。
嘘に嘘を重ねてドツボにはまるパターンです。
あたしもよくやった。
皿を割ったのは野良猫なんだよ! とかね。
「ダミアン」
「はっ」
「そこな魔導師はな、余の旧友だ」
「…………………………。…………はい?」
でもね、それやると、すんっげー怒られるんだよ。
普通に誤魔化すよりも、何倍も。
「余が直筆で出した親書により、アウレリアは、アゼ村はミナカミの元へと、疎開したのだ。余が信を置く者の元へな」
「────あ、は、はい……?」
「よもやその親書まで、物的証拠がない、とは言うまいな」
「い、いま、その、ご、ご親書、は、この場、に……」
「余が、直筆で、
「────────────……」
うわ、皇帝陛下めっちゃ怒ってるじゃん。
怖いよお。
あたしまで叱られてる気分になってきたよお。
「く、くふ、ぐふふふふっ……! もはや、ここまでか……!」
あれ、なんかおじさん様子おかしくない?
こっちも怖いよ?
「こうなれば……こうなればァ! この場で、陛下もろともアウレリアの小娘を亡き者にしてくれるわァ!!」
「何──!」
「乱心したか、ダミアン!!」
「ふふっ! グフフフフフッ!!」
ヤバい事を言いだしたおじさんは、ポケットから宝石のようなものを取り出すと、なんと飲み込んでしまった。
え、何? 何が起こってるの?
「あれは……、
「何……!? なんだ、何が起こるというのだ!」
「────魔物が現れます」
すると、おじさんの身体がメキメキと音を立てて変形していった。
え、ヤダヤダヤダヤダ! 気持ち悪い!!
おえっ、吐きそう!!
ヤダーッ! どうなるのどうなるの!?