「うーん」
「?」
たまには修学旅行にいかない普通の授業をしていた日のこと。
先生が、実技をしているあたしを見て何やら唸っていた。
「どしたの?」
「アンナは伸びしろはあるんだけど、いまいちな……」
「なにが?」
「実践的でないというか……」
「そんな事言われたって」
実際に戦えないんだからしょうがないじゃない。
戦争に行くわけにも行かないんだから。
「実際に戦う……? そうか」
「なにか思いついたの?」
「明日は実際の戦いを見に行こう」
「へ?」
………………。
まさか、戦場に放り込まれるなんて言わないよね?
◆
「
「それはわかったけど、なんでその
「
「ころっせうむ」
────
帝国領内に存在し、主に観光業をメインとした商売を展開している。
好戦的な種族として知られる彼らが展開する観光業とは、闘技である。
自治区の中心部に据えられた
また、闘技者による死刑囚の処刑にも使われており、観衆の残虐な心を満足させるのにも、一躍買っている。
……
「というわけで、本場の戦いを見学しようと思ってな」
「あーびっくりしたぁ。まさか殺し合いでもさせられるのかと思ったよ」
「アンナは私を何だと思っているのか」
「たまにすごく変なことする先生」
「悲しいかな否定できない」
この先生、たまに、というか常に、何するか分からないからな。
いきなり突拍子もないことを始めては振り回されるのはあたしだし。
なんだかんだで勉強になってるから、いいっちゃいいんだけどさ。
とかなんとか思っていたら、試合場にキッチリとスーツを着込んだ男の人がやってきた。
あの人が戦うのかな?
まさかね。
「会場にお集まりの皆さん、長らくお待たせいたしました! 本日も、熱狂の時間が始まります!」
『うおーッ!!』
『いいぞーッ!!』
『はやく始めろーッ!!』
「ヤジがすごい!」
「それだけ人気の興行だということだな」
拡声の魔導具(っぽい物に見える)で声を張り上げた男の人に続くように、観客のみんなが大声を張り上げる。
なにげに、ここまで大勢の人に混じるのは初めてな気がする。
なんだか一体感を覚えるような気分だ。
「まずは第一回戦! 選手入場ーッ!!」
試合場の両端にある門が上がって、武装をした人が二人歩いてくる。
いかにもこれから戦います、というような装いだ。
まさかとはおもうけど……。
「これから殺し合います、なんて言わないよね?」
「安心しろ、あの司会兼審判がその前に止める。それ以前に、武器には刃がついていない。模擬戦のようなものだな」
「なんだ、よかった」
眼の前で人死にを見せられたらまた気絶してしまうかもしれない。
殺し合いじゃなくてよかった。
「もっとも、これは昼の部だから殺し合いにならないだけで、夜の部では殺し合いもあるけど」
「ヴェッ!?」
あるの!?
おっかないなぁ……。
夜は見ないようにしよう、あたし。
「お、始まるぞ」
先生の言う通り、大きな金属音が鳴って、向かい合っていた二人がぶつかりあった。
剣が振るわれ、盾で受ける。
斧が音を唸らせ身体に迫り、なんとか避ける。
斬れないようになっているとわかっていても、恐ろしく見えてしまう。
「は~……、見てるこっちがひやひやするよ」
「参考にしてくれないと、連れてきた意味がないぞ?」
「わかってるけどさあ」
このままじゃ見ている側のほうが持たないんじゃないかな。
そう思っていたあたしであった。
◆
そう思っていたんだけど。
「おどりゃーッ!! やれーッ!! 手ぇ抜くなーッ!! もっと気合入れろーッ!! 後ろだよ後ろ何処見てんだ油断すんなー!!」
いざ観戦にハマったら熱狂してしまっていました。
応援すると決めた方に苛烈すぎるヤジを飛ばして、腕を振り上げ、ガッツポーズまでする熱を入れる気の入り様です。
横で観戦していたおじさんがいつの間にか居なくなっていたのは気になったけど。
あたし実は結構、その場に空気に流されやすい気質なのかも知れなかった。
自分でもびっくりするほどノリノリである。
「視界が甘いよ何やってんの!! あーもういい変わってッ!! あたしがやるッ!!」
「アンナ、ヘッドロックはやめろ、ヘッドロックは」
普段鍛錬してるあたしより槍捌きが甘い選手を見ると思わず変わってやりたくなってしまう。
気がついたら片腕で先生の首を絞めていた。
「っしゃ!! っしゃーッ!! よくやったーッ!! 褒めて遣わすッ!! 気に入ったッ!! ウチの先生をあげるぞッ!!」
「やめてくれないか?」
応援していた選手が勝ったので、喜びのあまり先生を抱えあげてしまう。
そのまま放り投げてしまいそうな勢いだったけど、先生から待ったが入って、自分のやっていることを冷静に見つけ直し、先生を下ろす。
ちょっとブチ上がりすぎか、あたし。
さあて次の試合はどんな戦いが見れるかな、と期待していたら、司会の人が真ん中にやってきた。
なんだろう?
◆
「ご来場の皆さん、大変長らくお待たせいたしました! これよりお待ちかね、チャンピオンの試合をご覧に入れましょう!」
『ワァーーッ!!』
「チャンピオン?」
「この闘技場で一番強い人ってことだな」
「……なるほどね?」
それはそれはまた。
非常に期待できそうで楽しみな話になってきたね。
選手入場門が今までと違い、重々しく、焦らすように上がっていく。
「さァ皆さん、拍手と歓声でお出迎え下さい!」
『うおおおおおおおおああああああああああああああッッ!!』
「うおぉ、すごい熱気」
「大人気だな」
周りのお客さん達も観戦中のあたしばりにブチ上がっているのが分かる。
出てくると聞かされただけでこれだ。
よっぽどの人気のある人なんだろうな。
「連戦無敗のチャンピオン! 彼女の名は! ────
『アルマンディン!! アルマンディン!!』
「キャーッ! 返り血の王!!」
「四腕の戦鬼!!」
「今日も残虐ファイトを見せてくれーッ!!
「通り名が多いね?」
「有名なんだということだろう」
ずいぶん通り名が多いチャンピオンさんが暗闇から姿を見せた。
まず一目でわかるのは、かなり背が高く、筋肉がずいぶんとついている女性だってことだった。
腰には二本の剣、一本の斧、盾をひとつぶら下げている。
ずんずんと大歓声の中でも響き渡る足音を鳴らしながら大股で歩いてくるさまは、かなりの自信家であると伺えた。
それに、耳が長くて角が生えている。
他の
「あれは
なるほど、角が生えている種族もいるってだけか。
普通より大きくなるから、一番強くなれたんだろうか?
そんな人気のチャンピオンさんは、司会の人から拡声の魔導具を受け取ると、口を開いた。
ファンにお礼でも言うのかと思っていたら。
「────黙れお前ら、ブチ殺すぞ」
周りが静まり返る。
……怖っ。
「オレの楽しみを邪魔する野郎は、誰であろうとブッ殺す」
二本の左腕で、首を切るようなハンドサインをしてみせた。
やっぱり怖っ。
こんなの観客冷え冷えなんじゃないの?
そう思っていたのに。
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッ!!』
『アールマンディン!! アールマンディン!! アールマンディン!!』
……余計に盛り上がっていた。
わからないなあ。
怖いだけじゃないのかな。
「マイクパフォーマンスってやつだろう」
「まいくぱ……なに?」
「形だけ言って見せるってこと」
「なるほど……?」
いつも言っているお決まりの文句って事なのかな?
それならファンサービスとして盛り上がるのもわからなくもない。
悪く言えば……口だけ?
そんな失礼なことを思っていたら、ぎろりとチャンピオンさんに睨まれた気がした。
いえ、なにも考えてませんにょ?
あたしが目をそらしているうちに、チャンピオンさんの対戦相手が入場していた。
かなり大きい魔物だ。
あちこち盛り上がっていてわかりにくいけど、イノシシだろうか。
檻の中に入れられているけど、いますぐにでも檻を壊してしまいそうだ。
その檻を運んだであろう職員さんはそそくさと退場していった。
それを見てチャンピオンさんはゆっくりと、斧だけを片手で抜き放ち、もう片方の二本の腕でくいくいと魔物を挑発した。
挑発されたことが分かったのか、より暴れ出した魔物は、ついに檻を壊すと、その場にいる唯一の獲物目掛けて突進していった。
「──ぉおらァッ!!」
……勝負は一瞬でついた。
気合の雄叫びとともに、斧を振り下ろして、それだけ。
たったそれだけで魔物の身体は真っ二つになってしまった。
真っ二つになった魔物の首を、斧で斬り落とすと、チャンピオンさんはそれを見せつけるように高々と掲げてみせた。
思いっきり垂れた血を頭からかぶっているけど。
そういうことをパフェ……パフォーマンス? でするから異名が“
『たったの一撃ィィィィーーーーッ!!』
『キャァァアアーーーーッ!!』
実際観客はとても盛り上がっている。
あたしとしてはもっとこう、激戦を見せてほしかったんだけどな。
まぁ、でも、純粋にすごいとは思った、うん。
チャンピオンさんはつまらなそうに首を放り捨てると、血も拭かずにさっさと戻っていってしまう。
「あれ……、もう出番おしまい?」
「今日は挑戦者が現れなかったそうだから」
「良く知ってるね、先生」
「聞いていたからな」
「…………?」
またなにか先生が含みのあることを言っている。
あたしはこの時点で既に嫌な予感がしてきていた。
「さて、じゃあ行くか」
「えっ、帰るの?」
「いや、面会だよ」
「…………誰が? 誰に?」
「お前が。チャンピオンと」
「…………」
また心の準備もなしに偉い人と会わされるんですか、そうですか。
あたしの人生、こんなんばっかですか。
段々なれてきたよ、もう
◆
「あー。今日客が来るって聞いてたけど、あんたらか」
シャワー上がりなのか、濡れた髪をタオルで拭きながら、ラフなシャツで出てきたチャンピオンさんは、さっき見た印象とはまるで違った。
こっちが素なのかな。
「ま適当に座ってくれよ。酒飲みながらでいーか」
「あ、どうぞ」
酒瓶を開けて乱雑にソファーに腰掛けるチャンピオンさんからは、ソファーが思い切り軋む音がした。
見た目の筋肉通り、体重はかなりありそうだ。
背も高いし、普通の種族より腕が二本も多いしなぁ。
言われた通り、あたし達も机を挟んで対面のソファーに腰掛ける。
特に軋む音はしないでなんだか少し安心した。
「それで? えーと……」
「ミナカミと言います。こちらは教え子のアンナ」
「ど、どうもよろしく」
「ミナカミとアンナね。オレにインタビューしたいんだったか?」
「……そうなの?」
「そういうアポを取っておいたからな」
「先に言ってよね……」
この先生は本当にあたしになんの相談もなく話を進めるのが得意である。
振り回される方の身にもなってほしい、まったく。
「なんだったか、強さの秘訣だったっけか」
「え、そうなの?」
「始めからアンナの実技のための修学旅行だからな」
「そういえばそうだった……」
言われて思い出すあたしもあたしだけど、言わないと思い出せないような状況に連れ出す先生も先生だと思うな。
あたしは。
「しかしなー、いざ強さの秘訣と言われてもなー。オレはガキの頃から完全に我流だし……。とにかく経験を積めとしか言えねーな」
「ガキの頃って……、今幾つなんですか?」
「オレ? 18」
「えッ、あたしの一個上!!」
「なんだ歳近いじゃねえか、てめーも頑張れよ」
「ええええ」
あたしはいままで村の隅っこで農作業したりようやく塾で勉強したりしてる程度なのに、この人はこんなでっかい建物でチャンピオンやってるなんて……。
ルチルちゃんの時も思ったけど、育ちの差ってすごいよなぁ。
「オレは孤児出身でなあ。親父もお袋も住んでた村ごと賊にやられちまったんだ。その時に助けてくれたのは第一皇子だった第二だったか……」
「そんな事もあってとにかく強くならなくちゃって思って、
「もう10年以上になるかな、
「その間ほとんど毎日戦い続けてたんだ。休みなんてほぼ無しでな」
「それが強さの秘訣っつーなら秘訣なんじゃねーか」
「ふぇー」
なんだかすごい話を聞かされている気がする。
そりゃそんな人生歩んでいたら、強くもなれるよなぁ。
「でアンナは強くなって何がしてーんだ」
「えっ……、なんだろう」
「なんだよ、特にねーのか」
急に聞かれても答えられない。
塾では運動のために木の槍を素振りしたり型のとおりに突いたりしてるだけだもの。
そりゃこの前、王妃様のボディガードができたりしたけど。
なんのため……なんだろう。
誰かを助けられたら……それでいいのかな。
多分……。
「今はただ腕を磨いているだけですかね。あくまで塾の生徒ですので」
「ふーん。まいいんじゃねえの、漠然としてても」
「いいんだ」
そこは曖昧でも良いんだ。
チャンピオンさんから直々に漠然としててもいいと言われると、背中を押されたような気がする。
気がするだけかも。
「特にこだわってねえからな、オレは。ただ……」
「ただ?」
「いざ強くなった時に、その力を何に使うとか、目標……違うな、指標? そういうのがねーと、ただの暴力にしかなんねーぞ」
「…………」
「そこは気をつけといたほうがいーぜ」
「だとさ、アンナ」
「う、うん」
ただの暴力にしかならない、かぁ……。
うーん、気をつけよう。
なんとなくだけど、それは大事な考えな気がする。
と、そう考えていたら、部屋にノックが響いた。
お客さんかな?
「お。わりーな、次の予定が入ってんだ。インタビューはここまででいいか?」
「ええ、十分ですよ。どうもありがとうございました」
「あ、ありがとうございました」
「いーっていーって。これも仕事の内だかんな」
ぶっきらぼうに手を振るチャンピオンさんとお別れし、あたし達は
なんのために鍛えるのか。
なんのために戦うのか。
これだ、っていう答えは知れなかったけど、今後のために、大事な考えは貰ったような気がした。
◆
「力を何に使うかの指標か……。自分で言っといてなんだが……。オレは何に使いたかったんだろうな。少しでも自治区の治安維持に繋がりゃ、それでいーのかね。よくわからん」
◆
【性別】女性
【種族】
【身長・体重】287cm 425kg
【年齢】18歳
【好きなもの】自分を殺しにくる相手を殺し返す ぼーっと丹精込めて育てた作物を眺める
【嫌いなもの】肉類を美味そうに食ってるヤツ(羨ましいから)
【特技】農作業
【食事の嗜好】菜食主義(動物性タンパク質アレルギーのため半強制的にそうなった)
【性格】威圧的 傲岸不遜 根は優しい
【一人称】オレ
【武器】双剣・斧・円盾(全て同時に扱う)
・「血塗れ」は異名。本名は「アルマンディン」だけ。
別名「処刑人(エクスキューショナー)アルマンディン」「四腕の戦鬼」「返り血の王」
ソディア帝国領内、
基本的には昼の部(殺しなしのルール)で頂点に立つ武闘者だが、
夜の部(殺しありのルール)では死刑囚及び拿捕された賊を相手取るため処刑人ともあだ名されている。
場外でときおり威圧的に振る舞うこともあるが、“自分の存在で治安が引き締まるならそれでいい”と考えている責任強い一面からくるもの。
実際に市民に手を上げたことは一度もないが、盗人や暴行犯を現行犯逮捕と言わんばかりに叩きのめす事はあるのでそれなりにビビられている。
死刑囚は死刑囚同士で殺し合い、「3人殺したら無罪放免」という約束のもとコロシアムで戦わされる。
そしてその3人目に出てくるのがチャンピオンという寸法。
あと一人でシャバに出られると脳内麻薬バリバリ殺意ギラギラの相手をぶち殺すのが快感とは本人談。
死刑囚を殺めるのは趣味半分仕事半分と言った所で嬉々として相手を殺める姿に興奮する客もおり恐怖する客もいる。
生まれつき動物性蛋白質アレルギーで肉を食べると息苦しくなってしまうのでなし崩し的に菜食主義者。
肉を美味そうとは思っているらしい。特に漂ってくる匂いはかなり好みなためツラいんだとか。
趣味は農業。興行と処刑の功績により帝都の一等地に農地をもらっており、試合のない日は畑仕事に精を出している。
牧畜は「自分で食べられないのが悔しい」のでやっていない。牧羊には手を出そうかとたまに考えているとか。
性別的には女性ではあるのだが、一人称や口調、振る舞いなどから異性として見られることは全くと言っていいほどない。
整った容姿に反する巨躯からか、何人も殺している威圧感からか。