氷の銀、闇の蛇 作:トート
オプシディアの街での激闘、そしてネネの幹部デスロイとの凄絶な要塞戦を経て、一行の進軍スピードは狂気じみたものへと変わっていた。
ゾラが握る古代文明の航路、そしてシルバという前衛の怪物の圧倒的な破壊力によって、グランド・キングダムの防衛網は紙切れのように引き裂かれていく。シュウやジーロは、シルバへの激しい敵意と不信感を抱えながらも、次々と襲いかかる脅威を前に実力行使に出る余裕すら奪われていた。少年たちは自分たちの未熟さに血の涙を流しながらも、大人二人の圧倒的な速度と冷徹さにただついて行くだけの、盤上の駒と化していた。
そして今、5人はついに世界の支配者ネネが待ち受ける空中要塞『タルタロス』の最深部――玉座の間へと突入していた。
「ひははは! ついにここまで来たか、光の戦士の末裔ども、そして闇に裏切られた哀れな操り人形たちよ!」
玉座に鎮座するネネが、邪悪な精神エネルギーを放出しながら嘲笑う。彼の背後から現れた巨大な影が、玉座の間全体を押しつぶさんばかりの圧迫感で咆哮をあげた。
「ネネ……ッ! 今日こそお前の野望を、俺たちの影の力でぶっ潰してやる!」
シュウが『ブルードラゴン』を、ジーロが『ミノタウロス』を激しい叫び声とともに召喚する。少年たちの純粋な正義感が、世界を救うための最後の決戦に向けて爆発した。
だが、この決戦の裏側で、ゾラの表情には誰も気づかないほどの深い絶望が滲んでいた。
ゾラがこの旅を続けてきた本当の理由。それはネネを倒すことだけではない。彼女の一族が背負う、世界の歪みを正すために自らの命を生贄として闇の封印を完成させるという、過酷な自己犠牲の宿命だった。
「私の旅は、ここで終わる……。世界を救うために、私はこの命を――」
ゾラが静かに目を瞑り、自らの精神エネルギーのすべてを封印の祭壇へと捧げようとした、まさにその瞬間だった。
「ふざけるな」
地を這うような、そして凍りつくほど冷徹な低い声音が、ゾラの宿命を力任せに遮った。
シルバだった。
見上げるほど大柄な体躯。銀色の髪を激しい魔風に逆立たせ、宝石のように澄んだエメラルドの瞳を激しい怒りで燃え上がらせたシルバが、ゾラの前に立ちはだかった。
「シルバ……? 何をするの、私は私の宿命を――」
「お前の宿命など知ったことか」
シルバの丸太のように太い頑強な腕が、ゾラの華奢な身体を強引に引き寄せ、自らの分厚い胸板の中へとすっぽりと抱きすくめた。鎧の下の強固な筋肉がみしり、と盛り上がる。
「俺は世界を救うためにお前の盾になったわけではない。お前を生き長らえさせるために、お前の目的を果たすために、すべての泥を被ってきたんだ。お前を失うくらいなら、俺はこの宿命の檻ごと、世界を根底から噛み砕いて肉塊に変えてやる!」
シルバの背後から、かつてないほどの巨大な漆黒の巨蛇『ハイドラ』が顕現した。無数の首が狂暴な咆哮をあげ、玉座の間の空間そのものを歪ませていく。シルバにとって、世界がどうなろうと、他の女子供がどうなろうと関係ない。ゾラという存在以外のすべては、彼にとって「道具」か「排除すべき障害」に過ぎないのだ。
その圧倒的な愛の暴虐、他者を一切寄せ付けない大人二人の閉鎖的な檻を見つめ、クルックの胸の内は激しい「やきもち(嫉妬)」と絶望で完全に打ち砕かれていた。
(シルバさん……やっぱり、あの人のすべてはゾラさんだけのものなんだ……。私がどれだけいい子にしても、お仕置き(鞭)をされてあの甘い愛撫(飴)に溺れても、あの人の心には1ミリも入れなかった……っ)
格の違いを見せつけられた決定的な敗北感。しかし、クルックの心は恐怖や悲しみを超え、そのシルバの一途で凶暴な冷酷さに、どこまでも激しく歪んだ独占欲を焦がし続けていた。
「ハイドラ!! 運命の封印ごと、ネネを噛み砕け!」
シルバの冷酷な命令とともに、真の覚醒を遂げたハイドラの巨大な顎が、ネネの影、そして世界の宿命そのものを引き裂くために振り下ろされた。悲劇の運命を圧倒的な暴力で捻じ曲げる、ifルートの爆発。物語はついに、最終決戦の本当の結末へと向かって加速していく――。