氷の銀、闇の蛇 作:トート
夜が明け、岩山の割れ目に差し込んできた陽光は、暖かさをもたらすどころか、一行の間に横たわる冷徹な現実を冷酷に暴き出すようだった。
キャンプ地の中心で、シュウとジーロはいつもと違っていた。朝食の支度をするでもなく、ただ固い拳を握りしめ、一本の線を引くようにして並び立っている。その瞳の奥にあるのは、前夜に目撃してしまったゾラとシルバのあの異様な影への驚愕、そして仲間の心を奪った銀髪の男への、狂おしいほどの怒りだった。
「……行くわよ。何をボサッとしているの」
テントから出てきたゾラが、いつも通りの冷淡な声で子供たちを一喝する。その斜め後ろには、いつものように見上げるほど大柄な体躯のシルバが、銀の髪をなびかせながら付き従っていた。エメラルドの瞳は一片の揺らぎもなく、ただ冷酷に前方を見据えている。
だが、シュウとジーロは一歩も動かなかった。
「ゾラさん……」
シュウの声は、怒りで低く震えていた。
「俺たちは、もうこれ以上あいつと一緒に旅をすることはできない。あいつは仲間じゃない。クルックを脅して、操り人形みたいにして……裏ではゾラさんと、あんな……!」
「そこまでよ、シュウ」
ゾラが鋭い声で言葉を遮るが、今度のシュウは引かなかった。
「引かないよ! ゾラさんが何と言おうと、俺たちはあいつを認めない!」
シュウの全身から、激しい怒りに応じるように青き竜『ブルードラゴン』の殺気が陽炎のように爆発した。
「そうだ。俺たちの目的は世界を救うことだ。仲間の心を壊すような化け物は、ここで排除する!」
ジーロもまた、己の拳を骨が鳴るほど強く握りしめると、彼の背後から怪力を誇る影『ミノタウロス』が咆哮とともに姿を現した。
少年たちが明確に反旗を翻した瞬間だった。壊れゆく純粋な正義が、大人の冷酷な支配に対して牙を剥いたのだ。
テントの奥でその様子を見ていたクルックは、全身を激しい恐怖で震わせながらも、その視線はシルバの広く分厚い胸板から離れなかった。シュウたちがシルバを排除しようとしていることへの恐怖。けれど、もしあの人がいなくなってしまったら、自分は誰に依存すればいいのかという、歪んだ焦燥が彼女の心を支配していた。
「……排除、か」
シルバが初めて、ゆっくりとシュウたちに向き直った。
199センチの筋肉質な巨躯から放たれる圧倒的な威圧感が、荒野の空気を一瞬で凍りつかせる。彼のエメラルドの瞳には、一片の動揺も恐れもなかった。ただ、目の前で身構える少年たちを、完全に「排除すべき障害」として冷酷に見下ろしているだけだった。
「ガキどもが、随分と生意気な口を利くようになったな。俺をこの旅から追い出すというなら、その未熟な拳で、この俺をねじ伏せてみせろ」
シルバの手首の筋肉が、鎧の下でみしり、と盛り上がる。背後から現れた漆黒の巨蛇『ハイドラ』が無数の首をうねらせ、少年たちに向かって凄まじい咆哮をあげた。
「言われなくても、力ずくで叩き出してやる!」
シュウが叫び、ブルードラゴンが巨大な拳を振り上げてシルバへと突撃する。ジーロのミノタウロスもまた、地を揺らすほどの怪力の一撃をシルバの分厚い胸板目がけて叩き込もうと同時に地を蹴った。
大人の冷徹な現実と、子供たちの壊れゆく正義が、ついに真っ向から全面激突する――。