【Fate×ネギま】正義の味方の在り方   作:そもゆえに

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第2話 百鬼夜行

――まずい。

 

桜咲刹那は痛む腕を無理やり握り込みながら、歯を食いしばった。

 

状況は最悪。

 

そして、その最悪は刻一刻と悪化していた。

 

「――っ、斬岩剣!!」

 

裂帛の気合と共に太刀が振り抜かれる。

神鳴流奥義。

放たれた斬撃が、目の前の異形を両断した。

 

だが。

 

倒しても、倒しても。

終わらない。

 

森の中でも比較的開けた空間。

 

広場と呼ぶには狭いが、そこは既に“現世”とは思えぬ異界と化していた。

 

三メートルを超える巨躯を持つ一ツ目鬼。

 

狐面を被った小柄な人型。

翼を持ち、鳥面を晒す天狗。

 

まるで百鬼夜行。

 

悪夢をそのまま切り取ったような光景だった。

 

それに対峙するのは、まだ年端もいかぬ少女が一人。

麻帆良の女子学生服姿。

黒髪を横で束ねた十五にも届かぬ剣士。

 

退魔剣士――桜咲刹那。

 

「ハッ、ようやるやないか嬢ちゃん!」

一ツ目鬼が下卑た笑みを浮かべる。

「せやけど……ちぃと息が上がっとるんちゃうか?」

 

「……っ」

 

否定できない。

既に体力は限界に近い。

 

学園都市・麻帆良。

 

強固な結界都市。

 

だがその実態は、侵入そのものを拒絶するよりも、認識阻害と監視に重きを置いたもの。

 

そして今夜。

 

東洋呪術系過激派の侵入を許した。

 

本来なら援軍が来る。

だが――。

人手が足りない。

慢性的に。

致命的なほどに。

 

少し離れた木立の中。

闇に紛れるように、一挺のライフルが静かに火を噴いた。

乾いた銃声。

 

飛翔していた鳥型式神の頭部が弾け飛ぶ。

排出される薬莢。

地面に転がる金属音。

 

「……残り、少ないか」

 

低く呟く女。

黒曜石のような黒髪。

褐色の肌。

年齢以上の落ち着きを漂わせる長身。

 

――龍宮真名。

 

狙撃支援によって刹那を援護していたが、状況は芳しくない。

 

当初想定されていた敵式神は二十程度。

 

余裕を持って装備を整えていた。

 

だが。

 

現実は違った。

多すぎる。

圧倒的に。

 

いくら麻帆良が人手不足とはいえ、中学生が最前線へ駆り出される時点で異常事態。

 

そして今、その異常が牙を剥いている。

 

残弾は、既に指折り数えられる程度。

 

――不味い。

 

魔眼が導き出す未来予測ですら、状況は絶望的だった。

 

だからこそ。

 

 

龍宮真名は、一瞬理解が遅れた。

 

そこに“居る”ことに。

 

いつから立っていた?

 

気配も、前兆もない。

 

まるで最初からそこに存在していたかのように。

少女と鬼の間。

 

死地の中心。

一人の男が立っていた。

 

色を失ったような銀白の髪。

鋼を思わせる灰色の瞳。

浅黒く、赤銅を帯びた肌。

黒を基調とした装束。

そして、その上から羽織る赤い外套。

 

――異物。

 

そう呼ぶしかない存在感。

 

鬼が値踏みするような笑みを浮かべる。

 

「なんや兄ちゃん。助太刀か?」

 

男は答えない。

 

ただ、周囲へ視線を巡らせる。

一瞬。

それだけで戦場を理解した。

 

「――解析、終了」

 

静かな声。

だが、不思議と空気が張り詰めた。

「なるほど」

男の瞳が異形を映す。

「式神として使役された化生か」

そして。

 

ゆっくりと、前へ出る。

 

「――統べて、還ってもらおう」

 

鬼が嗤った。

 

「ハッ! 面白いやないか、兄ちゃん!」

巨大な腕が振り下ろされる。

 

その瞬間。

 

死地の均衡が、崩れた。

 

 

 

黒と白。

相反する色を宿した双剣が、夜闇の中で閃いた。

斬撃。

 

否――それはもはや舞。

 

異形の巨躯をすり抜けるように駆け、振るわれた刃が寸分違わず急所を断ち切っていく。

 

鬼が裂ける。

 

天狗が墜ちる。

 

狐面の式神が、声を上げる暇すらなく霧散する。

 

圧倒的だった。

だが、それ以上に。

 

――美しかった。

 

彼女たちの知る由もない。

その雌雄一対の剣の由来を。

 

古き中国。

帝の命により打たれた陰陽の双剣。

鍛冶師が身命を賭して鍛え上げた、対となる刃。

魔を討ち、邪を滅する退魔の剣。

――干将・莫耶。

その刃が、今。

悪鬼羅刹の只中で舞っていた。

 

刹那は、息を呑む。

 

目を奪われた。

 

いや――。

 

心を、奪われていた。

 

速い。

美しい。

そして何より。

強い。

 

神鳴流を修めた彼女だからこそ分かる。

あれは、ただの剣技ではない。

無駄がない。

迷いがない。

殺すべきものだけを断ち切る、完成された剣。

だが。

 

「――っ……!」

 

不意に、膝が揺れた。

張り詰めていた糸が切れたように、全身へ痛みが走る。

無理もない。

既に限界を超えていたのだ。

 

それまで黙々と戦っていた青年が、初めて彼女へ視線を向ける。

鋼のような瞳。

感情を読ませぬ声。

 

「……時間がないな」

 

短く呟く。

そして。

「早急に終わらせてもらう」

 

握られていた双剣が――砕け散った。

 

黒と白の刃が、粒子となって霧散する。

刹那の瞳が見開かれる。

 

武器を失った?

否。

違う。

青年の声音が、静かに響く。

 

「――投影、開始(Trace, on)」

 

その瞬間。

 

世界が、軋んだ。

 

 

 

 

一方。

 

異形を統べる呪術師の男は焦燥に駆られていた。

 

おかしい。

明らかに、おかしい。

今夜の作戦は完璧だったはずだ。

かの御方の傍らにいる“半端者”の排除。

そして可能ならば――連れ戻す。

 

麻帆良大結界は厄介だ。

大規模術式や強大な魔物の侵入は阻む。

だが、人間や式神への対応は感知寄り。

故に、入念に準備を重ねた。

西洋魔法使い共が薄くなる時間帯。

式神の数。

侵入経路。

全て整えた。

本来の目的も、達したはずだった。

 

なのに。

 

「何故だ……!」

式神が、次々に消えていく。

召喚速度が追いつかない。

包囲が崩れる。

 

何だ、あの男は。

転移魔法か?

魔法具か?

西洋魔法使いに雇われた傭兵か?

 

正体は分からない。

 

だが。

 

危険だ。

 

本能が警鐘を鳴らしていた。

 

――撤退。

 

判断は早かった。

 

背を向けた、その瞬間。

 

「……これだけ好き放題しておいて」

 

すぐ後ろから。

声がした。

 

凍る。

 

いつの間に。

 

「当然」

 

静かな声音。

だが、背筋が凍りつくほど冷たい。

「斃される覚悟くらいは、あるのだろう?」

 

呪術師が振り向く。

 

遅い。

 

否。

 

遅かったのは、彼ではない。

 

――男の方が、圧倒的に速かった。

 

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