「そういえばアンナ」
「なにー?」
授業が終わったある日のこと、先生が声をかけてきた。
なんじゃろ。
明日の授業のことかな。
「アンナの特異体質については話したことがあっただろうか」
「とく……、なんです?」
今なんて言った? この先生は。
また急に、何を言い出しますか?
自分語りの事といい、いつもいつも急すぎるんだよ、何もかもが。
もうちょっと段階を踏んでほしいんだよ。
「アンナの体質は……」
「ちょちょ、ちょーいちょーいちょーい」
「どうした」
「“どうした”じゃないよ、聞く方の心の準備ってもんをさせなさいよ。どうしてほんとこう急なのかね、この先生は」
「それもそうか」
「ンモー」
それもそうか、じゃないよ。
言われなきゃ気が付かないのって、結構ダメだと思うよ?
言われて気づくだけマシなのかもしれないけど……。
「はぁ……まぁどうせ拒否っても話すんだろうから、聞くけど」
「心の準備はいいのか?」
「無理やりしたよ。んで?」
「アンナの体質だけど」
「はいはい、あたしの体質ね」
まあ、そんなあたしも先生の緩急についていくのも慣れたもので。
心の準備を無理矢理することにかけては得意なもんです。
はい、なんでも来なさいってなもんだ。
「周囲のマナを無作為に、無数に取り込むことが出来る特異体質となる」
「ふーん。……ふん? なにそれ、死ぬじゃん」
やべーじゃん。
いつの間にそんな体質だったの、あたし。
急性マナ中毒で即死じゃんよ。
むしろなんで死んでいないのか、今のあたしは。
「普通はな。それで死なないから特異体質なわけで」
「えぇ……」
いや、まぁ、言われるとそうなんですけれども。
その一言だけで片付けられたくないわけで。
特異体質を持っている張本人なんですよ?
「ちなみに、周囲のマナを取り込むから、周囲の人はマナ欠乏症で死ぬぞ」
「なにそれ、災害じゃん」
自分が死ぬより数段やべー情報が飛んできたじゃん。
周りの人に迷惑かけまくりじゃん。
特異体質どころの騒ぎじゃないよ、それはもう。
「普通はな。それを抑えるものを見に付けているから大丈夫なわけで」
「抑えるものぉ?」
「心当たりはないか?」
「普段あたしが身に着けてるものなんて……。……あ、これか」
物心ついた頃から首に下げているネックレスをつまんで見る。
どうやっても外れないから、呪いの装備だとばかり思い込んでいた、これ。
まさか特異体質を抑えるためのものだったとは。
危ない危ない、もしなんかの拍子で外すことに成功していたら、危ないところだった。
「そう、そのネックレスだな。アンナが産まれた時に周囲の人間が大量に体調不良を訴え、原因を究明した結果アンナの体質にあると判明したので、私が付けた」
「この呪われたネックレス付けたの、先生だったのか!」
「呪われたとは失礼な。事故で外れないよう厳重にロックしてあるだけだぞ」
「同じじゃ、同じ」
本人からしてみれば同じだって。
ていうか、特異体質って言うから当たり前の話ではあったけど、産まれたときからそうだったんだ。
……よくあたしがお腹の中に居た頃のお母さん、無事だったなぁ。
お母さんも大なり小なり、同じような体質なのかな?
まぁ、それはいいとして……。
「なんで急にそんな話、し出したの」
「各地を修学旅行で周って、アンナの見聞も広まって、情緒も育ったから、そろそろ受け入れられるかな……と」
「そりゃまあ、特になんとも思わなかったけどさ」
強いて言えば、あたし思ったよりもやべーな、くらいには思ったけどさ。
「それに、アンナも自分のことを知るべきだと思って」
「まぁ、そりゃ知らないままだと困ったことも合ったろうけどさあ」
「だろう?」
自分がいつ爆発するかわからん爆弾みたいなやべー存在だと知れたのは、確かに大事ではあるけども。
知らないままだったら何処でどんな風に誰に迷惑かけるかわかんないもんな。
それはそうなんだけど。
「ところでこのネックレス、いつ取れるの」
「私が取ろうと思えば取れる」
「それまで取れないの!? やっぱ呪いじゃん!」
「呪いじゃないって」
呪った張本人がよく言うよ。
あたし個人の意思で取れないなんてとんでもないな、これ。
……いや? それはそれでまずいのか?
わかんなくなってきたぞ?
「まあ、だからといって今後アンナがなにか気をつけなければならないことは特に無いけど、知っておいてほしかったと言うだけだな」
「なんじゃそりゃ」
と、言われましてもねえ。
こんな特異体質だということが、何かの役に立つとは到底思えないんだけども。
ただ迷惑かけちゃうだけの体質なんじゃないのかなぁ?
◆
「…………フー」
本日分の日誌を付け終え、ペンを机に置く。
今日の魔導師としての業務は終えた。
アンナの授業も無事に終了。
特に村の業務もすることがない。
要するに、暇な時間だ。
「………………」
マナの探知にも、凶悪な魔物の発生は掛かっていない。
重篤なマナ汚染により発生した、この
つまり、“表の仕事”も“裏の仕事”も特に無い。
今日も世界は平和である。
良いことだ。
────そう、思った途端であった。
「────────」
感じるはずがない、否、
異次元の歪みが生じると同時に、だ。
まさか。
そう思って、急いで“ポータル”を起動する。
現地に今すぐ急行せねばならない。
普段は瞬く間に移動できるはずの魔導具が、やけにもどかしく感じた。
現地は特に支部などはない、人里離れた場所であった。
不幸中の幸いか、被害はすぐに出なさそうだ。
ともあれ、
「何処だ、何処にいる!!」
自分でも何年振りになるか分からないほど、声を荒げる。
こうして大声を出すのは本当にどれくらい振りだろうか。
それくらいに自分は焦っている証拠と言えた。
必死でマナの探知を行うが、引っ掛からない。
遠く離れた場所から気配を感じ取れたというのに、このザマだ。
わざとこちらに探知させて、気配を消されているのだろう。
手のひらの上で踊らされている。
その事実がどうしようもなく腹立たしかった。
もし奴がこのまま隠れ潜んだまま、どこかの国にでも現れ、暴れ始めたら。
そんな事をさせるわけには行かない。
何もない荒野を駆け回り、周囲を何度も見渡し、少しでも痕跡がないか、懸命に探す。
見当たらない。
何処へ行った。
「何処へ消えた! ゼ────」
「此処だ」
「────────────────」
聞き覚えのある、否、忘れるはずもない声が聞こえた。
身体に違和感が奔る。
ふと視線を落とすと、胴体を鋭利な爪が貫通していた。
武器を使うまでもないということか、などと。
関係もないことを考えてしまっていた。
「久方ぶりだな、小僧」
「ゼ、メティア…………!!」
背後を振り向くと、凶爪を私に振るった巨躯が、無表情のまま立っていた。
ゆうに4メートルは越える体躯。
筋骨隆々の褐色肌に、長く伸び、乱雑に纏められた黒髪。
頭部から生える歪な角と、尾骶骨から伸びる尾に、手足の鋭い爪は、竜人である証。
見間違うはずもない。
過去に友と一緒に封じたはずの存在が、そこにいた。
邪竜ゼメティア。
私の第二の故郷で好き放題暴れたクソ野郎。
この
封印が解かれる兆しなど、報告されてもいなかったというのに。
何故こうして此処にいるのか。
「お前、なんで、此処に」
震える声で尋ねる。
恐怖からではない。
胴体を貫かれているため、声もまともに出せなくなっているのだ。
この体が保つのも、何時までか。
それまでに真意くらいは問いたださなければならない。
「知れたこと」
鼻息を鳴らすと、このクソ野郎は語り始めた。
「長き封印から目覚めた
「私……だと……?」
「そうだ。
何が可笑しいのか、無表情だった口元を厭らしく歪める。
気色の悪い。
愛憎混ざった感情を向けられているなど、実感するだけで怖気が奔る。
「眠りから覚めて貴様を見つけてみれば、どうだ」
「何がだ……!」
「貴様はつまらぬ眠りについているではないか。だからこそ、過去に開いた次元の門を辿り、こうして貴様を呼びつけてみれば……なおのことつまらぬ。分身体などと」
わざとらしいため息まで付いてきた。
相変わらずこちらの神経を苛立たせることに関しては天才的としか言いようがない。
今すぐにその眠りとやらに強制的に付かせてやりたいが、身体が言うことを聞かない。
高々
実際に、この身体ももう保たない時が来ているようだった。
「お前、これから……どうする、つもりだ……!」
「知れたこと。かつてのように、この世界を手中に収める。それだけだ」
「させる、もの、か……!」
「だろう?」
「な、に……?」
「そう言えば、貴様は動かざるを得ないだろう?」
「────…………!」
このクソ野郎。
私を釣るためだけに、世界を好き勝手破壊しようというのか。
「
「?」
「
そちらの方がこのクソ野郎も好き勝手暴れられるはず。
そう思い、説得と言うには少々心もとないが、投げかけたはずの言葉だった。
が。
「それでは、つまらぬだろう?」
「こい、つ…………!!」
詰まる詰まらんだけで物事を考えるのはあいも変わらずか。
何年経とうと相互理解は叶わない。
激怒とともに、意識が薄れていくのを感じる。
「待っ、て、いろ……」
「……フン」
「必ず、この、手……で……」
胴体を貫く爪が無造作に払われた。
身体が分離する。
地に落ちる前に、身体はマナに解けて、霧散した。
そうして、意識は途絶えた。
◆
「…………くだらん」
ゼメティア、と呼ばれた竜人は、その場に音を立てて座り込んだ。
「斃すべき者のいない世界など、壊す価値もない」
ただ座っているだけで、周囲の景色が変容していく。
地には夥しい亀裂が奔り、草木は異様に伸び始め、運悪く付近にいた生物は、苦しそうに呻くと、醜く肉体が膨れ上がり、暴れ始める。
「早く本体を降ろしてこい、小僧」
やがてその影響は、どんどんと広がり続け、周辺には魔物が急速に発生し始める。
何もせず座っているだけで、凶悪な魔物が誕生し続けるその姿は、生きた災害としか形容しようがなかった。
「そして────楽しい殺し合いをしよう」
ゼメティアは口角を上げると、静かに瞑想を始めた。
災害の波は、静かに、そして確実に、世界を覆おうとしていた。
◆
【性別】女性
【種別】
【身長・体重】457cm 688kg
【年齢】25884歳(復活に要した時間はノーカン)
【好きなもの】制圧 破壊 頂点に座す 小僧(復活後)
【嫌いなもの】停滞 現状維持 自分以外に勢威を持とうとするもの全て
【特技】競歩
【食事の嗜好】肉
【性格】破壊者 冷静沈着 傲慢
【一人称】之(これ)
【武器】大剣
・名前は深淵語で“破壊者”の意。(ミィルが邪竜)
何億年も昔、深淵で蜂起したゼメティアは深淵を我が物にせんと暴れ始めた。
ミナカミと友人達の助力により封印されかけるが、深淵⇔地球間に空いた次元の間を通って地球に一時離脱。
まだ新生命体が芽生え始めたばかりの地球を我が新天地にせんと暴れだすが、鎮圧され封印。
コイツの影響で深淵のマナが地球に流入し、地球はマナの惑星になってしまった。
ミナカミが現代でもあちこち奔走している元凶。
機械めいた冷静沈着な性格の持ち主で。
停滞と現状維持を旨とする
癇に障る深淵の全てをぶち壊そうと目論んでおり、拠点を構え勢力を整え深淵人をこの世から消そうと執心していた。
消し終えたらあまねく世界全ての癇に障るモノを消し去りに回ろうと画策していたが、ミナカミたちの妨害で頓挫。封印される。