夢の中で、天界(なのかどうかはよく知らないが、その世界の呼び方を何か決めないと小説を書くのに不便なので、とりあえずそう呼んでおく)の役所で、警備員のバイトをしていたTKFだったが、ある日、職場で待機していたら、急に「警備員は警備につけ」という放送が流れた。
職場に緊張が走る。TKFや数人の警備役が立ち上がった。
それにしても急に警備体制とはなんだろうか?、通常なら事前に「今日は〇〇時から警備体制に入れ」と言われるものなのだが・・・急にVIPでも来たのだろうか?
そんなことを考えながらTKFが所定の位置まで行こうとしたら、そのオフィスの責任者が、「TKFは今日はあそこの場所で警備にあたるようにしろ」と言ってきた。いつもと違う場所だが、なんかの事情があるのだろうと思って、「はい、わかりました。」と言って、そこに行こうとしたら、さらに呼び止められて、近くに来るように手招かれた。
TKFが近くまで行くと、その責任者は机の上に何かを置いて、小声で「これを身に着けておけ」と言ってきた。
「これは・・・?」、TKFがびっくりする。
袖箭(しゅうせん)・・・ベルトがついた小さな筒であり、腕に結び付けて身に着けるものである。筒の中には鉛筆ぐらいの矢が入っていて、強力なバネの力で発射する・・・暗器(あんき)と呼ばれる隠し武器の一種であった。TKFは歴史が好きなこともあり、また「るろうに剣心」というマンガでこれを使う敵が登場したこともあり、知識としてはよく知っていたが、実物を見るのは初めてであった。
「今からやってくる職員が、もし暴れだして手を付けられなくなったら、これで暗殺しろ」
「えっ・・・??」
TKFはさらに驚いた。職員を暗殺なんて、勝手にやっていいことなのだろうか?
上司が小声で続ける。
「今から来る職員は、無法者というか職場で好き勝手をやる人物なのだが、事情があって誰もそれを止められないでいる。ある部署で持て余したために、うちの部署でそいつを引き取ることにしたのだが、こちらに来ても暴れまわることは目に見えている。だからいざというときにはこれを使え、ということだ。」
そういうことか、、、だが、なんでそんなアンタッチャブルなやつを雇っているのだろうか・・・まあいろいろ事情があるのだろうが、、、聞かないほうがいいか・・・。だが、そのアンタッチャブルを暗殺しろとは・・・・おそらくバイトが勝手に暴走して、とか、バイトと職員の間で個人的な諍いがあって、とかいうことで処理するつもりなのだろうが、、、そういうのって組織として対処すべきことであり、一介のバイトに責任を押し付けるべきではなかろうに、、、、まあ天界といっても至高なところではなく、いろいろあるのだろう。
TKFは少し考えたが、断れそうもないので、黙ってその暗器を取って、他の職員に見えないようにそっと腕に巻いた。なるべく使わなくて済んでほしいと思いながら。そうして指示された場所に立って、警備をしている風を装った。
しばらくすると、そのアンタッチャブルがやってきた。
でかい・・!!、、身長3mはありそうだ・・しかも巨漢!、スターウォーズでいうところのジャバ・ザ・ハットぐらいか・・、本当にこれは人なのかと思ったが、ちゃんと人間の形と服装はしていた。昔、「ジョジョの奇妙な物語」というマンガで、イタリアマフィアの幹部としてそっくりなやつがいたな・・・名前は確かポルポとかいったっけ。
こんなやつ、こんな鉛筆みたいな矢で暗殺できるわけがない、、、と思ったが、そうか、毒が塗ってあるのか・・・
そいつの名前をTKFは聞いていなかったので、とりあえず頭の中でポルポと呼ぶことにした。さっきの上司が慌ててやってきて、とりあえず職場の説明をするから座ってくれといって、応接用のソファーに案内した。
ポルポはそこにどかっと座ると、背後にいたTKFのほうをちらっと見て、「おい、あいつを引き上げさせろ」と太く低い声で言った。
バレてる・・・・巨漢で粗暴なだけの奴と思ったが、頭もそれなりに回るらしい。TKFが上司を見ると、上司は引き上げるように無言で合図した。
それを受けてTKFは自分の席に戻る途中で、袖箭をそっと外して、ある若い男の膝の上にそっと置いた。その若者もバイトであり、そいつのことをTKFは一休(いっきゅう)と呼んでいた。本名は知らない。
その若者は体が小さくて中学生ぐらいに見えたが、実際はもう少し年上であるらしい。もっともTKFから見たらどちらにせよ子供であった。なんでそんな子供が役所でバイトしているかは知らなかったが、いろいろ事情があるのだろう。
その若者は、野球部員なのかお寺の息子なのかはしらないが、今時めずらしいことに丸刈り頭であった。性格は素直で、利発で機転が利き、しかも度胸もあったので、TKFは「こいつは子供ながらにすごいやつだ」と感心して敬意を払い、いろいろ可愛がったり仕事を教えてやったりしていた。(注:この若者の仕事は警備ではなくて雑用であったが、TKFは警備や出動の仕事がないときは雑用もやっていたので、いろいろ教えることができた)
その一休なら、何も言わなくともTKFが袖箭をそっと置いて言った意味を理解するであろう。要するに「おれはあいつに警戒されているから暗殺は無理だ。お前は外見からして警戒されなそうだから、これを持っていろ」ということである。
そうしてTKFは自席に戻った。書類仕事を再開しながら、上司とポルポの方を横目でちらっと警戒していたが、そのときは特にもめごとは起こらなかあった。
しばらくすると上司の説明も終わったようで、ポルポもどこかに立ち去って見えなくなった。
(長くなったのでさらに続く)