氏名 英二郎
指定区分 代表候補
五輪出場資格 不認定
代表手当 90,000
扶養送金 50,000
五輪金メダル獲得時報奨 50,000,000
扶養世帯
母 同居外扶養/長期療養中
弟 同居外扶養/就学停止中/薬物使用疑義
父 死亡
住居保障 適用
食糧加給 適用
医療給付 適用※
保障区分 甲
※医療給付は国家指定医療機関における承認済診療に限る。国外診療および未承認治療は給付対象外
次の試合がなくなってから、訓練や打ち合わせの予定が減った。
その日も部屋へ戻ると、あとは何もすることがなかった。
横になると母さんのことや、あの選手の腫れた顔が浮かんだ。
考えないようにしても今度はレオンさんの言葉を思い出した。
訓練施設へ戻り、対人訓練の予定を確認した。
オリンピックに向けた合同合宿が始まり、レオンさんも戻ってきていた。
俺との訓練を受け付けているのは彼だけだった。
予約した時間に訓練室へ向かうと、すでに準備を終えていた。
「三分やろう。一度でも僕のコアに触れれば、君の勝ちだ」
「行きます」
フェイントで踏み込んでもレオンさんは構えを崩さない。
もう一度仕掛けても反応はなく、これ以上探っても無駄だと見切った。
ジャブを突くと、わずかに顔を引いてかわされた。
二発目を突いた瞬間、レオンさんがその下へ深く潜り込む。
頭頂部と背中が見えた次の瞬間、顎の下で衝撃が弾けた。
「ぐっ――」
アッパーで頭が跳ね上がり、視界いっぱいに天井が飛び込んでくる。
よろけた身体を右脚で踏み止めると靴底が床を擦った。
床を蹴り返し、体勢が戻る前に肩の作動音とともにストレートを振り抜く。
拳を顔面すれすれまで押し込み、ようやく半歩退かせた。
肩から覗いた白いコアへ手を伸ばすが触れる前にかわされる。
追って向き直ると、レオンさんはすでに足を止めていた。
姿勢はまったく崩れず、次の動きを示す兆候もない。
いつもなら視界に出る動作予測も表示されなかった。
次が読めないならこちらから動かすしかない。
わざと隙を見せると向こうがわずかに反応した。
その瞬間に踏み込み、コアへ手を伸ばす。
届くと思った瞬間レオンさんが肩を引いて上体を捻り、指先だけが装甲を滑った。
「惜しかったな」
それだけ言ってレオンさんは構えを戻した。
俺も息を吐いて距離を取り直した。
その後も何度か仕掛けたが、コアには届かなかった。
残り時間は十秒を切っていた。
踏み込んだまま拳を振る。
かわされても止まらず逃げた先へ次を打ち込み、拳を引く前にはもう反対の拳を出していた。
レオンさんが下がる。
それでも拳を止めず、かわされた先へ次々と重ねていく。
一発かわされるたびにもう一発、その先へさらに一発。
肩の作動音はいつしか一つ一つ聞き分けられないほど繋がっていた。
「そこまで!」
監督者の声に拳を止める。
レオンさんも数歩離れて足を止めた。
「よくやったな。最後は少し焦った」
そう言って笑った。
俺も息を吐きながら右肩の出力を落とした。
「じゃあ今度は逆でやるか」
「逆?」
「僕が君のコアに触る。君は三分逃げ切れば勝ちだ」
監督者が了承し、今度は俺が距離を取って構える。
「始め!」
レオンさんがゆっくり間合いを詰めてくるが、次の動きを示す兆候はない。
あと一歩まで入ったところで拳が動き、気づいた時にはもう顔の前まで伸びていた。
身体を外してかわした直後、そのまま懐へ入られる。
脇腹を守るより早くコアに指先で触られた。
「そこまで!」
レオンさんが指を離して一歩下がった。
時計はまだ二分五十二秒を示している。
開始から八秒で、俺の負けだった。
あまりにあっけなく終わり、どうして触れられたのか自分でも整理できなかった。
「最初の一発はよく避けたな」
そう言って構えを解いた。
訓練室を出てからもあの八秒のことが頭を離れなかった。
端末で競技委員会の対戦申請を開き、希望する相手の欄にレオンさんの名前を入力した。
一度だけ画面を見直してから申請を送った。