碇シンジはもう一人の自分(♀)に恋をする   作:崖の上のジェントルメン

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第拾壱話 二回目の、口づけ

 

 

参号機の起動実験から、一週間が経過した。

 

今日も今日とて、シンジはレイのお見舞いに来ている。

 

「おはよう、レイ」

 

「おはようシンジくん!」

 

シンジが病室へ入ってくると、レイはぱっと花が咲いたような眩しい笑顔を見せる。シンジはそれが、いつも嬉しくて仕方なかった。

 

「今度は加持さんからお菓子を貰ったよ。ほら、あの駅前のパティシエ屋さんの作ったシュークリーム」

 

「わ!やった!あそこのお菓子って一度食べてみたかったんだよね」

 

シンジは丸椅子に座り、箱を開けてシュークリームをひとつ取る。

 

「はい、どうぞレイ」

 

「……んー」

 

「え?いらないの?」

 

「そーじゃなくて、んー」

 

「??」

 

「私ね、今は腕痛めてるでしょ?」

 

「うん」

 

「食べさせてさせてほしいなー、なんて」

 

「!?」

 

「ダメ、かな?」

 

レイはわざと上目遣いをして、シンジを困らせた。

 

「じ、じゃあ、その……レイ、口を開けて?」

 

「『あ~ん』ってゆって?」

 

「……あ、あ~ん」

 

「あ~ん♡」

 

パクッと小さく齧ったレイは、実に満足そうに頬を緩ませた。

 

「美味しい~!やっぱり人気なだけあるね!」

 

「そっか、良かった」

 

「シンジくん、もう一回ちょうだい?」

 

「あ、あ~ん……」

 

「ん~!今度は私も買いに行っちゃおうかな~」

 

「……レイってば、意外と甘えたがりなんだね」

 

「心を許した相手には遠慮がないの、私は」

 

「ああ、そう言えば僕も、加持さんにそんなこと言われたな」

 

「やっぱり、私たちそっくりだね」

 

「そうだね」

 

シンジも自分用のシュークリームを手に取り、口へと運んだ。二人で仲良くそれを食べ終わり、「ご馳走さま」という声がハモる。

 

「でも、マヤさんたちからもチョコレート貰ったし、鈴原くんたちも色々くれたし、最近ちょっと貰うのが申し訳なくなってきちゃったな」

 

「あ~それ分かるかも。優しくされすぎると、怖くなるよね」

 

「『私のこと嫌いになったら、もう優しくしてくれなくなるのかな……?』なんてこと、想像しちゃうよね」

 

「そうそう、僕も同じだ。だからずっと、嫌われることに怯えてる」

 

「……でも、私は絶対、シンジくんのこと嫌いにならないよ」

 

「………………」

 

「この世で一番、私の気持ちを分かってくれる、そして分かってあげられる人だもん。私はいつまでも、シンジくんのそばにいるよ」

 

「……うん、僕もだよ。僕もレイのそばに、必ずいるよ」

 

「ありがとう、シンジくん」

 

彼女の頬が、ほんのりと赤くなっていた。愛を込めた視線を、シンジへとぶつけてくる。

 

そして……。

 

 

 

シンジの唇を奪った。

 

 

 

「!?」

 

突然のことに戸惑うシンジ。

 

心臓が胸から飛び出しそうなほどに鼓動し、全身の体温が一気に上昇する。

 

「………………」

 

レイはゆっくりとシンジから離れ、じっと彼の顔を見つめる。そして、恥ずかしそうに、だが幸せそうに微笑む。

 

「好き……」

 

……緊張の余り、シンジはごくりと生唾を飲んだ。

 

彼女も彼女で緊張しているのだろう、布団で口元を隠し、小さな声で独り言を言った。

 

「へへへ、私、キスなんて“初めて”しちゃった」

 

「!?」

 

その言葉に……シンジはドキリとした。

 

さっきまでの幸福感が一瞬で消え去り、今度は心臓を冷えた手で捕まれているような、嫌な緊張感が生まれた。

 

「シンジくんも、きっと“初めて”だよね?私たち、一緒だもんね?」

 

レイの笑顔が、シンジの胸を締め付ける。 彼の脳裏には、『あの時の事』がフラッシュバックしていた。

 

 

 

『ねえシンジ、キスしようか』

 

 

 

あれが、彼のファーストキス。 レイが“初めて”ではない。

 

「………………」

 

シンジが貝のように押し黙ってしまった様子を見て、さすがのレイも怪訝な顔をし始めた。

 

「……?どうしたの?シンジくん」

 

「あ、いや…………その……」

 

「キスされるの、イヤだった……?」

 

「そんなこと!そんなことないよ!嬉しかったよ!ただ……」

 

「ただ?」

 

「あの……」

 

シンジは拳をぎゅっと握り締めて、顔をうつむかせる。その時、レイの直感が全てを察した。

 

「もしかして……初めてじゃなかったの?」

 

「………………」

 

「誰……?」

 

「何、が?」

 

「初めての人」

 

「………………」

 

彼女は膝を曲げて座り、シンジから眼をそらす。

 

「……ア、アスカ、だよ」

 

「………………」

 

「でも、あれはほんの遊びだったんだ!アスカとは別に付き合ってもないし、向こうから『暇だからキスしよう』って言ってきて、ただそれだけで……」

 

「暇だからキスしようなんて、あり得ないよ」

 

レイの声は、震えていた。

 

眼から二滴、三滴と……涙が頬を伝って落ちる。

 

「今の私なら、よく分かるもん。好きな人とじゃないと、キスなんて……ましてや暇だからなんて、そんなの……」

 

「でも本当なんだ!本当にアスカがそう言って……」

 

「………………」

 

とうとう、彼女は肩を震わせて泣き始めた。

 

「お願い、今は一人にさせて……」

 

「………………」

 

シンジは言われた通りに、病室から出ていった。

 

出る直前、一度だけ彼女の方へ振り向いたが、彼はかける言葉が見つからず、そのまま出ていく他なかった。

 

「……最低だ、俺って」

 

シンジはぽつりと、そう呟いた。

 

そんな時だった。

 

 

ウウウウウウウウウウ……

 

 

……サイレンが響いた。

 

この第三新東京市に来てから、何度も聞いたこの音。シンジの責務が発生したことを告げるこの音。

 

なぜ今……こんな時にと、何度も思ったこの音。

 

「……使徒だ」

 

 

 

 

 

 

 

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