氏名 英二郎
指定区分 代表候補/資格審査中
代表手当 90,000
扶養送金 50,000
五輪金メダル獲得時報奨 50,000,000
扶養世帯
母 同居外扶養/長期療養中
弟 同居外扶養/就学停止中/薬物使用確認
父 死亡
住居保障 適用
医療保障 適用
食糧加給 適用
保障区分 甲
「分かりました」
通話を切ったあとも弟が薬物を使っていたという事実が頭から離れなかった。
「……馬鹿野郎」
なぜそんなものに手を出したのかも分からず、弟のこの先を考えると落ち着かなかった。
気を紛らわせようと端末を手に取り再戦申請への返答を開いた。
再戦は断られていたが、対人訓練ならもう一度レオンさんとやれるかもしれない。
忙しいのは分かっていたが待てずに電話をかけた。
何度か呼び出しても出なかったのでそのまま通話を切った。
その後もレオンさんからの連絡はなく、夕方になった頃に教官から電話がかかってきた。
『以前お伝えした通り、外国人選手との私的な連絡は禁止されています』
『今回はどうして連絡したんですか』
「対人訓練を頼もうと思って」
『事情は分かりましたが、今後は勝手に連絡しないでください』
「はい」
少し黙ってから教官に聞いた。
「再戦になった場合も、前回と同じなんでしょうか」
『前回?』
「レオン選手を再起不能にすることです」
しばらく返事がなく、向こうで短く息を吐く音がした。
『あなたに判断を求めていません。余計なことは考えず、指示に従ってください』
「……はい」
それ以上は何も言わず通話を終えた。
翌日、レオンさんとの対人訓練について担当者に相談すると、教官からすでに指示が出ていると言われた。
「レオン選手との対人訓練は当面認めないとのことです」
昨日の電話が原因なのは明らかだった。
落ち着いて考えれば、私的な連絡を禁止されていることもレオンさんが忙しいことも分かっていた。
それでも焦ったまま勝手に電話をかけ、教官にもその場の思いつきで余計なことを聞いてしまった。
対人訓練をしたいこととは別に、昨日の自分の行動は軽率だったと思う。
その日のうちに教官へ連絡した。
「昨日は申し訳ありませんでした」
「禁止されていると分かっていながらレオン選手へ連絡したこと、冷静さを欠いたまま話をしてしまったことは反省しています」
『分かりました。今後は気をつけてください』
「はい。それと、もう一つお願いがあります」
「レオン選手との対人訓練をもう一度認めていただけませんか」
「前回の訓練は自分にとって得るものが多かったので、できればもう一度やりたいです」
しばらく返事を待っていると、教官の声が少し和らいだ。
『分かりました。こちらでも一度検討します』
「ありがとうございます」
その日の夜に食堂へ行くとレオンさんがいた。
昨日のことを思い出した俺は、その場で足を止めた。
「英二郎か。昨日は電話に出られなくて悪かったな」
「すみません。今は私的なやり取りを控えるよう言われています」
「そうか。じゃあ職員に立ち会ってもらおう」
レオンさんは近くにいた担当者を呼び止め、立ち会いを頼んだ。
担当者が了承するとレオンさんは改めて俺の方を見た。
「それで、昨日のは何だったんだ?」
「対人訓練をお願いしようと思ってました」
「自分では気づかなかったことがいくつもあったので、もう一度お願いしたいんです」
「それなら僕は構わないよ。ただ、今すぐというのは難しい」
「分かりました。お時間のある時にでもお願いしたいです」
レオンさんが食事に戻ったので俺も近くの席に座った。
最初は立ち会いの担当者が気になって話しづらかったが、しばらくすると前回の訓練やここへ来てからのことを話していた。
「そういえば、次は君が食事を奢る約束だったな」
「レオンさんって何が好きなんですか?」
「リコッタチーズかな」
聞いたことのない名前だった。
「柔らかくて癖も強くない。そのままでも食べるし、パンに塗って蜂蜜をかけてもいい」
「どこで売ってるんですかね」
「市場の乳製品店ならあると思うよ」
「じゃあ探してみます」
「楽しみにしておくよ。蜂蜜も忘れないでくれ」
蜂蜜まで用意する必要があるのかは分からない。
それでも帰ったら店を調べてみようと思った。
そのあとも食事をしながら話していると、レオンさんが端末をちらりと見た。
「そろそろ行かないとな」
「じゃあ、また」
食堂を出ていくレオンさんを見送ってから、俺も残りの食事を済ませた。