田舎村の魔導塾   作:鵲一号

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030:鳳凰の国

────鳳凰信仰国、バルゥードゥ。

主な種族は九割が獣人(ベースティア)である鳥人種(アーラ)を占める、種族統一国家の一つである。

彼らは首都アルドバに座す“鳳凰”を信仰し、“鳳凰”から持たされるという信託を頼りに生活している。

信託とは、国を左右するものであり、人々の暮らしを支えるものであり、バルゥードゥの礎となるものである。

もともとは“鳳凰”を信仰する少数の部族から発展が成されていったとされており、その信仰心は厚いものがある。

バルゥードゥの人々は信託を聞くために首都に日々列をなし、“鳳凰”は自らを信ずる者達のために信託を与える。

時に互いに支え合い、時に互いに助け合い生きているのが、バルゥードゥの営みなのである。

……首都で配られていたパンフレットより。

 

「というのがこの国の概要だ」

「一つの種族しか見かけないのって、矮人島(わいじんとう)みたい」

「そうだな、似ているところがあるかもしれないな」

 

今日の修学旅行はバルゥードゥという国に来ていた。

当然のように支部にいたラウさんに見送られ、首都の光景を見てみると、圧倒されてしまった。

どこを見ても鳥さん、鳥さん、鳥さんだらけ。

一応鳥さんといっても、血統が違うのか、外見は同じというわけじゃないのだけど。

先生が言うには、鳥人種(アーラ)という種族は、

 

「両腕が翼であり、空を翔ぶことができる人々だ。頭部は鳥そのものであり、口吻もくちばし状。その生態から眼球を動かすことが出来ないが、首の可動域は広い。腐肉食が可能で、他の人種が食べられない腐ったものでも栄養として摂取できる。飛行を可能とした分骨格が脆く、衝撃に弱い。骨折すると飛べなくなるため大変だそうだ」

 

ということらしい。

薄い血の人は頭も祖人(ホミネース)みたいなんだけど、濃い血の人は本当に鳥としか見えないので、初めて見るあたしは失礼だと分かっていてもついつい目で負ってしまう。

そういえば、帝都や他の国で見かけなかったのはなんでなんだろう。

 

鳥人種(アーラ)はこの国は例外として、あまり一箇所に留まらない気質を持つ種族でな。基本的に旅をして暮らしているか、集団で遊牧民のような生活をしているかのどちらかなんだ。だから、住民として他の国で見かけることが少ないんだな」

「なるほどね?」

 

そういうことならあまり見かけないのも仕方ないのかもしれない。

なんて、説明を聞いて納得していたら。

 

「わーい! 騎士団の行進だー!」

「急げ急げー!」

「?」

 

子供達がはしゃいでどこかに走っていくのが見えた。

騎士団?

なんだろう。

 

「バルゥードゥでは、一日に一度、パトロールも兼ねて、大通りを騎士団一行が行進するんだ。せっかくだから見に行ってみようか」

「いいね!」

 

早速見学しに行くことになったあたしたちは、元気に駆けていく子供達についていってみた。

開けた通りでは、騎士団のみなさんが行進している真っ最中だった。

 

「うわー、すごい」

 

あたしの中では騎士と言えばエルフリーデさんだったけど、“騎士団”という集団で見るのはなにげに初めてだった。

なんというか、威圧感がすごい。

先頭の人達は馬に乗って、堂々と街の大通りを闊歩している。

立派な鎧にマントを身に着けた人や、きっちりとスーツを着こなしている人は、側近のような人だろうか。

後ろに続く騎士の人達は、旗を持ったり楽器を鳴らしたりしている。

まるでちょっとしたお祭りのようだ。

実際、それを見る子供達の目はきらきらと輝いていた。

街の人達の憧れなんだろうな、きっと。

 

「…………」

 

そこでふと、先頭近くの側近のような人が、こちらをちらと見た気がした。

まさか。

 

「先生……」

「知り合いだよ」

「やっぱり……」

 

何処まで顔が広いんだ、この人は。

観光する時に便利っちゃ便利だけど。

 

「アンナ、今私のこと便利な道具扱いした?」

「シテナイヨー」

 

してないったらしてないよ。

ほんとだよ。

 

「まあそういうことにしておこう」

 

そういうことにしておいてくれた。

助かった。

なんてくだらないやり取りをしている間も、行進は続いて、騎士団のみなさんはどんどん街を進んでいく。

子供達は走って追いかけていくようだけど。

 

「行進が終わるまで街を見て回ろうか。終わったら、騎士団に会いに行こう」

 

先生がそう言うので、そうすることになった。

 

 

独特の建築物やら、この国の代表的な食事(堂々と鳥肉が出てきたのには少し驚いた)を楽しんだ後、先生に連れられて立派な建物に向かう。

どうやらここが騎士団のみなさんの詰め所らしい。

それにしては、ずいぶんとこう、建物の高さが大きい気がするけど。

 

「……はい、公認魔導師のミナカミ殿ですね。少々お待ちください」

 

衛兵さんに取り次ぎをお願いして、待つことしばし。

先程の行進で、先頭近くできっちりとスーツを着込んでいた人が現れた。

 

「やあ、ミナカミさん。お久しぶりですね」

「どうも。こちらは私の生徒のアンナといいます。以後よろしく」

「よろしくお願いしまーす!」

「これはこれはお嬢さん、元気よくありがとうございます。私はフォート・フォクア・フォルネ。ハリスホークの大鷲族(アクィラァ)です。ここ首都アルドバで、騎士団長補佐兼信託啓示役を請け負っております」

「しんたく……けーじ……」

「はははは、初見の方がいきなり言われてもわかりませんよね。道すがら解説させていただくとしましょう」

 

そうしてフォートさんに案内されながら、仕事の説明を受けた。

 

「騎士団長補佐というのは、まあ、聞いたとおりですね。そのまま、騎士団長の補佐役をしております。主な業務は書類仕事ですな。なにせ我らが騎士団長は書類仕事が苦手でいらっしゃられるので」

「相変わらず苦手なようですね」

「いや全く、直していただく気配は見受けられませんな。はははは」

 

笑い事かなあ。

笑ってるんだから笑い事で済むんだろうなあ、きっと。

 

「信託啓示役というのは、この国独特の業務ですな。我がバルゥードゥの鳳凰様についてはご存知?」

「あ、はい」

「それは結構。では信託についてもご存知という事で話を進めますが、その信託に立ち会うのが私の仕事なのですよ。まあ平たく言えば、鳳凰様の側近ですな。鳳凰様に刃を向ける不逞の輩からお護りする傍ら、鳳凰様のその日の健康状態などに合わせて、信託を取りやめる合図などを出す業務をしております。つまりは、こちらも補佐ですな」

「なるほど」

 

ダブルで補佐をしている人なんだ。

大変そうだ。

 

「まあ、やり甲斐のある仕事だと思っておりますよ。大変ではありますがね」

 

また心を読まれた気がする。

初めて合う人にもわかるとは、そんなにわかりやすいだろうか。

 

「わかりやすいぞ」

「まだ何も言ってないよ!?」

「ははははは」

 

笑われてしまったのである。

恥ずかしい、ああ恥ずかしい。

先生め、おのれ。

なんて思っていたら、ある部屋の前で立ち止まった。

フォートさんがノックをするとぶっきらぼうな返事が帰ってきた。

ドアを開けると、さっきの行進で先頭を行っていた人がソファーに腰掛けていた。

 

「おう、なんだフォート、客人か」

「やれやれ、団長。客人だと分かっているのに、その態度はなんですか」

「煩えな、いいじゃねえか、公事でもあるめえに」

「普段から騎士団長としての姿勢を心掛けろと言っているのです」

「あーあー煩え煩え、オレのカーチャンかてめえは」

 

煩わしそうに手(翼?)を振っている。

それを見てフォートさんはプリプリ怒って叱っている。

仲がいいんだなあ。

 

「で……、誰だ」

「良く話していた、魔導師のミナカミさんですよ。こちらはその生徒さん」

「ど、どうも」

「お初お目にかかります、団長殿」

「おお、そうか。良く来たな。オレ……いや、私は、鳥人種(アーラ)騎士団団長のミグ・セーファン・リーティ。ヒゲワシの大鷲族(アクィラァ)だ。以後宜しく頼む」

 

立ち上がって礼をしてくれるミグさん。

こうして立ち上がると、とても背が高い人だ。

フォートさんも長身だけど、それより頭一つ分大きい。

大鷲族(アクィラァ)というのはみんな大柄なんだと先生から耳打ちされた。

そして、それに見合わないほどに体重が軽いんだとも。

 

「お客人は本日何用で?」

「生徒さんの課外授業だそうですよ、この国の見学だとかで」

「ほう、そりゃ結構。隅々まで見ていってくれ。見られて恥ずかしいものなど何一つもないと自負している」

 

すごい自信だ。

そういうの、普通王様とか皇帝陛下とかが言うと思うんだけど。

騎士団長さんが言うんだ。

と、気になったので聞いてみることにした。

 

「あの……」

「なんだ?」

「この国って王様とかは……?」

「あぁ。居ないな」

「居ないんですか!?」

 

びっくりな答えが返ってきた。

まさか国なのに、王様や皇帝陛下がいないとは。

 

「この国のトップは鳳凰様であらせられるからな。あの方の信託の元、国家の運営及び治世がなされている。その手足となり動くのが、我ら騎士団というだけだ」

「なるほどぉ……」

 

そういう国もあるんだと、勉強になった。

 

「その鳳凰様ですが、お会いになられて行きます?」

「え、いいんですか?」

「おいフォート、そりゃいくらなんでも……」

「信託啓示役の私が言うんですよ。何か不服が?」

「……てめえがそう言うなら、問題ねえんだろうがよ」

 

いいのかな?

いいんだろう。

多分。

 

「一応オ……私も同行させてもらうぞ。客人がなにかすると決めつけるわけじゃねえが、一応な」

「決まりですね。ではこちらへ……」

 

…………。

流れに身を任せていたら、またお偉いさんと会う流れに?

あたしの人生、なんかこんなんばっかりな気がしてきた。

 

 

「こちらに座しておられますのが、我が国の信仰対象、鳳凰様であられます」

「でっっっっっっ……」

 

矮人島(わいじんとう)で見たツバキ様と同じくらい大きい。

平たく言うと、飾り羽がものすごくきれいな、ものすごくでかい鳥さんだ。

そのまま言うと失礼すぎるので、言わないが。

というか……。

 

「寝てる……?」

「起きてらっしゃいますよ。物静かな方であられるだけです」

「ひゅっ」

 

思わず息を呑んだ。

無礼だっただろうか。

 

「はははは、その程度でお怒りになられはしませんよ。寛容なお方ですので」

 

それを聞いて安心した。

怒られたらどうしようかと。

 

【フォートよ】

「はっ」

「!? なんか頭の中に声が!?」

「鳳凰様のご信託だ。そう驚くな、客人」

「は、はぇ」

 

フォートさんが跪いている。

これが信託啓示役のお仕事なのだろうか。

 

【久方ぶりだな、国民以外の者を此処に入れるのは】

「は。私めが許可しました」

【好い。客人よ、もっと近くへ】

「はい」

「は、はひ」

 

そう言われて、先生とあたしは鳳凰様に近づく。

何を言われるんだろう。

なにか、信託というものを授けられるんだろうか?

ちょっと恐ろしい。

なんて思っていたのに。

 

【────いやぁ、ミナちゃん元気してたァ? 直接会うのはひっさしぶりじゃァん!】

「鳳凰様こそお元気そうで」

【やーだもう、鳳凰様だなんて他人行儀なァ! 気軽にバルちゃんって呼んでって言ってんじゃァん!】

「そうは言いますけどね」

「軽ーッ!」

 

厳かな空気が吹っ飛んだ。

なんだこのノリは。

思わず本気でズッコケたよ。

どこが“物静かな方”なんじゃいと。

本当に信仰されているのだろうか。

後ろを見ると、団長さんは頭が痛そうに頭に手をやっているし、フォートさんは愉快そうに笑っていた。

知ってて信仰されてるんだぁ……。

 

【あ、そっちのお嬢ちゃんは初めましてだねぇ! 俺っちバルゥードゥ。気軽にバルちゃんって呼んで!】

「無理でーす!」

【あそう? 悪い悪い! 一気に距離詰めすぎか!】

 

国の一番偉い人をいきなりあだ名で呼べは難易度が高すぎた。

もっとこう、ルチルちゃんくらいまで難易度を落としてほしい。

というか、この鳳凰様の名前が国の名前になってるのか。

 

【ほんで今日はなに、観光?】

「そんな所です」

【なァーんだァ! もっと早く言ってくれりゃ色々準備したのにさァーあ!】

「急に決まったもので」

【ンーッ残念! ましょうがねえしょうがねえ!】

 

それにしてもこの鳳凰様、本当にノリが軽い。

普段どうやって抑え込んでるのか不思議になるレベルである。

 

「ちなみにアンナ」

「え。なに?」

矮人島(わいじんとう)に寄った時、ツバキ様は数少ない理性を保ったままで居る魔物だと言ったよな」

「うん」

「鳳凰様もそうだ」

「…………。えッ!!」

 

思わず後ろを振り返る。

鋭い目つきで“言いふらすな”と言われたような気がした。

こわいです。

 

【ハハハハハ、バレちった! ま、別に隠してねーから良いんだけど!】

「隠してはおりますよ。ミナカミさんがご存知なだけで」

【そだっけ? まーいいや!】

 

それでいいんだろうか。

 

【そんじゃ折角だし、そっちのお嬢ちゃん……アンちゃんだっけ! 信託でも与えちゃおうかなァ!】

「え」

【ちょっと待ってねー? はーいなんか出ろなんか出ろ~、ひり出せひり出せ~】

「信託ってそういう風に出すものなんですか!?」

【こんなもんだよ、ワハハハ!】

 

それでいいんだろうか。

不安になる、本当に。

 

【はい! 出ました! じゃん! ……っとぉ、これは…………】

「……?」

「どうしました?」

【んー…………。……ま、いっか。はい信託ターイム。フォーっちこっち来な】

「は」

 

フォートさんに耳打ちし、なにやらボソボソと話している。

こういうところはしっかりするんだなぁ。

やがて話し終わると、フォートさんがやおら真面目な顔をしてこちらを向いた。

な、なんだろう。

 

「アンナさん」

「あっ、はい」

「貴女には近い将来、大きな困難が降りかかるでしょう」

「えっ」

「ですが、それを打ち払う力も同時に現れます。それを手にするかどうかは、貴女次第……」

「……えっ」

「これが、鳳凰様より与えられた、信託となります」

「…………、……ええええ!?」

 

困難ってなに!?

打ち払う力ってなに!?

そこんとこ詳しく!?

 

【ごーめん、それ以上の事は俺っちでもわかんねーんだわ! ハハハハハ! 悪い悪い!】

「悪い悪いじゃなくて!?」

【ハハハハハハハハ!!】

「笑ってなくて!?」

 

笑い事じゃないんですけども。

とんでもない爆弾と言う名のお土産を渡されてしまったあたしなのであった。

 

 

【……ミナちゃんとアンちゃんは帰ったか】

「は。只今フォートが送り迎えをしております」

【ミグっち】

「は」

【これガチマジな話ね】

「聞かせていただきます」

【アンちゃんに言った困難っての、この国(うち)にも来るっぽいんだわ】

「それは…………」

【だんちょとして、心構えだけはしといて】

「…………」

【そんだけよん】

「……拝命仕りました」




◆ミグ・セーファン・リーティ

【性別】男性
【種族】濃血の大鷲族(アクィラァ) 血統:ヒゲワシ
【身長・体重】220cm 51kg
【年齢】37歳
【好きなもの】仔山羊の生肉 昼寝 妻子
【嫌いなもの】書類仕事 礼儀作法
【特技】1分で眠れる
【食事の嗜好】生肉から腐肉まで、肉食ならなんでも
【性格】短気 熱血
【一人称】俺(人前では私)
【武器】槍

・鳳凰崇拝鳥人騎士国家:バルゥードゥの騎士団長。
 平民から叩き上げでのし上がった騎士団長であり、身分を重んじるバルゥードゥでは珍しい存在。
 平民出のせいか礼儀作法に疎く、フォートから日々小うるさく文句をつけられている。

◆フォート・フォクア・フォルネ

【性別】男性
【種族】濃血の大鷲族(アクィラァ) 血統:ハリスホーク
【身長・体重】195cm 32kg
【年齢】48歳
【好きなもの】読書 作家のサイン会に参加
【嫌いなもの】騒々しいもの、場所
【特技】異様にほどけないちょうちょ結び
【食事の嗜好】素材の味を活かした繊細な料理
【性格】冷静で礼儀正しい
【一人称】私
【武器】弓

・鳳凰崇拝鳥人騎士国:バルゥードゥの騎士団長補佐。貴族。
 騎士団長に啓示を授ける役目を持っており、実質的な国長。
 その役回りゆえに普段から武装はしておらず、スーツを身に纏い事務仕事に従事している。
 冷静沈着で礼儀正しいが、激昂するとそれらをかなぐり捨てて暴れ出す悪癖がある。
 若い頃はそういった性根からかなりヤンチャをしていたらしいが、現在は矯正できている模様。
 趣味の読書は矯正の一環で覚えたものであり、努めて冷静であろうとする時には必ず本を読むことにしている。

◆バルゥードゥ

【性別】男性
【種族】鳳凰
【身長・体重】3454cm 22564kg
【年齢】1272歳
【好きなもの】ハッピーなこと
【嫌いなもの】アンラッキーなこと
【特技】預言・未来視
【食事の嗜好】肉類ならなんでも
【性格】陽気
【一人称】俺っち
【武器】翼

・鳳凰崇拝鳥人騎士国家:バルゥードゥに君臨する鳳凰その人(?)
 なるべく威厳ある態度でいてください、と配下のものから懇願されているが、その実態はとても陽気な性格であり、堅苦しいことが嫌い。
 昔から周囲の人間にある程度の未来視で将来を教えていたらいつの間にか崇拝されるようになり、彼を中心に国家が出来上がった。
 崇拝されることに辟易しており、あくまで自分を慕ってくれているという建前がなかったらすぐにでも逃げ出したいくらいには思っている。
 基本的には与えられた社で大人しくする日々を送っているが、国家の有事には羽目を外し暴れまわる。
 その正体は世界でも数少ない“理性を保ったままでいる魔物”であり、マナ飽和症の重篤な罹患者。
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