氷の銀、闇の蛇 作:トート
一行が足を踏み入れたのは、かつて大戦の舞台となり、今は放棄された古代文明の巨大な地下シェルター跡だった。
中に入ると、外の荒野の乾燥した風は完全に遮断され、代わりに鉄錆の臭いと、淀んだ冷気が肌を刺す。シュウとジーロは、シルバへの激しい警戒からクルックを挟むようにして歩き、一行の歩調は極めて慎重だった。
その日の探索を終え、シェルターの最深部にある、分厚い隔壁に囲まれた私室跡を野営地と定めた。
シュウとジーロは「クルック、お前はここで休んでろ。俺たちが交代で見張りをするから」と言い残し、重苦しい沈黙の中で武器の手入れを始める。クルックは毛布にくるまりながらも、胸のざわつきを抑えられずにいた。
(シルバさん……今夜も、ゾラさんの隣にいるの?)
毛布の隙間から覗くクルックの瞳は、焦燥と、ある仄暗い渇望に引き裂かれていた。
昼間、通路ですれ違いざまにシルバのエメラルドの瞳に射抜かれた時、彼女の身体は恐怖で硬直すると同時に、首筋の奥がカッと熱くなった。あの岩陰での冷酷なお仕置きと、その後に与えられた甘い愛撫(飴)。その歪んだ快感が、彼女の未熟な精神をじわじわと作り替えていく。
深夜、シュウたちの息づかいが深くなり、完全に眠りに落ちたのを見計らい、クルックは導かれるように毛布を抜け出した。
冷たい鉄の床を、足音を殺して進む。ゾラとシルバが陣取っているはずの、通路の奥にある旧司令官室の前に辿り着いた時、クルックはピタリと足を止めた。建付けの悪い分厚い鉄扉の隙間から、微かに、けれど昨日までとは明らかに違う、生々しい熱を帯びた吐息が漏れ聞こえてきたのだ。
「あ……、んっ……ふ……っ」
クルックは息を呑み、心臓が早鐘のように脈打つのを感じながら、そっと扉の隙間から部屋の中を覗き見た。その瞬間、彼女の網膜に飛び込んできたのは、世界のすべてを忘れたかのように、激しく重なり合う二人の姿だった。
部屋の奥の古びた寝台。
そこには、ゾラを完全に組み伏せ、自らの巨大な肉体で彼女のすべてを支配しているシルバの姿があった。
銀髪を乱し、エメラルドの瞳を情熱的に、妖しく光らせるシルバ。その丸太のように太く頑強な腕は、ゾラの身体を容赦なく抱きすくめ、彼女のすべてを己の質量で圧倒している。いつもはクールなゾラが、今夜はシルバの分厚い胸板に細い手を回し、狂おしいほどに彼にしがみつき、その名を呼んでいた。
二人の行為はあまりにも濃厚で、お互いがお互いなしでは精神が保てないという、絶対的な「大人の依存」に満ちていた。シルバの手指は、ゾラの肌を容赦なく愛撫し、貪っている。
「ひっ……」
クルックは咄嗟に口を手で押さえた。
恐怖ではない。胸の奥から湧き上がってきたのは、頭がおかしくなりそうなほどの、激しくドス黒い「やきもち(嫉妬)」だった。
(どうして……? 私にはあんなに冷たくて、触れるだけで怖かったのに……。ゾラさんには、あんな風に、愛おしそうに身体を重ねるの……!?)
自分を恐怖と飴で縛ったシルバのあの手が、今はゾラを激しく愛撫している。自分はただの「都合のいい子供の駒」に過ぎず、あの恐ろしい男の心も肉体も、最初からすべてゾラだけのものなのだ。格の違いを見せつけられた決定的な絶望と、激しいやきもちが、クルックの心をズタズタに引き裂いていく。
「ゾラ……お前のために、俺のすべてを捧げる」
シルバの低い、地を這うような声が響く。
「ええ、シルバ……。あなただけが、私のものよ……っ」
ゾラがシルバの巨躯に身を委ね、二人が深く溶け合っていく声を聞くたび、クルックの目からポロポロと涙がこぼれ落ちた。悔しくて、羨ましくて、耐え難かった。あの腕の中にいるのが、自分ではなくゾラであることが、狂おしいほどに嫉妬深かった。
ガサリ、と動揺したクルックの身体が、不意に鉄扉の木枠を大きく鳴らしてしまった。
「――誰だ」
部屋の中から、シルバのエメラルドの瞳が、瞬時に鋭さを増して扉の隙間を射抜いた。ゾラを抱いたまま、微動だにせずこちらを睨みつける戦鬼の視線。
クルックは恐怖と嫉妬で悲鳴を上げそうになりながら、狂ったように自分の部屋へと走り出した。
背後から追ってくる気配はなかった。しかしクルックの心は、ゾラへの激しい嫉妬と、シルバへの歪んだ独占欲で、完全に壊れていくのだった――。