田舎村の魔導塾   作:鵲一号

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032:魔導の国

今日も今日とて修学旅行。

先生と一緒に旅の準備をしております。

今日は何処へ行くんだろう?

 

「以前、“はじまりの五人”については話したよな」

「授業でやったよね、ルチルちゃんが居た時」

 

なんだっけ。

確か、魔導文明が始まるきっかけになった人達、だったっけ?

すごく立派な考えを持った人達だったって絵本で読んだことがある。

というか、お母さんに読んでもらった、が正しいんだけど。

それがなんだろう?

 

「その“はじまりの五人”が建国した、我々魔導師の総本山。魔導国家マナディエールにまだ行っていないと思ってな」

「あ。そーいえばそーだね」

 

そっか、そういえば国を作っていたんだっけ。

それが今もまだ続いているなんてすごい話だよなぁ。

そう言われてみると、行ってみたいかも。

興味が出てきた。

 

「と言う訳で、案内しよう。我々の“ホーム”へ」

 

先生に促されて起動した“ポータル”に乗る。

いつものように、視界が真っ白に包まれた。

 

 

やがて視界が戻ってくると、今までの支部と同じように屋内だった。

ただ違うのは、圧倒的に広いのと、天井がびっくりするほど高かったこと。

 

「うわぁ……、天井高」

「毎度思うけど、最初に見る所は天井なんだな」

 

しょうがないじゃん、まず上を見ちゃうんだよ。

いつも空ばっかり見てるからかなぁ。

なんとなく上を見上げちゃうんだよね。

それにしても、こんなたっかい天井の建物が、もう何百年も残っているなんて信じがたいと言うかなんというか。

改めて考えるとすごい話だ。

 

「ん? あれ……、室内なのに松明?」

 

ふと広間のように開けた場所を見ると、松明が高く掲げてあるのが見えた。

いかにも特別感を醸し出しているように見える。

というか、室内なのに火が灯っているのは珍しい。

普通は魔導で照らされて、明かりが付けられているものだから。

電気を使っているんだっけ?

詳しい仕組みは知らないけど、火は使ってないはずだったと思う。

 

「あぁ、あれは……」

「────“文明の火”ですね」

「ぶんめ……ひぇいっ!?」

 

先生が説明をしようとしたら、他所から声がかかった。

それに気付いて振り向いてみると……、植物のクキが丸まったような顔の人……人? がいた。

人?

本当に人なのかな?

いや、でも、声を発したから人なのかな……。

 

「局長」

「きょ、きょく、この人(?)が……?」

 

局長っていうと……、この、魔導研究局の長の人ってことですか。

ここで一番偉い人ということになるんだけど、この人(?)が……?

声に出して言うのはあまりにも失礼だからできないけど、ちょっと、その、なんというか。

不気味っていうか……。

よく見ると手も植物のクキが丸まっているように出来ているし……。

 

「はははは。蔓族(ウィーティス)を初見の人の反応は慣れていますよ。お気になさらず」

「局長も局長で隠さずでてくるからな」

蔓族(ウィーティス)……?」

「御覧の通り、身体が蔓で出来ております。四肢だけでなく胴体も。まぁ、見せるものではありませんが」

「はぇー……」

 

ツルっていうと、やっぱり植物のクキみたいな感じなんだろう。

どこに心臓とかあるんだろう……。

ていうか、失礼な話だけど、脳とかもちゃんとあるのかな……。

初めて見る種族の人だから、わからないことだらけだ。

 

蔓族(ウィーティス)植物人(アルボル)と言って、動物ではなく植物と融和した種族なんだ。だからその身体の作りも、動物とは大きく違っている。臓器なども殆どは無く、独自の生態系をしているんだよ」

「はへぇ」

 

そんなあたしの困惑を機敏に読み取ったのか、先生から解説が入った。

なるほど、動物とはそもそもが違う種族なんだな。

……アレ? じゃあどうやって物事を考えたり、歩いたり飲んだり食べたりしているんだろう?

細かいことは考えないことにした。

だって考えだしたら頭がパンクしそうだったから。

 

「改めて。私は植物人(アルボル)はヤドリギの蔓族(ウィーティス)。名をレベッカ・キルビヴァーラ・ヨハンネス。以後宜しく、同士ミナカミの生徒さん」

「あ、そんなことまで知ってるんですか」

「えぇ、定期連絡で貴女の話は良く聞きますよ」

「なにをくっちゃべっていますかね、この先生は」

「ははは」

「はははじゃないが」

 

有ること無いこと言ってるんだろうな、この先生は。

全く困った人だよ、全く。

あ、人じゃないんだったっけ。

 

 

「えーっと、あたしはアンナです。……レベッカさん? ヨハンネスさん?」

「どちらでも構いませんよ。私は両性具有ですので、男女どちらもの名を名乗っているに過ぎません」

「りょうせいぐゆう」

「男性女性、どちらもの特徴を併せ持っているってこと」

植物人(アルボル)の人はみんなそうなの?」

「いや、局長が突然変異なだけだ。普通は雌雄別だよ」

「はへー」

 

突然変異……かぁ。

生まれからして特別だってことかぁ。

魔導師さん達の一番偉い人を務めるには、そうでもなきゃやってられないってことなのかな?

よくわからんけど。

 

「しかし、局長が部屋から出てくるとは珍しい」

「貴公の気配を感じましたからね。同士」

「あ、私か」

 

どうやら局長さんは普段はインドア派の出不精らしかった。

それが先生の気配だけで出てくるっていうんだから、仲がいいんだろうなぁ。

……一番偉い人と仲がいいのか、先生。

先生の人脈、どうなってるんだろう。

 

「よければ本部を案内しましょう」

「いいんですか?」

「ええ。ヒマですし」

「ヒマなんだ……」

 

偉い人って結構やること有ると思うんだけど、局長さんはそうじゃないのかな。

それとも、やることはすぐに全部終わらせちゃうタイプなのかな。

どちらにせよ、ヒマらしいので、ご厚意に預かって案内をしてもらうことにした。

 

「まずはこのエントランスから。初めに目につくのはやはり、文明の火でしょうね」

「それは私が説明しよう」

 

二人は松明に視線を向ける。

釣られてあたしも松明を見た。

魔導の明かりはしっかり付いているはずなのに、それに負けないくらいの光を放っている。

見続けていると、なんだか吸い込まれそうな錯覚すら陥ってしまう。

不思議な魅力があると言えばいいんだろうか。

 

「魔導文明が暦を刻み始めたその初日、“我々の世界は文明の明かりが灯った”という証明の為に、粗末な松明に火を点けた者が居た」

 

先生が話し始めた。

その口調は何処か、昔を懐かしむようなものに感じられた。

 

「その者にとっては単なる意思表示、さらに言えば、格好つけでしかなかったんだろう。しかし、その光景に甚く感銘を受けた周囲の人物は、松明に点った明かりを消さないように、と。文明という“明かり”が消えないようにと、願いを込めた」

 

局長さんも遠い目をして話を聞いている。

……そもそも、どこに目があるのか分からないから、カンでしかないんだけど。

 

「時に松明を変え、時に燃料を足し、決してその明かりが消えないよう、管理と保護をしてきた。その行動も、のちの時代の人物達に受け継がれ続け……。脈々と、魔導文明が始まった日から今日まで、あの火は、燃え続けている」

「はぇ~……」

 

じゃあ、もう何百年もかけて、ずーっと燃え続けているんだ。

そう考えると、不思議な魅力があると感じたのも納得がいく。

神秘的っていうんだろうか。

 

「魔導で燃やし続けてる、とかじゃないんだ」

「あぁ。人の手だけで、あれは管理されている」

「…………すごいや」

 

ただひたすらに感心することしか出来なかった。

この火は、歴史の生き証人なんだ。

生きてるかどうか、わかんないけど。

 

「あ、でもそういうのなら消そうとする悪い人がいるんじゃない?」

「それなら大丈夫だ。燃料切れなど以外、つまり外的要因で火が消えないように魔導で防護されているから」

「いやそこは魔導使うんかい」

「魔導文明だしなぁ」

 

ちょっとズッコケかけた。

継ぎ足し継ぎ足しで燃やし続けてはいるけど、消えないようにはしてるのか。

う~ん、それを聞くと、すこし神秘さが薄まるような……。

っていうと、頑張って燃やし続けている人に失礼かな。

ちゃんと守らなきゃいけないものなのは、確かだろうし。

 

「話を聞くと今でも思い出しますよ、眩いほどの火が灯された、あの日のことを」

「へ? 局長さん、今おいくつ……?」

「魔導文明歴と同じ年齢です」

「すごい長生きだ!?」

 

てことは……局長さん800歳以上!?

植物人(アルボル)の人は長生きなのかな……?

それとも、突然変異って言ってたから特別長生きなのかも……?

外見から老けてるのか若いのかわからないから、なんとも言えない……。

後でそのへんのこと、先生に聞いとこ。

 

「それでは、こちらへどうぞ。本部を案内しますよ」

「あ、どうもどうも」

 

それはともかく、局長さんに先導されて、案内についていくことにした。

最初からこっちが目的だったんだから、忘れないようにしなくちゃ。

修学旅行なんだから。

 

 

「こちらは共同研究室です」

「はぁー」

 

最初に案内されたのは、いろいろな魔導具らしきモノがいっぱい置いてある部屋だった。

とても広いその部屋の中では、先生と同じようにローブを着た魔導師さんらしき人達が、魔導師らしきモノと向かい合っては、一心に何かをノートに書き込んでいる。

何かを燃やしてる人もいれば、何かを水につけている人もいる。

電気を起こしている人もいた。

土を眺めては、何かを振りかけている人もいるようだ。

なにをしているのかチンプンカンプンだけど、とにかく研究しているってことだけは伝わってくる。

あたしも魔導師になったらこういう事をするようになるんだろうか?

よくわからない……。

よくわからないので、詳しい話はともかく、見学するだけにしておいた。

もちろん迷惑をかけてはいけないので、遠巻きに。

 

 

「こちらは仮眠室」

「ひぃー、誰か寝てる」

 

仮眠室ってことは、疲れた人が休む場所なんだろう。

そんなところで寝てる人がいるってことは、疲れが溜まってる人だってことなんだろう。

大変だなぁ。

まだ太陽が上の方にある時間帯だよ。

そんな時間から疲れてるのかぁ。

……と思っていたら。

 

「あぁ。彼女は常に寝ていますよ。それが仕事ですから」

「ん? どこかで見たような……」

「ラウさんの本体だな」

「あッ!! そういえば確かにそうだ!!」

 

どこかで見たと思ったら、メガネをしていないラウさんの寝顔だった。

そういえば言ってたっけ。

分身体を動かしている時は、本体はずっと寝ている、って。

ここで寝ていたんだ……。

ラウさんの本体には、何やら薬みたいな色合いの水が入った入れ物から管が伸びて繋がっていたり、ひっきりなしに高い音が鳴っている魔導具らしきモノが繋がっていたりしている。

端から見て、とてもじゃないけど健康そうには見えないけど、大丈夫なのかな。

分身体があれだけ元気そうだから、大丈夫なんだろうけど。

ちょっと心配になる。

 

 

「こちらは資料室ですね」

「ふぅー」

 

纏められた紙束がいくつも山のように積み重ねられている部屋に案内された。

棚もいくつもあり、その中にもやっぱり山のように紙束が重ねられている。

これが全部、いままで研究してきた成果なのだと説明された。

とんでもない数だ。

この部屋もとんでもなく広く、先が見えないほど紙束が置かれている。

全部に目を通すとなると、何年かかるのか分からない。

そりゃそうだ、何人もの魔導師さんが研究してきた成果が纏められているのだもの。

一人で見ようと思うのは無理ってもんだよ。

でも、魔導師になろうとするなら、これらを全部目を通さなければならないのだろうか?

……あたしには無理な気がしてきたぞ?

見ているだけで頭がパンクしそうだもの。

 

 

「こちらが書庫」

「へぇー」

 

今度はさっきの資料室とは違い、しっかりと装丁された本が本棚に収められている部屋だった。

なんでも、世界中から発行された魔導に関する本を書物として纏めているんだとか。

ついでにいうと、魔導に関する本(正確には魔導書というらしい)は、支部なり本部なりに申請しないと発行出来ないので、発行が認められた本は全部この書庫に収められるそうだから、事実上世界中の魔導書が集まっているんだとかなんとか。

ここもまた、天井も高いし広いし、その天井まで届くほど本棚が積み重なっている。

上の方の本を取るにはハシゴを使わなければ取りに行けないとかなんとか。

本を取るのにハシゴが必要だなんてのもすごい話だ。

もちろん階段もあって、吹き抜けの二階三階と繋がっている本棚まで取りに行けるみたいだけど。

しかしまあ、ここもすごい数の本がある。

これも全部読むのには何年もかかるんだろうなぁ。

無理だね、こりゃあ。

魔導師になるのは。

 

 

「こちらは実験室となります」

「ほぉー」

 

一見すると何もない、だだっ広い部屋のように見えた。

よく見ると、あちこちススでコゲていたり、ひび割れていたり、一部だけ壁の素材が変わっていたりなど、妙な箇所があるのに気づいた。

なんでも、魔導の実験をする時はこの部屋を使うらしい。

実際に局長さんが、電気を起こしたり、火を起こしたり、地面を盛り上がらせたりなんかして見せてくれたけど、部屋そのものはビクともしなかった。

相当頑丈な作りで出来ているみたい。

他にも魔導を発動させるための巻物(魔導巻(スクロール)って言うんだって)の開発実験にも使うらしく、見学している時にいくつかの巻物を手にした魔導師さんが入ってきては試しに使っているのが見えた。

何もない部屋に見えるけど、重要な部屋なんだろうなってことは分かった。

 

 

「こちらは、観光客向けの歴史館となります」

「観光客向け?」

 

歴史館、と言われて目を向けると、なんというか、雑多な部屋だな、という感想が出てきた。

あちこち色々な者が散らばっていたり、本が出しっぱなしになっていたり、書きかけのノートがそのままにされていたり。

コップなんかも出しっぱなしになっている。

まるで、今まで誰かが住んでいたかのような部屋だった。

いや、部屋というよりも、家?

そんな感じに見える。

 

「“はじまりの五人”の終の棲家、と言えば分かりやすいでしょうか」

「あ、そういえば……、そのまま残ってるって話だっけ」

「その通り。ある程度掃除はされていますがね」

 

言われてみれば、そうだった。

それで家って感じに見えたのか。

見えるも何も、ここは家そのものだったんだ。

“はじまりの五人”が住んでいた家。

なるほど、確かに観光客向けだ。

見ているだけで、なんだか感じ入ってしまうものがある。

魔導文明は、この家から始まったんだなぁ。

 

 

「本日はどうも有難うございました」

「あ、いえいえ、こちらこそどうも、すいません急に、うちの先生が」

「なんでお前が謝るんだ。私は別に何時戻ってきても怒られる筋合いはないんだぞ」

 

普段は出てこないっていう局長さんが、先生の気配でわざわざ出てきたって言うから。

ここは生徒としてビシッと謝っておかないと、と思って。

先生からはツッコミを入れられてしまったけど、あたしは割と本気だったぞ。

 

「はははは、仲の宜しいことで」

 

局長さんはからからと笑っていたけど、表情がどこにあるのかわからないので、声だけでしか笑っているのが分からなかった。

ううむ、良い人なんだろうけど、何を考えているのか分からない人でもあったなぁ。

うちの先生とは、また別の方向性で。

 

「それじゃ局長、無理はせんように」

「ええ、肝に銘じておきますよ」

 

先生が局長さんに別れの挨拶をすると、あたし達は“ポータル”に乗って帰っていくことになった。

今までの国と違って、本部の室内を見て回っただけだったけど、充実した一日になった気がする。

魔導文明の成り立ちとか、魔導師さんが普段どうしているのかとか。

そういうのを、知れたと思う。

 

 

「長かった修学旅行もこれで一段落だな」

「え、そーなの?」

 

帰ってきて早々、先生はそんな事を言いだした。

今まで色んなところに行ったけど、まだまだ行ってない国とか場所とかはたくさんあると思うんだけど。

 

「あぁ。言っていない国はまだいくつもあるけど……、今のところはね。あくまで一段落というだけさ」

「そーいうもんかー」

 

そう言われたらそういうもんかと思うしか無い。

なにせ、“ポータル”は先生がいないと使えないのだ。

勝手に使うと何処に行くか分からないし、それで迷子になったらお手上げである。

そんなものは使わないに越したことはない。

それを使える先生が今はおしまいって言うなら、おしまいでしかないんだろう。

 

「これでアンナも少しは座学が出来るようになっているはずだと信じて……」

「…………が、頑張ろうとは思いますよ?」

「本当かなぁ」

 

先生は訝しげな声をしていたけど、頑張りますよ……、そりゃ、あたしだって……。

修学旅行で得た経験でねえ、座学だってねえ、頑張れる……と思いますよ、そりゃ。

………………。

頑張れると思いますよ。




◆レベッカ・キルビヴァーラ・ヨハンネス

【性別】両性具有
【種族】濃血の蔓族(ウィーティス) 血統:ヤドリギ
【身長・体重】190cm 35kg
【年齢】885歳
【好きなもの】読書 知を蓄える行為
【嫌いなもの】喧しい人物
【特技】ブレイクダンス(本人は“タンブルウィードのマネ”と言い張る)
【食事の嗜好】薄味の果実水全般
【性格】多弁・会話(議論)好き
【一人称】私
【武器】長杖

・魔導研究局創立者及び初代局長にして、“現局長”
 “文明の火”を灯したのも彼である。
 寿命の長い植物人らしく、創立から今でも長らく生きている。
 文字通り歴史の生き証人。
 魔導局の創立者であるので、同時に魔導国家マナディエールの創立者でもある。
 ただ、本人の意向により国家の長は務めていない。
 両性具有(変異種。どの人類種でも稀に生まれる)であるため、男女両方の名を名乗っている。
 別に両性具有はみんなそうしなければならないわけではなく、彼が変わり者なだけ。
 魔導文明歴開始と同年齢だが、これは彼が突然変異個体なことに起因している。
 生まれつき(本当に誕生した瞬間)識者顔負けの知識と頭の回転、魔導の腕前を持っていた彼はその年のうちに魔導局創立を決意。
 そのため同年齢。
 知を育む為には手段を選ばない悪癖がある。
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