氏名 英二郎
指定区分 代表候補
代表手当 90,000
扶養送金 50,000
五輪金メダル獲得時報奨 50,000,000
扶養世帯
母 同居外扶養/長期療養中
弟 同居外扶養/就学中
父 死亡
住居保障 適用
医療保障 適用
食糧加給 適用
保障区分 甲
店を出ると空は明るくなり始めていた。
冷たい空気の中を並んで歩き、宿舎へ戻る車の待つ通りへ向かった。
「今日はありがとうございました。楽しかったです」
「ああ。僕も楽しかった」
「また会おう、英二郎」
その言葉が妙に耳に残ったまま俺は頷き返し、迎えの車へ向かった。
宿舎へ戻って少し眠り、荷物をまとめていると競技委員会から通知が届いた。
レオン選手との試合で行った攻撃が危険行為にあたる可能性があるとして、彼の陣営から正式な審査が申し立てられたという。
通知を最初から読み返した。
審査次第ではオリンピックに出られない。
端末を握ったまま、しばらく動けなかった。
その直後、レオンさんから短い連絡が届いた。
『午前十時、北飛行場から発つ。それまではここにいる』
会いに来いとは書かれていなかったが、出発時刻まではまだ一時間あった。
俺は端末を閉じて荷造りを再開し、午前十時になる頃には遠くから飛行機の音が聞こえてきた。
窓の外に機体は見えずレオンさんからもそれきり連絡はなかった。
やがて飛行機の音も聞こえなくなった。
今日は休暇で訓練の予定も入っていなかった。
宿舎にいてもすることがなく、昼前には行き先を決めないまま街へ出た。
しばらく歩くと道の先に小さな公園が見えてきた。
公園にはベンチがいくつか並んでいたが、どれも空いていた。
俺は日当たりのいい場所を選んで腰を下ろし、背もたれに身体を預けた。
外套越しに木の硬さを感じながら、風に揺れる枝とその向こうをゆっくり流れる雲を眺めていた。
何をするでもなく過ごしているうちに少しずつまぶたが重くなっていく。
目を閉じて間もなく外套の内側で端末が短く鳴った。
業務連絡の通知音だった。
審査を控えている以上、代表資格に関わる連絡かもしれない。
反射的に手を伸ばしかける。
確認すればまた宿舎へ戻ることになるかもしれない。
そう考えて指先を止めた。
しばらくしてもう一度鳴ったが、今度は目も開けなかった。
目を覚ますと枝の間から差す光の向きが変わっていた。
端末を見ると、思った以上に時間が経っている。
「こんな時間か」
急いで戻る用事はない。
靴下の足首部分についた白い糸くずを一つつまんで取り、俺はベンチから立ち上がった。
しばらく歩いた先に小さな露店があり、干した魚や海藻の間には丸く縮んだ白いものが積まれていた。
見慣れないものだったのでそばに置かれた札を読んだ。
そこには「干し貝柱」と書かれていた。
貝柱を干したものは見たことがなく、小さな袋を一つ買った。
袋を開けて一つ取り出すと思っていたよりずっと硬い。
奥歯で何度噛んでもほとんど形は変わらず、最初は塩気しか感じなかった。
それでも噛み続けるうちに繊維がほどけ、遅れて甘い味が広がってきた。
飲み込んだところで朝に届いた連絡を思い出した。
俺は端末を取り出し、レオンさんに電話をかけた。
三度目の呼び出し音で通話がつながった。
しかし、向こうから声は聞こえなかった。
「レオンさん」
『聞こえている』
「……朝はすみませんでした」
『なぜ謝る。来るようにとは言っていない』
「昨日の約束、まだいいですか」
『約束?』
「今度は俺がご馳走するって話です」
通話の向こうでレオンさんがまた小さく笑った。
『君は競技委員会からの通知を読んだのだろう』
「レオンさんが申し立てたんですか」
『僕の意思だ。陣営も賛成した』
『君のしたことを、許したわけではないからな』
「……はい」
『それでも、まだ僕と食事をするつもりか』
「はい」
『そうか。なら次は君の奢りだな』
『楽しみにしている』
そこで通話は切れた。
袋からもう一つ干し貝柱を取り出して口へ入れた。
今度は最初より少し早く甘い味がした。