氏名 英二郎
指定区分 代表候補/資格審査中
代表手当 90,000
扶養送金 50,000
五輪金メダル獲得時報奨 50,000,000
扶養世帯
母 同居外扶養/長期療養中
弟 同居外扶養/就学停止中/薬物使用疑義
父 死亡
住居保障 適用
医療保障 適用
食糧加給 適用
保障区分 甲
何気なく眺めていたニュースで、教皇がサイボーグ競技を巡って声明を出していた。
翌朝、昨日の訓練を思い返しながらどうしてあんなに早く負けたのか考えていた。
レオンさんの動きをどの段階から捉えられていなかったのか自分でも分からなかった。
踏み込みなのか重心の移動なのか、それとももっと前から見落としていたのか。
逆に俺の攻撃はどの段階でレオンさんに気づかれていたんだろう。
動作記録を見直してみることにした。
顔を洗って訓練施設へ向かった。入口の端末から昨日の記録を呼び出す。
映像を何度か止めて見ていると、拳が出る前から肩や腰が動いている場面がいくつもあった。
ただ映像だけでは動きの細かい違いまでは分からない。
レオンさんに聞いてみようと思って対人訓練の予定を確認した。
空きはいくつかあったが対戦相手の一覧に名前はなかった。
時間を変えて確認しても見つからない。
今日は休みなのかと思って受付にいた職員へ声をかけた。
「レオンさんは今日いないんですか」
「昨夜、首都へ向かいましたよ。急に競技団体の会合が入ったそうです」
「急ですね」
「ええ。今朝からその話ばかりですよ」
訓練室へ戻るとさっき見ていた記録をもう一度開いた。
右ストレートだけ見比べると力を入れた時ほど肩や腰も大きく動いていた。
自分でも何度か同じように打ってみた。意識して抑えると今度はうまく力が乗らない。
レオンさんはこれをどうやって消しているんだろう。
もう一度対戦相手を探すと、自分より一階級上で最近の調子もいい選手が目に入った。
そのまま予約を入れた。
予約した時間になると相手の選手はすでに訓練室へ入っていた。互いに準備を済ませて向かい合った。
右を読まれる原因が肩の動きなら、そこを抑えれば今までより読まれにくくなるかもしれない。
開始の合図が鳴ると相手はすぐに間合いを詰めてきた。
肩の動きを抑えて右を出すと相手の反応は少し遅れたが、拳にいつもの重さが乗らず結局かわされた。
もう一度試しても結果は変わらなかった。余計なことを考えずいつも通り踏み込む。
横へ回ろうとした相手の前に左の拳を差し込み、そのまま身体を寄せて逃げ道を塞いだ。
体格は向こうの方が大きかったが、身体を寄せると押し負ける感じはなかった。
脇腹を守る腕ごと押し込むと相手の体勢が崩れた。
その隙に左を打ち込むとコアが砕け、開始から一分も経たないうちに終了の合図が鳴った。
終了後に記録を確認すると五十秒も経っていなかった。
いつもの打ち方に戻してからは肩も腰も大きく動いていた。
それでも今の相手には通じたのに、昨日はレオンさんに八秒でコアへ触れられている。
今の相手に勝てても、レオンさんには届かない。
それが分かっただけだった。
記録を閉じると受付へ戻ってさっきの職員に声をかけた。
「レオンさんに再戦を申し込むにはどうすればいいですか」
「対人訓練ではなく公式戦ですか」
「はい」
その日のうちにレオンさんとの再戦を正式に申し込んだ。
夕方には返答が届き、申請は拒否されていた。
理由の欄には対戦相手側の意向とだけ書かれていたが、その下に短い回答が添えられていた。
前回の試合について整理がつくまでは再戦を受けるつもりはないという内容だった。
再戦になれば、また勝敗よりレオンさんを再起不能にすることを優先させられるかもしれない。
命令を拒めば今の保障がどうなるか分からない。保障には母の医療も弟への送金も含まれている。
かといって同じ命令を受け入れたままでは、レオンさんが再戦を受けるとは思えない。
夕食を取りながら端末を開き、拒否された再戦申請と国家代表選手生活保障記録を何度も見比べた。
気づいた頃には手をつけていた料理がすっかり冷めていた。