【Fate×ネギま】正義の味方の在り方   作:そもゆえに

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「いくら結界を張っていても、万が一もあるからね」

一人の男が前へ出る。

「僕が相手をさせてもらうよ。派手な魔法も使えないし」

苦笑混じりに肩を竦める。

高畑・T・タカミチ。

担任教師。

そして、先日の一件でも顔を合わせた男。

「正直、あまり気乗りはしないんだけどね」

その言葉に。

エミヤは僅かに目を細めた。

(なるほど)

理解する。

これは単なる顔合わせではない。

「面通し」

など建前だ。

本質は――査定。

得体の知れない男が、どこまで信用に足るか。

その実力を測る。

採用試験。

そういうことだ。

「高畑」

静かに呼ぶ。

「君が相手なら話が早い」

空気が、少しだけ変わる。

「私の相手が弱すぎて、実力が測れなかった――などと言われずに済む」

「――っ」

反応したのは刹那だった。

僅かに目を見開く。

驚き。

そして、動揺。

まさか。

面通しだけでなく、本当に戦うと知らなかったのだろう。

周囲からもざわめきが起きる。

中には露骨に眉を顰める者もいた。

――身の程知らず。

そんな感情が見える。

無理もない。

この場にいる誰もが知っている。

高畑・T・タカミチ。

戦闘という一点において。

麻帆良屈指。

否。

最強格の一角。

派手な魔法は使えない。

詠唱魔法も扱えない。

だが。

だからこそ。

彼は別方向へ到達した。

気。

魔力。

肉体。

その全てを研ぎ澄ませ。

純粋な戦闘能力だけを極限まで高めた男。

魔法先生でありながら。

誰よりも前線向き。

そんな男だった。


第9話 「試される者」

 

 

《体は剣で 出来ている》

 

「投影、開始──トレース・オン」

 

イメージするは、対の夫婦剣。

カチリ、と世界が噛み合う確かな手応えとともに、男の両手には陰陽の理を宿した中華風の双剣───『干将・莫耶』が握られていた。

 

「投影、完了──トレース・オフ」

 

突如として噴出した、尋常ならざる魔力反応。その二振りの刃が放つ異質な“気配”に、周囲で見守る魔法使いたちの視線が一斉に突き刺さる

 

「それが君の《力》かい?」

 

「さぁ、どうだろうな?」

 

問いをはぐらかすのではない。これから嫌というほどその身で理解することになる───男の灰色の瞳は、ただそう告げていた。

 

周囲の野次馬から「アーティファクト」や「転送魔法(アソート)」といった未知の単語が漏れ聞こえてくる。

 

もしかしたら、この世界にも似たような術理や高位の魔法が存在するのかもしれない。だが───まだ、安々と手の内(カード)を晒すつもりはなかった。

 

───すべては、眼前の男の出方次第だ。

 

高畑が両手をスラックスのポケットに突っ込んだまま、微動だにしない。

 

一見すれば隙だらけのその姿勢が、一種の「絶技の構え」であることは、男の『心眼』がとっくに看破している。

 

まるで、鞘に収められたまま抜き放たれる瞬間を待つ、剥き出しの剣先を向けられているかのようだ。

 

さて。この世界の“魔法使い”の武の真髄。

───お手並み拝見、とさせてもらおうか。

 

 

 

 

 

 

 

───さて、どうしたものか。

高畑・T・タカミチは、正面に佇む赤い外套の青年を前に、ポケットに手をねじ込んだ姿勢のまま、静かに呼吸を整えていた。

武の素養がない者が観れば、ひどく緊張感に欠ける無防備な立ち姿に映るだろう。

 

だが、これこそが彼にとっての完全なる戦闘態勢───「居合い」の構えに他ならない。

 

先天的な特異体質ゆえに、自分は魔法の呪文を詠唱することができない。そんな、術者としては致命的な欠陥を抱えた自分が、かつて『紅き翼』の師から叩き込まれた武術の真髄。

 

 

対する赤の異邦人───エミヤ。

事前の報告では、凄まじい剣技を以て、関東呪術協会の式神の群れを文字通り屠り去ったとある。

 

男は二振りの奇妙な双剣を握ったまま、両腕をだらりと脱力して下ろしていた。

 

自然体───否、これまた戦場を死ぬほど経験した者だけが辿り着く、独特の武理に基づいた構え。

 

ならば───先手を撃たせてもらう。

 

実力を測るための試験。

 

ゆえに、まずは手加減をして放つ。

 

威力も、速度も、様子見の範囲だ。ここから段階的にギアを上げていき、彼がどこまでついて来られるかで、その格を規定させてもらう。

 

ポケットという名の“鞘”から、目にも留まらぬ速度で拳を抜き放つ。

 

───居合い拳。

 

放たれた瞬間には、すでに相手の肉体へと到達している。

 

常人の動体視力を完全に置き去りにする、超高圧の「拳圧」による不可視の衝撃波。

 

相手がどれほどの魔術の使い手だろうと、物質的な肉体(ヒトの構造)を持っている以上、打撃の法則からは逃れられない。

 

顎の先端を撃ち抜き、脳を揺らして、意識だけを正確に刈り取る───。

 

手加減をしつつも、その軌道は精密極まるショートアッパーのそれだった。

 

 

ポケットを鞘に見立てて拳を抜き放って《居合い拳》を撃つ。

 

誰もが、その見えない拳が青年を捉えた───そう確信した

 

 

「居合い、か」

 

衝撃波の直撃するその刹那、青年は静かに、滑らかに頭(こうべ)を半身に逸らしていた。

 

「ならば、君の数段上の遣い手を知っている。山門一つを、自らの間合い(異界)に変えるほどの稀代の剣士でね。───あの刃に比べれば、まだ、視える」

 

半身を逸らす。

 

紙一重。

 

だが、偶然ではない。

 

「初動。体重移動。重心の沈み。肩の開き──ようやく理解した」

 

「拳の質量そのものではなく、その弾道にある大気を圧縮して飛ばしているのか。確かに、初見の魔術師を仕留めるには十分な『初見殺し』だ。だが───」

 

双剣をゆるく、しかし完全に空間を支配する脱力感のまま構え直し、青年は冷徹に告げた。

 

「一度見れば、対処は出来る」

 

高畑の胸の奥に、冷たい戦慄が走る。

 

居合い拳。

 

剣と拳の違いはあれど、本質は同じ至近距離の戦闘(インファイト)。

 

だがその実態は、肉体の間合いの外から「圧縮された“気”」を射出する、恐るべき中距離制圧技だ。

 

対する青年の得物は双剣。間合いの外から不可視の打撃を叩き込まれれば、肉薄する前に圧殺される───。

 

 

――筈だった。

 

青年は一度見れば対処出来ると言った。

 

たしかに単発、はたまた数発なら躱したり剣で防がれるのだろう。

 

「悪いね」

 

 

高畑が息を吐く。

 

 

「少し、ギアを上げるよ」

 

 

踏み込み。

 

直後。

 

空気が裂けた。

 

ドンッ!!

 

単発ではない。

 

一撃。

二撃。

三撃。

数条。

 

否。

 

暴風の如き拳圧。

 

居合い拳の乱打。

 

空気そのものが殴り飛ばされ。

 

遅れて地面が裂ける。

 

観戦していた生徒や魔法使い達の顔が変わる。

 

広範囲。

高密度。

逃げ場がない。

まるで網。

圧殺する打撃の檻。

 

(決まった――)

 

誰もが思った。

だが。

 

「――――」

 

その暴風の中心で、銀の閃光が狂おしく爆ぜた。

 

キィンッ───!

キン、キン、キン、キンッ───!!

 

高畑の目が見開かれる。

 

……拳圧が。不可視の衝撃波の束が、文字通り「斬られて」いく。

 

正確無比。極小の動作。そこに、一ミリの迷いも、一グラムの無駄な力みも存在しない。

 

それはまるで。

 

城壁の上から、飛来する無数の矢を淡々と叩き落とす守備兵の如く。

 

黒と白の双剣が、自らへと向かう全ての衝撃波を、完璧に迎撃し、霧散させていた。

 

微風を払うかのような、最小限の運剣。

 

ただ、それだけ。

微風を払うような動作。

 

ただ、それだけ。

 

「……まさか」

 

高畑の口から、驚愕の混じった呟きが漏れた。

 

「これも……防ぎ切る、というのかい」

 

威力は確かに抑えている。致命傷にならないよう、寸止めにする算段だった。

 

だが、それでも並の魔法使いであれば、防御障壁ごと遙か後方へと吹き飛ばされているはずの威力なのだ。

 

にも拘らず。

 

赤い外套の青年は、その場から、一歩たりとも動いていなかった。

 

 

 

――届かない。

 

(これは……)

 

(これは……一体、何の怪物の類だ……?)

 

一方的に攻め立てている。その筈なのに、有効打の気配すら掴めない。

 

焦燥ではない。だが、言葉にできない奇妙な感覚が高畑の全身を支配し始めていた。

 

こちらが彼を試しているつもりだった。しかし、現実は違っている。

 

底の見えない深淵から、冷徹にスキャンされているかのような奇妙な感覚があった。

 

試しているつもりが。

 

――逆に測られている。

 

そんな感覚。

 

どれほど戦場を潜れば。

 

こういう静けさになるのか。

 

息も乱れていない。

 

視線も動かない。

 

ただ。

 

こちらを観察している。

 

「……そろそろ」

 

高畑は苦笑する。

 

「様子見は終わりにしないかい?」

 

教師らしい穏やかな声音。

 

だが。

 

目だけは笑っていない。

 

「君の剣の腕が本物であることは、十分に伝わったよ」

 

高畑は肩を竦めてみせる。

 

「でも、これ以上僕が攻めあぐねていては、周りのギャラリーが痺れを切らしてしまうからね」

 

生徒たち。魔法教師たち。誰もが固唾を呑み、息をすることすら忘れてこの異常な決闘を見つめている。

 

そして何より。

 

(これ以上、この戦いを長引かせたくない)

 

数は少ないが、紛れもなく生徒たちが居るこの場面。

 

万が一にも、想定外の事故があれば取り返しがつかない。

 

自分の「本気」は、ここでは出せない。

 

この先の技は危険すぎる。このような試験(うでだめし)の場で、生徒を導くべき教師が使っていい技ではない。

 

それに、其処までこちらの手札(カード)を晒すのも拙い。

 

ならば。

 

引き出すしかない。目の前で泰然と佇む、この男の「本気」を。

 

「……ふぅ」

 

高畑は肺の空気をすべて吐き出し、静かに腰を落とした。

 

「これじゃ、どっちが『試されている』のか分からないよ、本当に」

 

その自虐的な呟きが響いた、次の瞬間。

 

初めて───青年の端正な口元が、微かな、しかし愉しげな弧を描いた。

 

「それもそうだな。これ以上の静観は、いささか冗長に過ぎる。それに、生徒が起きているには夜更かしが過ぎる」

 

 

その手に握られた黒白の双剣が、静かに、流れるような美しさで構え直される。

 

「───では。こちらからも往かせてもらおうか」

 

直後、吹いていた春の夜風が、ピタリと止まった。

 

広場を包む空気が、一瞬にして爆発前のニトログリセリンのように張り詰める。

 

見守る誰もが、魂の芯で直感していた。

 

───試しの時間は終わった。

 

ここからが、本当の「戦い」なのだと。

 

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