『calor ――理想の果てに灯る温もり――』 作:そもゆえに
calorの店内。
今日は珍しく店内の姿はまばらである。
「はいヤー、炒飯は火力が大切アルー」
常連の古菲は何故か修行の一貫といって中華鍋を振るってる。まだ店で出すクオリティではないが十分美味しい。
このまま行けば炒飯などは店で出せるレベルになりそうだ。
今はもっぱら古菲自身が食べたり、賄い飯になってるが。
端の2人掛けのテーブルで千雨がイヤホンをつけてパソコンを打ちながら此方を眺めて軽くため息を吐いている。
「なんで常連客が厨房で鍋を振るってるんだよ。折角珍しく人も少ないってのに⋯」
「どしタ、千雨。ため息をついて。気分が落ち込んだ時は沢山食べるが良いネ〜私の炒飯サービスするネ」
「そーじゃねぇ!お前が厨房で鍋を振るってるのに突っ込んでんだよ!!食べるならシロウさんのご飯が良いに決まってるだろぉうが!」
「はは、今日もキレが良いツッコミだな。どうだ珈琲のおかわりでも」
「なんで皆して追加のオーダー促してるんだよ、営業上手か───まぁ、珈琲のおかわりは頼むけど」
「と、言うことだ。シロウさん珈琲の追加オーダーだ」
此処では気にせずに突っ込んでんいる千雨。気にはしないが、ツッコミ自体はせずに静かに珈琲を飲みたいのも本音だろう。
この前何気なく画面を見たら、彼女の運営しているホームページのコラムや、ハンドルネームちぅとしてコスプレなど投稿して活動しているのを褒めたら非常に微妙な顔で天を仰いでいた。
「そういえばさ、今日人が少ない理由の1つなんだけどさ。3-Aが修学旅行だから2日間は静かになるぜ」
追加のコーヒーをちびちびと飲みながら気を使うように声を掛けてくれる。
「あっ、そうだったアル!行きの新幹線で食べる弁当が欲しいんだったネ〜」
「そこは駅弁とかの選択肢はネェのかよ!?まぁ、もし頼めるなら私も頼みたいけどよ」
「ずいぶんご機嫌なんだなぁ貴様らぁ!!」
ゴゴゴゴと効果音が聞こえそうなほどの威圧感と怒気を噴出させているエヴァ。
千雨と反対の隅の席で茶々丸と座って紅茶と黙々とクッキーを食べていたエヴァンジェリンだったが堪りかねて叫んでいる。
だがエヴァンジェリンの怒り様には同情するしかない。
エヴァンジェリンは登校呪いのせいで修学旅行に行ったことはない。学業の一環で、と呪いに介入しようとしたが受け付けなかったとの事だ。
「ふん、精々ノー天気に行けばいいさ!今回は坊やが一緒だからナニが起こるか楽しみにしてるんだなぁ長谷川千雨ぇ!!」
「ちょっ、なんで私を名指ししてるんだよ!あれか、アレなのか!?よくわからん不思議な現象でアタマが痛くなるのかよ!!逆になんで2人にはって、まぁ龍宮は如何にもだし、古菲もアレだしな」
「どんな理由で私を排除したか、それはソレで聴きたいところだな長谷川?」
「私もわからないネ〜あ、つまり強者のニオイがするアルか!?」
「だ、か、ら!この私を除け者にするんじゃない貴様らァァァ」
「ツッコミが追いつかねぇんだよ、何とかしてくれよエミヤさん!!」
「エヴァ、2日間は私と茶々丸一緒に過ごそう。あとみんなの土産話を楽しみにしてるよ」
ぽんぽんと金の滑らかな髪の毛を優しく撫でる。
「あ、あぁ。仕方ないから一緒に居てやる」
怒気をおさめるエヴァンジェリン。
「なんだ、お土産が欲しかったアルか〜それなら八ツ橋を買ってくるネ」
「じゃあ質の良い抹茶を買ってくるからcalorで一緒に食べるとするか」
「修学旅行の定番、木刀買ってやろうか?」
「なんで木刀なんだ、さっきのを根に持ってるのか長谷川千雨ぇ!!あと2人は土産じゃなくて此処で食べるためのだろ?」
賑やかな温もりが今日もcalorを包んでいた。
時と場所は変わり、修練所に使っている広場では剣戟や衝撃音が響き渡っていた。
シロウに対して古菲の打撃と刹那の夕凪の一閃が繰り出されている。
「百花桜乱っ!!」
「形意拳、崩拳!!」
それぞれの気迫のこもった一撃を方や双剣で受け流し、逆に回転しながら剣の柄で横撃する。気を纏った防御をした刹那でも踏ん張れず吹き飛ぶ。
「八極拳、肘中ヨ!」
その隙に古菲は1歩前に更に加速して踏み込む事で躱し、至近距離に近づき剣ではなく振るう腕を狙う───が、腕を魔力で強化した事で揺らぐ事なく、強い踏み込みで蹴り飛ばされる。本来なら発勁による浸透勁は防御を無効化するなのだが、強化を打ち破れきれ無かったのだ。
げほげほと息を乱しながらも立ち上がる。
「流石師父ネ。今のワタシでは確かに刹那と連係も難しいアル」
「今まで1人で戦う事しか知りませんでしたが⋯教えを乞うてなんですが、先ずは個の力を高めたいのですが。私は木乃香お嬢様を護る為に」
古菲だけでなく、刹那も修行を頼んできたのだ。片や至高に至る武、片や護る為の剣。
最初は別々に重心移動や立ち筋、踏み込み等を実践しながら都度指摘して訓練をしていた。
時には古菲と刹那を互いに戦ってるのを視て指導をした。
剣と拳での対戦経験も重要になってくる。互いの得意な距離が違う。
一旦休憩の頃合いかと、2人に軽く濡らしたタオルとペットボトルを投げる。
「個の力も勿論だが時には共闘する場面があるだろうし、連携することで見えてくるモノがある。只々修練するのであれば一人ずつすれば良いさ。だが恐らく今後必要になってくる、ような場面が無ければ良いのだがね」
肩を竦めて、自分も軽く水分をとり顔を拭く。
古菲がペットボトルの水をグビリとあおり、更にアタマから水をかぶる。ぷるぷると水気を飛ばす。
「師父、もう1回あるヨ!」
「古、休憩だ」
「まだ行けるアル!」
「顔色が真っ青です」
「そんな事ないネ!むしろ高揚して熱いアル!!」
「古は言い出したら曲げないな──なら仕方ない」
両手に再度木剣を投影する。
「謝謝、まだ今は一対一の方が燃えるアル!はぁぁぁぁっ!!双換掌!!」
シロウの直線的な木剣の突きに対し、古菲がくるりと回り込み、側面からシロウの首筋や脇腹を狙って滑り込ませた掌打を撃つも双剣で撃ち落とされる。
すぐさま地面に突いた手を支点に、八極拳の鋭い足技──『尾切り(びきり)』を繰り出すも瞬時に距離をとられる。
つまり、双剣の間合い。
今度の間合いでは迂闊に踏み込めず、彼の苛烈な剣を避けながら攻めねばならない。その事に胸を高鳴らせた。
互いの剣と拳が躍っている。
その光景を眩しそうに刹那が見つめている。
あんなふうに無心で剣の腕を高めていたのは。
否、護る為に血を滲ませながら剣を磨いていたのは。
何時からだろう。
木乃香お嬢様を護る為だった剣が、
木乃香お嬢様から離れる為の剣になってしまったのは。
眼前の光景を眺めながら何処か遠くを刹那はみていた。
自らもペットボトルの水をかぶり、パンパンと顔を叩いて立ち上がる。
「古菲、そろそろエミヤさんを一人占めは止めて貰おう。エミヤさん!次は私の番です!!神鳴流の剣技、貴方の双剣と競わせて貰います」
古菲が武を求めるように、私は護るための剣を求める。
刹那は夕凪を構える。
その姿を見てシロウは肩を竦めた。
「──私は、休憩できなさそうだな」
「う〜沁みるアル」
「アレだけ無茶をすれば当然だ、エミヤさんが止めてもやめないし」
「でも師父と戦ってるとこう、なんというかまだ前に、前に進めるって思って中々自分でも自制が⋯それに刹那だって」
古菲が両手の指先をつんつんと合わせながらいう。
女子寮まで遠いのと、応急手当なども出来る近いcalorでシャワーを浴びさせて貰っている。古菲とお互いに打撲などに効く軟膏を塗っている。
「ふっふふふ、お互いさまだなっ」
こうして誰かと笑いながら剣を振るなど何時ぶりだろうか。
結局夕飯もcalorで頂いて帰路につくのをシロウが見送っている。
「シロウは私と一緒に過ごすんだぞ!なんなら特別に私の家に泊まって、いやcalorで泊まるのも───」
「その節ではマスターがお世話になると思いますが、よろしくお願いしますエミヤさん。」
何かを悩んでいるエヴァンジェリンと茶々丸を見送りcalorの鍵を閉める。
修学旅行を見送り、帰りを待つ。
だから本来なら私の出番は無い。
無いはずなのだが。
不意に嫌な寒気にゾクリと肩が震える。
厄介事が近づいてくる時の予兆。
そんなはずはない。
ないのだが───
妙な胸騒ぎだけが消えなかった。
今後の料理店に来店して欲しい人。※項目に無ければその他で、感想で希望する人を。クラスメイト以外でも可。話の流れで直ぐには反映出来なかったりします。
-
神楽坂明日菜
-
龍宮真名
-
長谷川千雨
-
宮崎のどか
-
古菲
-
長瀬楓
-
その他