日課となった朝の運動を終えるとエレーナは食堂へ向かった。
そこで隊員の一人から声を掛けられた。
「エレオノーラが昨夜から戻らない」
エレーナはアンナとクラリスに声をかけると三人でエレオノーラを探して回った。
最悪の事態も考えた。
だが、あっさりとエレオノーラは見つかった。
何時もの場所でレノアと煙草を吸っていたのだ。
エレーナを見つけたエレオノーラは深く深く感謝を述べた。
その感謝の言葉を聞いてエレーナは全てを察した。
あとで私の部屋に来るように、そう告げるのが精いっぱいだった。
「エレーナにお話があります」
クラリスは真剣な表情でエレーナに迫った。
「クラリス、あいにくだけれど私、手が離せないの。報告ならあとで聞くわ」
「帝都に戻った私、それともずっと未来の私がね……」
エレーナは食堂から持ってきたスープを啜った。
その後エレオノーラが部屋を訪れた。
自分のようなものに、エレーナ自らが気を使っていただき感謝してもしきれない。
そういったものだった。
エレーナは力を込めて笑い、エレオノーラを見送った。
それから。
エレオノーラとレノアの情事について、大問題になると思われたが、意外なことに何の問題にもならなかった。
それは問題が無い、ということではなく問題に出来ないという事でもあった。
まずエレーナの動きがあった。
発端の少し前に、二人を「お説教」としてよびだしたが、これを周囲が「エレーナから二人への聴取」と認識した。
そしてエレーナが罰しなかったことで「エレーナが許可した」と受け取られたのだ。
更に二人に対して「同じ品物」を贈った、ということが決定打となった。
これは外から見れば完全な承認であった。
軍も同様の判断をした。
「貴族の指揮官が問題無しとした」それならば問題ない、という結論を出した。
貴族の恋愛事情に手を出すほど馬鹿なことはないのだ。
そして二人の立場もそれを後押しした。
女だてらに煙草を吸って、婚約者に捨てられ、家を追い出された貴族令嬢
そして
かつて命ががけで戦い爵位を授かったが、いまは家督を失った元貴族の海軍少尉
その身に立場のないもの同士の関係。
それだけを聞くと大問題とも言えないのでは、という雰囲気があった。
結局は、誰も責任を取りたくないし面倒だったのだ。
自分たちの知らないところで大問題が発生し、解決した。
何も知らない二人は今日も仲良く隣に座って煙草を吸った。
もう二人の距離が近いことに文句を言うものはいなかった。
「クラリス、問題がなくなって良かったわね」
エレーナは何処か遠くを見ていた。
「そうですね、問題なんて存在しなかったんです」
クラリスは興味なさそうに答えた。
二人が今まで苦労してきた色恋の問題はすっかり解決した。
何をしても無駄という形で。