79番目の遠回り   作:スペイン語が話せない

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Part3 肉が食べたい

試合には負けた。

 

相手は絶対王者、レオン・フォン・アルヴァイン。

彼の動きを捉えきれず、コアを一つも壊せなかった。

 

それでも国からは、よく戦った、次に勝てばいいと言われた。

 

今は配給所で夕食を食べている。

白いトレイには、粥と固められたタンパク質、それに薄いスープが並んでいた。

 

*ズズ*

 

まずい。

 

いや、違う。

国が出してくれた食事だ。

 

残すわけにはいかない。

 

*ズズズ*

 

やっぱりまずい。

 

俺は粥を見下ろした。

 

スープは冷めかけていて、表面に膜が張っている。

固められたタンパク質は、箸で押してもほとんど崩れなかった。

 

うまいものが食べたい。

 

だが、白いトレイの上には、どれもほとんど手つかずのまま残っている。

俺は箸を握り直し、トレイに残ったものを一気に腹へ流し込んだ。

 

空になったトレイを前に腹だけは膨れていた。

それでも、満たされた感じはしなかった。

 

やっぱり、うまいものが食べたい。

 

食器を返して宿舎を出ると、外はもう暗かった。

遠くでは競技場の照明だけが白く光り、大通りには独立記念試合の旗がまだ吊られていた。

 

赤い垂れ幕に、俺の名前が印刷されている。

 

『祖国の若き鉄拳、英二郎に栄光あれ』

 

誰も俺に声をかけなかった。

俺も何も言わず、通りの角にある小さな店へ入った。

 

看板の明かりは半分ほど消え、窓辺には保存パンと缶詰が並んでいた。

店内の冷蔵棚はほとんど空で、端に透明なケースが一つだけ残っている。

 

中に入っていたのは、養殖サーモンの切れ端だった。

腹は満たされているはずなのに、気づけばケースへ手を伸ばしていた。

 

「それはやめた方がいい」

 

振り向くと、レオン・フォン・アルヴァインが立っていた。

背中が反射的に強張った。

 

試合用の装甲はなく、薄い外套を羽織り、片手には紙袋を提げていた。

 

「……なぜですか」

 

「色が悪い。食べるなら、奥の塩漬けにしろ」

 

「はぁ……」

 

俺はサーモンのケースとレオン選手の顔を交互に見た。

なぜこの人が、俺の夕食を気にしているのか分からなかった。

 

「だが、本当にうまいものが食いたいなら、ここじゃないな」

 

そう言って、レオン選手は外套の内側から一通の封筒を取り出した。

 

「一枚余っている」

 

受け取った封筒は厚手で、銀の縁取りと見慣れない紋章があった。

 

「……なんですか」

 

「晩餐会だ。あと、舞踏会もある」

 

「え?」

 

少し遅れて、その言葉の意味を探した。

 

舞踏会。

 

旧時代の貴族と資本家が、人民から奪った富で身を飾る場所。

無駄で、退廃的で、労働の敵が好む儀式。

 

学校ではそう習った。

 

「出席予定だった同伴者が来られなくなった」

 

「料理もこの店よりはましだろう」

 

「なぜ俺を……」

 

彼はすぐには答えなかった。

 

「あの攻撃を許したわけではない」

 

「だが、それと君自身に興味があることは別だ」

 

「選手の戦い方だけを見ても、分からないことがある」

 

「何を食べ、誰と話すのか。そういうところにも、選手の本質は出る」

 

「……それが、ボクシングと関係あるんですか」

 

「ある」

 

レオン選手は当然のように答えた。

 

「君の戦い方には失望した。だが、君があれを選んだ理由は、僕にはまだ分からない」

 

「それを知りたい」

 

返事をする前に、手の中の封筒へ目を落とした。

銀色の縁が、店の弱い明かりを拾っている。

 

俺はまだ、サーモンの味も、舞踏会も知らない。

どちらも国から与えられたことはなかった。

 

封筒を握り直し、レオン選手を見た。

 

「招待状、ありがとうございます」

 

「ぜひ、参加させていただきます」

 

俺は姿勢を正した。

 

「……」

 

「僕は命令したんじゃない。君は本当に行きたいのか?」

 

そう言われて、喉の奥が詰まった。

 

何かを間違えた気はした。

だが、どう答えればよかったのかは分からない。

 

俺は……

 

「肉が食べたいです」

 

言ってから、自分の声が思ったより小さかったことに気づいた。

 

「それでいい。晩餐会なら、ローストビーフくらいは出る」

 

ローストビーフ。

 

その言葉だけで、口の中にまた唾が湧いた。

一度も食べたことはない。

 

「肉食いてぇ」

 

俺は思わずそう口走ってしまった。

レオン選手は、ほんの少しだけ頷いていた。

 

「舞踏会に来る理由としては、かなり正直だ」

 

銀の縁取りをもう一度眺め、封筒を胸元へしまった。

そこだけが少し温かく、悪くなかった。

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