氷の銀、闇の蛇 作:トート
古代文明の遺物である巨大な通信塔は、まるで荒野を貫く錆びついた巨針のように、不気味にそびえ立っていた。
周囲には遥か昔に大戦で大破した機械の死骸が散らばり、乾燥した突風が剥き出しの鉄骨を鳴らす不快な風切り音が、辺りに絶え間なく響き渡っている。
ネネの居城『タルタロス』の動向を探るため、情報収集を急ぐゾラとシルバは、未熟な子供たちを塔の一階に待たせ、上層の制御室へと向かおうとしていた。
「シュウ、ジーロ。ここで周囲の警戒を怠らないこと。シルバ、行きましょう」
「ああ」
ゾラの冷徹な指示に、シュウは顔を背けて床の鉄板を激しく蹴りつけた。シルバは見上げるほど大柄な体躯を揺らし、ゾラの背後へ「絶対的な盾」として付き従う。その閉鎖的な空間。
その時、シルバのエメラルドの瞳が、最後尾で俯いていたクルックを冷酷に射抜いた。
ほんの一瞬、顎をわずかに動かすだけの無言の命令。それが「裏の岩陰へ来い」という呼び出しであることは、今のクルックには痛いほど理解できた。心臓がドクンと激しく跳ね上がり、首筋の裏がカッと熱くなる。
「あ……あの、私、一階の配線室を見てくるね。光の戦士の力で、何か動かせるかもしれないから……」
「おう、気をつけろよクルック」
シュウの心配そうな声を背に、クルックは逃げるようにして、錆びた隔壁の奥へと足を踏み入れた。
薄暗く、計器の壊れた電子音が不気味に響く死角。
待ち受けていたのは、闇に溶けるような銀髪の巨漢だった。クルックが足を踏み入れた瞬間、逃げ道を塞ぐようにして、シルバの圧倒的な質量が迫る。
「ひっ……!」
拒絶する間もなく、シルバの頑強な手のひらがクルックの華奢な顎を強引に掴み、冷たい鉄壁へと圧し潰した。見上げるほどの体格差の檻。鎧の下の強固な筋肉が放つ威圧感だけで、クルックの理性がひしゃげていく。
「随分と生意気な顔をするようになったな、クルック」
シルバの声は地を這うように低く、そして凍りつくほど冷たかった。
「あ……シルバ、さん……っ」
「朝からゾラにどんな視線を向けていた? 身の程を知れと言ったはずだ。お前のその醜いやきもち(嫉妬)で旅の調律を乱すなら、今ここでその光の戦士の心ごと、ハイドラに噛み砕かせてやろうか」
顎を掴む無骨な指に、じわりと万力のような怪力が込められる。激しい痛みが走り、クルックの目から涙が溢れ出た。これこそが、彼の容赦のない冷酷な『鞭』だった。自分はただの足手まといのガキなのだと、肉体に恐怖を刻み込まれる。
「ごめんなさい……ごめんなさい、シルバさん……っ」
怯え、震えるクルック。しかし、シルバは彼女の涙に濡れた顔をじっと見つめると、不意に指の力を完全に抜いた。
正式な愛撫ではない。しかし、先ほどまでの暴虐が嘘のように、彼の大きな手のひらがクルックの頬を優しく、愛おしむように包み込んだ。無骨な指先が、流れる涙を丁寧に拭い、首筋から鎖骨へと滑り落ちる。
「……だが、お前がこれに懲りて、自分の立場を弁えるなら……俺が、お前を誰よりも確実に守ってやる」
恐怖の絶頂の後に与えられる、この上なく甘い安堵と、ゾラだけのものであるはずの優しい手つき(飴)。
シルバの手が髪を梳き上げるたび、クルックの脳内には、激しい快感と痺れが駆け抜けた。ゾラへの激しいやきもちの裏側で、この恐ろしい男にだけは拒絶されたくない、彼に支配されていたいという歪んだ独占欲が、彼女の精神を完全に屈服させていく。
「は、はい……私、いい子にするから……シルバさんの言う通りにするから、見捨てないで……っ」
クルックは自らシルバの分厚い胸板に額を押し付け、彼の頑強な筋肉の熱にすがりついた。シルバは満足げに薄い唇を歪め、彼女の首筋に指を絡めたまま、逃げられない呪縛をさらに深く、深く刻み込むのだった――。