氏名 英二郎
指定区分 代表候補/資格審査中
代表手当 90,000
扶養送金 50,000
五輪金メダル獲得時報奨 50,000,000
扶養世帯
母 同居外扶養/長期療養中
弟 同居外扶養/就学中
父 死亡
住居保障 適用
医療保障 適用
食糧加給 適用
保障区分 甲
宿舎へ戻ると、部屋の前に教官と見知らぬ灰色の制服の男が立っていた。
二人に促されるまま部屋へ入ると、男は手元の書類を開いた。
俺の名前を確認し、淡々と違反内容を読み上げ始めた。
告げられた規律違反は二つだった。
一つは、国家からの緊急連絡に応じなかったこと。
もう一つは、審査の申立人であるレオン・フォン・アルヴァインへ許可なく接触したこと。
処分は重戒告に加え、出発までの外出禁止と、外国人との私的な連絡の禁止だった。
それから三日後、俺は国営輸送船で別の惑星へ向かっていた。
レオン戦での危険攻撃をめぐり、オリンピック出場資格の再審査を受けるためだ。
審査が行われる国際サイボーグ競技安全センターは、レオン・フォン・アルヴァインの生まれた惑星にあった。
出発する前に、今月分の代表手当からいつもの額を実家へ送っておいた。
初めて自分の惑星を離れた。だが、これは旅行ではない。
俺を選手にしてくれた国に背いたことが、今さら胸に引っかかった。
オリンピックで結果を残して国の期待に応えることも、家族の暮らしを楽にすることも、まだ俺にはできていない。
今度こそ言われたことを守り、もう一度、国の期待に応えなければならない。
安全センターへ着くと、荷物を置く間もなく国が定めた再教育の説明が始まった。
ただ、明日からの予定については何もない。
聞き返す間もなく説明は終わり、その日は部屋へ戻って休むことにした。
翌朝、目を覚ますと部屋の中まで明るかった。
起床の合図も呼び出しもなく、廊下へ出るとほかの選手たちはすでに動き始めていた。
とりあえず訓練施設へ向かうと、入口の端末にはその日に受けられる訓練がいくつも並んでいた。
一通り見ても、自分が受けるべきものは見つからない。
仕方なく近くにいた職員を呼び止めた。
「俺はどれを受ければいいんですか」
「好きなものを選んで大丈夫ですよ」
「好きなもの?」
もう一度画面を見た。
何を選んでもいいと言われても、何を選ぶのが正しいのか分からない。
結局その日は何も選べず、翌日には再審査の日を迎えた。
審査は昼過ぎに終わった。
結果は追って通知されることになり、そのあとは特に予定もなかった。
食堂で遅い昼食を取っていると、向かいの椅子が引かれた。
顔を上げるとレオンさんがいた。
「ここ、いいか」
「外国人とは私的に話さないように言われています」
「食事も駄目なのか?」
答えられずにいると、レオンさんはそのまま向かいに座った。
「僕も午前中に話を聞かれたよ。あの試合についてもね」
「君との試合は嫌だったよ」
「俺との?」
「君はあの日、連中の言い分を証明してた」
「機械で殴り合って壊し合うだけで、本物のボクシングじゃないって言う人は昔からいる」
「僕は事故に遭うまで、生身でボクシングをやってた」
「事故に遭ったんですか」
「ああ。両腕と両脚を失った」
「それでサイボーグになったんですか」
「そういうこと。生身の競技にはもう出られないし、最初はボクシングに戻るつもりもなかった」
「しばらくはジムにも行かなかったよ」
「でも、今は世界王者ですよね」
「結局、やめられなかったんだよ」
「俺との試合は嫌だったのに、どうして食事に誘ったんですか」
「それはもっと単純だよ。僕も腹が減ってたし、君があんなサーモンを買おうとしてたからな」
「ただ、君のことが気になっていたのは本当だよ。君の国の選手とゆっくり話したこともなかったからね」
その時、端末に再審査の結果が届いた。
通知を開くと、オリンピックへの出場資格は認められないと書かれていた。
レオン戦での攻撃は偶発的なものではなく、脊柱インプラントを狙った危険攻撃と認定されている。
最終判断では、レオン・フォン・アルヴァイン陣営から追加提出された戦闘記録が主要な判断材料になったという。
何度か読み返したが、書かれている内容は変わらなかった。
金メダルを取れば、実家はもう俺からの送金を当てにしなくて済むはずだった。
顔を上げると、レオンさんと目が合った。
「その記録は僕が出した」
「レオンさんが?」
「ああ」
レオンさんがそのまま食事を続ける向かいで、俺は端末を閉じる気になれず審査結果を眺めていた。
食事が終わるとレオンさんは先に席を立ち、俺も少し遅れて宿舎へ戻った。
翌朝も起床を知らせる放送はなかった。
目を覚ましてからしばらく天井を眺めていたが、やがて起き上がって訓練施設へ向かった。
入口の端末にはその日に受けられる訓練がいくつも並んでいる。
昨日と同じように眺めても、どれから始めればいいのかはまだ分からない。
それでも今回は一つを選び、空いている時間に予約を入れた。
開始まではまだ二十分あったが、俺は端末から離れてそのまま訓練室へ向かった。