貴族令嬢たちは帝都郊外の陸軍演習場、その中にある貴族用の宿泊施設に集められた。
軍の演習場にあるとはいえ、その宿泊施設は軍の物とはまるで違った。
質素ながら上質に作られた建物、上等な家具、その端々まで上等に整えられた施設だった。
宿泊施設のエントランスは簡単なサロンのようになっており、彼女たちはソファーに座りお茶を楽しみながら噂話に花を咲かせていた。
それは、これから野山へ散歩にでも行くような気軽さだった。
その少女たちを見つめる二人。
「たしかに教育が必要なようね」
エレーナは小さな声でクラリスに言った。
「そうですわね」
クラリスは小さく答えた。
エレーナが最奥の間で話を聞いた数日後、ある書状が届けられた。
彼女たちは同じ書状を受けとり集められた者たちだ。
だが心構えは全く違うように思えた。
何人かは口数少なく周囲を見渡す者がいたが、彼女たちはあの書状の意味を理解しているのだろう。
それは貴族的な文面で綴られた極めて一般的なものであった。
時節の挨拶から始まり、相手の家を褒め称え、そこからやっと用件が始まり、締めの言葉で終わる。
ただ、ある一文を除けば。
「貴族は女性であろうと戦士であり、その矜持を帝都に示す」
何ということもなく見えるが、帝国貴族にとっては家の存亡にかかわるような内容だ。
その一文が意味するところは、
「戦士でなければ貴族でない、貴族でなければその名を捨てよ」
これが指すのは、ここにいる令嬢だけではない
彼女たちを輩出した家も含むのだ。
「ふぅ」
エレーナは小さくため息をついた。
「何から教育すればいいのかしら」
窓の外に目をやると、初夏の柔らかな日差し、そこに大きな影を落とすものがあった。
この場に似つかわしくないその物体は「戦車」だ。
このあと、これから彼女たちが乗ることになる戦車のお披露目会が行われる。
「私たちがあれに乗るのね」
それはエレーナの独り言だった。
「帝国第三世代戦車と言うそうですよ」
だが、独り言とは思わなかったクラリスは返事を返した。
「家であれに乗った者はいなかったわ、クラリスは?」
独り言が出てしまったことを隠すように会話を続ける。
「我が家にもおりませんでした」
「ですが武官の話によるとあまり快適ではないようです」
「そう」
エレーナは短く答え、窓の外の戦車を見つめた。
白く清楚な館、新緑の芝生、そして戦車。
芝生には戦車の履帯が切り裂いた無残な跡が残る。
エントランスはまだ花が咲いたように華やかだ。
明日からは彼女たちが着ている「野外用のドレス」を脱がせ「華のない野戦服」を着せることになる。
「これからどうなるのかしら」
その言葉は独り言にせず飲み込んだ。