『calor ――理想の果てに灯る温もり――』   作:そもゆえに

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別荘での「丸一日」が終わり、外の世界(現実の1時間後)に戻ってくる一同。

高畑が「結果は心配していないけど、採用試験は終わったのかい?怪我とかは大丈夫みたいだね」と尋ねるのに対し、エミヤが「ああ、無事に内定をもらった。……色々と『温かい』歓迎を受けたよ」と、エヴァをチラ見しながら皮肉げに微笑む。
赤面してそっぽを向くエヴァと、それを見て首をかしげる高畑と茶々丸、まだ余韻でドギマギしているせっちゃん──。
──ここから、麻帆良学園での「料理店『calor』開業ドタバタ編」がスタート!


第4章 「口福の灯火」
第15話「温もりのはじまり」


 

麻帆良学園都市での料理店『calor』の開業準備は、結論から言えば、遅々たる歩みを見せていた。

学園長から直々に命じられた「警備員」関係の任務───主に学園内の結界の不備の確認や、異分子の警戒───に予想以上に忙殺され、自分の時間など満足に取れなかったからだ。

 

このままでは、図らずとも血生臭い守護者の座を降り、この世界で「新しい道」を選んだ意味がなくなってしまう。

 

そこで、現状を打破するために頼ったのが『超包子(チャオパオズ)』だった。

以前、森で救ったばかりの刹那に料理を振る舞う際、一時的にキッチンを借りた、あの巨大な中華移動屋台だ。

 

聞けば、麻帆良に数ある飲食店の中でも、中等部から大学部に至るまで絶大な人気を誇る超有名店なのだという。

まさか、その実質的なオーナーが刹那のクラスメイト(2のA)だったとは後から聞いて驚いたものだが。

 

食材の確実な仕入れルートの確保、および諸々の開店手続きをスムーズに進めるなら、この学園都市において彼女たちを頼るのが一番確実で、かつ手っ取り早い。

 

事前に刹那を通じて打診してもらったが、「問題ないあるよ、むしろ大歓迎ネ!」と快諾してくれたそうだ。

 

「それにしても───こちらに来てからというもの、刹那には色々と頼りっぱなしだな」

 

並んで学園の並木道を歩きながらそう零すと、隣の少女は弾かれたように肩を揺らした。

 

「そ、そんな大層な事は出来てませんっ! むしろ、うちは……その……お役に立てたなら良かったおす!」

 

刹那はみるみるうちに顔を真っ赤に染め、顔の前で両手をブンブンとちぎれんばかりに振りながら、しどろもどろになって答える。

 

油断するとすぐ素の京言葉が出てしまうあたり、彼女の余裕のなさが窺えて少し面白い。

 

「なら、互いに貸し借りなしとしよう。───ああ、それから。店が無事に開店したら、記念すべき第一号のお客になって貰えたら、私としても嬉しいのだがね」

 

何気なく、本当にただの感謝のつもりで、エミヤは微笑みながらそう言葉を掛けた。

 

一緒に開店準備を進めてくれているのだから、当然の権利だと思ったのだが。

 

「…………っ」

 

その一言で、刹那はピタリと脚を止め、彫像のように凝固した。

 

気のせいか、彼女の頭頂部から「ぷしゅ〜っ」と白い蒸気が立ち上った音が聞こえた気がする。

 

「刹那? どうした、顔が茹でダコのように真っ赤だが───」

 

「あ、超さんが丁度待ってくれているみたいです! は、はよう行きましょうっっ!!」

 

私の心配を遮るように、刹那はまるで脱兎の如き速度で猛ダッシュを決め、前方に店を構える『超包子』へと滑り込んでいった。

 

───謎だ。やはり、年頃の少女の情緒というのは、私のような擦り切れたものには理解しがたい深淵がある。(何故か赤い彼女に殴り飛ばされるイメージが一瞬浮かんだが)

 

改めて、紹介してもらうためにクラスメイトに先に声を掛けに行ったのだろう。そう自己完結し、私も向かう。

 

そこではすでに、移動屋台の店主───超鈴音(チャオ・リンシェン)が、顔を真っ赤にしている刹那にニコニコと楽しげな笑みを浮かべ、何事かを耳打ちしているところだった。

超は私に気づくと、パッと手を振りながら快活な声を掛けてくる。

 

「久しぶりネ、エミヤさん! あの時もそうだけど、あの生真面目な桜咲さんから『頼りたい人がいる』なんて言われて、一緒に連れて来るなんて正にビックリしたヨ。前までの彼女とは、まるで別人と思えるくらいネ。ナニはともあれ、歓迎するアルよ!」

 

鮮やかな中華服を纏った少女。中国人とのことだが、日本語の発音や文法には一切の問題がない。それどころか、噂によれば数カ国語を完璧に操る超天才児だそうだが。

独特の語尾は愛嬌なのだろう。

 

「急な無理を言ってすまない。改めてになるが、私はエミヤだ……『超』と呼んでも構わないかね?」

 

年齢差はあれど、これから商売のイロハや仕入れを頼りにさせてもらう相手だ。もし「さん」などの敬称をつけた方が良ければそうするつもりだったが、

「いーよ、いーよ! 経営者同士、堅苦しいのはナシネ!」

 

超は私の言外の意図を察したのか、ニコニコと笑いながら手を振った。そして、未だに隣でアワアワしている刹那をチラリと盗み見ると、

 

「なんなら───桜咲さんのように、名前(鈴音)で呼んでも全然構わないヨ?」

 

にこり、と。

 

先ほどまでの商売人のものとは違う、獲物を見つけた小悪魔のような笑顔を浮かべる超。

 

それを見た刹那は、さらに顔の赤みを増して「ちょ、超さんっ! 何を言うて───っ!」と、完全にオーバーヒートを起こしていた。

 

「ああ、それなら『超』と呼ばせてもらうよ。それで、実際の開店についてなのだが───」

 

これ以上この話題に踏み込むと、色々とよろしくない気配(主に、刹那の心臓的な意味で)を察知したため、失礼ながら用件をストレートに進めさせてもらうことにした。

(何故か赤い彼女に殴り飛ばされる幻影が浮かんだが)

 

仕入れルートの共有、初期コストの計算、ターゲット層の絞り込み、メニューの構成───。

 

「まぁ、麻帆良なら正直ソコまで堅苦しく考えなくても良いと思うヨ? 利益を出すことより、お客サンの笑顔を思って店を開くなら、尚更ネ」

 

超のその言葉には、どこか達観したような、不思議な重みがあった。

 

話し合いの結果、当面は仕事(警備員の任務)との兼ね合いもあるため、週に数日の「隔日開店」。

 

時間帯も放課後の数時間に一旦限定し、軌道に乗り次第、都度修正していくという大枠が決定した。

 

───これでようやく、私の『温もり(calor)』が、この世界に形を成す。

 

一通りの事務作業を終え、安堵の息を吐きながら食材の選定を始める私の背後で、刹那は未だに胸の手を当てて、トクトクと脈打つ名前のない熱を必死に宥めていた。

 




戦闘話が続いたので、しばらく日常話の予定です。さて、誰が来店するのやら。

今後の料理店に来店して欲しい人。※項目に無ければその他で、感想で希望する人を。クラスメイト以外でも可。話の流れで直ぐには反映出来なかったりします。

  • 神楽坂明日菜
  • 龍宮真名
  • 長谷川千雨
  • 宮崎のどか
  • 古菲
  • 長瀬楓
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