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端的に言えば勇者は疲れていた、毎日やってくる敵相手に切った張ったの大立ち回り。
命がけの戦いにすり潰されかけていた、日々の愉しみと言えば時々街で食らう食事くらい、だがそれすらも今はおっくうになる時がある。
食べて戦って寝る、これがどこまで続くのだろうか、と。
エールを喉に流し込む、かつては苦くてうまくもない麦汁だったのに最近は舌も慣れてきた、喉を焼く酒精が心地よいくらいだ。
「よお、今日も行くか?パチ」
「おう、行くぜぇ」
隣の席に座っていた男達がそんなことをつぶやきながら笑い合っている、パチ?聞き慣れない。
「軍資金は??」
「3万ゴールド」
「足りるか?」
「今日は甘で堅実にやる」
「それラッシュ取れなくて経費かさむ奴だろ」
「良いんだよ、母数増やして確率上げる、ミドルだと1000回してハマるだろうが」
何言ってるんだろうか、酒で回らない頭だったからか、つい声をかけてしまった。
「なあ、アンタら」
「ん?」
「なんだあんちゃん」
あ、いやと、一瞬口をつぐんでから、意を決し、
「その、なんの話してるんだろうって、パチ?」
「……知らんのか」
「知らない」
「そうかぁ……なら行ってみるか?」
「簡単に行けるのか?」
「いける、まあやれば分かる」
勇者は憐れだった、もしも理性ある――『現代人』がいれば止めてくれていただろう、だがそんな親切な存在はここにいない、居るのはまだ射幸心に毒されることに何の抵抗もない奴らばかりだ。
勿論王都がある以上行政として王朝があり、そういった所はギャンブルを目の敵にするのだが、現状止めるような存在はいない。
まだうつ病は気合いで治ると思われてる時代だ、精神病は甘えてるだけと思われる時代だ、ギャンブル中毒?そんなモノに対してどうこう言うようなものなどいるはずがない。
むしろ飲む打つ買うは男の嗜みみたいな時代なのだ、親切心で人を地獄に叩き落とす方があり得るというものである。
「よし、じゃあ新たな仲間を連れてホールに行こうじゃないか!」
なお女たちはこんなバカ男どもを心底軽蔑しつつ、割と女もドはまりしている。
〇
「なんだここ」
「ここがホールさ」
路地裏に結界か何かで空間拡張をしているのか、小さな扉を開いた瞬間に巨大な空間が現れた。
空間は明るくぎらついている。
そしてそこにいる人間は男も女も関係なく、何か明るく光るうるさい台の前に座ってハンドルを捻っていた。
何なのだろうか、これは。
「とりあえずMP魔王物語で良いと思う?」
「まあそこ鉄板だろ、下手なのやるより」
「それもそうか、んじゃこっち来な」
促されるままについていき、大量にある台と、それが作る通路を歩き1つの台の前に座らせられた、台が凄く眩しい、チカチカする。
「あんちゃん金か魔石あるか?」
「魔石ならそれなりに」
「そこの錬金穴に押し込んでみな」
なら、と魔石の1つを取り出し突っ込む、何かの計算が始まり、下の方に数字で30000と出る。
「お、3万ゴールド分の魔石なんて初めて見たぜ、もしかして結構やる系?」
「それなりに」
「ふーん、ま、ここに座っちまえば誰でも同じか、初めてだから甘デジ座って貰ったけどこれなら最初は十分だ」
「そう?」
「まあね、じゃあここ押して、玉貸しってボタン」
言われて押せば、ジャラジャラと音を立てて銀色の玉が大きく開いた溝部分に大量に落ちてくる。
「今日は低貸しだから、1ゴールドで1玉、大体は1回貸すので200玉だな、いまそこに溜まってる玉が200溜まってるってことな」
「なるほど」
「それじゃちょっとそのハンドル右に強く回してみ」
「こう?」
すると、玉が強く右に何個か飛んでいく。そしてうるさい音で、
「左に戻してネ♡」
と言う声が響いた、なんだこれは。
「なにこれ」
「今のは右打ち、特殊な時に回す、で、普通は少し弱めてほら、左側に玉が落ちていく方があるだろ?」
「ありますね」
「こっち側で回して、ほら、下の真ん中にある穴に玉を入れられるようにする」
「なるほど?」
「まあ普通はあんま入らないけどイラつかないのが大事、で、さっき魔石を3万に変換したろ」
「うん、もしやめたかったらあっちの精算機にもっていけば残りは王国ゴールドに変えてもらえるから」
指さされた方を見れば黒い縦長の台がある、これは今目の前にあるものとは少し違った。
「……なあ、どうする、もうカスタム教えちまうか?」
「あった方良いだろ先バレ」
「だよな、アレ込みで醍醐味だよな」
「うん」
「じゃあ教えちゃおうか、な、あんた」
男は台の、玉が溜まっている手前、腹辺りに大きくせり出してる宝箱型の部分に触れて、
「ここもボタンになってる、で押すとメニューが出るから、ここでカスタムできるんだけど、ここ、開門演出……んー、とりあえず99%で、まあ慣れてきたら変えるといいよ」
「わかった」
「じゃあ実際やってみようぜ」
頷き、軽めにハンドルを回す。
銀色の小さな玉が音を立てて飛び出し、落ちていく、思った以上に落ちて行かない、小さな穴の中に銀色の小さな玉を落とすという行為が中々に難しい。
そして20~30玉を飛ばしたあたりで、やっと1つ入った。
画面が動く、1~9の数字が書かれたモンスターが右から左に軽快な音楽を流して回り始めた。
「え、え」
「最初はビビるよな、でもいいのいいの、ほら、続けてみな、1回入るとそのまま入りやすいから、だいぶな」
「う、うん」
確かに、と、段々玉が小さな穴に入りやすくなっている、少し楽しくなってきた。と、止められる。
「今4つ穴に入ったよな」
「入ったね」
「でもこれ以上はほら、左下のマーカーあるの分かる?」
「これ?4つ動いてる」
白い宝石が動きながら軽く左右に動いている。
「これが保留っていうんだ、これは基本4つしか取れない仕組みになってるから、4つ以上入れ続けても無駄なんだ」
「ならハンドル離せばいい?」
「いや、ハンドルの、親指辺りにボタンがついてるの分かるか?」
「あ、これ」
「よし、止まったよな、もし一気に保留取れたらここで玉を止めるわけよ」
「なるほど」
「じゃあ保留が減ったらまた打ち込んでみな」
「分かった」
銀色の玉を何度も飛ばし、14~16くらい入った所で、
『リーチッ!!』
「リーチ?!」
「あ、弱いヤツ、まあ時々当たるけど基本当たらんリーチだから気にしなくていいぞ」
「え、こんなに動いてるのに?」
「こんなに動いてても」
「そうなんだ」
凄い演出が光とともに起きている、ちょっと露出の激しい女の子が笑っているのだが――本当に何もなかった、何だかいらだちが募る。
なんだよ、こんなにピカピカしてるなら当たってくれていいじゃないか。
「ま、最初はそんなものだよ、とりあえず続けてみな、大体の演出はしばらく外れだからさ」
「…分かった、やってみるよ」
是が非でも当ててやると勇者は決意した。
「クソッ」
気付けば200玉が消えていた、即座に玉貸しボタンを押して玉を出す、また玉が満ちる。
じゃら、と音を立てて流れ込んできた玉を再度打ち込み始める。
そして、台の上にあるカウンターが122になった瞬間に、
ポッキューンっ!!!
「!?」
「なったッ!」
その上、台がビカビカの金色に光る、下品が過ぎた、だというのに目が離せない。
「99%だから金なんだよ!他は赤とか紫とかあるぜ」
「なに、なにこれなにこれ!?」
「これが先バレってやつよ、ま、見てな」
『リーチッ!!これ――チャンスかもッ!!』
嬉しそうな女の声、これはさっきと違った、胸が高鳴る、チャンス、チャンスって何だ。
魔物たちがぐるぐると回り、両端の数字同士が5で停止、真ん中だけがぐるぐると回る。
「マジかッ!?赤数字!?ラッシュ濃厚!」
「え、ラッシュ!?」
「すぐわかる!」
そして――真ん中の数字が止まり、6を示し――
「あ、外れ」
「まだだ」
止まったと思った瞬間再度回り始める、画面が変わった、露出の激しい女魔物が妖艶な顔で笑みを浮かべ、
『サキュバス捕獲チャレンジッ!私の事を捕まえて見て!――ギンッ!!』
同時、テロップで描かれたチャレンジの下についている星が1増え、赤くなる。
『や~んっ♡そんなに追って来られたらリリスこまっちゃーうっ♡』
あはは~とわざとらしい声を上げながら魔王城らしき廊下を走り、リリスが先に駆け抜けて廊下の先の扉の中に、だが画面は止まらない、扉の先は何故か真っ白な光にあふれている、緊迫したメロディがなり――
『ッキィン!!!ヴヴヴヴヴヴウウウッ!!!!!』
すさまじい振動が宝箱型のボタンから起こり、そして音!
『やぁんっ♡つかまっちゃった~っ♡』
捕獲されたというのにやたら嬉しそうな顔のリリスの顔がアップで映り、数字が回転して飛んでくる、3つ並んだ5、大きく。
「は、え、あ」
「まだだ!見てろッ!」
『Special_lucky!♡Vを狙って~右打ちしてね♡』
その瞬間反射的に手が動いていた、右に大きくハンドルを回すと玉が大きく弧を描いて飛んでいき、右のレールの中を沿って玉が落ちていき、蓋で閉じられていた溝の中に落ちた瞬間!
『V!♡V!♡ぶーいっ!!♡』
『テレッテレッテレーテレッテレッテレーテレッテレテー』
耳を灼く――初めての感覚が湧いてくる、
『りりむだよぉ~っ♡』
『リリスでぇ~すっ♡』
胸と股間を布で覆った、大きく露出している女が2人、踊りながら笑っている、軽快な音楽とともに。
あかん、これダメだ絶対ダメなやつ――!!
続けると上に0/300と表示されていた部分の0部分に数字が溜まっていき、300/300に変わるとまた画面が変異する。
『お宝ゲットチャンス100!そのまま~右打ち~っ♡』
そのままに右に玉を送り続ける、100あったカウンターが玉が送られるごとに減っていく、腹がゾクゾクした、多分0になるといけないのは分かる。
「大丈夫、大丈夫だ、これはエフトリ未実装だからラッシュ入った時点で継続率80%ある、駆け抜け確率は低い」
「か、駆け抜け!?」
「ラッシュ取ったのに継続せずに終わりって意味!いいから打ってろって」
言われるがままに打ち続け――50を切った瞬間に音が響く、また耳を溶かす音だ、魔物が回る、そして6で両端の数字が止まり――
『ドドドオォーンッ!!!』
6がそろい、魔物が笑い画面が変化し、そしてまたVを狙っての声、あ、ダメだ、これは――
『V!♡V!♡ぶーいっ!!♡』
あ、ま、また、来たぁ――!!
また300を取り、そして溜まり切ったらまたお宝ゲットチャンスに変わって――3回回った瞬間に画面が光った、虹色に。
「え!?」
なんて汚い虹色だろう、そして、画面に大きく、男が映る、
「さ、サムソンッ!?サムソン来たサムソンッ!!」
「嘘だろ!?一発ラッシュサムソン引く!?7確定!?」
魔物が回り、7が両端で停止し――真ん中の7がゆっくりと降りてきて、
『やったね、君のluckyは俺の想定以上だったよッ、受け取ってくれッ!!』
『ドドドオォーンッ!!!』
7 7 7
画面が変わり――
『テーレーテー』
2 1 0 0
え、さっき300だったじゃないか、だめだよそれは。
だが数字は動く計り知れない衝撃が脳みそを襲う。
「は、は、は」
動悸が心臓をつらぬく、ダメだ、知っちゃいけない感覚、そんな風に心が騒いでいるのにもう無理だった。脳から何か出てはいけない汁が出まくっている。
そして2100が溜まり、またチャンスタイムがやって来て――
最終的に2万300玉が溜まり、チャンスタイムは終わった。
呆然とする、今、人生が壊れた音がする。
「は、へ、は」
「あんちゃん、イイluckyしてるぜ、初サムソンまで一撃で――」
「いいもん見せてくれてありがとうな、ああ、低貸しってのもたまにはいいな、お、そうだ、じゃあコレ、まあ続けてもいいんだけど清算の仕方知った方がいいし、ほら、ここ、上の皿から下に玉抜き出来るから落とす」
「わ、わかった」
皿――溝と思っていた部分から下に残っていた玉が落ちていき、台の下部に落ちてすべての玉が飲み込まれていく。
「じゃあその返却ってボタン押すとカード出るから、それを持ってこっち」
薄い金属板を取り、そして、連れていかれた先には店員がにこやかな笑みで立っており、
「すべて交換ですか?」
問われる、いいのかと横を向けば、頷きが返ってくる。なら、と、
「それで」
「では――カードお預かりします」
渡したカードが何かのからくりの中に納められ、いくつか小さな長方形が出てくる。透明に金色が入ったものが2つ、青いのに銀色が入ったものが1つ、
「ではこちら大景品が2、小景品が1となります、残りの玉は商品と交換できますが如何なさいますかー?」
「商品?」
「はい、青色の1と書かれた文字の数字の所と交換可能デース」
なら、と、残った数字分の中からいくつかを選び受け取る。
貰った景品と言うものを手の中で弄んだ、これはどうすればいいのだろうか。
「これはどうすれば?」
「交換が出来まーす」
「どこでですか?」
「あー、その、お客様、皆様あちらの扉から出て行かれますね」
指さされた先には入って来た時とは別の扉がある、肩を叩かれた、付き添ってくれた中年達だ、行こうぜ、と言われた勇者はそのままに扉の外へ出る、薄暗い路地裏は最初来た時と変わらないところ、そしてゆっくり顔を左右に振って確認し、見えた。
よく分からない黄色い看板に、T.Iと書かれていた、多分あれなのだろう、表では見ない。
そこに歩いていくと小さな円形の穴があるカウンターがあった、そして珍しいガラスを使った窓で隔てられその先には店員らしきそこそこ年齢のいった女が座っていた。
形状からして直感で分かる。
先ほどもらった景品とやらを、この丸いくぼみの中に入れればいいのだ。
3つ、入れる、すると、景品は持っていかれ、代わりに――
「1万9千ゴールド」
戻ってきた、あれ、さっき出した玉は2万発で、これで交換したなら2万ゴールドなのではと思いつつ、まあ手数料だろうと勇者は納得し戻っていった。
付き添ってくれた中年男2人の元に行き、頭を下げる。
「今日はありがとう」
2人は笑って、
「良いってことヨ」
「いいもん見せてもらったしな」
なら、と、
「また、一緒に来てもいいですか?」
勇者の言葉に男達はぽかんとしてからまた笑った、
「良いってことよ!また来ようぜ!」
「次は高貸しでやろうな!」
え、と、
「高貸し?」
「おう、あれは最初に言ったが1ゴールド1玉の低貸し、だが本番は4ゴールド1玉のやつからよ」
単純計算4倍のそれがあるというのか、勇者は息をのんだ。
「やっぱ男は高いところやらねーとな」
「そうそう、ってことで次は4Gで!」
そう言ってまたホールに戻っていく男達を見る。
勇者の喉が大きく鳴った。
~~数か月後~~
「うぃーす」
「ん?おお、来た来た」
「待ってたぜー」
けだるげな雰囲気を出しながら勇者は2人の男達の元に行く、もうすっかり打ち仲間だ。
勇者はハマった、ドハマリした、イケない方向に落ちて行った。
ビギナーズラックは続かず、一気に10万ゴールドを溶かして余計にダメになった。
そして勇者は立派なパチカスになってしまったのだ。
「今日何打つ」
「あー、俺帝都ゾンビ」
「好きねーお前、アレ超荒いじゃん」
「良いですよ、ミドル好きなんで」
「ほーん、まあ俺はいつも通り辺獄熟女でも打とうかなー」
「すきっすねー、やっぱ赤スピン見たい感じっすか」
「おう、俺アレ見たいからやってるようなところあるし」
「俺、久し振りに魔王物語」
「最近色々やってましたけどそこ戻ります?」
「そうよ、やっぱ俺の原点はあれよ」
「いやあ、初めて打った時マジでビビっちゃいましたよアレ」
「初めて出会うきっかけだったしな」
男達は笑い合い、また後で、と言ってから別れ、勇者は慣れた手つきで魔石を入れ、カスタム画面を開き、99%+ラッシュ確定カスタムを選択する。
「今日は早めに先バレ鳴ってくれよー!!」
命を懸けるより熱い勇者の戦いが今、ここに始まった。
台の適当さについては、ちょっと色々怖かったので色々複合したりしました、現実には存在しません。