田舎村の魔導塾   作:鵲一号

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024:傭兵の勉強

「いや本当ぉーーーーーーに、すまんかった」

 

結局あたし達は(なぜか関係ないあたしまで)組合(ユニオン)の豪華な部屋に通されて、すごくでっかい、白髪と白い髭をたくわえた筋肉モリモリのお爺さんと話をしていた。

この人は、熊人族(ウルスス)のアレクサンデル・ノルドマンさん。

全世界に支部を広げる組合(ユニオン)の、組合長(ユミオン・ドミヌス)を勤めいているすごいお爺さんである。

そんなすごいお爺さんが、エリンサさんに頭を下げていた。

もしかして、とてもすごい現場に遭遇したんじゃないだろうか。

 

「まさか、他の傭兵団の不逞の輩と勘違いしていたとは……、いやはや、誠にすまんことをした」

「いやァ、分かってくれりゃいんだよ。罰則金どうこうっつーより、身の潔白が証明できりゃあ、それでよ」

「しかし……」

「いいんだよ、アレクの爺さん。職員の若えのに罰とか、やめてやってくれよ。ただでさえオレがでけえ声で脅かしちまったんだ」

「そうか、いや、お前がそう言うなら良いが」

 

どうやら話は丸く纏まったようだった。

あたしに関係ない話ではあるけど、よかったよかった。

ケンカなんてないほうが世の中よいのだ。

 

「ところで、そこに見えるはミナカミではないか。どうした、なんか用か?」

「いや、単純に揉め事が見えたから、お節介で首を突っ込んだだけだよ」

「おぉそうかそうか。相変わらず、世話焼きなのは変わっておらんな」

 

で、先生も先生でアレクサンデルさんと談笑をしていた。

もしかしてこの人、世界中に知り合いがいるんじゃないだろうか。

まさかね。

 

「儂は今回の一件の修正指示を出しに行かなければならんゆえ、ここで失礼するが……、お前たちはのんびりしていくといい」

 

そう言うと、アレクサンデルさんは慌ただしく豪華な部屋を後にした。

そうしてあたし達はエリンサさんと一緒に残されたんだけど。

のんびりするって言ったって……。

何をどう……?

 

「いやァ、世話ンなったな(あん)ちゃん。なんか礼をしたいんだが、なんか出来ることぁあるかい」

 

エリンサさんがそう朗らかに聞いてきた。

気まずい空気とか、そういうのをぶっ飛ばしてくれる人である。

こう見えてあたし、初対面の人と対面したまま静になるのが苦手な方なのである。

助かった。

 

「そうですか? それなら、ぜひうちの生徒に傭兵について教えてあげて頂きたい」

「えっ、あたし」

「嬢ちゃんに?」

「えぇ。たった今、村を出て課外授業の最中でしてね。色々学んでいる途中なんですよ」

「おーおー、そういうことなら構わねえぜ」

「えっえっ」

 

塾から出ても座学ですか?

聞いてないよ、そんなん。

 

 

「さぁー……てっと」

 

エリンサさんはどっかりと深くソファに腰掛け腕を組むと、鼻息を鳴らして話し始めた。

 

「まずは……そうだな。傭兵の仕事はなにか、くらいは知ってっか?」

「魔物を狩る、ことですよね」

「おー、そうそう。そのくらいは知ってっか」

 

ついさっき聞いたことだというのは黙っていよう。

なんとなく。

 

「で、その魔物を狩るのにも“危険度”ッつうものがあるわけなんだが……。新人傭兵はまず、依頼書に書かれている“危険度”マークを確認するのが習わしだ」

「依頼書?」

組合(ユニオン)から傭兵に向けて“これこれこういう魔物が出たから狩ってくれ”ッつう依頼の用紙のことだ」

 

なるほど。

傭兵さんが自主的に狩ってくるわけじゃないんだ。

 

「この“危険度”ッつうのは、平たく言えば傭兵組合が“このくらい危険ですよー”って示したもんで、精度は正しいからこれに従っときゃ間違いねェ。危険度は五段階のマークが用意されている」

 

そう言うと机に備えられていたメモ帳から一枚剥ぎ取り、ペンでマークを書き始めた。

先生が黒板に書くみたいで、頭が痛くなってくる気がした。

 

「“危険度”は、下から、ランク1・2・3・4・5だな」

 

「たまにランクの右上にちっこく“+”マークがつくことがあるが、それは本来想定されている危険度よりちょこっと危険ですよって意味だ。まー新米のうちは+マークが付いてたら避けときゃ問題ねェ」

「ふーん……」

 

やっぱり新人の内は大変な仕事は任されないものなのかな。

どこもそういうものなのだろう。

 

「もちろん新米のうちは危険度が高い依頼を受けようとすると受付の嬢ちゃん……まぁ男のこともあるが……とにかく受付に注意されるけどな。“多分死ぬと思うので辞めたほうがいいですよ”てな。だが生憎と組合員は“注意することだけしかできね”んだ。どの依頼を受けるかは、傭兵の自由意志を尊重しなくちゃならねえ、ってな」

「えっ、じゃあ、注意を無視することも出来るの?」

「あぁ、できる。極論言うと、傭兵に登録した初日にランク5+の依頼を受けることも可能っちゃ可能なワケ。ンなアホなことすっと、めっっっっちゃくちゃドッ叱られて、めっっっっちゃくちゃ止められるけどな」

「あるんだ……」

 

腕に自身がある人は、やらかしたりするんだろうか。

 

「んでまー、それでチョーシこいて……自分もしくは自分達の実力を過信して、無理な依頼受けて、あっさり訃報が届くことがまぁ多いのなんの。あれかね、“お前の実力じゃ死ぬよ?”なんて面と向かって言われると反発したくなるもんなんかね?」

「なんとかは死ななければ治らないと言いますからね」

「違いねェ」

 

“なんとか”って、なんだろう。

なんか気にかかる。

気のせいかな。

 

「で、だ。各危険度の具体的な内容について、だが……」

 

もう一枚メモ帳を破ると、詳細な情報を書き出してくれる。

うう、そろそろ頭がパンクしそうになってきた。

 

「まずはランク1。こいつはいわば新人育成用みたァなもんだ。討伐依頼も小型の草食獣が魔物化したものを狩って欲しいだとか、特にこれと言って毒もない虫が魔物化したのを狩ってほしいだとか……ンなもんだ。

 魔物化すると元のサイズよりデッカくなるが、まぁランク1なら可愛いもんよ。兎が中型犬くらいになる、程度のモンだからな」

「あ~、村でもそんなの見たことがある」

「ほお、傭兵がいる村なのか?」

「ううん、防衛用大型魔導人形(ゴーレム)がコテンパンにしてくれるの」

「ははぁ、そっちの魔導師の(あん)ちゃんが作ったのかい」

「えぇ、まぁ」

「傭兵泣かせだねえ。ま、被害が出ない分にゃ平和でいいもんだがね」

 

確かに、仕事を盗っていると言われたら、そうなのかも知れない。

 

「ランク1はそんなもんだからよ、おおよそ超が付く不運が5つ6つほどは重らなきゃ、死ぬことはねえ。つうか死ぬほうがムズいな、Eは」

 

さらにメモ帳を一枚破る。

もしかして、どんどんメモ帳が増えていくんじゃないだろうか。

これは大変だぞ。

 

「お次はランク2だな。一段回上がると負傷の危険が付いて回るようになる。とりあえず受けるなら新米扱いは卒業してからだ。場合によっちゃ大怪我を負うかもだな。つうてもまぁ、腕や足が取れたりするわけじゃなく、骨が折れるだの大出血で貧血起こすだの、大怪我ん中でもその程度だがよ」

「それでも十分大怪我じゃないですか?」

「まあ大怪我っちゃあ大怪我だな」

 

平然と言っているけど、新米を上がっただけで大怪我の危険が付き纏い始めるとは。

傭兵とは改めて大変な仕事なんだなあと思わせられる。

 

「大人しく医者にかかるか、医療魔導師に任せりゃ一月もしねーで完治するぜ」

「どっちの方が安上がりなの?」

「あー。医者は傭兵証見せれば組合保険が効くから安い。でも自然治癒任せだから入院すっと復帰まで時間がかかる。当然その間は傭兵業は休止だわな。もちろん無収入。医療魔導師は魔導で即座に傷を癒やすからすぐに復帰出来るが、医者と比べるとボッてんじゃねえかってくらい高価い。結果的に収支で見ると、どっちもあんま変わんねえ。そんときのお財布と相談だな」

「申し訳ありませんねえ、身内がボッているようで」

「全くだ、ダハハハハ!」

 

皮肉なのか謝罪なのか、微妙なラインをギリギリで走っていく先生。

怖いからやめて、そういうの。

 

「んでだ。討伐依頼は相変わらず草食獣や虫の魔物だが、群れていたり、凶暴性が強かったりしてくる。要するに積極的に攻撃してきたり、囲んでボコってくるんだわな。逐一色々なことに注意しねえといけなくなってくる、っつうこった。ま……、“ここからはふんどし引き締めていかねえとヤベエぞ”つう登竜門みてえなカンジだ」

「とーりゅーもん」

 

初めて聞く言葉である。

どういう意味なのだろうか。

 

「東の方の国の言葉で、“ここを登れば一段上のランクに上がれるぞ”という意味のことわざだ」

「へぇー」

「おぉ、確かそんな出自だったな」

 

登竜門、登竜門。

覚えておこう。

 

「で次ランク3か……。ランク3はな、判断が難しいんだよなぁ。ランク2で十分に経験を積んでいかないとそろそろ死ぬ可能性が出てくる、てなもんか。魔物の討伐もとうとう肉食獣や大型獣の登場だァ。オオカミだのハイエナだのライオンだの……+が付くもっとヤベエのだとサイだのカバだの。およそ大型犬よりうすらでけェ魔物が唸り声上げて待ってるぜ。まぁ気ぃ抜いたら死ぬわな」

「死ぬの!?」

「おー死ぬ死ぬ。しかも+マークが付いてると、ツガイだったり群れだったりしてくる。サイだのカバだのの、元から+が付いてるのがツガイや群れだと“++(ダブルプラス)”つってほぼランク4の領域になるぞ。自信がねえなら避けたほうが安全だ」

「ひえええ……」

 

魔物を相手にするんだから、そりゃ危ないんだろうけど、とうとう死ぬなんて話が出てきた。

おっかないったらありゃしないよ。

 

「ランク4からはベテランじゃなきゃできねえ仕事が多い。つかそれしかねえ。危険度はそうとう跳ね上がるぞ。まーそうだな~ァ、目標の魔物にもよるが……5~10倍は危険になると思ったほうが良い。例えばランク1レベルのイノシシの魔物なら特にキバも発達してないから、しっかり武装してりゃ体当たりで痣ができるか鎧が傷つくかってなもんだが、ランク4ランクになるとキバも鋭きゃガタイもでけえ。しかも筋肉が異様に発達してるから突進が早えのなんの。真正面から無防備に受けりゃまず骨は逝く。もしくは鎧を貫通してデケエ血管破られて大量出血。下手すりゃ内臓破裂で瀕死だわな。あとはそのまま殺されるだけ。ランク3傭兵の意識のまま“この程度平気だろ平気~”なんつってヘラヘラ出かけたバカが死体で帰ってくるのも組合あるあるだ。成長株はなるたけ死んでほしくねえんだがなぁ」

「そ、そんなに死ぬ人多いんだ……」

「危険な職業だからなぁ、傭兵ってえのは。あれだ、どうも“自分はもうベテランの領域になった”と思うと実力を勘違いするバカが頻発しやすいらしい。組合(ユニオン)も頭抱えてる案件だな、これは」

「これは他の職業にも言える。アンナも気をつけるんだぞ」

「う、うん……」

 

恐ろしい話だなぁ……。

そして、とうとうメモ帳も五枚目になってきた。

あとでそのメモ帳、くれないかな。

 

「ランク5はもう、あれだ。組合から一流の傭兵にしかできねえと認められた上澄みの依頼マークだな。もう何人も傭兵を食い殺してるヤベェ魔物が人里に近づいてるから大至急殺ってきてくれとか。どっからどう見ても危険な巨大な魔物がマナ溜まりで力を蓄えてるから驚異になる前に殺してきてくれとか」

「……マナ溜まり?」

「あ、まだ教えていなかったか」

 

先生もメモ帳を破りだした。

これ以上あたしの脳を圧迫しないで。

 

「世の中には、大気に漂うマナが滞留する、マナ溜まりという場所が存在する。名前の通りそこはマナが濃くなり、迂闊に近づくと中毒症状を起こす危険な場所だ」

「で、そんな場所にゃあ強力な魔物が発生しやすいって訳だ」

「あぁ、魔物は中毒症状が悪化すると生まれるから……」

「そういうこと」

 

なるほど、そんな危険な場所があるんだ。

知っておいてよかった。

 

「だいたい危険度ランク分けの具体的な説明はこんなもんか?」

「それくらいでしょう」

「おう、そうか。新人に指南するみたいで楽しかったぜ。ダハハハ」

 

豪快に笑うエリンサさん。

考えるより動く派、みたいな感じの人に見えたけど、こう見えてインテリな人なのかな。

 

「……あぁ、そうそう」

 

ふと、言い残したことがあるようにぽつりと口にした。

なにかと向き合って耳を傾ける。

 

組合(ユニオン)に傭兵として登録した時に渡される小冊子にも書いてあることだが、一応嬢ちゃんにも注意しとくか。絶対にやっちゃいけねえ禁止事項ってのがあってな」

「禁止事項……」

「まず、指定された領域以外での魔物の討伐。まぁ分かりやすいよな。要はヨソの組合(ユニオン)のナワバリを荒らしちゃいけませんぜ、つう話よ。いくら国の為・治安の為と謳ったところで、どうしたって商売になる仕事だからよ、他所様の仕事場で仕事しちゃいけねンだわ」

「そういうものなんだ」

「そーいうもんさ。結局ヒトはカネッつうわけだな」

「そういった情操教育によろしくない結論は、ちょっと」

「おう、悪ィ悪ィ!」

 

豪快に笑っているけど、その結論はどうなのだろう。

あたしでもちょっとどうかと思った。

 

「どーしても別の地域の討伐がしたいってなったら、そっちの管轄の支部にいって依頼受けて来ることだな。それと当然だが、傭兵同士の殺し合いはご法度だ。仲間殺しはいかんよね」

「……それ、やっちゃう人、いるの?」

「おーいるいる。喧嘩が激しくなってつい、だとか。妬み嫉みが元で事件性のあるものだとか。傭兵だろーと普通の人間社会と変わりゃしねえのよ」

「ふぁー……」

 

怖いなあ、人間関係。

 

「最後に、“一般民衆に迷惑をかけないこと”。実はこれが一番大事だったりする。傭兵になるとどうもこう、気が大きくなるやつが多くてなぁ。しっかり戦闘訓練を受けたからか、魔物を殺した高揚感からか。傭兵になる前に比べて性格が荒っぽくなるやつが結構な数いんだよなぁ。でまぁ、そーいうチンピラ紛いの性格になっちまったやつは、食事処や酒場でうるせぇくらいに乱痴気騒ぎしたり……。得物持って歩いてる姿にビビっちまった一般人に“何見てんだよコラァ!”なんて叫んで、さらにビビるのを指差してゲラゲラ嘲笑したり……。救えねーバカだな」

「さっきの貴方も相当うるさかったですが……」

「おっ! こりゃ一本取られた! 悪ィ悪ィ、うちのモンが疑われると、ついな!」

 

恥ずかしそうに頭を掻いているが、確かにさっきのは恫喝に見えた。

そういう人が多くなるってことなんだろう。

いい反面教師がいたものだ。

本人には言えないけど。

 

「もちろんそーいうのは、即座に被害を受けた一般人から組合(ユニオン)に通報されて……。一般常識のお勉強とマナー講習と称した、監禁生活の始まり始まり。だいたい2~3ヶ月くらい、座敷牢みたいな場所で性根を叩き直されるぞ。暴力あり罵詈雑言ありの楽しい生活だ。素晴らしいな。……そーいう制度があってもなお、周りに迷惑かけるバカがたまに出てくるのが、頭痛えんだけどな。何が頭痛えって、ソロの傭兵ならそいつの自業自得で済むんだが、傭兵団に加入してる場合“責任問題”つって団長もこっ酷く叱られんだよ」

「連帯責任、ってやつ?」

「おー、難しい言葉知ってんな。そうだよ、それそれ」

 

あたしも村の子供がイタズラした時に“お姉さんだから”という理不尽な理由でよく一緒に叱られたものだ。

おのれ。

覚えているんだからな、そういうの。

 

「……大体説明はこんなもんかぁ?」

「“危険度”について、漏れがあったようですが」

「あ? あー……。そうだな、それもいちおー説明しとっか」

 

そういうと、さらにさらにメモ帳を破って書き出す。

まだあるの?

もう目一杯だよ。

 

「んまぁ……、傭兵じゃないヤツにゃあほとんど関係ない話だから、別に説明しなくてもいいと思ってたんだがよ、聞かれたからには一応な」

 

エリンサさんはメモ帳にでっかくバツ印を書いた。

なんだろう。

 

「“危険度:未知数“。こりゃさっき言った五つのランクじゃなく、X(バツ)印で示されてる。つっても依頼掲示板に張り出されることはねえ。組合(ユニオン)でさえどれほど危険か判断できねえから、ほとんど“できる奴に直々に指名する形”で内々に処理されるからだ。だから部外者にゃ関係ねえよ。あんま気にすんな」

「なるほどなー」

「まぁ、一応説明を求めたまでですので」

「一応な、一応」

 

親切にも今まで書き記してきたメモ帳を全部寄越してくれた。

ありがたいけど、これ全部覚えなきゃならないのかぁ。

…………大変だ。

 

「あーあとそうだ。傭兵のランクも1~5で示されるからな。依頼をこなして経験積んで、組合からランクアップしてもええやろて判断されたやつは2・3・4・5て上がってくわけだなァ。だからまぁアレだァ。自分のランクと同じ危険度の依頼をやってきゃいんだわ。要するに。簡単でいいだろ。ダハハハ」

「確かに」

「……まー、以上。そんなもんだ。嬢ちゃんに対する、オッサンのなが~いお講義はこれまで。長々と悪かったな」

「あ、いや、別にそんな……」

「顔に書いてあったぜえ? 長くて覚えるのが大変だってなあ」

「ギクーッ!」

「ダハハハハ!」

 

笑われてしまったのである。

恥ずかしい、顔が赤くなる。

 

「さあてと。それじゃ、オレもそろそろお暇しますかね。これでも団長として色々仕事が山積みなもんでね」

「どうも忙しい中有難うございました」

「気にすんなって、爺さんに取り次いでくれた礼よ、礼」

「あ、そういえば」

「あん?」

 

あたしは気になったことをエリンサさんに尋ねようと思った。

 

「さっき傭兵にもランクがあるって言ってたけど、エリンサさんはどのランクなの?」

「あ、オレ?」

 

エリンサさんは、既にドアノブに手を掛け、開けかけていたドアを止めると、首だけ振り向いて、いたずらっぽく笑ってこう言った。

 

X(バツ)

 

バタン、と。

豪快にドアが締められる音が豪華な部屋に響いた。

 

「すごい漢だ」

「そうだね……」

 

とにかく、傭兵としてすごい実績があるということだけは分かった。

そんな人と偶然知り合えたのは、運が良かったのかなんだったのか。

なんとも、貴重な経験ができた一日なのであった。

 

 

「おっ、なんだ。エリンサのヤツ、もう帰ってしまったのか」

「戻ってきたのか、アレク」

「せっかく儂自ら茶を淹れてきたというのに」

「相変わらず渋い趣味してるな」

「もったいないから、お主等飲んでいけ」

「えっ、あたし? あ、はははい、頂きモス」

「わはははは、そう緊張せんでええぞ!」

 

 

「は~これから魔物化したドラゴンのソロ討伐か~。まいどまいど当日になって急に言うなよって話でしてね~? あれ硬いんよな~……だりィ。ま、今日中には終わんべ。ちょっと走ろ」

 

傭兵組合(メルケナ・ユニオン)の建物を出て、街中をトボトボ歩きながら、ブツブツ独り言をボヤいていたエリンサが、最後にそう呟くと、既にその場には居なかった。

まるで風のように、彼の姿は消えていた。

『風刃』

風より疾く獲物の命を刈り取る、彼の姿に与えられた異名である。

 




◆アレクサンデル・ノルドマン

【性別】男性
【種族】薄血の熊人族(ウルスス) 血統:ハイイログマ
【身長・体重】255cm 497kg
【年齢】84歳
【好きなもの】狩り 後進育成
【嫌いなもの】犯罪 秩序を乱す者
【特技】なわとび
【食事の嗜好】焼いただけの肉が一番美味い、と豪語している
【性格】柔和で理知的だが激情家。
【一人称】儂
【武器】鉄爪

・全世界に支部を広げる組合(ユニオン)組合長(ユミオン・ドミヌス)に君臨する大男。
 種族が示す通り、腕っぷしが自慢であり、老齢ながらも並大抵の魔獣ならば素手で薙ぎ払う剛腕を持つ。
 己の暴を人々の役に立てられたら、という想いで組合を立ち上げており、人道・道徳に反することを嫌う。
 基本的には温和な人格者なのだが、倫理性が行き過ぎるきらいがあり、傭兵同士で殺し合った者への懲罰は一部では「やり過ぎじゃないか」という声も。
 エリンサに全幅の信頼を置いており、「あいつの機嫌損ねたらマジアレだかんな(意訳)」」と組合員に厳命するほど。
 確かに希少な人材だけどそこまでする? と周囲は訝しんでいる。
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