氷の銀、闇の蛇 作:トート
荒野の静寂を切り裂き、二つの巨大な影がシルバに向かって殺到した。
「おおおおおッ!」
シュウの叫びと連動し、ブルードラゴンがその巨拳を容赦なく振り下ろす。同時に、ジーロのミノタウロスも地を割り、シルバの脇腹目がけて狂暴な突進の拳を叩き込もうと肉薄していた。光の戦士の末裔たちが放つ、一切の容赦を捨てた捨て身の同時攻撃。
だが、シルバは一歩も退かなかった。
銀色の髪を激しい風圧にたなびかせ、エメラルドの瞳を冷酷に光らせる。大柄な体躯を微塵も揺らさぬまま、彼は己の頑強な両腕を突き出した。
ドゴォォォォンッ!!!!
肉体と肉体が激突したとは到底思えない、凄まじい衝撃波がキャンプ地を吹き飛ばす。
シュウとジーロは目を見開いた。ブルードラゴンの拳を左腕で、ミノタウロスの突進を右腕で、シルバはただの「生身の怪力」だけで完璧に受け止めていたのだ。黒鉄の鎧の下で、丸太のように太い筋肉が爆発的に盛り上がっている。見上げるような体格差から放たれる絶対的な質量。
「……これだけの怒りを宿しながら、この程度の力か」
シルバの地を這うような低い声音が響いた瞬間、彼の背後からとぐろを巻き、現れた漆黒の巨蛇『ハイドラ』が爆発的に咆哮した。無数の首が鞭のようにしなり、ブルードラゴンとミノタウロスの巨体を一瞬にして絡め取り、締め上げていく。
「がはっ……!? くそ、力が……抜けていく……っ!」
「この、蛇……化け物め……っ!」
影の主であるシュウとジーロの身体に、骨が砕けるほどの凄まじい圧迫感が伝わる。シルバに敵対するなら、女子供だろうが、身内の正義だろうが容赦なく肉塊に変える――その徹底した冷徹さが、ハイドラの締め付けとなって少年たちを絶望の淵へと追い詰めていく。
「ガキの正義など、この過酷な戦場ではただの『障害』だ」
シルバは掴んでいたブルードラゴンの拳を力任せに引きはがすと、シュウの胸ぐらを片手で容易く掴み上げた。そのまま、抵抗する気力すら奪うような凄まじい怪力で、シュウの身体を地面の岩肌へと容赦なく叩きつける。
「ガハッ……ッ!」
激しい衝撃とともに砂塵が舞い上がり、シュウは吐血しながらその場に崩れ落ちた。続いてハイドラに激しく投げ飛ばされたジーロも、岩壁に背中を強打して崩れ落ちる。二人の影は形を保てず、霧のように消散していった。
圧倒的な実力差。少年たちの壊れゆく正義は、シルバという怪物の圧倒的な暴虐の前に、完膚なきまでに叩き潰されたのだ。
「そこまでよ、シルバ。これ以上の茶番は時間の無駄わ」
背後からゾラの冷淡な声が響く。シルバはハイドラを静かに消滅させると、乱れた銀髪を無造作にかき上げ、再び彼女の「絶対的な盾」としての定位置へと戻った。
テントの影で、そのすべてを目撃していたクルックは、全身の震えが止まらなかった。シュウたちが無残にねじ伏せられた恐怖。しかし、彼女の胸の奥で爆発したのは、激しいやきもち(嫉妬)の裏側にある、狂おしいほどの「歪んだ服従」だった。
(シュウたちじゃ、あの人には勝てない……。誰もあの人を止められないんだ……。だったら、私はもっといい子にして、あの大きな腕の中に……)
シルバの圧倒的な「強者」としての肉体に、クルックの心は完全に屈服していた。彼に従わなければ消されるという恐怖、そして彼に認められたいという歪んだ独占欲が、彼女を二度と戻れない泥沼の依存へと、さらに深く引きずり込んでいくのだった――。