白百合中隊は補給中隊とともに前線へ向かう。
護衛についた彼女たちを見る視線は様々だった。
本当に戦えるのか?
少女たちの実力をいぶかしむ視線。
あれはパレードでみたお姫様?
華やかな帝都で見たパレードの記憶。
美人だな。
ただただ彼女たちの容姿を見つめる視線。
泥濘でなかなか操縦が上手いな。
彼女たちの技量の確かさを確信したもの。
もう護衛に付ける正規戦車もないのか……。
お姫様たちまで駆り出さなければいけない現状を憂うもの。
様々な視線があった。
「各車、警戒を厳に、私たちより敵の方がここを知っているわ」
エレーナは各戦車長へ無線を送る。
中隊へ指示するようにみえて、自分へも指示をしていた。
帝都で習った戦車教本、先生の地獄のような楽園での教え、先ほど聞いた専任下士官からの情報。
それらすべてが頭の中を駆け巡り、次とるべき行動を考え続ける。
エレーナは手元の地図と指示書を照らしあわせた。
行程はまだ半分も進んでいない、だがもうすでに体が痛く感じるほどの疲労感があった。
遠くで聞こえた砲声はだんだんと大きくなってきた。
昼過ぎになり、ようやく目的の部隊に合流することが出来た。
まだ休むことは許されない、この場所は戦場で一番敵に近いのだ。
物資の荷下ろしが始まる、弾薬、食糧、医薬品など様々な物資を降ろしていく。
そして、人。
白百合中隊とともに帝都からやってきた予備役兵たちも「補給」する。
補給中は警戒が最も必要な時間であった。
荷下ろしに人手がとられるために編成が崩れ、敵にとっては攻撃の好機と言えるからだ。
雲の影、木々を揺らす風、それすらも敵に感じる張りつめた時間だった。
基地から積んできた荷物を降ろし終わると、今度は持ち帰る荷物を積んでいく。
故障した武器や機械類、修理できるものは持って帰る。
そして、怪我人。
手足や頭に包帯を巻いた怪我人たちを荷台に詰め込んでいく。
「奇数車はそのまま警戒維持!偶数車の乗員は負傷者の搬送を手伝いなさい!」
少女達が腕を抱え支えながら歩く。
動けない者たちを乗せた担架を担ぎ運ぶ。
「ありがとう……あなたたちを帝都で見たよ……綺麗だった……」
ひとりの兵士が彼を支えている少女へ言った。
彼女は無言で彼を支える。
荷台の中には、わずかな安堵の声と、うめき声が満ちる。
修理できないものは置いていく、あたりには焼け焦げた車両が散らばっている。
死んだ者も連れていけない。
あたりには白い布にくるまれた遺体が安置されている、埋葬も間に合わない。
補給作業が終了すると、休む間もなく基地へ帰投を開始する。
食事も戦車の中で硬いパンを齧った。
帰路は往路より時間がかかる。
重傷者が多いため荷車の速度が出ないからだ。
早く帰りたいのに帰れない。
もどかしい気持ちを抱え、車列は進む。
何とか無事に基地へたどり着いたが、もうすでに日は落ち夜となっていた。
だが、中央回廊は眠らない、基地には照明が輝き、前線には照明弾がぎらぎらとした輝きを放っていた。
白百合中隊は補給処に戦車を運び込み、燃料を補給し、各部の点検を始める。
みな疲労を隠せていなかったが休む訳にはいかなかった。
「白百合中隊は帰投後、補給を行い待機せよ」
「指示があり次第、前線監視所の後方に向かえ」
エレーナのもとには次の命令が届いていた。
「エレーナ様、補給が間もなく終わります、各車問題ありません」
クラリスが戦車について報告をする。
「了解」
「作業が完了したら、小休止を取りなさい。指示を待って出発するわ」
「わかりました、隊員に伝えます」
そう言うとクラリスは踵を返し戦車の方へ戻っていった。
エレーナは一通りの報告を終えると、戦車の陰に腰を下ろした。
他の隊員たちも地べたに座りただ次の命令を待っていた、話をする者はいない。
「エレーナ様、お隣よろしいですか?」
クラリスがほほ笑みながら声をかけた。
「えぇ、どうぞ」
その場違いな微笑みにエレーナは思わず口元が緩んでしまった。
「お祖父様もこんな光景を見たのかしら」
「本にはなかったわ」
エレーナは呟く。
家を興した先祖たちの英雄譚
皇帝陛下に忠誠を誓い、東西南北様々な戦場を駆け抜け、強敵を打倒し家名を上げた。
だが、エレーナが読んだ家の歴史に今日見たような戦場はなかった。
ただただ銃や砲の前に人を送り続ける、そこに英雄は現れるのか。
「お疲れですか?」
そう言ってクラリスはエレーナの顔をのぞき込む。
「疲れた」
本当ならそう言ってしまいたかった。
自分の矜持にかけて、その言葉を押し込む。
そして、水筒のぬるい水で流し込んだ。
「いいえ、私は大丈夫よ」
外から騒ぎが聞こえる。
補給処の外から兵士が走ってくるのが見えた。
「エレーナ中尉!出撃してください!前線監視所です!」
「クラリス、聞こえたわね?出撃よ他の隊員にも伝えなさい」
エレーナはそう言うと立ち上がり戦車に乗り込んだ。
戦車のエンジンに火が入り、車内に熱気が満ちる。
中隊が走り出す。
「このまま前線監視所後方まで進出する!」
「基地を出たら榴弾を装填しておきなさい!」
エレーナの無線が飛ぶ。
白百合中隊の初任務が終わり、次の任務が始まった。