「君たちの初任務が決まった」
先生が去り、ひと月ほどたったころ、指揮官に言われた。
帝国が誇る精鋭部隊のパレードを行い、帝国の武威を知らしめるのだそうだ。
もっともエレーナは実家より内情を聞かされていたため、これが、戦意高揚と士気の維持を図るためだということを知っていた。
それは、本格的に戦争へ向かっていく、その予兆のようでもあった。
それでも、パレードの話を聞いてから皆が心を躍らせていた。
泥と硝煙にまみれる生活の中で、久しぶりに華やかな話題だ。
それからは隊列の訓練を行い、戦車の整備にも力が入るようになった。
自分たちの愛車を磨きこみ、隅々まできれいにした。
軍服はこの日のために作られた華やかなものが送られてきた。
今までの鼠色から純白へ変わった。
ドレスを模したような装飾、金色の紐飾り、そして、油が染みついた手を隠す、絹の手袋
みな、久しぶりに戦車兵から少女へと戻っていった。
「ちゃんとしたお化粧なんて久しぶりですね」
「もっと髪の手入れをしておくんでした、、、」
「この日焼けを隠せるおしろいはないかしら?」
ここが帝都なのだと思いださせる少女たちの声が響いた
パレード当日
帝都の大通りには人があふれ、花弁が舞う。
歓声の中、兵士たちが石畳を進む。
歩兵
騎兵
砲兵
戦車
様々な兵科が列をなして進んでいく。
そして彼女たちの戦車の番が来た。
日頃の訓練が見事な隊列を作っていた。
無骨な戦車を華麗に操る美しい少女たち。
それに誰もが魅了された。
少女はその美しさに憧れを、少年は淡い恋慕を抱いて。
沿道には戦車に乗る少女たちの親が貴賓席に座っていた。
少女が誇らしげに小さく手をふる。
花弁が舞う大通りを少女たちの乗る戦車が進んでいった。
それは戦いの道具でありながら、とても平和な光景だった。
それからしばらくの間、少女たちのパレードは各地を巡った。
鉄道の貨車に戦車と一緒に乗り、帝国中を旅をする。
海辺の都市では、潮風の香る通りを
北部山脈の麓の都市では、山から吹き下ろす涼風の中を
帝国南部の都市では、なだらかな山々と青く光る海を見ながら
美しい少女たちが操る鋼鉄の馬、それは勇ましくも可憐な劇のようであった。
沿道を埋めた人々からは歓声が上がった。
街から街へ、移動中は会話が弾んだ。
海の大きさと美しさに驚き、食事に供された見事な魚にまた驚いた。
帝国の名勝と知られる北部山脈を実際に見て、その高く青い輝きの美しさに驚いた。
南部の丘陵地帯一面に広がる葡萄畑、その葡萄から作られたワインと鮮やかな色合いの料理に驚いた。
初めて見る景色、初めて見る料理、久々に戻ってきた華やかな場所。
彼女たちの心は華やいだ。
「わたくし、初めて帝都の外へ出ましたわ」
そう話す少女は、目に映る景色を心に焼き付けていた。
貴族の令嬢は家から出ることは少ない。
その生活のほとんどは帝都屋敷か領地で過ごすことになる。
嫁ぎ先への旅程が、初めての、そして人生最後の旅となることも少なくない。
過酷な人生へ足を踏み入れたことで手にした、帝都にいた時にはなかった自由。
華やかな装いでは味わえなかった自由、それが鼠色の野戦服を着た先にあるとは何とも皮肉だった。
これがいつまでも続けばいいのに
皆そう思いながらも、着実に戦争の足音は彼女たちに近寄ってきていた。
夢のような華やかなパレード
帝国各地を巡る旅
陽のあたる世界を見た少女たちはまた、灰色と泥の世界にいた。
お姫様のような白く輝く礼装は丁寧に梱包され倉庫の奥へ仕舞い込まれる。
また鼠色の衣に身を包む。
「実弾射撃訓練を行う」
「中隊は指示された順路に従い演習場へ向かえ」
簡潔な命令文で夢はさめた。
それでも少女達にとっては射撃訓練は楽なものだった。
泥にまみれた履帯交換や、現場整備訓練、脱出した際の戦闘訓練、それらに比べればずっと楽なのだ。
砲弾を込める
標的に照準を合わせる
引き金を引く
この手順の繰り返しだ。
少女たちは貴族の子女だ。
作法にならい手順をこなす、それは彼女らの人生そのものと言えた。
「1号車位置に着きました」
エレーナが無線で指揮官に伝える。
「了解、準備が整い次第射撃を開始せよ」
「1号車了解、射撃を開始する」
「いいわね?いつもの手順通りよ」
無線を切るとエレーナは車内に向き直り、乗員に命令を下す。
「砲内異物無し」
装填手が確認し砲弾を込める。
「閉鎖良し」
「前方標的、照準良し」
砲手が確認し発射準備が整う。
「撃て」
轟音とともに砲弾が発射され、標的をとらえた。
少し離れた場所で射撃訓練を見学する武官達がいた。
「思ったより使えるのではないか?」
「お姫様のお遊びかと思ったが正規兵より上手いな」
「所詮訓練の話だ、実戦は違うさ」
「エルンスト中尉が教育したと言ったが、ずいぶんとしごいたようだな」
貴族の「余興」として戦車に乗った少女たち。
しかし、彼女たちを見つめる視線は、軍人を見るそれになりつつあった。