田舎村の魔導塾   作:鵲一号

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027:矮人の島

「今日は矮人島(わいじんとう)に行ってみよう」

「昨日言ってた島国だ!」

 

今日の修学旅行は、昨日も聞いた矮人島(わいじんとう)

矮人種(ミノル)が主に暮らしている島国だったっけ。

それ以上のことは特に知らないんだけども。

 

矮人島(わいじんとう)には局の支部がないからな。知り合いの家に直接飛ぶから、失礼のないように」

「えっ、なんで支部がないの?」

「外部の文化の受け入れを嫌うんだよ、矮人種(ミノル)は。頑固というのかな、そんな感じで」

「へぇー……」

 

その割には、他の国に出稼ぎには出かけるんだ。

なんだか不思議な感じ。

そう思いながら、だんだん慣れつつある白い光に包まれて、視界がひらけると────。

 

「……家って規模じゃないじゃん!!」

 

そこはお屋敷だった。

明らかに天井が高い。

明らかに間取りが広い。

明らかに部屋数が多い。

どう見ても、ただの家ではないことは確かである。

ウソついたな、先生め。

 

「いや、知り合いの大きさからすれば家規模なんだよ」

「そういう問題!?」

 

確かに種族は多種多様ですけれども。

むしろ、矮人種(ミノル)は小さんじゃなかったのかと。

そうツッコみたい。

などと考えていたら、見慣れない服装をした矮人種(ミノル)の……、多分男の人、が、出迎えてくれた。

 

「久方ぶりの来訪ですな、()()殿」

「どうも、カザミさん。こちらは私の生徒のアンナ」

「ほう、()()殿と仰る。良き名をしておられますな」

「え、あ、ど、どうも」

 

何か今、ニュアンスが若干違ったような。

気のせいかな。

気のせいだと思うけど。

 

「残念ながら、巫女殿は今留守にして居られまするぞ」

「あら、それは残念」

「巫女殿?」

「私の知り合い」

 

先生の知り合いは今居ないようだった。

居ない時に来るなんて大丈夫なんだろうか。

こうして出迎えが来たから、大丈夫なんだろうな。

 

「御生徒殿をお連れということは、観光で?」

「そんな感じですね」

「ふむう、水上殿が一緒ならば、他国の服装も奇異な目では見られますまいが、視線が集まることだけはご留意くだされ、お客人」

「えっ、は、はい」

 

みんなに見られるってことかぁ。

恥ずかしがらないようにしなくては。

 

「では」

「お疲れ様です」

 

そういうと、カザミさんと呼ばれた人は、音を立てないように歩いて去っていった。

すごい歩き方だ。

見た感じ、木造りの家(というかお屋敷)なのに、足音も立てないなんて。

礼儀がしっかりしてる人なんだろうなあ。

 

「さて、じゃあ行くか」

「あ。うん」

 

 

「ふぁー」

 

矮人島(わいじんとう)の景色は、今まで見たことがないものであった。

いや、帝都も、他に行った国も、今まで見たことがないものではあったんだけど。

それらは絵本なんかで、もしくは先生のしてくれた授業なんかで、知識ではある程度は知っているものではあった。

だけど矮人島(わいじんとう)の景観は、知識の外にあるものだった。

木造りの家が立ち並ぶ町並み。

それらはどれも二階がなく、一階建てのものだけ。

たまにある二階建てのものは、何かのお店くらいなもの。

そのどれもが見たことのない建築様式で、屋根には……土を固めたもの、なのだろうか。

それらが何枚もナナメに並べられていたのが特徴的だった。

お店の前に掲げられている垂れ幕には、見たこともない文字が書かれていた。

先生に聞いたら“カンジ”という矮人島(わいじんとう)でのみ使われている文字らしい。

それでいて、話す言葉は共通語なのだから不思議なもんだ。

あちこちをきょろきょろと見回すあたしがあまりにもお上りさんに見えたのか、注意されていた通り街ゆく人々から視線が集まるのを感じる。

そして、そのどれもがあたしの腰くらいまでしか背丈がない。

まるで自分が大きな種族になったような気分だった。

 

「まずは食文化から学ぶか」

 

先生がそう言うと、オープンな椅子が並べられているカフェのような店に入っていった。

 

「はい、いらっしゃい」

「団子と餅、それに茶を二人前」

「はいはい、かしこまりました」

 

小さい女の子(後で聞いたらお婆ちゃんだったらしい。マジか)が接客してくれて、しばらく待ったら食物と飲物が運ばれてくる。

これもまた、見たことがないものだった。

ついでに言うと、机と椅子はかなり低かった。

 

「あ、ほんのり甘くて美味しい」

「甘すぎないのが良いよな」

 

先生がしきりに頷いていた。

こういう味、好きなんだろうか。

まあ、普段から白湯ばっかり飲んでるような人だし、不思議じゃない。

そう思いながらお茶をすする。

 

「なんだか優しい風味」

「帝国のものと比べると、ふんわりしてるよな」

 

やっぱり先生は頷いていた。

好きなんだろうな、こういう味。

なんだかお爺ちゃんみたいに見えてくる。

そういえば先生っていくつなんだろう。

今更だけど、先生の年齢を知らないことに気付いたあたしであった。

 

「お勘定」

「はいはい。……はい、確かに。どうもありがとうございまし」

「あれ?」

 

先生が支払っていたのはアウルム硬貨ではなかった。

そういえば、アウルム硬貨を使わない国もあるって聞いた覚えがあるけど、ここのことだったのか。

ていうか、先生この国の通貨持ってたんだ。

 

「そりゃ、修学旅行に行くなら準備してくるよ」

「確かに」

 

いわれてみればそうである。

店を出ると、やっぱり注目されていたのか、店を覗いていたであろう人達がそそくさを視線をそらすのが見られた。

気にしないよう勤めていても、ちょっと気になるものである。

なんて思っていたら、威勢のいい声が周りに響いた。

 

「これこれ主等、あまり客人をじろじろ見るものではないぞ」

 

長身の女の人だ。

頭から耳が、そして尻尾が生えているのを見るに、薄い血の犬人種(キャニス)かな。

胸元が開いた、綺麗な柄の服を着ていて、街の人達を嗜めるように歩いてくる。

矮人種(ミノル)以外の種族も居るんだ。

 

「おや、巫女殿」

「市井のものどもが物珍しそうにしているから珍客かと思えば、やはり主かえ、魔導師水上」

 

巫女殿、と呼ばれた女の人はおおらかに先生と挨拶を交わしている。

あたしより背が高いせいか、この国だとずいぶん大きく見えたけど、先生ほどの身長ではなかった。

 

「そちらは?」

「私の生徒です」

「あ、アンナって言います。どうも」

「ほう、杏奈。良き名をしておる」

 

やっぱりニュアンスが違うような……。

気のせいかな……?

気のせいじゃないような……?

 

「それで? 今日(こんにち)は何用じゃ」

矮人島(わいじんとう)の観光、のようなものですね」

「ほお。それでは(わらわ)の屋敷に寄らぬは嘘であろう。ほれ、ついて参れ」

「ま、一応寄りはしたんですけどね……」

 

巫女殿についていくよう促され、そのまま先生と一緒についていくと、先程のお屋敷に戻ってきてしまった。

そういえばさっき留守にしていると言っていたのが巫女殿というのだから、それはそうか。

 

「さっきは土間だったからいいけど、この国では屋内に入る時は履物を脱ぐのがマナーだぞ」

「えっ、そうなの!」

 

あたし、ブーツだから脱ぎにくいんだけど。

慌ててブーツから足を引っこ抜きながら先生に続くと、さっき見たところよりももっと豪華な木造りの通路に案内された。

なんだかほのかに木の匂いがしてくる気がする。

それくらいは、辺り一面木に囲まれた風景だった。

どちらかといえば、帝都とかの家よりも、村の家に近い。

それでも村の家だって、石でできた部分はあるというのに、どこもかしこも木で出来ている。

どうやって作っているのだろう。

純粋な疑問が浮かんでくる。

ところで、今あたし達はどこに案内されているんだろうか?

 

「何、この島の守り神、“雷狼(らいろう)様”に謁見させてやろうと思うてのう」

「謁見!? 偉い人ですか!?」

「そうじゃ」

 

また偉い人ですかあ!?

皇帝陛下といい、どうしてこう、いきなり偉い人をぶつけられなければならないのだろう。

先生は“これも社会勉強だ”と笑っているけど、ぶつけられる側はたまったもんじゃないぞ。

ああ緊張してきた。

おなかいたい。

 

 

「雷狼様、雷狼様。お目通りをお願い申し上げまする」

 

巫女殿が何度か礼をすると、大きな戸を横にスライドさせて開いた。

するとそこには、とても、とても大きなオオカミのような生き物が、寝息を立てて眠っていた。

金で出来ているのだろうか、綺羅びやかな飾りを身に着けている。

あたしの家はゆうに越える大きさだろう。

高さだけで言えば、帝都の宿の屋根までくらいはあるかもしれない。

それが体長となるや、どれだけ巨大か。

あたしは思わず面食らってしまっていた。

大丈夫かな、食べられないかな、なんて場違いなことも思っていた。

 

「────と、大仰に畏まってみせたが、この通り、寝こけておるわ」

 

不敬なんじゃないのかな、と思わされる物言いにびっくりさせられてしまった。

それでいいのかな。

巫女殿なんて呼ばれているからには、このオオカミさんの部下とかじゃないのかな。

あたしがそう心配していると、さらに無礼を働くように、巫女殿はオオカミさんの身体をぺしぺしはたいていた。

あわわわ。

起きたら大変なことになるような。

 

「巫女殿、アンナが慌てているので、戯れはそのくらいで」

「なんじゃ、つまらん。もっと楽しませぬか」

 

巫女殿はそう言うと座り込み、俯いて目を瞑り始めた。

その瞬間、オオカミさんが目を覚まし、おおきなあくびをした。

起きちゃったじゃん。

どうするの巫女殿。

そう思っていた所である。

 

「おお、良う来た良う来た。ゆるりとしやれや」

 

オオカミさんが()()殿()()()()()()話し始めた。

……?

…………??

どゆこと?

 

「はっはっは、驚いておる驚いておる。(わらわ)はこれを見るのが楽しみでのう」

「相変わらずよいご趣味で。ツバキ様」

「つばきさま……?」

「雷狼様のお名前だよ」

「うむ。(わらわ)椿(つばき)獣姫(けものひめ)とも呼ばれておる。まあ、この国の観光名所のようなものじゃ」

 

あたりに響き渡る声で、そう言って笑うツバキ様。

それより、巫女殿起きないんですけど。

どうしたんですか?

 

「ああ、それは(わらわ)が外を遊び回るときのための移し身じゃ。案ずるなかれ。おっと、これは島民には内緒じゃぞ?」

「えーっ! そ、そうなんですか!?」

「うむ、魔導師の身内の者ゆえ、明かさせてもろうた。なにより、反応を楽しみたかったのでのう」

「どっちかというとそっちが本心でしょう」

「ばれたか」

 

やっぱり笑うツバキ様。

よく笑う人……オオカミ? だなあ。

正直怖いんだけど。

 

「まあそう怖がるな、杏奈。(わらわ)の身の上話でも聞いていかれ」

「こ、ここ怖がってませんにょ!?」

「バレてるって」

 

失礼になると思って黙っていたが、バレバレだったようだ。

すいませんでした。

 

(わらわ)はな、もともとこの島の出身ではないのじゃ」

「ふぇー……」

「もっと言うとな、彼女は世界で数少ない、“理性を保ったままで居る魔物”でもある」

「ふぇ…………ふぇッ!? 魔物なの!?」

「内緒じゃぞ?」

 

そう言ってお茶目にウインクするツバキ様。

滅茶苦茶びっくりしたんですけど。

 

(わらわ)がこの島へ流れ着いたのは、もう五百年も前になるか」

「そんなに」

「あの時のこの島は、未だ文明らしい文明も築かれておらず、自然を信仰して生きている民達が、自然のまま暮らしているような有様じゃった」

「“はじまりの五人”は……?」

「知られておらなんだな。島外の文明ゆえ、致し方ないことじゃったのじゃろう」

「そんな国あったんだ……」

 

これは確かに勉強になる。

みんな小さい頃絵本で読んでもらって知っているものだとばっかり思っていた。

ていうか……。

 

「流れ着いたって言ってましたけど……」

「言葉通りのことじゃ。(わらわ)が気がついた時には、この島の沿岸で倒れておった。それ以前の記憶はない。魔導師によれば、(わらわ)は魔物になったと言うことじゃて、大方好き放題暴れて海にでも落ちておったのじゃろう」

「は、はぁ……」

 

すごい話だ。

記憶もなくして流れ着くだなんて。

 

「そうしてこの島を練り歩いておった(わらわ)じゃが、民にあうことあうこと怯えられてのう。まあ、この巨躯じゃ。仕方なかったのであろうな。(わらわ)はそう気にせなんだが。怯えるあまり、民からは敬遠されてなあ」

「心中お察しします」

「なにがお察ししますじゃ。うわべばかりの言葉を吐きおって。主はこの話何度も聞いておるじゃろ。口を挟むな」

「はい」

 

先生が叱られている。

珍しい光景だ。

 

「民に嫌われて、その民を害するわけにもいかぬ(わらわ)は、なにをするでもなく島を宛もなく彷徨っておった。なにせ魔物と化したこの身じゃ。食事をするでもなく、“まな”さえあれば生きておられるでな。彷徨うには都合が良かった」

「……魔物ってそうなの?」

「あぁ。だからこそ厄介だと言われている。本能のままに捕食活動をするのに、生きるのには捕食は必要ないんだからな」

「ははぁ……」

 

そうだったんだ。

改めて怖い、魔物って。

眼の前の人(?)は、そうじゃないけど。

 

「そんなある日のことじゃった。(わらわ)が彷徨っている地域が、嵐に見舞われた。大嵐じゃった。民らの粗雑な家はなぎ倒され、自然の暴威じゃて、民は祈ることしかできんようじゃった。(わらわ)はそれを見ておられず、(いかずち)を落とし、嵐の雲を薙ぎ払った」

「ええええ、すご!!」

「はっはっは、すごかろう、すごかろう」

「彼女が“雷狼”と言われるゆえんだな」

 

大嵐を止めるだけの雷を落とすって。

どんだけですか……。

 

「それからじゃったな。(わらわ)が守り神として崇められるようになったのは。それまで自然を信仰しておった民らは、その自然に打ち勝った(わらわ)の方を信仰するようになったのじゃ」

「より強いほうが偉い。それも自然の摂理だな」

「そういう事なのじゃろう」

 

な、なるほど。

言っちゃ悪いけど、原始的な……。

 

「まあ、それからなんやかやあって、屋敷まで建てられ、こうして崇め続けられておるわけじゃ」

「飛びましたねえ!?」

「実際退屈な日々なんじゃもん。たまにくる災害を祓う以外は、寝ておるだけじゃ」

「それはまぁ、そうなんでしょうけども」

「次第に退屈に耐えられんようになった(わらわ)は、こうして移し身を作り遊び呆けるようになったわけじゃな。ふぁああ……」

 

ツバキ様はあくびをすると、もう一度眠る耐性になった。

今度は逆に、巫女殿が起き出した。

いや、どっちもツバキ様なんだろうけど。

なんかややこしい。

 

「という訳じゃ。どうじゃ、観光案内くらいにはなったかのう?」

「ええ、もう、それはもう」

「ならばよかった。普段滅多に起きん本体を起こした甲斐があったというものよ」

「すいませんね、お遊びの最中、お話までして頂いて」

「予約もせず来訪しておいてよう言うわ、この不躾者が」

「ははは、すいませんどうも」

「誠意が足りておらん、誠意が」

 

また先生が叱られている。

もしかして結構叱られる人なんじゃないだろうか、先生って。

 

「ひとしきり、(わらわ)の島を堪能してゆくがよいぞ」

「はい。どうもありがとうございました」

「日帰りですが、楽しませてもらいます」

「うむ、うむ」

 

おおらかに頷くツバキ様に見送られて、あたし達はお屋敷を後にした。

 

 

「しかし……、あの魔導師めが生徒を持つ、か……」

 

一人残された椿は、ミナカミについて瞠目していた。

 

「ふむ……」

 

その場に腰掛け、目を瞑り思いを馳せる。

 

「何か、思うところがあったのやもしれぬな……」

 

そう独りごちる椿の目には、過去の思い出が映っていた。




◆獣姫ツバキ

【性別】女性
【種族】雷狼(らいろう)
【身長・体重】172cm 63kg(肉体) 3884cm 182659kg(本性)
【年齢】28歳(肉体年齢) 514歳(本性)
【好きなもの】領民いじり カワイイもの蒐集
【嫌いなもの】自分がいじられること カワイくないもの
【特技】統治
【食事の嗜好】和食
【性格】老獪
【一人称】妾
【武器】太刀

・獣巫女様、兼、矮人島(わいじんとう)に君臨する守り神“雷狼(らいろう)
 普段は守り神である狼神の意を民へと繋げる巫女として、民を統治している。
 暇な時はぶらりと市井に出歩いては、甘味を食べ歩きしたり、民芸品を買い込んでは部屋に飾って愉しんだりしている。
 見た目によらず可愛いものが好きであり、“仮初の肉体ももっと幼く可愛らしいものにすればよかった、いやしかしそれでは威厳が”と苦悩している。
 自らが守るべき領民のことも可愛らしいものだと認識しており、子どものような姿のままでいるところがお気に入りらしい。
 領民の大事に雷鳴と共に現れ、事を成してまた社で丸くなる、矮人種(ミノル)にとっての守り神。
 その正体は世界でも数少ない“理性を保ったままでいる魔物”であり、マナ飽和症の重篤な罹患者。
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