──新しい世界。
──新しい日常。
──新しい居場所。
そして。
自らの夢、その再出発。
始まりこそ、剣戟と血煙の中だった。
だが。
今は違う。
久しく縁遠かった平穏が、そこにはあった。
店の準備。
仕入れ先との交渉。
厨房設備の確認。
最低限の備品。
食器。
調味料。
そして。
何よりも――料理。
忙しさの中にある、確かな充足。
かつては存在しなかった時間。
誰かを斬る為ではなく。
誰かに食べてもらう為に、思考を巡らせる日々。
悪くない。
そう思えた。
麻帆良学園都市。
女子中等部方面へ続く商店街本通り。
その喧騒から少し外れた路地の先。
そこに、店はあった。
どこか古びた。
だが、落ち着きのある外観。
レトロという言葉が似合う、昔ながらの喫茶店。
カウンター席。
四人掛けのテーブルが二つ。
二人席が三つ。
満席でも二十人程度。
広すぎない。
だからこそ、良い。
料理を食べる表情が見える。
空気が分かる。
店の温度が伝わる。
一人で始めるなら、この規模が最適だった。
店前のスペースを使えば、簡易的なオープンテラスも可能。
学生街らしく、賑やかな食事会にも使えるだろう。
「……悪くない」
ぽつりと呟く。
自分の城。
そんな言葉が脳裏をよぎり、僅かに苦笑する。
――その時だった。
携帯が震える。
着信。
仕事用として学園長から渡された端末。
表示された名前を見て、小さく息を吐く。
「……学園長か」
通話ボタンを押す。
『おぉ、エミヤ君。警備員の仕事についてなんじゃが――』
内容は単純だった。
学園警備として働く以上。
他の魔法使い達から信任を得る必要がある。
ぽっと出。
経歴不詳。
得体の知れない男。
そんな存在に、誰も背中は預けられない。
当然の判断だ。
だからこそ。
顔合わせの場を設ける。
――そういう話だった。
「構わない」
短く返す。
むしろ、避けては通れない道だ。
警戒されるのは当然。
ならば。
実力なり、態度なりで覆すしかない。
それだけの話だった。
そして、当日。
時刻は夜十時を回る頃。
春先。
まだ夜気は冷たい。
だが。
「……静かすぎるな」
人気が無い。
いや。
“無さすぎる”。
世界樹前広場。
本来ならば、まだ人の流れがある時間帯。
にも拘らず。
空白。
不自然なほどの静寂。
「人払いか」
恐らくは遮音結界。
あるいは認識阻害。
魔法使いらしい配慮だ。
その中心。
ぽっかりと切り取られたような空間に、人影があった。
「よく来てくれたのぅ、エミヤ君。夜分に済まんの」
近衛近右衛門。
相変わらず飄々としている。
その背後。
老若男女。
十数名。
視線だけで判断する。
年齢層は幅広い。
下は中高生程度。
上は三十代前後。
――魔法先生。
――魔法生徒。
(頭が痛くなるな……)
中学生が実戦に立つ。
その時点で、自分の価値観とは相容れない。
もっとも。
事情があるのも分かる。
人手不足。
脅威。
現実。
理想だけで回るほど、裏側は甘くない。
既に顔見知りもいた。
高畑。
龍宮。
そして。
刹那。
だが。
大半は初対面。
当然だ。
だからこその場なのだから。
そして。
向けられる視線。
好奇。
困惑。
猜疑。
警戒。
露骨な敵意こそない。
だが。
歓迎されている空気でもない。
――当然だ。
得体の知れない男。
突然現れ。
高位戦力として組み込まれた。
面白いはずがない。
(さて)
アーチャーは静かに周囲を見渡す。
(まずは品定め、か)
そして。
その空気を破るように。
一人が前へ出た。