田舎村の魔導塾   作:鵲一号

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023:修学旅行の始まり

「そうだ、修学旅行に行こう」

 

その日の塾は、授業ではなく、そんな先生の発言から始まった。

先生が何かを始める時は、いつも急だ。

多分、自分の頭の中で物事を完結させてから口に出す人なんだろう。

それについていく方は大変だ。

だいたいしゅうがく旅行って何?

 

「しゅー……がく……旅行? 何それ?」

「簡単に言えば、各地を見学して回る、見聞の旅行の事だ」

「えー! なにそれ楽しそう! ……でもなんでいきなり?」

「うん、それなんだけどね」

 

なにやら深刻そうな声音である。

なにかあったのかな。

だとしたら心配だけど。

 

「アンナの座学が壊滅的すぎてな」

「あたしかい!!」

 

心配してソンしたのである。

座学がダメなら実地でってコトですか。

 

「そういう事だ」

「心読まないでよ」

「読みやすい心してるほうが悪い」

「そんなカウンター、産まれて初めて食らったんだけど?」

 

相変わらずこの先生は時折口がひどくなるもんだ。

誰が顔に出るタイプですって? あたしだよ!

こんちくしょう。いまにみてろ。

 

「で? 修学旅行は行くのか? 行かないのか?」

「行きたい!」

「なら問題ないじゃないか」

「……? そっか」

 

なんか丸め込まれた気がする。

気のせいかな?

……まぁいいや。

あれ? でも、旅行?

旅行って、何日もかけて、色んなところを見て回るやつじゃなかったっけ。

 

「ねえ先生?」

「なんだい」

「旅行なんて言うけど、村でのお仕事は大丈夫なの? 長い時間村を開けることになるんじゃない?」

「大丈夫だ。旅行と言っても日帰りだから」

「…………。あ、そう……」

 

ちょっとワクワクした気分を返して欲しい。

あたしはてっきり、いろんなお宿にお泊りするとばかり思っていたのに。

日帰りかぁ。近場しか行かないじゃん。

 

「じゃあ村の周辺ピクニックするだけじゃん。なにが旅行だよ、もう」

「いや? 各国を巡るぞ?」

「はい?」

「はい」

「いや、はいじゃなくて」

 

何を言っているんだろうこの先生は。

各国て。

帝国から出るって言ってるのかこの先生は。

そんなのブツリテキに無理に決まってるじゃないか。

 

「各国って……いや、無理だよ、無理無理。滅茶苦茶速く走る馬でもいるの?」

「…………? ……あぁ、そうか。アンナはあの時、気絶していたか」

「あの時……?」

「帝都の宮廷に乗り込んだ時だよ」

「あ、してたね。エルフリーデさんのせいで」

「まぁ、そもそも首は落ちてなかったから、アンナの勘違いだったんだけど、あれ」

「そうだったね……」

 

我ながら思い出しても恥ずかしい話である。

後から聞いた話、首を叩いて気絶させただけで、首を切り落としたわけではなかったのに、それを見間違えて気絶していたらしい。

いやまったく、我ながら肝が小さい話でして。

エルフリーデさんのせいにしてしまって申し訳ありませんでした。

 

「構わないぞ」

 

……!?

今エルフリーデさんの声が聞こえたような!?

周りを見渡してもどこにもいない。

まさか幻聴!?

……気のせいか……。

 

「どうしたアンナ、あたりを見回して」

「え、うん、いや、なんでも無いよ」

「そうか。で、まぁ、その時に使った魔導具で各国を回ろうと言うだけだ」

「なにそれ」

「“ポータル”。予め繋いでおいた場所と場所を瞬間移動できる魔導具だ」

「へー! なにそれ便利!」

「まぁ、この携帯型は帝都にしか行けないんだけど」

「駄目じゃん。帝都しか旅行できないじゃん」

「私の研究室に、各国に繋がる設置型の“ポータル”があるから」

「大丈夫じゃん。帝都以外も旅行できるじゃん」

 

この先生、用意周到すぎてたまに恐ろしくなる時がある。

ああ言えばこう言う、と言うか。

こっちの心配事を既に解決している、と言うか。

こっちの考え、読んでるんじゃないんだろうか。

 

「読んでないぞ」

「本当? ならよかった」

 

なんだ、読まれていないのか。

さすがの先生でもそんなことできようはずがなかろうもん。

それなら大丈夫だね。

 

「基本的に私の研究室の“ポータル”は、各国の魔導研究局支部に繋がっている。ちゃんと職員に対して挨拶はするように」

「はーい」

 

挨拶は大事だからね。

あたしは人と人とのコミュニケーションは挨拶から始まると教わっているのだ。

そうして修学旅行の準備をすることしばし。

先生の研究室にあった不思議な光のサークルの上に乗っかって、魔導具が起動したと思ったら、一瞬視界が眩しくなって、もとに戻ったと思ったら、知らない景色だった。

 

「ふぇー」

 

どういうものか聞かされてはいたけど、“ポータル”とやらの便利さに驚くばかりである。

こんなのあったら、悪いことに使いたい放題じゃん。

あ、だから魔導師さんにしか使えないのか。

納得。

 

「やあやあいらっしゃい、ミナカミさんじゃあないか」

「どうも」

 

先生は“ポータル”に慣れっこなのか、特に驚くこともなく人と話をしていた。

気だるげな顔をした、メガネを掛けた女の人である。

この人が魔導研究局支部の職員さんだろうか。

 

「今日もなんだい? 宮廷のお仕事かい?」

「いや何、教え子の課外授業だよ」

「おぉお、そりゃそりゃ。いいじゃあないか」

 

それにしてもこの女の人、喜怒哀楽があまり感じられないと言うか。

常に一定のペースで喋る人だなあ。

あたしはそんな感想を覚えていた。

 

「こちらがその生徒。アンナ」

 

先生に紹介される。

おっと、挨拶挨拶。

 

「えっと、アゼ村から来ました、アンナっていいます。よろしくおねがいします」

「はいはぁい、ご丁寧にどうもね。わたしはラウ。支部の職員やってまあす。よろしくう」

 

ラウさん。

思っていた通り支部の職員さんだった女の人は、軽く手をひらひらとさせてのんきな挨拶を返してくれた。

 

「……気だるげな人だね?」

「そういう性格なんだ」

 

やっぱり、先生にもそう認識されているんだ。

それでお仕事よくできるなあ、と。

謎の関心をさせられるのであった。

 

「それじゃ、これから帝都の観光に向かうから、私達はこれで」

「はいよお、またねえ」

 

ついに頬杖を付き始めたラウさんに別れを告げて、あたし達は建物の外に出た。

眼の前いっぱいに帝都の風景が広がる。

魔導研究局支部のすぐ近くには宮廷があり、兵隊さんが槍を携えて門を守っている。

通りは石造りの道路になっていて、馬車が、人が数多く行き交っている。

何かのお店だろうか。

声を上げてお客さんを呼び込んでは、忙しそうに商売しているのが見えた。

これらは、あたしが村にいる時には全く見たことのない景色だった。

 

「ふあー。帝都って初めて来たけど、すごいなあ」

「一度来ているけどな」

「だから気絶してたんだって……」

 

気絶と言えば、以前の事件があった際にあたしは先生に抱え上げられて運ばれていたらしい。

人のことを米俵かなんかだと思っているのだろうか。

レディに失礼な先生である。

まったくもって、まったく。

 

「なにか気になる施設はあるかい」

 

先生がそう聞いてきた。

正直言って何処も気になる。

だけど、今一番気になっていたのは。

 

「お腹すいた」

 

料理屋さんだった。

家で朝ごはん食べてから、修学旅行の準備して、もうお日様を見るに昼頃である。

健康優良女子であるあたしは、すぐにお腹が空いてしまうのだ。

それに、さっきからいい匂いが漂ってくることであるし。

 

「そうか。それじゃ、有名な料理店にでも入ろうか」

「わーいヤッター!!」

 

有名なお店なら、さぞかし美味しい料理が出てくるんだろう。

先生に案内され、さらにお腹が空く気分になりながら、あたしは軽い足取りでついて行った。

 

 

「………………なんか、苦かった」

「まぁ……」

 

出てきた料理は、なんていうか、形容しがたい味だった。

舌にやけにピリピリくるし、薬臭いというか、そういう感じの味だったのだ。

ひき肉を固めて焼いた肉料理、という説明を受けはしたんだけど。

 

「臭み消しに使われている胡椒のせいかな。帝国は名産品が胡椒なのもあって、どこの店でもふんだんに胡椒を使うから……」

 

胡椒。

うちの村では栽培していないけど、帝国では他国に輸出している貴重な交易品だって、以前授業で聞いたことがある。

確か、帝国から遠く離れた国では、胡椒一粒で同じ大きさの金と同じ価値があるとか……。

そんなのを、苦くなるまで料理に入れるなんて、本当は余ってるんじゃないだろうか。

余ってる分売ればいいのに。

そんな事を考えさせられた、文字通り苦い経験となったのでした。

なんてことを思いつつ、若干げんなりしながら歩きやすい石の道をトボトボと歩いていると、途端に怒鳴り声が聞こえてきた。

 

「だぁかぁらぁ!! アレクサンデルを出せッつってんだよ!! そうすりゃ話は早ェんだからよ!!」

「いやしかし、いくら貴方といえども……」

「オレだとかオレじゃないだとかは関係ねーだろうがよ!?」

「ですがね……」

「な、なになに?」

 

トカゲみたいな格好をした男の人が、でっかい建物の入口で、職員さんのような服を着た人に詰め寄っている。

喧嘩だろうか。

それにしては一方的に見えるけど。

 

「あれは……、傭兵組合(メルケナ・ユニオン)だな」

「めるけなゆにおん」

「魔物を狩る仕事をしている人達の集まりってこと。ここ帝都には、その本部があるんだ」

「ふーん?」

 

あたしの中で魔物といえば、太っちょのおじさんが変身してしまったアレとかが思い浮かぶようになった。

村でも防衛用大型魔導人形(ゴーレム)がコテンパンにした魔物の死体何かを見たことがあるけど。

眼の前で見せられた衝撃的な映像というのは、記憶に残るものなのだなあと実感させられる出来事だった。

その魔物を狩る人達かぁ。

そんな立派な仕事をしてる人達が、なんであんな怒声を張り上げているんだろう。

 

「気になるか?」

「え? うん、まあ、ちょっと」

「なら聞いてみるか」

「えっ!?」

 

この先生、恐れというものはないんだろうか。

言うが早いか、スタスタと渦中の言い合いに歩いていってしまうと、本当に気軽に話しかけ始めてしまった。

あたしも慌ててそれを追う。

 

「すいません」

「あのなぁ、大体……。ん? なんだ、(あん)ちゃん、嬢ちゃん」

「いえね、通りまで声が聞こえてきていたのが気になりまして。何を揉めているのかな、と」

「おおっ、メイワクかけちまってたか。そりゃすまねえ。オレぁ声が大きいのが玉に瑕でな。悪ぃ悪ぃ」

 

トカゲみたいな人は思ったよりも悪くない人のようだった。

ニカリと笑うと、非をあっさり謝ってきた。

 

「…………」

「お、そっちの嬢ちゃんは爬虫類人種(レプタイル)を見んのは初めてか?」

「えっあっ、その、えっと、はい」

「ダハハハ、そういう目ぇしてたからな。なぁに気にすんな、この帝都で大手を振って歩いてる爬虫類人種(レプタイル)はオレくらいなもんだからよ、珍しがられるのには慣れてらあ」

 

悪く言えば物珍しいものを見るような目で見てしまったと言うのに、それもあっさり許してくれた、爬虫類人種(レプタイル)のおじさん(?)。

やっぱり、悪くない人なのだろう。

 

「オレぁ、エリンサ。エリンサ・ウェントゥス。“風の刃傭兵団”っつう傭兵団の団長やってる蜥蜴族(ラケルタ)だ。ま、よろしく頼まぁ」

「局公認魔導師のケイ・ミナカミです。こちらは私の生徒のアンナ」

「アンナって言います、よろしく」

「おうおう、ケイにアンナな。んで、なんだい。オレが揉めてるのが気になって声掛けてくれたんだったかい」

「この子が気になるというので」

「責任転嫁!? いやたしかにそう言ったけど」

「ダハハハハ! 正直なのは嫌いじゃねえぜ!」

 

エリンサさんは豪快に笑うと、一転して顔をしかめて話し始めてくれた。

 

「いやな、組合(ユニオン)の若えのが言うにゃあ、うちの新人が不義理やらかしたっつうんだ。こっちにはそんな報告は上がってきていねえ、何かの間違いだろうっつうんだが、若えのは罰則金罰則金とそれしか言わねえんだよ。だから偉いのを出せって説得してたところでな」

「説得ですか」

「おうよ、真摯に説得よ」

 

さっきのはどう考えても恫喝とか脅しとかそういうトーンに聞こえたけど。

まあ、本人が説得と言うには、説得なんだろう。

多分。

おそらく。

 

「だがなんべん言っても出さねえんだよ、その偉いのをよ」

「アレクサンデル・ノルドマンですか?」

「んっ、(あん)ちゃん知ってんのか」

「えぇまぁ、個人的な交流がありまして」

 

なんと先生は傭兵のお偉いさんにも友だちがいるらしい。

皇帝陛下とも気安い話をしていた気がするし、この先生本当にどこまで繋がりがあるんだろうか。

考えるとちょっと恐ろしくなってくる。

 

「ミナカミが呼んでいると言ってみて下さい。上に通りますよ」

「おおマジか。物は試しだ。言ってみるとしよう」

 

そういうとエリンサさんは再び職員さんに恫喝……違う、説得を始めた。

声が大きい人って大変だなあ。

そうしてずかずかと建物に入っていくエリンサさんに、あたし達はなし崩し的に付いていくことになった。

どうなることやら。




◆エリンサ・ウェントゥス

【性別】男性
【種族】濃血の蜥蜴族(ラケルタ) 血統:サバンナモニター
【身長・体重】242cm 464kg
【年齢】47歳
【好きなもの】狩り 傭兵業
【嫌いなもの】性根の腐ったヤツ
【特技】独楽回し
【食事の嗜好】辛党
【性格】豪放磊落
【一人称】オレ
【得意属性】風
【武器】二刀流

・風の刃傭兵団、団長。
 8歳の頃から傭兵をしている。
 根っからの世話焼き気質。新人傭兵などを見かけると聞かれても居ないのに勝手にアドバイスし始める。
 その性格から傭兵団の団員からは慕われている。
 実は極度の寂しがりで、独りを嫌うが、恥ずかしいので隠している。
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