【Fate×ネギま】正義の味方の在り方   作:そもゆえに

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第5話 「理想と現実の狭間」

「――さて」

 

学園長が髭を撫でる。

 

「君は、これからどうするつもりかの?」

 

問いの意図を測りかね、アーチャーは老人を見る。

 

胡散臭いほど穏やかな笑み。

だが。

ただの親切心ではない。

こちらの反応を見るための質問。

そういう類のものだ。

学園長は穏やかに続ける。

 

「頼れる縁者もおらん。困ったものじゃのぅ」

 

そして。

 

「何か当てがあるなら良い。無いなら――こちらで便宜を図ることもできる」

 

……なるほど。

表向きは救済。

だが、本音は別だ。

 

アーチャーは小さく鼻を鳴らした。

 

「得体の知れない異邦人を野放しにするより」

 

鋼色の視線を向ける。

 

「手元に置いて監視した方が安全――そういう話か」

 

空気がわずかに張る。

 

高畑の表情が、僅かに動いた。

……若い。

隠したつもりでも反応が出る。

対して。

学園長は笑みを崩さない。

 

「ふぉっふぉっ。明け透けじゃのぅ」

 

悪びれもしない。

「無論、それもある」

あっさり認めた。

「じゃがな」

 

目を細める。

 

「困っている者に手を差し伸べたい、という気持ちも本物じゃよ」

 

そして。

 

「大事な生徒を助けてもらった恩もある」

 

――狸だな。

善意も本音。

打算も本音。

全部混ざっている。

厄介極まりない年寄りだ。

 

アーチャーは肩を竦めた。

 

「その“大事な生徒”を」

 

少し低い声。

 

「中学生のうちから、ああいう荒事に放り込んでいる時点でどうかと思うがね」

 

白けた視線が二人へ向けられる。

一瞬。

部屋が静まった。

 

先程のように反応したのは高畑だった。

 

「……僕だって」

 

静かな声。

だが感情が乗っている。

 

「力があるからと、生徒を危険に晒すのを良しとしている訳じゃない」

 

そして。

少しだけ頭を下げた。

 

「礼が遅れたね」

 

真っ直ぐな視線。

 

「彼女たちを助けてくれてありがとう。高畑・T・タカミチ。彼女たちの担任教師だ」

 

……なるほど。

少なくとも。

この男は、本気で心配していたらしい。

口先ではない。

だからこそ。

アーチャーの声音は少しだけ冷える。

 

「担任教師、か」

 

皮肉ともつかぬ声音。

 

「魔法使いが中学教師とは驚いた」

 

一拍。

 

「いや――教師が魔法使いか」

 

そして。

 

わずかに目を細め、学園長に目線を向け

 

「何にせよ、中学生を戦場に立たせ」

 

高畑を見ながら言葉を続ける。

 

「自分の生徒を守るために、得体の知れない私の手まで借りる」

 

静かな口調。

だが。

刃のような鋭さがある。

 

「それほど人手が足りないということだろう?」

 

高畑が言葉を詰まらせる。

反論しようとして。

できない。

事実だからだ。

 

麻帆良の現実を。

目の前の男は、数時間で見抜いてしまった。

 

「……まあ」

 

アーチャーは話を切り替える。

 

「化け物退治の学園警備を引き受けるのは構わん、条件付きだがな」

 

その言葉に。

 

学園長の目が僅かに細まった。

「ほぅ?」

髭を撫でる。

「条件付き、かの?」

 

学園長が髭を撫でながら続ける。

 

「可能な限り、事情は汲むつもりじゃよ」

 

可能な限り。

つまり、不可能なら切る。

実に組織の長らしい物言いだった。

 

だが。

 

選択肢があるだけマシだった。

 

(……この世界なら)

 

ふと考える。

世のために魔法を使う者たち。

少なくとも、自分の知る魔術師よりは遥かにマシな世界。

ならば。

かつて目指した在り方を。

別の形で選べるのかもしれない。

 

その時だった。

学園長が、ふと思いついたように言う。

 

「そうじゃ」

 

嫌な予感がした。

 

「刹那君たちのクラスの副担任など――」

 

「断る」

 

即答だった。

 

「……早いのぅ」

 

「教員免許が無い」

指を折るように淡々と続ける。

「教育経験もない」

さらに。

「私のような人間が教えられることなど、碌なものではない」

 

わずかに目を伏せる。

戦い。

殺し。

後悔。

自己犠牲。

そんなものを、中学生へ教える趣味は無い。

 

「それに」

 

鋼色の視線を戻す。

 

「私のやりたいことを聞くと、そちらが言っただろう」

 

仏頂面のまま、一蹴。

 

学園長は愉快そうに笑った。

 

「一つは戸籍」

 

アーチャーは淡々と指を立てる。

 

「もう一つは、衣食住だ」

 

当然の要求。

戸籍が無ければ社会で生きられない。

寝床も必要。

食事も然り。

 

――もっとも。

 

“世界の掃除屋”として各地を渡り歩いていた頃なら、その限りではなかった。

 

野宿。

廃墟か、はたまた木にもたれ掛かり夜を過ごした。

強奪されかけた食料を護った礼に貰った。

あるいは現地調達。

必要最低限で生き延びる術はある。

 

だが。

今は違う。

 

「ふむ、それは当然じゃな」

 

学園長も頷く。

 

「警備任務は危険も伴う。報酬も相応に用意するつもりじゃ」

 

麻帆良の防衛。

 

裏の仕事。

 

当然、相応の金は動く。

 

実際、龍宮真名にも傭兵契約として報酬が支払われているらしい。

 

恐らく。

 

自分にはそれ以上が提示されるだろう。

 

「報酬は貰う」

 

アーチャーは短く肯定した。

 

「だが――最後に一つ」

 

そこで。

僅かに間を置く。

 

「裏方だけではなく、表の仕事にも就かせてもらいたい」

 

学園長の眉が上がる。

「ほぅ?」

興味深そうな顔。

高畑も視線を向けた。

 

「警備だけでは、流石に拙い」

 

アーチャーは肩を竦める。

 

「日常生活も送らなければな」

 

そして。

珍しく。

ほんの少しだけ。

皮肉でも諦観でもない、人間らしい表情を見せた。

 

「……やりたい事がある」

 

その言葉に。

近右衛門は内心、僅かに驚く。

ここまで見てきた青年は。

どこか乾いていた。

隙がない。

何処か生に執着が薄い。

そんな印象だった。

だからこそ。

今の表情が意外だった。

 

まるで。

 

かつては叶わなかったであろう願いを抱く

 

だが、どこにでもいる普通の青年のような表情

 

「ほっほっ」

 

学園長は目を細めた。

 

「聞こうかのぅ。君の“やりたい事”というのを」

 

 

 

結局。

 

条件交渉だけを済ませ。

 

細かな話は後日に回されることになった。

 

そして。

 

青年は部屋を後にする。

 

扉が閉まる。

 

静寂。

 

 

 

 

学園長が、くつくつと笑った。

 

「不服そうじゃのぅ、高畑君」

 

「……どういうつもりですか?」

 

即座に返る。

 

学園長は惚けた顔をする。

 

「どう、とは?」

 

「腹の探り合いは御免です」

高畑は小さく息を吐いた。

「あなたと今さら駆け引きなんてしたくない」

 

「冗談じゃよ」

悪びれもしない。

「年寄りの茶目っ気じゃ」

 

――茶目っ気、ね。

西洋魔法協会理事。

最強格の魔法使い。

封印解除状態の彼女を除けば、比肩者も少ない怪物。

その癖、時々本当に考えが読めない。

 

「彼の実力も素性も不明です」

高畑は珍しく強めに言う。

 

「それなのに副担任なんて……しかもネギ君が居る、あのクラスの」

 

「流石に冗談じゃよ」

学園長は笑う。

そして。

ぼそりと続けた。

「……今のところは、の」

 

「……胃が痛い」

高畑は額を押さえた。

学園長はそんな彼を見ながら。

静かに髭を撫でる。

「近いうちに紹介するつもりじゃ」

魔法教師。

警備担当の生徒。

そして。

 

「高畑君」

 

笑う。

 

「君にも皆の疑問や心象の為に、腕試しでもするかもしれん」

 

一拍。

 

「十中八九、強い」

 

そして。

 

「――なまじ、強すぎるのが心配じゃがな」

ふぉっふぉっふぉ。

楽しそうに笑う老人に。

 

高畑は、今日何度目かのため息を吐いた。

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