「────────ッ!!」
意識が浮上する。
すぐに周囲を確認すれば、
そこに自分の本体を置き、マナを蓄える手筈になっている。
それ自体は問題なかった。
問題はこの安置所を出てからだ。
元より何を隠すでも無くなった身体ではあるが、何を身に着けるでもなく急いで安置所を駆け出す。
何年ぶりか分からない生身で目にした
嫌な予感を抱えながら、ゼメティアが封印されていたはずの洞窟を目指す。
目的地が近づけば近づくほどに戦闘の痕跡が酷くなっていく。
走り続けてようやく目的地に辿りつけば、崩壊した洞窟の入口に友人が倒れ伏していた。
「エド!」
短く刈り揃えた白髪の男性、エドゼルバル。
封印の洞窟の管理人だ。
本人曰く“他にやることがないから”という理由で常に封印されたゼメティアを見張ってくれていた。
かつてゼメティアが暴れた時にも、私とともに戦ってくれた友人である。
それが、袈裟斬りに斬りつけられた傷をつけて倒れている。
いや、死ねば身体は霧散するのが
少なくとも生きてはいるだろう。
駆け寄って介抱する。
「無事か」
「よ、ぉ……、ケイ、か……、久し、ぶり……だな……、何年、ぶりだ……」
「今は思い出話をしている場合じゃないだろう」
「それも、そうだ、な……。すまん、ドジった……ゲホッ」
「謝罪もいい。何があった」
苦しそうに咳き込むエドゼルバルの身体をマナを操り修復しながら、話を促す。
少しは体調が戻ってきたのか、虚ろだった瞳が光を取り戻していく。
もしかしなくても、危なかったか、これは。
「不意を討たれた……。封印を破る兆候は、見張っていたはずなんだがな……。奴は“それ”をひた隠しにしていやがった……。ああ、大丈夫だ、もう歩ける」
「いいのか?」
「ウィルの元にも行かなきゃならんだろう……。道すがら話す……」
「……そうだな」
片目が隠れる程度には長い白髪を持つ男性、ウィルオレン。
マナの使い道を日々研究している、油断してると百年単位で家から出てこない引きこもりだ。
その分蓄えてる知識量は多く、再び地球に分身体を送り込むには彼の家を経由するのが最も手っ取り早い。
どうやらエドゼルバルは肩を課す必要もないのか、しっかりとした足取りで歩けるようだった。
言葉通り、道すがら話を聞く事にした。
「いつものようにのんびり見張りをしていたら、急に洞窟が爆ぜやがった。奴はとうに封印を解いていて、力を蓄えていやがったんだ。それで、十分に力を取り戻したら、暴れ出したって所か……」
「応戦は?」
「したさ。が、俺一人じゃあの様だ。ざまあねえな……。で、俺を斬り伏せたら用はねえとでも言いたいのか、さっさとどこかに消えやがった」
「行き先は分かっている。地球だ」
「それじゃ、ケイの地元じゃねえか。まさかお前が帰ってきたのは……」
「ああ。分身体が破壊された」
「そいつはやべえな……。今頃“チキュウ”は……、ん! おい、ウィルの家が!」
「……!」
エドゼルバルに言われ前を見ると、ウィルオレンの家屋が破壊されているのが見えた。
すぐさま走っていくエドゼルバル。
やはり
「おーい! ウィル! 生きてるか!」
「や、やあ、エド……、それにケイも。酷い目にあったよ」
「ウィル、無事だったか」
「家も含めるとあんまり無事じゃないけどね、まったく……」
瓦礫の山からウィルオレンが這い出てくる。
言葉通り怪我はないのだろう、すぐに立ち上がり埃を払っている。
何があったのか問いたださねばならない。
「一体どうした」
「僕が聞きたいよ。いきなり爆音がしたと思ったら家が吹き飛ぶんだもんな。また何か暴れ出したのかと思って、君たちが来るまで息を潜めていたんだ」
「そうか、現状は把握できていないのか……」
「?」
引きこもりの研究者らしい。
ゼメティアが暴れた時も引きこもり続けていたのだから、筋金入りである。
であれば、何が起こったのかも知らないのも無理はないか。
私とエドゼルバルで事情を説明する。
「え! あの竜、復活しちゃったのかい!」
「したんだよ、それが」
「今はケイの地元に押しかけているらしくてな、すぐに次元を越えたいそうだ」
「そいつは大変だ、すぐに……って言いたいけど、ちょっと掘り起こすのを手伝ってくれないかな」
「……そうだな、それが先か」
ウィルオレンの家には次元の穴を開ける魔導具など様々な者が揃っているが、それも全て崩壊した家屋に埋まってしまっている。
少し掘削作業に従事しなければならないらしい。
いくらか近所に住んでいる知り合いも呼んで、急ぎ掘り起こしていると、ウィルオレンが声を上げた。
「な、無い! 無いよ!」
「なんだ、何が無いんだ」
「研究中だった“神剣ユグ”が無い!」
「────なんだって?」
神剣ユグ。
太古の時代、ある大神から賜ったとされる神器と言われている。
「世界を焼き払う剣」とされており、“強制終了機能”とでも言うべき人類の世界を終わらせる装置。
その性質から剣身は常に炎熱を帯びており、単純に武器としての破壊力がある。
本来は巨人が持つもので、その際には単なる片手剣扱いされると言われている。
世界の手に余るものと判断され、
「なんでそんなもの持ち出していたんだ、ウィル!」
「許可は取っていたんだよ、研究そのものも
「理由はともかく、持ち出していたユグが無くなっているんだな?」
「どこにも無いんだ、誰かが持っていったのは間違いない!」
「と、なると……」
「ゼメティアか……!?」
それこそゼメティアのように、利己的な理由で他者を害する者しかそんなことはしない。
窃盗犯は、ウィルオレンの家を破壊した犯人と同じだろう。
神剣を奪っていくなど、最悪なやつに最悪な代物が渡ってしまった。
今頃地球はどうなっていることやら。
無事であってくれればいいけど……。
◆
「ん……」
邪竜は静かに瞑想から目覚めた。
足元にまとわりつく有象無象がいたからだ。
誰かが自分を退治しにやってきたか、と思ったが、その期待は裏切られた。
それらは、邪竜の放出するマナに充てられ変異した魔物達だったからだ。
本能に忠実な獣に堕ちた彼らは、動かない邪竜に齧りついていた。
邪竜は、それらになんの痛苦も感じていなかったが。
鬱陶しいことだけは確かだった。
「…………」
始末しようと立ち上がり、ほんの少し動きを見せただけで、魔物たちはたちまち怯え、震えだす。
元々本能でしか動けない生命体なのだ。
その本能から生物としての格の違いを感じ取り、即座に服従したのだろう。
それらを見て、魔物を始末しようとしていた邪竜は考えを変える。
己に服従するのなら、暇つぶし程度には使えるだろう、と。
「────“往け”」
放出するマナに言霊を乗せ、周囲の魔物たちに命令を下す。
その命令は周囲の、そして大気に乗り、世界中に発生した魔物へと伝搬する。
ニンゲンの多い場所を襲え、と。
「さて、遅くなれば遅くなるほど、貴様の大事なものが消えていくぞ。小僧」
邪竜は再度腰を下ろすと、静かに口角を上げていた。
◆
※基本的に億年単位の付き合いなのでマブダチ。
※携帯電話感覚で地球の恵の分体と念波で通信できる。
※よほどのコトがないかぎり皆
※基本全員無性
※ただ顔や体型・声などが人格に引っ張られるので、そこで判別可能。
※流石に常に裸(恵と同じ真っ白)ではなく、衣服くらいは来ている。(恵の本体が常に真っ裸なのはマナの吸収効率を上げるため)
※
●エドゼルバル
封印窟の管理人。
曰く「他にやることがないからやってるだけの自宅警備員もどき」
ゼメティアの乱当時、恵達とともに戦った。
名前の意味は“守護するもの”
人格で言えばどちらかというと男性。
●ウィルオレン
マナの使い道を日々研究している引きこもり。
油断してると百年単位で家から出てこない。
ただ、家から出ないだけであって、通信などで話は頻繁にする。
ゼメティアの乱のときも引きこもっていた。
名前の意味は“知恵者”
人格で言えばどちらかというと男性。
●ゼシオメルキ
建築家。
マナをこねこねして家屋やら芸術的なハウスやらを立てるのが生き甲斐。
それらをブチ壊したゼメティアにブチ切れて反撃した。
名前の意味は“製作者”
人格で言えばどちらかというと男性。
●ジャリドルド
別次元の食文化を研究している。
食事の必要がないザ・ラーム人の中では変わり者。
曰く「味蕾があるんだから美味しい物だって食べたいじゃないか」
非戦闘員なのでゼメティアの乱のときは避難していた。
名前の意味は“美食家”
人格で言えばどちらかというと女性。
●マティドナ
ザ・ラーム中を探索しているトレジャーハンター。
なんか自然にいろんなものがポップする空間なので、貴重品やら初めて見る物やらを拾っては蒐集している。
当然危険生物もポップするので、それなりに腕は立つ。
ゼメティアの乱にも参戦した。
名前の意味は“彷徨う者”
人格で言えばどちらかというと女性。
●ユバン
ザ・ラームの成り立ちを研究している。
未だにこの空間の発生した原因や理由さえわからないので研究は難航しているが、
それすらも楽しいとは本人の弁。
非戦闘員なのでゼメティアの乱のときは避難していた。
名前の意味は“探求者”
人格で言えばどちらかというと男性。
●クイククーツ
ひたすら武芸を磨き続けている。
武芸百般、なんでもござれ。
ナチュラル俺より強い奴に会いに行く。
危険生物がポップするといの一番にすっ飛んでいくバーサーカー。
ちょくちょく恵にもバトルしようぜ! と持ちかけてくるやべーやつ。
ゼメティアの乱の時も先陣切って大暴れした。
名前の意味は“戦うもの”
人格で言えばどちらかというと男性。
●ナディガルラド
恵が召喚事故でザ・ラームに迷い込んだ時、肉体改造を施して命を助けた恩人。(厳密に言えば施術に立ち会った助手がもう二人いた)
そのことから今でも恵は頭が上がらない。
おっとりした性格だが、怒ると静かにマジギレするタイプ。
前述の通り非ザ・ラーム人の肉体改造すらお手の物なので、
ザ・ラーム人に変調があったら看てあげる医者……のような立場。
ゼメティアの乱の際は回復役として後方支援に徹した。
名前の意味は“癒やし治す”
人格で言えばどちらかというと女性。