U.C.0093年。シャア・アズナブルは決断した。アクシズ落としは中止。ネオ・ジオンを解散し、連邦議会で内部から改革を行うと。

彼がそのパートナーに選んだのは――。

「私と共に議席を得て、連邦政府を内側から改革するのは、大戦の英雄アムロ・レイである!」
「聞いてないぞシャア!」

何も知らない彼を議員に祭り上げ、ご満悦のシャア。
――だって、アムロが構ってくれるから。

青ざめる連邦高官たちをよそに、シャアは改革に邁進する。
――だって、アムロが構ってくれるから。

これはライバルに構ってほしいだけで政治家になった男と、そのお世話を全世界から要求された男の物語である。

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ファンコミュニティのやりとりを読んでいて思いついたお話です。みんな幸せになるお話……のはずです。


『シャア・アズナブルは連邦議員になってみる』

U.C.0096 チベットラサ市 連邦議会議事堂

 

 彼はドアを叩く手を止め、大きく深呼吸をした。この扉の先には、地球圏の未来がある。彼はそれを見届ける権利を得たのだ。

 父に頼み込んで、親の権力を使わせたのは事実で、ハイスクールでも散々陰口を言われた。しかし彼はそれを一顧だにしなかった。自分には強い衝動がある。地球の、いや人間の可能性を見届ければ、自分はきっと、何者かになれるのだから。

 そして再び手を上げて、ドアをノックする。

 

「どうぞ」

 

 聞こえてきた声は、何もかもが憧れと同じだった。かつては、彼のようにMSを駆って地球圏の為に戦う夢想もした。しかし今は彼らを支え、MSなど必要のない世界を作りたい。本気でそう望んでいる。

 

「ハサウェイ・ノアです。お久しぶりです。アムロさん」

 

 

 

 三年前のU.C.0093、5thルナ降下作戦前日。ネオジオン総帥シャア・アズナブルは、連邦政府にひとつの取引を持ち掛けた。それは武装蜂起と引き換えに、連邦議会の議席を要求したのである。多くは望まない二人分の議席があれば、職を失うネオ・ジオンの軍人たちの、ささやかな代弁者となれる。そう、あくまでもささやかな望み(・・・・・・・)だった。

 

 連邦の高官たちは拍子抜けするとともに、ほくそ笑んだ。たった二つの議席で大勢は動かせない。せいぜい骨抜きにさせてもらおうと。しかし彼らのしたり顔は、その後の演説で恐怖に染まることになる。

 

「私と共に議席を得て、連邦政府を内側から改革するのは、大戦の英雄アムロ・レイである!」

 

 議場でふんぞり返っていた議員たちは、立ち上がり「話が違う」と叫び、それはしっかりと中継された。

 演説するシャアの表情は、してやったりと勝ち誇ったものだった。東西が誇るニュータイプが手を組み、政治改革を行うという宣言に地球圏で棄民扱いされていた人々は、猛烈な声援を送った。誰もが言った。「今度こそは」と。

 

 そして熟考の後、ハサウェイの父、ブライト・ノア大佐が支持を表明した。これはブライト、アムロ両名にはめられた首輪が、いつの間にか外されていたことを意味していた。シャアはネオ・ジオン軍を失った代わりに、ロンド・ベルと言うバックボーンを得たに等しい。いや、ブライトを慕う連邦軍人は多く、彼らも丸ごと改革派に転んだのだ。

 

 当のアムロ・レイは、血を流さない戦いを選んだシャアを喜び、固い握手を交わしたという。

 

 その三年後、ハサウェイは今、議場の控室にいる。大学までちゃんと卒業することを条件に、シャアの元で働くことを認めてもらったのだ。今の彼には事務仕事の手伝いがせいぜいだが、いつかきっと、二人を支える人間になって見せる。そう決めたのだ。

 

「早かったな、昨日はちゃんと眠れたか」

「実は、あんまり」

「気負うことはないよ。まずは見て、知ることだ。手を動かさないとね」

「はいっ!」

 

 憧れの人、アムロ・レイ議員は気さくに言葉をかけてくれた。質問攻めにしたい気持ちを押さえて、冷静に問うた。

 

「予算案は、通りそうなんですか?」

「僕は大丈夫と見てるけど、何とも言えないな。詳しくはシャアに……あいつどこ行った?」

 

 きょりょきょろとVIPルームを見回すアムロ。唐突にシャワー室の戸が開き、ガウン姿の男性が出てきた。なんかハイソな場所にいるとは思えないほど、ぐったりしていて、そのままソファにどっかりと座りこんだ。

 

「なぁアムロ、今日はやめないか? 日が悪い」

「何を言っている。今日の予算会議のために、ずっと準備していただろうが」

 

 男性はだらけ放題にポットを手に取り、紅茶を注いだ。なんかミルクを流し込んだ後、指でかき回している。

 

「しかしララァが……」

「その名前を出せばなんでも許されると思うな。いいから髪をセットしろシャア(・・・)

 

 シャア? え? えっ?

 

「あの、アムロさん。まさかと思うんですが……」

「現実を見るんだハサウェイ。彼が連邦政府改革の旗印、シャア・アズナブルだ」

「シャア・アズナブルって、スペースノイドの希望、難民たちに希望を与えている、稀代の政治家シャア・アズナブルですよね?」

「君はそれ以外にシャア・アズナブルを知っているのか?」

 

 もうこれは呆然と立ち尽くすしかない。あの憧れの改革者がこんな、である。

 

「コロニーの大量建造で、ネオ・ジオンの再就職先と、雇用問題の改善。考えたのはお前なんだからな。お前が気まぐれで俺を名指ししたんだからな」

「えっ! あれ示し合わせたわけじゃなかったんですか!?」

「そんなわけあるか。艦隊が5thに向かう途中であんな演説を聞かされて、気がついたらもう逃げられなくなっていた。ブライトですら『シャアの妙手だ』とか言い出すし」

「うわぁ」

 

 アムロが疲れた表情で、顔を左右に振った。これは、同情すべきなのだろうか? しかし火に油を注ぐように、シャアがくっくっと笑う。

 

「『謀ったなシャア!』と叫んだそうじゃないか。それを言われるのは二人目だが、お前の時のは直に聞きたかったものだな」

「はいはい。それを聞きたいがためにアクシズ落としを諦めたんだったな。何度も聞いたよ。おかげでお前も毎日責任に追われているわけだが」

 

 責任、という言葉を聞いて、シャアは再びソファーに身を預け、最高の弱音を吐きだした。

 

「分かっている。分かっているが……思いついてしまったんだ。お前と一緒なら政治家も耐えられるかもしれないと」

 

 自分は何か、悪夢を見ているのだろうか。憧れとの乖離(かいり)がすごい。

 

「まあちょっと人の悪意とか、そういうのに疲れてるだけだから心配しなくていい。演説したり、政策を考えたりはちゃんと出来るから。……それ以外は全部俺がやってるが」

「え? じゃあ完全に嫌になっちゃったら、地球圏の未来も……」

「それは大丈夫だろう。親父さんに対して矜持みたいなものがあるからな。情熱は本当だよ」

 

 アムロは彼の危惧を杞憂(きゆう)と断じつつ。一言付け加えた。

 

「彼はただ、面倒くさがりなだけだ」

 

 なんだかなぁと心中複雑なハサウェイに、ソファでぐでーとダレているシャアは、追い打ちのように告げた。

 

「あーむーろー、甘いものが飲みたい」

「分かったよシャア。何がいい?」

「桃のジュースだ」

 

 ひょっとしてこの人、アムロさんに甘えたいだけで政治家に引きずり込んだのでは?

 

『連邦市民の諸君! この予算案が可決されれば、一年戦争以来連邦を蝕んでいる住居問題・貧困問題を一掃できる! この恩恵は大量の雇用を生み出し、宇宙移民だけではなく、全ての国民が受けるだろう。どうかこのシャア・アズナブルに力を貸していただきたい!』

 

 完璧な演説だった。控室からの映像を見てそう思う。それだけにさっきの醜態を思い、複雑な感情に襲われる。

 

「いや! でもああいう人だからこそ、支え甲斐があるかもしれない!」

 

 何より父親に認めてもらいたいと言う気持ちは、誰よりも理解できるハサウェイである。むしろ親しみが湧くではないか。

 そう無理やりに思いなおし、明日からの生活に思いを馳せる。しかし、アムロに世話を焼かれることに慣れ切ったシャアは、予想以上の難物だった。

 

 

 

U.C.0098

 

「アムロさん! ご結婚おめでとうございます!」

 

 ちょっとしたプレゼントとカードを渡したら、アムロは苦笑しつつも、はにかんでくれた。この人の可愛げというか、そう言う部分がズルいと思う。奥さん大変そうだなぁ。

 

「結婚と言っても、籍はもう入れていたんだ。でもお互い忙しいし、そう言うものをやっておこうと言うことになってね。式には来てくれよな」

 

 もちろんですと、ハサウェイは力強く頷いた。

 

「お子さんも、来年には学校でしたっけ?」

「ああ、かわいい盛りだよ。ハサウェイももう大学だったな。頑張り過ぎて、身体を壊すなよ」

 

 ちょっとした励ましが嬉しいハサウェイである。気持ちを新たにしようとしたとき。

 

「そう言えばハサウェイ君は誰か想い人はいないのかね?」

 

 黙って紅茶をすすっていたシャアが、爆弾を投げ込んできた。

 

「な、何故そんな話題に?」

 

 完全に思考が停止した。なぜ東西の英雄の眼前で思春期の男子のような話をしなければいけないのか。

 

「意味はないよ。しいて言うならアムロが子供の話ばかりする当てつけだ」

「まったく貴様は……」

「それはいい。で、どうなんだ?」

 

 一瞬言葉に詰まった。実はこの件では二人に後ろめたいことがある。だけど黙っているのが辛かったのも本当で。もう話してしまおうと腹をくくった。

 

「実は、アデナウアー議員の娘さんが気になっていて。まだ何度か話しただけなんですが」

 

 案の定二人は顔を見合わせた。アデナウアー・パラヤ議員は守旧派の政治家。つまりシャアの政敵である。好きになってはいけない人だった。

 

「アムロ、アデナウアーについて何かあるか?」

「……軍にいた頃散々無理難題を突き付けられたよ。お世辞にも志のある人じゃないな」

「ごめんなさい。この話はもう……」

 

 話題を打ち切ろうとしたハサウェイに、シャアは堂々と宣言した。

 

「よし、なら同志にしよう!」

「正気か!?」

 

 シャアと言う人間には慣れていたつもりだったが、それは思い上がりだったようだ。話はハサウェイを無視し、どんどん大きくなってゆく。

 

「ハサウェイはノア家の長男だ。パラヤ嬢の交際をちらつかせれば食いついてくると思うが、それで彼が喜ぶと思うか?」

「それはハサウェイ君次第だろう。それに私たちは、二人の関係を邪魔している責任がある」

「そうは言うが、なぜそこまで?」

 

 シャアは少しだけ目を泳がせ、言った。

 

「……無理難題を押し付けられるアムロが見たい」

「最悪だなシャア!」

「仕方ないだろう。貴様が身を固めてから、私を放置気味なのが悪い」

 

 アムロは天然パーマをがりがりとかいた後、アデナウアー・パラヤ議員にアポイントを取ったのだった。

 

 なお結局お付き合いすることになった。最初は女を権力で買う男、みたいに言われて印象最悪だったり、自分よりシャアの方に興味があるそぶりだったけど、根気よく会いに行ってようやくのことだった。これ以上書くとのろけになるのでやめておく。

 

 

 

U.C.0099

 

「ハサウェイ君、どうしたらよいだろうか? 私のオールバックは似合わないだろうか?」

「な、なんですかいきなり?」

 

 そわそわとVIP室を歩き回るシャアに、不穏なものを感じ、つい聞き返してしまう。

 

「ええい! なぜ会いに来ると事前に言ってくれんのだ!」

「話したら気になって他のことをしなくなるだろう。もうすぐ迎えが来るぞ。早く行って会ってこい」

「アムロ、頼みが……」

「ダメだ。カミーユの面倒見てたのは俺じゃなくお前だろう? 一人で行け」

 

 カミーユ・ビダン、という名前を聞いて思い出した。シャアが良く手紙をやりとりしている人物だ。正確には届く手紙を何度も熟読した後、返事を書くのはアムロに押し付けるのだが。

 

「カミーユさんって、エゥーゴ時代の部下でしたっけ?」

「立場上はそうだけど、『弟分』と言う表現が近いかな。可愛がってはいたんだが、この性格だからな」

 

 アムロの視線の先には、サングラスをかけるかやめるか延々悩むシャアがいる。

 

「彼の方もかなり慕ってるんだが、あっちはあっちで難しくてな」

 

 シャアの弟分なら難しくてもしょうがないかも、と失礼なことを思ってしまう。多分いい人ではあるのだろうが。

 

「アムロ、この歳でノースリーブはまずいだろうか?」

「好きにすればいいだろう?」

 

 

 

U.C.0100

 

 この年、宇宙世紀は100年を迎えた。セレモニーの会場は、量産が始まったコロニーが使用され、宇宙世紀の新たな時代を印象付けた。難民の数は依然多かったが、コロニービルダー増設が起こした人手不足は、少しずつ貧民層を吸収していった。

 仕事を求めて宇宙に上がる者が増えるに伴い、マンハンターの軽武装化が行われた。大義を失った反連邦組織の弱体化は、連邦軍も大規模艦隊から少数精鋭の対テロ戦略に舵を切るきっかけとなった。大幅な軍縮が行われる。除隊した者には技能者として好待遇の仕事が用意された。

 

 人々は、シャア・アズナブルを称えた。彼こそ父ダイクンを超える政治家であると。

 

「ふむ。これでは駄目だな」

「俺もそう思う」

「なぜ、でしょうか?」

 

 新造のコロニーを眺めて、二人の英雄は頷き合った。すっかり雑用と相談役が板についたハサウェイが問う。これだけの成果を出した二人の、何が駄目だというのか?

 

「いくらコロニーをつくっても、増える人口には追いつかない」

「鉱物資源の供給もある。運んでくるのも手間だ。取り合いになる可能性もある」

 

 無情にも二人は、自らの政策を切って捨てたのだった。

 

「じゃあこれだけ頑張っても、いずれ破綻するってことですか?」

 

 二人は当然のように頷く。だがその表情に絶望の色はない。

 

「そんな顔をしなくていい。私たちがするべきことをすれば、次の世代に引き継ぐことは出来る。それは、君かも知れんぞハサウェイ君」

 

 それがシャア・アズナブルが焦りを捨て、次世代を信じる表明だった。目指すべき人がまた一歩進んだ。華やいでゆく自分の表情が分かる。

 

「頑張ります!」

 

 シャアは頷くと、胸ポケットからサングラスを取り出す。

 

「ハサウェイ君もいることだし、そろそろ引退してもいいだろうか?」

「ダメだ」

「ダメです」

 

 シャアは不承不承、取り出したサングラスを胸ポケットに戻した。

 宇宙世紀の改革はまだまだ始まったばかりである。




いつもは艦これを書いてます。提督の皆さまがおられましたら、どうぞおいでませ。

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