そして、彼女たちは戦車に乗った。   作:kasyo

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白と黒

「今回の任務は友軍の救出よ」

エレーナが戦車長を集めて作戦内容を伝達する。

 

連邦の進撃、帝国の反撃、繰り返される戦闘により入り乱れた戦線。

それによってうまれた突出部に味方が取り残されているのだ。

 

「敵戦車と歩兵に囲まれた友軍を救出する」

「敵の戦車は10両前後、歩兵は2個中隊ほど、後方に砲兵がいるけれど詳細は不明」

「我が方は陣地で粘っているようだけど、負傷者が多数で身動きがとれない状況」

エレーナが包囲された味方と敵方について説明する。

 

「こちらは騎兵戦車中隊と私たちがでるわ」

「騎兵戦車中隊が敵戦車を引きつけているうちに、私たちで友軍を回収する」

「歩兵の援護はつかないから敵歩兵を近づけさせないように注意すること」

「砲兵はどちらを狙ってくるかわからない、注意しなさい」

 

説明が終わると戦車長から質問が出る。

「友軍を回収した後の撤退の流れはどうなりますか?」

 

「こちらから無線で騎兵戦車隊に伝える手順になっている、どちらが戦闘中でも撤退を開始するわ」

「友軍と合流するまでこちらの無線は封鎖」

 

「他には?」

 

みな無言で頷く。

 

「では以上、出発するわ」

少女たちは愛車に乗り込み出撃した。

 

前線へ向かう道すがら無線が入り始める。

そして、

 

「敵戦車部隊を発見した!」

「攻撃を開始する!」

敵部隊発見の報せ、騎兵戦車隊の無線の背後からは砲声が聞こえる。

 

「始まったわね」

エレーナはハッチから身を乗り出し、後方へ作戦開始の合図を出す。

 

「先に見つけなさい、撃ち抜かれるわよ」

車内の乗員にはそう告げた。

 

草原に残る轍を伝い、前線に向かう。

遠く、騎兵戦車隊と連邦の砲声が聞こえた。

 

先行した白百合中隊の戦車が停止した。

ハッチから身を出した車長が手信号を送る。

 

手信号を読む。

 

「森、左へ、歩兵…」

 

「よかった、まだ無事みたいね」

 

「こちら白百合中隊、聞こえるか」

「後方から近づく、撃つな」

エレーナは無線を合わせ包囲された味方へ送る。

 

しばしの沈黙のあと、雑音交じりの無線が届いた。

「……了解…」

「…助かった…もうダメかと思った…」

 

砲声が轟く戦場、今にも崩れ落ちそうな陣地の中に友軍を発見した。

 

「ここの指揮官は!」

エレーナが声をかける、その声は砲声の中でもよく届いた。

 

「私です!」

「中尉殿が戦死され私が引き継ぎました!」

少尉の階級章をつけた男が答える

 

「何人動ける!?」

「けが人は動かせそう!?」

エレーナは矢継ぎ早に問う

 

「動けないのをトラックに積みましたが、タイヤがパンクしてます!」

「動けるのは20人ほどです!」

少尉は答えた

 

「トラックは戦車で牽引するわ!手を貸しなさい!」

「歩けるものは戦車の後に!」

エレーナは少尉に指示を出す

 

「了解!前ら頑張れ!帰れるぞ!」

少尉はトラックに乗せられた負傷兵に声をかけた。

トラックからは弱弱しいうめき声が漏れた。

 

歩兵部隊と白百合中隊が駆け寄りトラックの牽引準備を始める。

砲声と銃声がもうそこまで迫っていた。

 

その時無線が鳴る

「…騎兵…隊、白百合…気を付けろ…り込んでる…歩兵…」

ざりざりとした雑音が混じる

 

「こちら白百合中隊!良く聞こえない!再送せよ!」

 

「歩兵!…!…撤退しろ!……」

 

「敵歩兵だな!了解、こちらは牽引準備中!」

 

無線の背後に砲声が響く。

いやな知らせだった、歩兵は向こうに食いつかなかった。

 

「歩兵が来る!牽引準備急げ!」

「手の空いてるものは戦闘準備!」

エレーナの怒声が飛ぶ。

 

「少尉!」

エレーナが歩兵部隊の少尉を呼ぶ。

 

「はい!」

少尉が駆け寄ってくる。

 

「向こうの歩兵に気づかれた!」

「ゆっくり曳いてられない!戦車に掴って!」

 

「了解!戦闘が始まったら降ります!」

「お前たち戦車に掴れ!敵を見逃すなよ!」

 

歩兵部隊からは次々に了解と返事が返ってくる。

 

「こちら白百合中隊!撤退する!撤退する!」

騎兵戦車隊に無線を送る。

しかし返事はない。

 

「出発する!」

待っていられない、エレーナは手を上げ号令をかけた。

車列がゆっくりと動き始める。

 

トラックと歩兵を連れた戦車の車列は帰投を開始した。

 

出来る限り急いではいたが、それでも遅い。

焦る気持ちを押し殺し白百合中隊は基地へ向かった。

 

「こちら白百合中隊!撤退する!撤退する!」

返事のなかった騎兵戦車隊を呼び出し続ける。

 

するとザリザリとした雑音の後に返信が返ってくる。

「騎兵戦車隊、了解した!こちらも撤退する!」

 

「白百合中隊、了解した!」

返事があったことにエレーナは安堵した。

 

しかし、次の瞬間に先頭車両が銃弾を浴びた。

小銃弾が戦車に当たり弾ける。

 

「お前ら降りろ!」

少尉が告げ終わる前に、兵士たちが戦車から飛び降り銃尻でハッチを叩く。

 

その合図とともにエンジンが唸りを上げる、戦車の向きが変わり主砲が放たれた。

殆ど至近距離と言える場所に着弾し土柱が上がる。

機関銃の弾丸が森を撫でていく。

 

「牽引車両は止まるな!」

「頭を押さえるだけでいい!射撃しながら撤退する!」

「歩兵の盾になって!」

エレーナの絶叫のような声が砲声の間に響く。

 

「次は砲撃が来る!止まらないで走りなさい!」

 

兵士も戦車も基地を目指しかけていった。

 

「…何とか戻ってこれたわね」

基地に到着したエレーナから安堵のため息が漏れる。

 

兵士も戦車も白百合中隊も泥にまみれているが無事に帰投できた。

 

「救出に感謝します」

「流石の黒百合中隊ですね!」

歩兵部隊の少尉がエレーナに礼を言う

 

「黒百合中隊」

最近の白百合中隊はそう呼ばれていた。

 

常に最前線で戦う百合の花、それは死を意味する黒百合を連想させた。

 

「私は白百合が好きだけど」

エレーナはそう呟き、家紋である白百合が好きだといった

 

「それでもここでは黒百合がお似合いかしらね」

皮肉っぽく笑った。

 

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