魔法少女リリカルなのは マジカル☆フェスタ 作:ヴィルヘルム星の大魔王
万事休す。それは、絶望的な状況を表すことわざ。
今のバンは、まさに絶体絶命の状況に陥っていた。幼馴染との修羅場という状況に。
「むぐぐ!むごぉー!」
「バンてゃ~息がくすぐったいよ~」
バンは、豊満な乳房で窒息させられそうになった。女性特有の柔らかさとナッちゃんフェロモンによって、思考が停止するも、正気を取り戻す。そして、ナッちゃんのイタズラから逃れようと藻掻く度に、なのはたち六人からの絶対零度な視線が痛い。最大風量にした十八度の冷房を直接浴びたぐらい、徐々に体が冷えていく。
「はぁっはぁっ!窒息するかと思った!いきなり何すんだよナッちゃん!」
「あはは、バンてゃを揶揄うのがつい楽しくてね」
「そうだ。バンてゃ、携帯持ってる?」
「まぁ、持ってるけど」
言われた通りにスマホを出す。カメラモードでQRコードを読み込むよう指示された。
連絡アプリのホーム画面には、新たな追加者の通知が来た。アイコンを見ると、手で目元を隠すナッちゃんだった。
「これ、私の連絡先」
ナっちゃんは、胸ポケットから一粒の飴袋を取り出し、ピリッと袋を開ける。
そして、バンの口にコロっと飴玉を入れた。彼女の人差し指が、バンの唇に触れる。
「あーしの黒糖ミルク飴、お気になんだ〜」
「はいたいね~!君達とは、また会える気がするよ~!」
ナっちゃんは、人混みの中へと消えた。
「バン君は、ああいう胸が好きなんだ。ふ~ん?本当に変態さんだね。よかったね、綺麗なお姉さんと仲良くなれて」
「いや、なのは、これは違…」
「バンは、私達じゃ満足できないの?無駄に大きな胸の方がいいの?私もいつか胸が大きくなると思うから」
「フェイト…瞳の光がないの怖いから落ち着け」
「どうやった?ナッちゃんのお胸を堪能できたんやろ?ええ?柔らかかったんか?私も堪能したかったわ」
「分かるよ。はやて」
「お前らだけなんか違うだろ。はやて、アリシア」
「ふふ、バン君、海鳴に帰ったらお仕置きだよ?」
「すずかだけ別の意味で怖いんだが!?何されんの俺!?」
「さっきどさくさに紛れてナっちゃんの胸を揉んだでしょ!このスケベ!」
「アリサだけはいつも通りだな。よかっいだだだだだ卍固め久々だなちくしょう!」
黒い怒気を垂れ流すなのは達から圧を掛けられるバン。唐突なナっちゃん乳事件は、アリサによる卍固めで幕を閉じる。一時、修羅場で空気が冷え切ったが、修学旅行ということで水に流して貰えた。
七人は、何とか集合場所のバスに間に合い、バスが宿へと向かう。
夕飯は、海の幸をふんだんに使用した沖縄料理だった。
男子は二階、女子は三階に分かれている。なのは達が部屋割りで与えられた部屋は、六人が寝転がれる程の寝間がある和室だった。
一階にある大浴場。なのは達は、女湯の暖簾を潜り、脱衣所で服を脱ぎ始める。
なのはは、スカートのホックをずらし、しゅるっと落とす。アリシアは、がばっと豪快に籠へ脱ぎ捨てる。
アリサは、髪留めを解く。そして、黒パンツと黒いスポーツブラの下着姿になる。
はやては、灰色のスポーツブラとショーツ姿になっていた。
すずかは、紫色の大人っぽく背伸びをした下着を身に付けている。ブラの肩紐をずらし、浴用タオルで前を隠す。フェイトは、腕を交差して裾を掴み、上に捲り上げる。なのは達がハーフトップブラジャーやスポーツブラといった中、一人だけ、ノンワイヤータイプだ。六人の中で発育の良い胸が、プルンと揺れる。それを見逃さない女が一人いた。そう、八神はやてである。
「フェ・イ・トちゃ~ん!わしわしタイムやで~!」
はやては、家族であるシャマルやシグナムの豊満な身体をわしわしと楽しむことを趣味としているオヤジ属性の持ち主だ。そんな彼女は、目を綺羅綺羅と輝かせ、フェイトの背後からスキンシップを仕掛けた。
「うひゃあ!?は、はやて!?ちょっと、くすぐったい、うぁん!」
「うひょ~、フェイトちゃん、またお胸が大きゅうなったん?」
「はやてちゃん?早くお風呂に入らないと時間がなくなっちゃうよ?ナニシテイルノカナ?」
なのはは、浴用の長タオルを巻いた状態でピンク色の魔力光を纏い、はやてを脅迫する。なのはの目が笑っていない笑顔を見たはやては、蒼褪めた顔でフェイトを解放した。
「ここ、露天風呂があるみたいだよ」
「いいわね。あとで入りに行きましょう」
炭酸風呂に入るアリサとすずか。外にある露天風呂を楽しみにしている。
「ああ゛あ゛あ゛」
「ビリビリする~」
はやてとアリシアは、電気風呂に浸かる。背中に走る低周波の微電流が、身体のコリをほぐす。
「ジャグジーが気持ちいいね」
「そうだね、なのは」
各々が、サウナや様々な風呂を楽しんだ後、露天風呂に向かった。
夜空には、海鳴では見られない星の海が輝いてた。露天風呂から海景色が、神秘的な雰囲気を演出している。
『わあ~綺麗~』
風呂上がり、濡れた髪、お風呂の熱で紅潮した頬が色気を醸し出す。部屋に戻ると、仲居さんの準備で、六人分の布団が敷き詰められていた。
「おぉ、いいねえ。私、此処!ふうっふぅー!」
玄関に入るや否や、はやては布団目掛けて飛び込む。それに続けて、アリシアが一番奥の布団まで跳ねる。
「ひゃっほう!一番奥は私の!」
「わ、わっふう!」
「楽しそう!私も!」
ノリの良いすずかは、はやての背中を跳ね台にして跳躍する。
「いたっ!」
爆走中のアリシアは、はやての腰を一瞬踏み付けた。一度に続いて、二度も踏まれ、踏んだり蹴ったりになる。
アリシアが駆け回る中、各々は適当な布団に座る。はやての腰の後に、フェイトの腿を踏み、くるりと曲がる。そのまま、ズザザーっと、なのはの向かい側にある布団へと滑り込んだ。アリシアのはしゃぎっぷりを見たアリサは、友人の珍行動に笑いながら問いかける。
「どうしたの?アリシア」
「ヤバい、鹿が乗り移った 今」
二パッと笑うアリシア。彼女の背後に、鹿の幻が薄っすらと幻視できる。ここは、奈良ではなく沖縄なのだが。
珍騒動があったが、女子だけという事もあり、自然とカードゲームタイムに突入していた。
ウノから始まり、ダウトや七並べといったトランプで盛り上がる。一通り、遊び終えた六人は、布団の上に寝転がり、お喋りタイムに入った。
「修学旅行の定番と言ったら、恋バナや!」
「じゃあ、わたしからや!」
「はやては、どうせアイツでしょ?」
アリサからの指摘に、はやての顔が真っ赤に染まる。アイツとは、バンのことである。
「というか、皆アイツのこと思い浮かんだでしょ?」
『・・・うん』
誰が好きとか、誰が気になっているとかそんな甘酸っぱい展開は無かった。この部屋にいる全員が、一人の男子を好きになっている。性格は、馬鹿な小学生丸出しだ。小学五年生にして、精神年齢が一際高いなのは達からすれば、バンは手のかかるやんちゃ少年にしか見えない。アリシアは、アリサの顔を見ながら、ニヤニヤと話しかける。
「そういうアリサも、バンのことが好きなんでしょ?」
「は、はぁ!?バカ言ってんじゃないわよ!誰があんなデリカシーゼロのバカを好きになるのよ!」
「アリサちゃんったら、素直じゃないなあ」
「バンは、私たちの中で誰が好きなんだろう?」
フェイトの言葉に、五人は言葉に詰まる。バンは誰が好きなのか。自分なのか。それとも、自分以外の五人なのか。仲良し六人組だが、恋に関しては、人一倍に関心があった。
「まあ、仮にバンがフェイトのことを好きになっても、私は姉として祝福するよ…でも、略奪愛って少し惹かれよね」
「姉サン、オモシロイ冗談を言うね?」
「冗談よ、フェイト。もう、本気にしちゃって!」
一刻、一刻と楽しい時間は過ぎ去っていく。楽しい時間はあっという間とは、誰が言った言葉なのか。ふと、時計に目を向ければ、時計の針が就寝時間に迫っている。時計を見たアリサは、部屋リーダーとして、就寝を促す。
「そろそろ切り上げましょう。明日も朝が早いわよ」
「うふふ、こうして皆で寝られるのもお泊まり会以来だね」
「夜はまだまだこれからやで?この際だから、語ろうや」
「語らないで寝ましょうよ」
「つれないなぁ」
夜更かしにノリノリなはやては、まだ語り足りない様子だ。アリサは、そんなはやての要望をやんわりと遮る。
「暑い、あっついよぉ。はやてちゃん、私の布団剥いで、あっつい」
「はいはい、仕方ないなぁ」
はやては、なのはの掛け布団を剥ぐ。布団の勢いで浴衣が捲れ、白とピンク生地の縞パンが露わになる。
「うひゃあ!恥ずかしいよ」
「また、そのお気に入りのパンツかいな!この縞パンよ!」
縞パンが露わとなり、恥ずかしがるなのは。それを見て、なのはの尻をぺチンと軽く叩くはやて。
「アリサちゃん、電気消して」
「絶対喋んないでよ。おやすみ」
『おやすみ~』
しかし、修学旅行で浮かれ気分な彼女達が大人しく寝付くはずもない。
「ZZZzz!」
「うるさいわ!はやて、アンタ!頼むから寝てちょうだい」
「うふふふふふ!フフフ、フッフフフ!あはっはっはっはっははは!」
修学旅行という独特な雰囲気で笑いを堪えず、次第に、誰かの笑い声が大きくなる。
「何回も起こさへんでほしいわぁ」
「なに笑い我慢してんのよ!(笑)」
枕を持ったアリサは、ぺシッと、はやての頭を小気味良く叩く。それに続いて、近くで寝ていたフェイトとなのはも枕で叩く。
「消したら、喋んないでよ?」
ゴソゴソと布団から這い出る音が鳴る。布と肌が擦れ合う音は、一人から二人に増えた。
「フェイトちゃん、んっ、んふ」
「なのはぁ、んぁ、ちゅぴ」
「何してんのよ二人とも!?さっさと寝なさい!」
二度目の点灯、フェイトの布団に潜り込んだなのはが、フェイトの唇を奪っていた。フェイトも熱っぽい眼差しで見つめながら、お返しに唇を重ね合わせている。目撃した四人の顔が熱くなるくらい、百合百合しい雰囲気が醸し出されていた。
「ッア!?今、なのフェイを感じたぞ!?」
「枕投げ中によそ見をするとは、隙ありだ!死ねぇバン!」
第六感でなのフェイを感知し、枕を構えつつ中腰で余所見するバン。隙を捉えた田中たけしは、枕を力一杯投げる。彼らが部屋で行っているのは、枕投げ。たけしが、「大乱闘、枕投げ大会第一夜!只今より開催!」と宣言を皮切りに、一斉に枕が部屋中を飛び交った。着々と、男子が脱落していく中で、たけしとバンだけが残っている。
今は、決勝戦に突入していた。
「必殺、たけしスペシャル!」
たけしは、力任せに枕を投げる。枕の弾道を見切り、ギリギリで回避するバン。バンの回避した枕が、敗北者の一人である男子の顔面に衝突した。それを見て、下手っぴ!と、ヤジを飛ばす敗北者の少年たち。
たけしの枕は、残り一つ。右手で枕を思いっきり鷲掴み、上半身の勢いを乗せて、投擲した。
「左手は添えるだけ!」
「枕を盾にしたカウンター攻撃だと!?ぶはっ!?」
しかし、枕を盾に防がれ、バンの右上手投げによる一撃を腹部に受けた。そして、たけしが布団に倒れ込んだ瞬間、左手にある予備枕を投擲し、顔面を攻撃する。大乱闘!男だけの枕投げ大会の第一夜は、バンの勝利で終わった。
一方その頃、アリサたちがいる女子部屋は、律儀に就寝しようとしていた。しかし、修学旅行という特殊な状況が、真面目な少女たちを普通の子供に戻らせる。
「次ふざけたら、思いっきり枕ぶん投げるわよ?」
『は~い』
「はぁ、今度こそ大人しく寝てよね?じゃあ、おやすみ」
『おやすみ~』
アリサは、電気を消灯する直前、最後通告を呟いた。なのはたち五人は、間の伸びた返事で了承する。怪しむアリサだが、さっさと寝たかった為、電気を消した。アリサは布団に入り、目を瞑る。
二十秒後、束の間の静寂は、賑やかな時間へと変わった。暗闇の中で、誰かの悲鳴が響く。
「痛い痛い痛い痛い!痛い痛い痛い!」
「うるさいわ!」
アリサは、半ば呆れつつ電気を付ける。照明が点いた瞬間、自分の肩の上にアリシアを仰向けに乗せ、顎と腿を掴み、アリシアの背中を弓なりに反らせるすずかの姿があった。アルゼンチンバッグブリーカーすずかの誕生だ。
「お~!見事なアルゼンチンバッグブリーカーや!」
「アリサちゃんがバン君によく掛けていた技を真似してみたんだ~」
「アリシア姉さんが海老みたいに曲がっている」
「すずかちゃん、楽しそうだよね」
「待って!背中が曲がる!ギブギブギブ!下ろして!」
「うふふ、次はコレだよ!」
「え?ちょ、待っ…ぐるぐる回転は駄目だって~!」
すずかは、アリシアを担いだまま、プロペラのように回転し始めた。二人にぶつからないよう、なのは、はやて、フェイトは、少し離れてヤジを飛ばす。
「いい加減にせんかぁ!」
アリサのお怒りが始まった。すずかは、身体を回しながら、アリシアを布団の上に優しく落とす。
「おふっ!」
「まさか、すずかもノリノリになるなんて…まったく、そろそろ寝てよね?」
『はーい』
「今度の今度こそ、おやすみ!」
『おやすみ』
アリサが電気を消灯してから、三十秒後、布団を捲る音が五人分聴こえる。どたどたと足音を鳴らしていることから、何かを企てているようだ。
「ちょ、痛い痛い痛い!」
「お、重い」
「せ、背骨がぁ」
「なのはちゃん、大丈夫?」
「な、なんとか~」
組体操の演技である人間タワーを披露していた。最下層をアリシアとフェイト、中層をはやてとすずか。てっぺんは、なのはが鎮座する。いよいよ全員がふざけだす事態。アリサは、わなわなと震え、人差し指を突き立てた。
「あんたたちぃ、私だけ除け者にして!私も混ぜなさい!」
一人だけツッコミに回っていたアリサは、我慢の限界を迎え、枕片手になのはたちの輪に混ざる。
女子だけの枕投げ合戦がスタートし、一生に残る思い出が生まれた。