氷の銀、闇の蛇 作:トート
シェルター跡に差し込む冷たい朝の光は、前夜の濃密な熱をすべて拒絶するように白く、無機質だった。
古びた宿舎の食堂跡。錆びついた長机を挟んで、一行は朝の配給のような簡素なスープを口に運んでいた。しかし、そこにある空気は、もはや旅の仲間と呼べるものでは決してなかった。重苦しい沈黙が支配する中、スプーンが器に当たる硬質な音だけが、やけに大きく響いている。
「……クルック、本当に顔色が悪いぜ。スープ、全然進んでないじゃないか」
シュウが心配そうに顔を覗き込むが、クルックはスプーンを握る細い指先を強張らせ、小さく肩を震わせた。
「あ、ううん。ちょっと、冷えちゃったみたいで……」
クルックの視線は、自分の手元にはなく、対面に座るゾラへと向けられていた。その瞳には、恐怖を通り越した、激しくドス黒い「やきもち(嫉妬)」が宿っている。
昨夜、鉄扉の隙間から覗き見てしまったあの光景が、網膜の裏側に焼き付いて離れない。
自分を恐怖で支配したあのシルバの頑強な腕が、ゾラを壊れそうなくらい優しく抱きすくめていたこと。自分にはゴミのように冷徹な目を向けるあの男が、ゾラを前にした時だけ、狂おしいほど甘い情愛を注いでいたこと。
(ずるい……。どうしてゾラさんだけなの。私にはあんなに乱暴にするのに……)
ゾラの美しい横顔を見つめるたび、胸の奥からドロドロとした黒い感情がせり上がってくる。クルックは無自覚なまま、ゾラに対してあからさまに鋭く、刺すような嫉妬の視線を向け続けていた。
「おい、クルック。お前、ゾラに何か言いたいことでもあるのか」
ジーロが腕を組み、低く冷ややかな声で問いかける。少年たちの不信感は、すでに限界に達していた。
「昨日からそうだ。お前のそのギクシャクした態度、明らかに普通じゃねぇ。おい、シルバ。お前、裏でクルックに何を言った」
ジーロの鋭い追及に、シュウもスープの手を止め、シルバを激しく睨みつける。
「そうだ! シルバ、お前がクルックを脅してるんだろ! ゾラさんからも何か言ってくれよ、あいつは絶対に何か隠してる!」
少年たちの怒りの火花。しかし、その渦中にいるシルバは、大柄な体躯を微塵も揺らさず、ただ静かにスープを口に運んでいた。銀色の髪が朝光を浴びて冷たく輝き、エメラルドの瞳は、シュウたちの怒りを「ただのガキの遠吠え」とでも言うように冷酷にあしらっている。
「ガキの邪推だな。俺はゾラの邪魔をするなと言っただけだ」
地を這うような低い声音。そこに一片の動揺も、揺らぎもない。
「シルバの言う通りよ」
ゾラが冷淡な声で割って入る。彼女はクルックから向けられている嫉妬の視線に気づきながらも、フッと冷たい笑みを浮かべた。
「シュウ、ジーロ。旅の統制を乱しているのはクルックの方よ。彼女が自分の未熟さに囚われて勝手に情緒を乱しているだけ。これ以上、シルバを疑うような真似は許さないわ。出発の支度をしなさい」
「ゾラさんまで……!」
シュウが激昂して立ち上がるが、ゾラはそれ以上言葉を交わさず、シルバと共に立ち上がった。
シルバは見上げるほど逞しい背中で、まるであらゆる敵意からゾラを遮るようにその隣を歩く。誰も入れない、大人二人の閉鎖的な檻。
クルックは、ぎゅっとスプーンを握りしめたまま、溢れそうになる涙を必死に堪えていた。
拒絶される恐怖。けれど、それ以上にシルバへの歪んだ執着が、彼女の心を完全に支配している。シュウやジーロには絶対に言えない、暗く歪んだ秘密の関係。
(私は、シルバさんの言う通りに『いい子』にしてなきゃいけないの……。そうすれば、また優しくしてもらえる……)
引き裂かれるような嫉妬と、冷酷な呪縛への甘い依存。パーティー内に満ちる不協和音はもはや修復不可能となり、一行はさらなる泥沼の日常へと歩みを進めていくのだった――。