2005年。
また、夢の続きが始まってしまった。
一旦、終わったと思い、安堵しさえした夢の続きが、また。
だが、そう遠からず、この夢はまた覚めてしまう気がしていた。
だから、私は自分にできる全身全霊を掛けて、一つの提案を上層部に行った。
そのおかげでドイツ支部には随分と睨まれてしまったようだが…それでも、構わない。
トラウマの種を絶やす為ならば、喜んで自分の妻の消失をも実験の成功例として報告したさ。
だから、惣流・キョウコ・ツェッペリンとEVAとの接触実験は日本支部で行うことができたし、同じ部屋、同じ場所で、彼女もまた成功裡に同化を果たした。
肉体は綺麗さっぱり飲み込まれ、余分なものを残しはしなかった。
そして、私はこの実験成果と共にドイツへと渡ることになった。
曲がりなりにも日本支部での実験を言い出したのは私であるし、ノウハウをドイツ支部と共有することを条件に今回の実験を認めさせたからではあるが。
それはさておき、気が重い。
私は、実の息子に、シンジ君に接触する暇を与えられることもなく、ドイツへと渡り、その地でこの手で母親を奪った子供の養育に取り掛からねばならなかったのだから。
惣流・アスカ・ラングレーの養父として。
この幼く聡明な少女と、あとどれだけの間、この夢を共有できるのかは正直の所、確信など何一つないのだが。
それでも、次に私から『私』が奪われるまでの間に、せめてもの幸せを、あらん限りの愛情を…望まれずとも注ぐことが出来ればどれだけいいだろう。
肝心な時に不在の『私』に対する怒りと、この時ばかりは間に合った『私』に対する安堵とに挟まれて、私はドイツへの便に乗り込んだ。
2010年。
途切れ途切れの夢の狭間で、今再び、私は『私』を取り戻せたようだ。
最後の夢の内容はなんだったか…専用機でドイツに飛んでアスカの9歳の誕生日をミサト嬢と一緒に祝って、それから私が日本に呼び戻されたのだったか。
日本に呼び戻されて間もなく、どこからともなく訪れた眠気に身を任せた後からは記憶がない。
そして今だ。
今、私の上で裸の女性が踊っている。
嗚呼、何ということだ。これは一体どういうわけだ。
どうしてアスカの誕生日を祝ってから日本に帰ってきたら妻ではない女性と…。
そもそも、この女性は誰だ?
いや、待て…私はこの女性に見覚えがある。
赤木ナオコ博士じゃないか…嗚呼、『碇ゲンドウ』の奴め!
奴ときたら『私』がいない間に問題ばかりをこさえやがって。
だが、しかし、こう言う時、『私』はどうすればいいんだ?
『私』には少なくとも今この瞬間に至るまでは妻としか経験がなかったし、いざこういう風にされると、少なくとも『私』は無情のままでは居られそうにない。
彼女のことを見てみろ。
見れば見るほどに、『碇ゲンドウ』には勿体ない立派な、美しい女性じゃないか!
だというのに…いや、人の好き嫌いについては論理など通じない。論じるだけ徒労だ。
だが…ならば、私は彼女にどう報いればいい?
私は彼女を、赤木ナオコという女性を愛せるだろうか?
…ああ。
『私』なら、できるだろう。
否、やるんだ。
『私』は碇ゲンドウだが『碇ゲンドウ』ではない!
そして、『私』がそうである限りは、奴が好きにしてやってくれたのと同じように、散々に好き勝手してやるとも。
そうと決まれば、まずは今のままの爛れた関係性はよろしくないな。
だが、うーん…再婚するべきなのか?
赤木ゲンドウも、碇ナオコも…どっちもどっちではあるな。
しかし…このまま進むとして、一体どうすれば彼女の心に報いることが出来るのか。
再婚を望むか直接聞くしかあるまい…ええい、ままよ!
2011年。
結論から言って…『私』と赤木ナオコ博士とは夫婦別姓の状態で事実婚ということになった。
その話を持ち出した時、彼女は泣いて喜んでくれたから、私としても少しは救われたように思う。
最近は『私』の時間が長いおかげで『碇ゲンドウ』に勝手な真似をさせずに済んでいる。
ただ、そんな中でも驚いたことが一つある。
それはまたしても『碇ゲンドウ』が仕出かしたことだ。
なんと、奴はユイさんのクローンをここでも作り出しておったのだ!
一体、奴はどれだけ職権乱用すれば気が済むのだろうか。
初めて綾波レイと出会った時は心臓が止まるかと思った。
だが、そのショックのおかげで『私』が戻ってきたのだから功罪は相合わさるものだな…。
ともかくも、今しばらくは赤木博士との事実婚生活と兼ねて、綾波レイの情操教育を行い、ナオコさんの娘の赤木リツコさんとの顔合わせもして…嗚呼!忙しい!
肉体が幾つあっても足らないぞ。
ここに更にシンジ君のことがあるんだからな。
だが、必ず迎えに行かなければ。
まずは手紙を書こう。
何をするにしても、まずはこれまでの詫び状をしっかりと書いてからだ。
問題を拵えることと礼を失することに掛けては、この『碇ゲンドウ』という男の右に出るものはおるまいな。