そして、彼女たちは戦車に乗った。   作:kasyo

45 / 45
予兆

「連邦が兵を集結させていると情報が入った」

急遽、司令部に集められた指揮官たちは、そう伝えられた。

 

「入ったとは?どこからの情報だ?」

エルンストが聞き返した。

 

「泥棒貴族、具体的に言うなら杉の家の三男坊だ」

 

部屋に緊張が走る。

司令のその言葉にエルンストとエレーナは不快感を隠さなかったからだ。

 

「あんな奴らの何を信じると言うのだ」

エルンストはそう言い放ち、エレーナもまた頷いた。

 

「私もそう思う」

「だが、同じ情報が他からも入った、回廊貴族からだ」

 

それを聞くとエルンストは考え込んだ。

 

「…少なくとも調査はするべきか」

 

回廊貴族と泥棒貴族はその出自から特に仲が悪い。

それが、同じ情報を持って来る。

 

放っておくには不気味だった。

 

「そして、泥棒貴族の情報はやけに具体的だ」

 

司令は指揮官たちに情報の写しを渡す、静かな部屋に紙をめくる音だけが響いた。

 

そこには連邦の動員予想、おおよその作戦開始時期について纏まられている。

さらに、その根拠ともいえる資料まで添付されていた。

 

あまりに具体的な内容に作戦室はざわついた。

 

「確かにこれは詳細な情報ですね、ですが目的は何でしょう?」

エレーナはそう述べた。

 

「直接接触した人員からの報告ですと、帝都へ繋ぎを作りたい様子であったとのことです」

「書状がこちらに、お二方が読まれましたら帝都へ送ります」

 

情報部の人員は書状をエレーナに手渡した。

 

エレーナは無言で書状に目を通す。

 

「わかりました」

短く告げるとエルンストへ書状を回すした

 

エルンストも無言で書状を読み進めると「事情はわかった」と言い書状を返した。

 

二人の間に沈黙が続く。

集められた指揮官も貴族の事情に口を出すわけにもいかず、作戦室は静まり返っていた。

 

「簡単に言えば帝国に戻りたい、と言ったところか」

エルンストはあきれたように言った。

 

「私もそう読みました、しかし、そんなことが可能でしょうか?」

 

「わからん、エレーナはどう思う」

 

エレーナは口元に手をやりしばらく考え込み、それから口を開いた。

 

「難しいですね」

 

難しい、その言葉を受けエレーナを見る顔に疑問が浮かんでいた。

その様子を察したエレーナは言葉を足してゆく。

 

「難しいと言うのは、どちらに転ぶか、というところです」

「奴らはあくまで『泥棒』ですから」

 

その言葉を受けて、エルンストはエレーナの考えを理解した。

 

「そうだな、奴らは陛下の財を盗んだ、だがそれだけだ」

 

「弓を引いたわけではない、だから『泥棒』なのだ」

 

二人はそう述べたが、周りを囲む者の表情にはまだ疑問が残っていた。

 

「もし陛下に弓を引いたのなら奴らはこの世にいない、我々が許さないからだ」

「つまり、奴らの罪などその程度のことだ」

 

エレーナも頷き肯定した。

 

「まぁこの感覚は貴族の水に漬かった者しかわからんな」

 

エルンストは説明を諦めた。

これは肌で感じる感覚に近い問題だったからだ。

 

「だが、これを持ち込んだ理由は分かった、これを『武功』としたいのだろう」

 

エルンストはそう述べた。

 

「私もそう思います」

「当時の者は誰もいない、先祖の罪を雪いだというのなら陛下も無下にはなさらないでしょう」

 

エレーナがそう付け加える。

此処まで話を聞いて周りの者たちも一応の納得はしたようだった。

 

 

「……こちらが回廊貴族家からの情報になります」

少し重くなった雰囲気を切り替えるように新たな情報が手渡さた。

 

「こちらは単純だ」

「彼らは直接見に行ったようだ」

司令の言葉を裏図けるように報告書には数枚の写真が添付されている。

 

そして誰もが驚いた。

 

「よくここまで……」

 

エルンストの言葉に情報部の者が反応した。

 

「えぇ、私たちも人員を送り込んではいますが、戻った者は多くありません」

 

帝国軍も情報収集を怠っていたわけではない。

しかし、中央回廊の先はかつては蛮族の住処と呼ばれ、現在でも連邦の庭であった。

 

言語も文化も違う地へ溶け込み、探る。

それは困難を極めた。

 

「始まりは書かれておりませんが、大した情報ではなかったでしょう」

「少なくない犠牲を払ったと思われます」

 

その言葉に、今度はエレーナとエルンストが黙ってしまった。

 

今回の情報に、回廊貴族家はなんら報酬を受け取っていない。

 

真偽不明の情報のために命を捧げる。

彼らの帝国への忠誠心は恐るべきものがあった。

 

「……回廊貴族家の矜持とは凄まじいものがありますね」

本音が漏れた。

 

エレーナも貴族として命を懸ける覚悟はある。

しかし、それには打算的なものも含まれているのも事実だった。

 

 

「これで情報は揃ってしまったな」

 

「それでどうする?」

 

現場指揮官と貴族を呼んでこれで終わらないだろう?

エルンストはそんな口調で言った。

 

「私は奇襲作戦を提案したい」

司令はそう告げた。

 

「まだ情報収集は続けるべきだが、この規模を放置することは看過できない」

 

写真に写っていた基地の規模は、共同作戦で奪取したものよりはるかに大きかった。

 

「騎兵隊を指揮するものとしては素直に賛成できない」

「遠すぎる」

エルンストは意見を述べた。

 

連邦の新たな基地はあまりに離れており、作戦行動距離をはるかに超えていた。

他の指揮官たちからも次々と意見が上がる。

 

どうやってそこまで向かうのか。

補給はどうするのか。

通信の確保は。

 

各科から様々な問題が指摘された。

 

しかし、共通している意見もあった。

「このままではいけない」

 

連邦の動きは脅威だった。

また東壁が抜かれるのではないか、そんな恐怖があった。

 

「ひとつづつ解決していくほかあるまい」

司令のその言葉に皆頷き、会議は深まっていった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

アステロイド・ベルトの残骸漁り(作者:七つ葉なずな)(オリジナルSF/ノンジャンル)

西暦2164年、小惑星帯。人類の9割はまだ地球にいて、残りは企業が実効支配する岩の上で暮らしている。▼ケレスに生まれた17歳のマユルは、戸籍を持たない「不法移民の子」。財産はローンで買った中古のサルベージリグ一機と、月額課金のAIアシスタント、それから己の技と知識だけ。▼戦争が撒き散らした宇宙船の残骸から、ポンプ一個、ハッチ一枚を剥ぎ取って生計を立てる日々。…


総合評価:239/評価:8.88/連載:8話/更新日時:2026年08月09日(日) 20:12 小説情報

出発信仰!(作者:もちもち物質@布団)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

女子高生の帆波澪は、『集めた信仰心がパワーになる』異世界へ来てしまった。澪は弱小聖女のナビスと出会い、元の世界に帰るため、信仰集めを手伝うことになる。▼手っ取り早く信者を増やしたいんだったら、聖女じゃなくてアイドルやった方がよくない?礼拝とかやってる場合じゃないよ。ライブやろうよ。ライブ。そんなノリで行われる澪の宣教活動は、異世界の宗教戦争を破竹の勢いで駆け…


総合評価:439/評価:8.8/連載:88話/更新日時:2026年08月13日(木) 20:20 小説情報

TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う(作者:第616特別情報大隊)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

 転生した先は地獄だった。▼ 非力な少女の身体に、スラムの孤児という立場。▼ しかし、ある女性との出会いが私を変えた。▼ 魔法使いであるソフィア──彼女が私を弟子にし、希望をくれたのだ。▼ しかし、魔法使いとなった私は普通ではなかった。▼ 詠唱がいらない。▼ 魔法陣もいらない。▼ 魔導書もいらない。▼ それは世界に敵視されかねない危険因子──イレギュラー。▼…


総合評価:348/評価:7.36/連載:74話/更新日時:2026年08月14日(金) 12:01 小説情報

産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった(作者:ぷに凝)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

 スキルが一人につき一つしかない世界で、小林大翔が引き当てたのは『性転換』。▼ 性別を変えるだけの戦闘向きではない産廃スキル――のはずだった。▼ だが、女性専用装備『魔法少女のドレス』との組み合わせにより、その常識は覆る。▼ ドレスの力で圧倒的な戦闘能力を手に入れた大翔は、正体を隠したまま謎の魔法少女『プリムノヴァ』として活動を開始。▼ 少女の体と魔法少女の…


総合評価:937/評価:7/連載:71話/更新日時:2026年08月11日(火) 18:49 小説情報

TS衛生兵さんの成り上がり(作者:まさきたま(サンキューカッス))(オリジナルファンタジー/戦記)

TSしたFPS廃人が、異世界ファンタジーな戦争に巻き込まれる話です。▼残念ながらチートとかは貰えなかったので、雑兵としてコツコツ努力していきます。▼KADOKAWAファミ通文庫様より書籍版を発売しています。▼電撃コミックNEXT様より、コミカライズ版も発売中です。▼次にくるライトノベル大賞2023年度の単行本部門1位に選ばれました。▼応援してくださった読者の…


総合評価:78626/評価:9.52/完結:224話/更新日時:2026年07月29日(水) 12:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>